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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第2部

    火紅狐・密約記 5

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    フォコの話、60話目。
    間一髪ならぬ、間一波。




    5.
    「ガツガツ……、ん?」
     食事に夢中になっていたクリオも、この騒ぎに気が付いた。
    「何だ……? 騒がしいな」
     そう思って、ひょいと皆の注目している方向に目をやる。
    「……!? おいおい、あんな速度じゃ港に留まらねーぞ!?」
     クリオは皿を投げ出し、隣でオレンジジュースを飲んでいたフォコの襟をつかむ。
    「火紅! ボサっとしてんな! 来い!」
    「へ? え? え?」
     いきなり引きずられ、目を白黒させたが、ここでフォコも騒ぎに気付いた。
    「……あの船!?」
    「そーだよ! このままじゃ衝突しちまう! 一緒に碇を揚げるぞ!」
    「分かりました!」
     続いてクリオは、ルーたちにも指示を出した。
    「ルー! 乗客を船後方に寄せろ!
     モーリス! 水の術! 船を離岸させる!」
    「は、はいっ」「承知した!」
     あたふたとする乗客たちの間を抜け、四人はそれぞれの役割を果たす。
    「みなさーん! こっちに来てくださーい! 危険です、早くこっちに!」
    「へ? あ、は、はい!」「そっちに行けばいいんだな!?」「早く、早くっ」
     ルーの誘導に、慌てふためいていた乗客たちはうろたえつつも従う。
    「そ、れッ!」「ふん……ッ!」
     クリオとフォコは力を合わせ、碇を引き揚げる。
    「……よし、こちらは準備万端だ!」
     モーリスが呪文を唱え終え、クリオに伝える。
    「コッチも良し! 火紅、舫い綱(もやいづな)を解いて来い!」
    「はい!」
     フォコを向かわせたところで、クリオは舵へと急いだ。
    「間に合え、間に合えよ……ッ!」
     滑り込むように舵の前へ着き、クリオは叫んだ。
    「火紅、できたかッ!?」
    「解きました!」
    「よっしゃ! 面舵一杯、全速離岸ッ! モーリス、波立てろッ!」
    「了解!」
     モーリスが術を発動させ、船はグラリと斜めに向いた。
    「わ、わっ!?」「た、倒れる……っ」
     船後方に固まっていた乗客たちがざわめくが、クリオは構わず舵を目一杯右へと切った。
     それと同時に船は波にあおられ、乗客が集まり重たくなった船尾を軸にして、船首がぐるりと回る。
    「全速……、前進ッ!」
     吹いてきた海風を受け止め、船は勢い良く前進した。
     そして――つい1分前まで「ブリス号」を停泊させていた桟橋に、向かってきていた謎の船が突っ込んでいった。

    「……ふう」
     危機を脱したクリオは舵の前で座り込み、襟元を緩める。
    「おやっさん!」
     と、そこへフォコがやってくる。
    「おう、ご苦労。客は無事か?」
    「はい。船が急に動いて、あちこちに体ぶつけちゃった人は何人かいますが、皆さん無事です」
    「そっか。……しかし、一体何だったんだ、あの船は?」
     クリオは立ち上がり、港に目をやる。
    「ひっで……。粉々じゃねーか」
     船が衝突した桟橋は原形を留めておらず、船自体も船首が潰れている。だが、それでも船は沈まず、向きを変えて動き出した。
    「おいおい、まだ襲ってくるつもりか?」
     クリオは身構え、舵に手をやったが、相手の船は180度向きを変え、そのまま沖へと去っていってしまった。
    「……何なんだ」
     わけの分からない挙動に、クリオは呆れた声を漏らした。
     と、そこへ、今回のパーティを主催したベール貴賓がやって来た。
    「ありがとうございます、ジョーヌ総裁! 助かりました!」
    「おう。悪いな、荒っぽい操舵しちまって」
    「いえいえ、何を仰いますか! あのまま突っ込まれていたら一体、どれだけの被害になったか! 本当に、感謝してもし切れません!」
    「いいって、いいって。それより、……残念だったな」
    「……ええ。折角の会合が、……こんなことになるとは」
     クリオと貴賓は滅茶苦茶になった甲板を眺め、同時にため息を漏らした。



     この事件により、折角深まりかけたベール・レヴィア両国の交流はうやむやになってしまい、緊張緩和と両国有力者層間での連携と言う所期の目的は達成されず、依然南海の政治緊張は高まる一方となった。

     そしてもう一つ、クリオにとって大きな懸念となったのが――。
    「何だと? あの事件が、オレたちのせいになっただと?」
     「ブリス号」を襲ったあの謎の船が、「砂嵐」のものでは無いかと言う噂が立ったのである。
    「そんなわけないじゃないですか。おやっさんも僕たちもあの場にいましたし、おかみさんがいなきゃ昇降装置は動かせないし」
    「分かってら、んなコトは。第一、船の形が違いすぎる。絶対オレたちじゃねえ」
    「じゃあ、あれは一体……?」
    「知るかッ」
     クリオはギリギリと歯噛みするが、あの時襲った海賊船が別物であると、弁明することなどできない。
    「ふざけてんじゃねーぞ……!」
     クリオは偽物に怒りを覚え、吐き出すようにそうつぶやいた。

     だが、それを嘲笑うかのように――これ以降、南海各地で偽物の出現が相次いだのである。

    火紅狐・密約記 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    事態は徐々に切迫していきます。
    もうまもなく、山場を迎えそうです。

    NoTitle 

    まだまだ戦争が始まる状態ではないのですね。
    なるほど、次回の意味が分かりますね。
    しかし、戦争がはじまりそうな状況は伝わってくるので、そこから緊迫感がある文章が伝わってきます。

    NoTitle 

    出ませんねぇ。
    出る展開でも面白かったかもしれませんが。

    NoTitle 

    ニセクリオは出てきますか?v-121

    NoTitle 

    次回、フォコくんにとってはちょっと、いい話。
    とは言え、2部までは「ちょっと上げてどん底に叩き落とす」的展開が続きますが。

    NoTitle 

    やりますねえ(^^)

    ウソはでかいほどバレにくいですから。

    フォコくんのこれからが気になります。タフに生きろよ(^^)
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