「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・海戦記 2
フォコの話、62話目。
四者会談の思惑。
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四者会談の思惑。
2.
ベール王国の本拠地、ベール島王宮。
「すまない。我々の方でも皆目、正体はつかめていない」
「そうか。……参ったな」
クリオは密かにベール島の王族、猫獣人のセノクと会っていた。
目の前で沈めたはずの偽物が復活したことに疑問を抱いたクリオは彼に依頼し、調査してもらっていたのだ。
「しかし、ある事実が発覚してはいる」
「ある事実?」
「あの偽物、どうも1隻や2隻ではないらしい」
「だろうな。何しろ、オレたちがいっこ沈めた、その三日後には復活してやがったからな」
「その話も公表できれば、信憑性はより増すだろうが、……まあ、それはいい。
物理的に有り得ないことが、実際に起きたからな」
セノクの妙な言い回しに、クリオは猫耳をピクと震わす。
「って言うと?」
「ある商船が、一日に二度も襲われたんだ。しかも、まったく違う形の船なのに、どちらも『砂嵐』を名乗った。
現在横行している『砂嵐』のほとんどが偽物だと言う話は、もう有名になっている」
「そっか。……ま、オレたちの名誉はそれで回復しただろうが、それでも襲われてるヤツらがいるコトにゃ変わりねーな」
「そう。そしてそれに関連して、妙なことが起きている。……いや、起きていないと言うべきか」
「あん?」
セノクは憮然とした顔で、こう述べた。
「レヴィア王国の動きが、無い。
これまで執拗に南海諸島各地へ出張っていたと言うのに、今年に入って以降、侵攻や略奪と言った対外活動をまったく行っていないのだ」
「……ってコトは」
「だろうな」
レヴィア王国、宮殿。
「もっとじゃ! もっと攻めるのじゃ!」
「も、もっと……?」
アバントを交えて行われた四者会談で「『砂嵐』の偽物を作り、南海諸島を荒らし回れ」と指示を受けたアイシャ・レヴィア女王は、その指示に全面的に従った。
いや、従うと言うよりも、さらに過激な立ち回りを演じた。四者会談では一隻、二隻程度で構わないと言っていた偽の海賊船を、アイシャはなんと6隻も用意したのだ。
何故なら、海賊行為で略奪した物品は、すべてレヴィア王国の懐に収めていいと条件を出され、さらに海賊船の建造、及び活動資金は全額エール商会持ち(厳密には無担保・無利息・無催促の債権)だと約束されたからである。
当面は国庫を傷めることなく、やりたい放題に略奪ができるとあって、好戦的なアイシャは調子に乗った。
「しかし陛下。既にエール商会からの追加融資3千万クラムは、使い切ってしまっています。これ以上債務を増やすのは……」「構わぬ!」
大臣からの諌言に、アイシャは応じない。
「領土を拡大し、ベールや他の国どもを撃ち滅ぼせば、南海はすべて妾の領土よ!
そうなれば金銀財宝、酒肉に珠玉、いくらでも手に入るわ! たかだか1億や2億、3億程度の借金なぞ、倍にして返してやるわい!」
「いやいや、なかなかの額になりましたな」
西方某所。
「しめて1億7千万クラムですか」
「大損もいいところだ」
四者会談の主が、セブス・エールと再び会っていた。
「あんな貧しい国から、この債権をどう回収したものか。指示したのは君だが、いい案はあるのかね?」
「ございますとも」
憮然顔のセブスに対し、男はニコニコしている。
「私の計画によれば、10年以内にはその債権は、10倍以上の価値を生むはずです」
「本当か? ……まあ、君が言うのなら当てはあるのだろうが」
「ええ」
自信満々な男の顔をじっと眺め、セブスは推理する。
「資源か?」
「はい?」
「近年注目されているキルク島を初めとして、南海に眠る鉱産資源は莫大なものがあると聞いてはいる。それを当てにしているのか?」
「いいえ、違います」
「ふむ。現在の君の経営地盤は、鉱業だったはずだが……」
「正確には私ではなく、私が婿入りした家の地盤ですな。まあ、どちらにしても『そこ』ではないのですよ、私の狙いは。
考えてみていただきたい、エール翁。貧しいとは言え、軍事国として成長を続ける一国が、たったの2億弱で手に入ると言うのなら、それは高い買い物でしょうか?」
「……ふむ、そう言う魂胆か。だが、その後は?」
「後?」
「貧しい軍事国を買い叩いた、その後だ。買う以上、何かに使わねば投資ではなく、ただの浪費だ。
レヴィア王国は、何を生むと?」
「……そうですな、強いて言えば」
この時、男の上品ぶった笑顔の陰に、下卑た笑みが仄見えた。
「火、と申しましょうか。
こちらの製品をいくらでも買って、買って、買い続けてくれる大口顧客が、半永久的に居続けてくれるなら、こちらとしては喜ばしい限りですからな。
何をどんな高値で売ろうと、買ってくれると言うのは――これはもう、無限の富を得たも同然と言うもの」
ベール王国の本拠地、ベール島王宮。
「すまない。我々の方でも皆目、正体はつかめていない」
「そうか。……参ったな」
クリオは密かにベール島の王族、猫獣人のセノクと会っていた。
目の前で沈めたはずの偽物が復活したことに疑問を抱いたクリオは彼に依頼し、調査してもらっていたのだ。
「しかし、ある事実が発覚してはいる」
「ある事実?」
「あの偽物、どうも1隻や2隻ではないらしい」
「だろうな。何しろ、オレたちがいっこ沈めた、その三日後には復活してやがったからな」
「その話も公表できれば、信憑性はより増すだろうが、……まあ、それはいい。
物理的に有り得ないことが、実際に起きたからな」
セノクの妙な言い回しに、クリオは猫耳をピクと震わす。
「って言うと?」
「ある商船が、一日に二度も襲われたんだ。しかも、まったく違う形の船なのに、どちらも『砂嵐』を名乗った。
現在横行している『砂嵐』のほとんどが偽物だと言う話は、もう有名になっている」
「そっか。……ま、オレたちの名誉はそれで回復しただろうが、それでも襲われてるヤツらがいるコトにゃ変わりねーな」
「そう。そしてそれに関連して、妙なことが起きている。……いや、起きていないと言うべきか」
「あん?」
セノクは憮然とした顔で、こう述べた。
「レヴィア王国の動きが、無い。
これまで執拗に南海諸島各地へ出張っていたと言うのに、今年に入って以降、侵攻や略奪と言った対外活動をまったく行っていないのだ」
「……ってコトは」
「だろうな」
レヴィア王国、宮殿。
「もっとじゃ! もっと攻めるのじゃ!」
「も、もっと……?」
アバントを交えて行われた四者会談で「『砂嵐』の偽物を作り、南海諸島を荒らし回れ」と指示を受けたアイシャ・レヴィア女王は、その指示に全面的に従った。
いや、従うと言うよりも、さらに過激な立ち回りを演じた。四者会談では一隻、二隻程度で構わないと言っていた偽の海賊船を、アイシャはなんと6隻も用意したのだ。
何故なら、海賊行為で略奪した物品は、すべてレヴィア王国の懐に収めていいと条件を出され、さらに海賊船の建造、及び活動資金は全額エール商会持ち(厳密には無担保・無利息・無催促の債権)だと約束されたからである。
当面は国庫を傷めることなく、やりたい放題に略奪ができるとあって、好戦的なアイシャは調子に乗った。
「しかし陛下。既にエール商会からの追加融資3千万クラムは、使い切ってしまっています。これ以上債務を増やすのは……」「構わぬ!」
大臣からの諌言に、アイシャは応じない。
「領土を拡大し、ベールや他の国どもを撃ち滅ぼせば、南海はすべて妾の領土よ!
そうなれば金銀財宝、酒肉に珠玉、いくらでも手に入るわ! たかだか1億や2億、3億程度の借金なぞ、倍にして返してやるわい!」
「いやいや、なかなかの額になりましたな」
西方某所。
「しめて1億7千万クラムですか」
「大損もいいところだ」
四者会談の主が、セブス・エールと再び会っていた。
「あんな貧しい国から、この債権をどう回収したものか。指示したのは君だが、いい案はあるのかね?」
「ございますとも」
憮然顔のセブスに対し、男はニコニコしている。
「私の計画によれば、10年以内にはその債権は、10倍以上の価値を生むはずです」
「本当か? ……まあ、君が言うのなら当てはあるのだろうが」
「ええ」
自信満々な男の顔をじっと眺め、セブスは推理する。
「資源か?」
「はい?」
「近年注目されているキルク島を初めとして、南海に眠る鉱産資源は莫大なものがあると聞いてはいる。それを当てにしているのか?」
「いいえ、違います」
「ふむ。現在の君の経営地盤は、鉱業だったはずだが……」
「正確には私ではなく、私が婿入りした家の地盤ですな。まあ、どちらにしても『そこ』ではないのですよ、私の狙いは。
考えてみていただきたい、エール翁。貧しいとは言え、軍事国として成長を続ける一国が、たったの2億弱で手に入ると言うのなら、それは高い買い物でしょうか?」
「……ふむ、そう言う魂胆か。だが、その後は?」
「後?」
「貧しい軍事国を買い叩いた、その後だ。買う以上、何かに使わねば投資ではなく、ただの浪費だ。
レヴィア王国は、何を生むと?」
「……そうですな、強いて言えば」
この時、男の上品ぶった笑顔の陰に、下卑た笑みが仄見えた。
「火、と申しましょうか。
こちらの製品をいくらでも買って、買って、買い続けてくれる大口顧客が、半永久的に居続けてくれるなら、こちらとしては喜ばしい限りですからな。
何をどんな高値で売ろうと、買ってくれると言うのは――これはもう、無限の富を得たも同然と言うもの」



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
おおう。かなりの領土欲だなあ。。。
領土を取れれば借金が返せるというのは暴論以外のなにものでもないじぇ。。。
(´゚д゚`)
領土を取れれば借金が返せるというのは暴論以外のなにものでもないじぇ。。。
(´゚д゚`)
NoTitle
ここに至るまでにも、彼は長い時間をかけてきました。
そして今後も、じっくりと悪略を練っていきます。
そして今後も、じっくりと悪略を練っていきます。
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NoTitle
危うさ満点。