「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・海戦記 4
フォコの話、64話目。
平和を思う。
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平和を思う。
4.
クリオがセノクと会っていた頃、フォコとティナはまた、サラム島に来ていた。
「君って」「はい?」
フォコの操舵を見守っていたティナは、感心した声を漏らす。
「本当に、物覚えが早いよね」
「そうですか?」
昨年にアミルから船の操舵方法と航海術を教わって以来、フォコはこちらも熱心に学び、実践していた。
その上達ぶりに感心しての、ティナの言葉である。
「何でもすっと覚えるし、上達も早いし。びっくりするくらい頭と勘がいいよ。ちょっとうらやましい」
「へへ、ども……」
ここ数年でナラン島に人が増えたので、造船所は新たに自家用の船、「ナージュ」号を製作した。その試験運転もかねて、二人はこの島にやってきたのである。
そしてもう一つ、フォコたちには目的があった。
「何がいいですかね?」
「やっぱり、ガラガラとかかな」
今年の春、アミル夫妻に子供が産まれたため、二人でお祝いを贈ることにしたのだ。
「玩具って、どこに売ってますかね?」
「あっち」
下調べしていたのか、ティナはすいすいと路地を進んでいく。
「ここ」
ティナはフォコが付いてきているのを少し振り返って確認し、そのまま店に入っていった。
(いっつも、ひょいひょい一人で進んでかはるなぁ)
そう思いつつも、フォコは不満を感じていない。
ティナはあまり人付き合いに慣れていないタイプの人間だと理解しているし、自分のことを邪険にしているわけでは無いと分かってもいる。
その証拠に――。
「ホコウ?」
店のドアから、ティナが心配そうに顔を出してきた。
「あ、はいはい、今行きますよー」
「うん」
店の中に入ると、店員らしい女性と目が合った。
「いらっしゃいませー」
「あの、えっと」
ティナはきょろきょろと、店員や棚、フォコの顔を見ている。そこでフォコが、代わりに応対した。
「ちっちゃい子が遊ぶような道具、ありますか? ガラガラとか」
「はい、ございますよー。何歳くらいですか?」
「今年産まれたばかりです」
「それじゃ、乳児用ですね。……あれ」
と、店員が不思議そうな顔をする。
「お子さんはどちらに?」
「へ?」
そう尋ねられ、フォコはきょとんとした。
「……あーあー、違います。僕らの先輩に子供が産まれて、そのお祝いにと思って」
「あ、そうでしたか。てっきりお二人、新婚さんかなって」
「いえ、ま……」
まだ、と言おうとし、フォコは慌てて言い直そうとした。
「あ、いえ、全然、そんな感じじゃ」「まだです」
が、結局ティナが顔を真っ赤にして、そう答えてしまう。
「へ」「そうなんですかー。お二人とも、お付き合いして長いんですか?」
「ええ、あの、えーと、……まあ、そうですね」
結局、フォコも顔を真っ赤にしながら、話を合わせることにした。
「あの店員さん、すごく楽しそうだったね」
買い物を済ませ、店から出た後で、ティナが帽子を深く被り直しながらそう言った。
「そうですねぇ。……恋人同士って思われたんですかね。いわゆる『コイバナ』が好きなタイプなんでしょうね」
「……そう、かな」
そこで不意に、ティナが黙り込んだ。
「……?」
フォコは何の気なしにティナの方を向き――同じように黙り込んだ。
帽子に隠れたティナの顔がこちらを向いており、店にいた時のように真っ赤になっていたからだ。
「……あのさ、ホコウ。……こんなの言って、もしかしたら迷惑かも、……知れないけど」
「なんでしょ?」
「あたし、……ホコウのこと、彼氏だと思ってるけど、……それでも、いいかな?」
「……勿論ですよ。僕だってそう思ってます」
「……良かった」
そう言うと、ティナはフォコの腕に抱きついてきた。
「ありがとね」
「ええ」
フォコも顔を真っ赤にしながら、恥ずかしさを紛らわせようとこう提案した。
「……あの、まだ時間ありますから、……これからデートなんて、どうです?」
「いいね。行こう」
ティナは深く被っていた帽子をさらに深く被り直し、こくりとうなずいた。
その仕草を見て、フォコの胸に、不意にこんな気持ちが浮かんできた。
(……僕、……いつか、……いつになるか分からへんけども、……いつか平和になったら、……その、……プロポーズとか、……ティナさんにしてみたいな。
この人と一緒やったら、すごく幸せに暮らせそうな気がする。……ええよな、そんな生活も。
……もう僕、フォコやなくても――ニコル・フォコ・ゴールドマンや無くなっても、ええかも知れへん。こうやって、南海でずっと平和に過ごしても、……ええよな?)
クリオがセノクと会っていた頃、フォコとティナはまた、サラム島に来ていた。
「君って」「はい?」
フォコの操舵を見守っていたティナは、感心した声を漏らす。
「本当に、物覚えが早いよね」
「そうですか?」
昨年にアミルから船の操舵方法と航海術を教わって以来、フォコはこちらも熱心に学び、実践していた。
その上達ぶりに感心しての、ティナの言葉である。
「何でもすっと覚えるし、上達も早いし。びっくりするくらい頭と勘がいいよ。ちょっとうらやましい」
「へへ、ども……」
ここ数年でナラン島に人が増えたので、造船所は新たに自家用の船、「ナージュ」号を製作した。その試験運転もかねて、二人はこの島にやってきたのである。
そしてもう一つ、フォコたちには目的があった。
「何がいいですかね?」
「やっぱり、ガラガラとかかな」
今年の春、アミル夫妻に子供が産まれたため、二人でお祝いを贈ることにしたのだ。
「玩具って、どこに売ってますかね?」
「あっち」
下調べしていたのか、ティナはすいすいと路地を進んでいく。
「ここ」
ティナはフォコが付いてきているのを少し振り返って確認し、そのまま店に入っていった。
(いっつも、ひょいひょい一人で進んでかはるなぁ)
そう思いつつも、フォコは不満を感じていない。
ティナはあまり人付き合いに慣れていないタイプの人間だと理解しているし、自分のことを邪険にしているわけでは無いと分かってもいる。
その証拠に――。
「ホコウ?」
店のドアから、ティナが心配そうに顔を出してきた。
「あ、はいはい、今行きますよー」
「うん」
店の中に入ると、店員らしい女性と目が合った。
「いらっしゃいませー」
「あの、えっと」
ティナはきょろきょろと、店員や棚、フォコの顔を見ている。そこでフォコが、代わりに応対した。
「ちっちゃい子が遊ぶような道具、ありますか? ガラガラとか」
「はい、ございますよー。何歳くらいですか?」
「今年産まれたばかりです」
「それじゃ、乳児用ですね。……あれ」
と、店員が不思議そうな顔をする。
「お子さんはどちらに?」
「へ?」
そう尋ねられ、フォコはきょとんとした。
「……あーあー、違います。僕らの先輩に子供が産まれて、そのお祝いにと思って」
「あ、そうでしたか。てっきりお二人、新婚さんかなって」
「いえ、ま……」
まだ、と言おうとし、フォコは慌てて言い直そうとした。
「あ、いえ、全然、そんな感じじゃ」「まだです」
が、結局ティナが顔を真っ赤にして、そう答えてしまう。
「へ」「そうなんですかー。お二人とも、お付き合いして長いんですか?」
「ええ、あの、えーと、……まあ、そうですね」
結局、フォコも顔を真っ赤にしながら、話を合わせることにした。
「あの店員さん、すごく楽しそうだったね」
買い物を済ませ、店から出た後で、ティナが帽子を深く被り直しながらそう言った。
「そうですねぇ。……恋人同士って思われたんですかね。いわゆる『コイバナ』が好きなタイプなんでしょうね」
「……そう、かな」
そこで不意に、ティナが黙り込んだ。
「……?」
フォコは何の気なしにティナの方を向き――同じように黙り込んだ。
帽子に隠れたティナの顔がこちらを向いており、店にいた時のように真っ赤になっていたからだ。
「……あのさ、ホコウ。……こんなの言って、もしかしたら迷惑かも、……知れないけど」
「なんでしょ?」
「あたし、……ホコウのこと、彼氏だと思ってるけど、……それでも、いいかな?」
「……勿論ですよ。僕だってそう思ってます」
「……良かった」
そう言うと、ティナはフォコの腕に抱きついてきた。
「ありがとね」
「ええ」
フォコも顔を真っ赤にしながら、恥ずかしさを紛らわせようとこう提案した。
「……あの、まだ時間ありますから、……これからデートなんて、どうです?」
「いいね。行こう」
ティナは深く被っていた帽子をさらに深く被り直し、こくりとうなずいた。
その仕草を見て、フォコの胸に、不意にこんな気持ちが浮かんできた。
(……僕、……いつか、……いつになるか分からへんけども、……いつか平和になったら、……その、……プロポーズとか、……ティナさんにしてみたいな。
この人と一緒やったら、すごく幸せに暮らせそうな気がする。……ええよな、そんな生活も。
……もう僕、フォコやなくても――ニコル・フォコ・ゴールドマンや無くなっても、ええかも知れへん。こうやって、南海でずっと平和に過ごしても、……ええよな?)



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今日の旅岡さん

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NoTitle
今回は幸せモードもフォコくんですね。
(/・ω・)/
しかし、背後には戦争の香りが漂っていますが。。。
(/・ω・)/
しかし、背後には戦争の香りが漂っていますが。。。
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