「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・海戦記 7
フォコの話、67話目。
女王いじめ。
@au_ringさんをフォロー
女王いじめ。
7.
男の発言に凍りつくアイシャに畳み掛けるように、男は次々に脅しを並べていく。
「ベール王国なら高くで買ってくれるでしょうな。4500万ですから、まあ、5000くらいで買ってもらえれば損は出ませんし、後々の取引相手への足掛かりと思えば上々な商談。
まあ、その後のことは私には関係ないことですが、もしベール王国が債券を買ったらどうなるでしょうな?」
「……っ」
「にっくきベール王国が、あなた方へ債権の取り立てに来るのでしょう。
おお、何と言う屈辱でしょう。今まで散々侮蔑していた敵から、『さあ金を払え、払え』と催促を受ける。一国の王として、これ以上の辱めは無いでしょうな」
「わ、妾を、侮辱するか……っ」
「いいえ、私はただ観測を述べているだけです。
ま、これで払ったらメンツは丸潰れ、払わなければウソつき呼ばわりの笑い者。いやぁ、針のむしろとはこのことですな、フハハハハ……。
さてと」
突然、男は立ち上がる。
「ど、どこに行くつもりじゃ?」
「どこ? もう話は終わったでしょう? 帰るんですよ」
「ま、まだ終わっておらぬじゃろう」
「ほう」
男は机に足を投げ出して座りなおす。
「じゃ、払うんですな?」
「……払えぬ」
「これはおかしなことを。この話は、払うか払わないかと言う話でしょう? 払えないなら話は以上です」
「……待ってはもらえぬか」
「お断りします」
「……では、半分、いや、3分の1だけでも待っては」
「お断りします」
頭を下げるアイシャに、男はにべも無く答える。
「私は今すぐ、全額を、いただきたいのですよ。それができないのなら、話すことはもうありません」
「……頼む。何でもする」
「ん? 何か仰いましたか?」
男は机の上に立ち上がり、アイシャの前にしゃがみ込んだ。
「何でもっ、する、とっ」
「『する』? ……いやいやいやいや、どうも今日は、私の耳は遠いらしい。
困窮するあなたなら、もっとへりくだって然るべきなのではと思っていましたが、ねぇ?」
男の執拗な苛めに、とうとうアイシャは泣き出した。
「……うっ、……ぐすっ、……さ、させて、ぐすっ、させてくりゃれ」
「ふむ、いいでしょう。よくできました、女王陛下」
男はアイシャのあごを撫で、耳元に語りかけた。
「ではこれから、私の言う通りにすると誓いなさい」
「ちっ、……ちか、ぐすっ、ちかう。ひっく……、誓うっ」
「よろしい」
年が明け、双月暦304年。
「まだ、レヴィア王国からは何も言ってこないのか?」
「ああ。セヤフ海戦以後、事実上の鎖国状態が続いている。……18」
クリオとセノクは再び、ベール島王宮で会っていた。
と言っても、緊急の用事や懸念する問題があったわけでもなく、今回はカードゲームに興じつつ、世間話をしているだけである。
「うへ、18か。じゃオレは、……げ、バーストかよ。
くっそ、また負けた」
「クリオ、君は博打に弱いなぁ。商売運はとんでもなく強いのに」
「うっせ。……くそ、コレで5331ガニーの負けか」
「はは、ありがとう。……どうする? もう一戦するか?」
「ん……、そーだな。市場で買って行きたいモノもあるし、コレ以上長居してっと遅れちまう」
「何か用事があるのか?」
尋ねてきたセノクに、クリオは満面に笑みを浮かべる。
「へへへ……、聞いてくれよ、大将」
「うん?」
「ウチの丁稚たちがよ、こないだ報告に来たんだよ。ずーっと職場恋愛してたけど、今度結婚するんだとさ」
「ほう? 誰が?」
「火紅と、ティナって娘がな」
「ホコウって、……ああ、君の話に良く上っていた子か。それはおめでたい話だ。……と言うことは、用事と言うのは」
「ああ、今日は結婚式の買出しに来てたんだ。……ちっと、道草食ったけど」
それを聞いて、セノクは苦笑した。
「早く帰ってやれ、クリオ。親分の君がいなくてどうするんだ」
「ちげーねぇ。……んじゃ、またな」
クリオはそう言って席を立った。
「……?」
と、彼の背中を見たセノクは、わずかにではあるが嫌な予感を覚えた。
「クリオ?」
「あん?」
「……気をつけて帰れよ」
「おう」
顔を向けず、手を振って部屋を後にしたクリオに、セノクは不安を感じていた。
(何だろう……、この感覚は?
まるで――もう二度と、あいつに会えないような)
洋上に出たクリオは、「アマンド」号の舵を緩く握りつつ、ニヤニヤ笑っていた。
(火紅の野郎がもう結婚かぁ~……。
何歳だっけ、今。ああ、17? だっけか? んでティナは24だったっけ。ちっと火紅にゃ早いんじゃねーかって気もしないでもねーけど、ま、お似合いだしな。
……へへ、もしあいつらに男の子が産まれたら、オレの子と、なーんて、……ハハ、それこそ早過ぎるってもんか。
ったく、幸せ過ぎんだろーが、火紅め)
クリオは煙草と幸せを噛み締めつつ、フォコのことを考えていた。
と、その時――突然船全体にゴツ、と言う鈍い音が響き、船が大きく揺れた。
「お、わ……っ!?」
クリオは舵から手を離し、べちゃりと倒れる。
「いてて……、なんだ、おい?」
立ち上がろうとしたところでザク、と自分の顔のすぐ横に、直剣が突き立てられた。
「……っ」
息を呑んだその一瞬のうちに、両手を後ろに縛られる。
「クリオ・ジョーヌ。我々と一緒に来てもらおう」
「誰だ……、てめーら」
クリオは甲板に転がされたまま、自分を囲む兵士たちに尋ねた。
「……」
だが、クリオの問いには誰も答えなかった。
火紅狐・海戦記 終
男の発言に凍りつくアイシャに畳み掛けるように、男は次々に脅しを並べていく。
「ベール王国なら高くで買ってくれるでしょうな。4500万ですから、まあ、5000くらいで買ってもらえれば損は出ませんし、後々の取引相手への足掛かりと思えば上々な商談。
まあ、その後のことは私には関係ないことですが、もしベール王国が債券を買ったらどうなるでしょうな?」
「……っ」
「にっくきベール王国が、あなた方へ債権の取り立てに来るのでしょう。
おお、何と言う屈辱でしょう。今まで散々侮蔑していた敵から、『さあ金を払え、払え』と催促を受ける。一国の王として、これ以上の辱めは無いでしょうな」
「わ、妾を、侮辱するか……っ」
「いいえ、私はただ観測を述べているだけです。
ま、これで払ったらメンツは丸潰れ、払わなければウソつき呼ばわりの笑い者。いやぁ、針のむしろとはこのことですな、フハハハハ……。
さてと」
突然、男は立ち上がる。
「ど、どこに行くつもりじゃ?」
「どこ? もう話は終わったでしょう? 帰るんですよ」
「ま、まだ終わっておらぬじゃろう」
「ほう」
男は机に足を投げ出して座りなおす。
「じゃ、払うんですな?」
「……払えぬ」
「これはおかしなことを。この話は、払うか払わないかと言う話でしょう? 払えないなら話は以上です」
「……待ってはもらえぬか」
「お断りします」
「……では、半分、いや、3分の1だけでも待っては」
「お断りします」
頭を下げるアイシャに、男はにべも無く答える。
「私は今すぐ、全額を、いただきたいのですよ。それができないのなら、話すことはもうありません」
「……頼む。何でもする」
「ん? 何か仰いましたか?」
男は机の上に立ち上がり、アイシャの前にしゃがみ込んだ。
「何でもっ、する、とっ」
「『する』? ……いやいやいやいや、どうも今日は、私の耳は遠いらしい。
困窮するあなたなら、もっとへりくだって然るべきなのではと思っていましたが、ねぇ?」
男の執拗な苛めに、とうとうアイシャは泣き出した。
「……うっ、……ぐすっ、……さ、させて、ぐすっ、させてくりゃれ」
「ふむ、いいでしょう。よくできました、女王陛下」
男はアイシャのあごを撫で、耳元に語りかけた。
「ではこれから、私の言う通りにすると誓いなさい」
「ちっ、……ちか、ぐすっ、ちかう。ひっく……、誓うっ」
「よろしい」
年が明け、双月暦304年。
「まだ、レヴィア王国からは何も言ってこないのか?」
「ああ。セヤフ海戦以後、事実上の鎖国状態が続いている。……18」
クリオとセノクは再び、ベール島王宮で会っていた。
と言っても、緊急の用事や懸念する問題があったわけでもなく、今回はカードゲームに興じつつ、世間話をしているだけである。
「うへ、18か。じゃオレは、……げ、バーストかよ。
くっそ、また負けた」
「クリオ、君は博打に弱いなぁ。商売運はとんでもなく強いのに」
「うっせ。……くそ、コレで5331ガニーの負けか」
「はは、ありがとう。……どうする? もう一戦するか?」
「ん……、そーだな。市場で買って行きたいモノもあるし、コレ以上長居してっと遅れちまう」
「何か用事があるのか?」
尋ねてきたセノクに、クリオは満面に笑みを浮かべる。
「へへへ……、聞いてくれよ、大将」
「うん?」
「ウチの丁稚たちがよ、こないだ報告に来たんだよ。ずーっと職場恋愛してたけど、今度結婚するんだとさ」
「ほう? 誰が?」
「火紅と、ティナって娘がな」
「ホコウって、……ああ、君の話に良く上っていた子か。それはおめでたい話だ。……と言うことは、用事と言うのは」
「ああ、今日は結婚式の買出しに来てたんだ。……ちっと、道草食ったけど」
それを聞いて、セノクは苦笑した。
「早く帰ってやれ、クリオ。親分の君がいなくてどうするんだ」
「ちげーねぇ。……んじゃ、またな」
クリオはそう言って席を立った。
「……?」
と、彼の背中を見たセノクは、わずかにではあるが嫌な予感を覚えた。
「クリオ?」
「あん?」
「……気をつけて帰れよ」
「おう」
顔を向けず、手を振って部屋を後にしたクリオに、セノクは不安を感じていた。
(何だろう……、この感覚は?
まるで――もう二度と、あいつに会えないような)
洋上に出たクリオは、「アマンド」号の舵を緩く握りつつ、ニヤニヤ笑っていた。
(火紅の野郎がもう結婚かぁ~……。
何歳だっけ、今。ああ、17? だっけか? んでティナは24だったっけ。ちっと火紅にゃ早いんじゃねーかって気もしないでもねーけど、ま、お似合いだしな。
……へへ、もしあいつらに男の子が産まれたら、オレの子と、なーんて、……ハハ、それこそ早過ぎるってもんか。
ったく、幸せ過ぎんだろーが、火紅め)
クリオは煙草と幸せを噛み締めつつ、フォコのことを考えていた。
と、その時――突然船全体にゴツ、と言う鈍い音が響き、船が大きく揺れた。
「お、わ……っ!?」
クリオは舵から手を離し、べちゃりと倒れる。
「いてて……、なんだ、おい?」
立ち上がろうとしたところでザク、と自分の顔のすぐ横に、直剣が突き立てられた。
「……っ」
息を呑んだその一瞬のうちに、両手を後ろに縛られる。
「クリオ・ジョーヌ。我々と一緒に来てもらおう」
「誰だ……、てめーら」
クリオは甲板に転がされたまま、自分を囲む兵士たちに尋ねた。
「……」
だが、クリオの問いには誰も答えなかった。
火紅狐・海戦記 終



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

NoTitle
もっと貶められることになります。