「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・砂嵐記 1
フォコの話、68話目。
舞い上がったフォコ。
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舞い上がったフォコ。
1.
「……遅いですねぇ」
ナラン島、砂猫楼。
その入口、桟橋を見下ろせる場所に座り込み、ルーは夫の帰りを待っていた。
「ですね。もう日が暮れちゃいますよ」
フォコも心配になり、ルーの横に座る。
「そりゃ、寄り道くらいはしてるんでしょうけど。セノクさんと仲いいですし。
もしかして賭けで熱くなって、用事を忘れちゃってたり、なんて」
「えー……」
しょんぼりするフォコを見て、ルーはクスクスと笑う。
「なんて、ね。あの人は約束、ちゃんと果たす人ですよ。どんなに適当に見えても、ね」
「え、ええ。うん、分かってます」
「……でも、遅いわ」
ルーは立ち上がり、桟橋へとトテトテ歩いていく。フォコも後を追い、話を続ける。
「何かあったんでしょうか?」
「あったかも知れないですね。……でも、今日はお天気もいいですし、波も穏やかなのに」
「誰かに襲われた、とか?」
「レヴィア王国の方とか、ですか?
でももう、戦えるような状況じゃないと聞きましたし、……だからホコウ君たちも、結婚しますって言い出したんじゃないですか」
そう返され、フォコは顔を赤らめた。
「……へへ、そうでした」
レヴィア王国の権威が失墜して以降、南海には平和が訪れていた。
海賊行為が明るみになり、また、それが完膚なきまでに叩きのめされたため、南海諸国は「軍事国に軍を向けることで緊張が高まりはしないか、報復されはしないか」などと気にせず、堂々とレヴィア軍を追い返すことができたからである。
一方で、正真正銘のならず者、卑劣な海賊団と烙印を押され、レヴィア軍の士気は著しく低下していた。兵士への脅迫を続けていた王室、ひいては女王への忠誠心も地に墜ち、最早アイシャ・レヴィア女王の命令を聞こうとはしない。
軍事行為が事実上封じられたため、「軍事国気取り」のレヴィア王国は渉外手段を失った。それが政治・経済にも波及し、レヴィア王国は304年1月現在、南海諸国から孤立し、破綻しかかっていた。
レヴィア軍が侵略を行わなくなるにつれ、小競り合いを続けていた他の小国も平和路線に転換。それらをベール王国がうまく取りまとめ、南海の政情は安定し始めていた。
「ってワケだ。コレでよーやく、海賊も廃業できっかもな」
「そうですね……」
3日前、砂猫楼でクリオからその話を聞いたフォコは、一大決心をした。
「あの、おやっさん」
「ん?」
「……あ、ちょっと待っててください」
「おう」
フォコはクリオの前からそそくさと立ち去り、少ししてティナの手を引いて戻ってきた。
「あ、あのっ」
「どした?」
「その、僕、まだ10代ですけど」
「ああ」
「その、平和になるんなら、その」
「なるだろーよ。それがどした?」
「お、落ち着いて生活とか、できますよね」
「できるだろーな。で?」
「じゃあ、えっと、その、あの」
もごもごと口を動かすフォコに、クリオが苛立つ。
「何だよ?」
「……こん」
と、フォコに手を引かれていたティナが、ぼそっと何かを言った。
「あ?」
「結婚、しようって」
「……あ?」
ティナの言葉に、クリオは唖然とした。
「結婚て、アレか? お前さんと火紅がか?」
「うん」
「……ほーほーほーほー、そう来たか、ヒヨッコ」
クリオはニヤニヤと笑い出す。
「お前さん毎度毎度、突飛だなぁ。いきなり何を言うかと思えばよ、結婚と来たか」
「……へ、へへ」
「ヘラヘラ笑ってんなよ、おいおい」
クリオはニヤニヤしながら、フォコの鼻をつまむ。
「ふぎゃ」
「給料も安くて、丁稚の身で、厄介なもん抱えてるってのに、結婚しようとはな」
「厄介?」
首をかしげたティナに、クリオは「ん?」といぶかしげな声を出した。
「お前、言ってないのか? 結婚するって相手に」
「ひ、ひははらひほうはほ(い、今から言おうかと)」
「じゃ、言え。ヨメさんに隠しゴトはしねー方がいいぜ。バレた時がキツいからな」
ようやくクリオから手を離してもらい、フォコは鼻を抑えながら身の上を告白した。
「……えっ」
聞いたティナの目が丸くなる。
「うそ?」
ティナはフォコの身の上に起こった凄惨な事件をすぐには信じられず、クリオをチラ、と見る。
「ホントだ。オレが証明する」
「……そっか。……大変だったんだね」
ティナはぎゅっ、とフォコを抱きしめた。
「ティナさん……」
「さん付けしないで。奥さんに……、家族になるんでしょ、あたし」
「あ、はい」
やり取りを聞いていたクリオが、目を細める。
「……もしかしてお前さん、今、プロポーズしたのか?」
「はい」
「あほっ」
クリオは頭を抱え、笑い出した。
「んなもん先に済ましとけよ、まったく。
毎度毎度、思い付いたらすぐ動くヤツだなぁ、お前は。悪いクセだぜ」
「……遅いですねぇ」
ナラン島、砂猫楼。
その入口、桟橋を見下ろせる場所に座り込み、ルーは夫の帰りを待っていた。
「ですね。もう日が暮れちゃいますよ」
フォコも心配になり、ルーの横に座る。
「そりゃ、寄り道くらいはしてるんでしょうけど。セノクさんと仲いいですし。
もしかして賭けで熱くなって、用事を忘れちゃってたり、なんて」
「えー……」
しょんぼりするフォコを見て、ルーはクスクスと笑う。
「なんて、ね。あの人は約束、ちゃんと果たす人ですよ。どんなに適当に見えても、ね」
「え、ええ。うん、分かってます」
「……でも、遅いわ」
ルーは立ち上がり、桟橋へとトテトテ歩いていく。フォコも後を追い、話を続ける。
「何かあったんでしょうか?」
「あったかも知れないですね。……でも、今日はお天気もいいですし、波も穏やかなのに」
「誰かに襲われた、とか?」
「レヴィア王国の方とか、ですか?
でももう、戦えるような状況じゃないと聞きましたし、……だからホコウ君たちも、結婚しますって言い出したんじゃないですか」
そう返され、フォコは顔を赤らめた。
「……へへ、そうでした」
レヴィア王国の権威が失墜して以降、南海には平和が訪れていた。
海賊行為が明るみになり、また、それが完膚なきまでに叩きのめされたため、南海諸国は「軍事国に軍を向けることで緊張が高まりはしないか、報復されはしないか」などと気にせず、堂々とレヴィア軍を追い返すことができたからである。
一方で、正真正銘のならず者、卑劣な海賊団と烙印を押され、レヴィア軍の士気は著しく低下していた。兵士への脅迫を続けていた王室、ひいては女王への忠誠心も地に墜ち、最早アイシャ・レヴィア女王の命令を聞こうとはしない。
軍事行為が事実上封じられたため、「軍事国気取り」のレヴィア王国は渉外手段を失った。それが政治・経済にも波及し、レヴィア王国は304年1月現在、南海諸国から孤立し、破綻しかかっていた。
レヴィア軍が侵略を行わなくなるにつれ、小競り合いを続けていた他の小国も平和路線に転換。それらをベール王国がうまく取りまとめ、南海の政情は安定し始めていた。
「ってワケだ。コレでよーやく、海賊も廃業できっかもな」
「そうですね……」
3日前、砂猫楼でクリオからその話を聞いたフォコは、一大決心をした。
「あの、おやっさん」
「ん?」
「……あ、ちょっと待っててください」
「おう」
フォコはクリオの前からそそくさと立ち去り、少ししてティナの手を引いて戻ってきた。
「あ、あのっ」
「どした?」
「その、僕、まだ10代ですけど」
「ああ」
「その、平和になるんなら、その」
「なるだろーよ。それがどした?」
「お、落ち着いて生活とか、できますよね」
「できるだろーな。で?」
「じゃあ、えっと、その、あの」
もごもごと口を動かすフォコに、クリオが苛立つ。
「何だよ?」
「……こん」
と、フォコに手を引かれていたティナが、ぼそっと何かを言った。
「あ?」
「結婚、しようって」
「……あ?」
ティナの言葉に、クリオは唖然とした。
「結婚て、アレか? お前さんと火紅がか?」
「うん」
「……ほーほーほーほー、そう来たか、ヒヨッコ」
クリオはニヤニヤと笑い出す。
「お前さん毎度毎度、突飛だなぁ。いきなり何を言うかと思えばよ、結婚と来たか」
「……へ、へへ」
「ヘラヘラ笑ってんなよ、おいおい」
クリオはニヤニヤしながら、フォコの鼻をつまむ。
「ふぎゃ」
「給料も安くて、丁稚の身で、厄介なもん抱えてるってのに、結婚しようとはな」
「厄介?」
首をかしげたティナに、クリオは「ん?」といぶかしげな声を出した。
「お前、言ってないのか? 結婚するって相手に」
「ひ、ひははらひほうはほ(い、今から言おうかと)」
「じゃ、言え。ヨメさんに隠しゴトはしねー方がいいぜ。バレた時がキツいからな」
ようやくクリオから手を離してもらい、フォコは鼻を抑えながら身の上を告白した。
「……えっ」
聞いたティナの目が丸くなる。
「うそ?」
ティナはフォコの身の上に起こった凄惨な事件をすぐには信じられず、クリオをチラ、と見る。
「ホントだ。オレが証明する」
「……そっか。……大変だったんだね」
ティナはぎゅっ、とフォコを抱きしめた。
「ティナさん……」
「さん付けしないで。奥さんに……、家族になるんでしょ、あたし」
「あ、はい」
やり取りを聞いていたクリオが、目を細める。
「……もしかしてお前さん、今、プロポーズしたのか?」
「はい」
「あほっ」
クリオは頭を抱え、笑い出した。
「んなもん先に済ましとけよ、まったく。
毎度毎度、思い付いたらすぐ動くヤツだなぁ、お前は。悪いクセだぜ」



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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おお~~ここまでは幸せ展開ですねえ。
フォコも。
さて、ここからどういう状況に巻き込まれていくのか。。。
(ーー;)
フォコも。
さて、ここからどういう状況に巻き込まれていくのか。。。
(ーー;)
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フォコはまだ、悲劇の渦中に呑まれたままです。