「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・砂嵐記 2
フォコの話、69話目。
夜中の出航。
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夜中の出航。
2.
すっかり日は落ち、白と赤の薄い三日月が分厚い雲の向こうに、わずかに見え隠れしている。それを眺めていたルーが、残念そうにつぶやく。
「……今日はもう、帰ってきそうにないですね」
「そうですね。月明かりもほとんどないですし、これじゃ船を動かすの、危険ですよね」
ルーはしょんぼりした顔で、ぱたぱたと尻尾に付いた砂を払う。
「ま、結婚式は明後日の予定だから、まだ大丈夫ですけどね」
「ええ。明日には帰ってくるでしょ、流石に」
不安を感じつつも、フォコとルーは砂猫楼に戻った。
「……おやっさんが……」
(……ん?)
夜も更けた頃、フォコはうっすらと目を覚ました。
(何や今、話し声が聞こえたような……?)
上半身を起こし、狐耳を澄ます。
「……本当か……」「……ああ……」
どちらも男の声だ。一人は鈍く伸びた声――巨漢のジャールだ。
(もう一人は……? この渋い声、アバントさんやろか)
と、横に寝ていたティナも目を覚ます。
「どしたの?」
「あ、えっと、……トイレ」
「ん」
それを聞いて、ティナはまた眠りに入った。
「何やろ……? 何や……、胸騒ぎしとる」
フォコはそっとベッドを離れ、服を着替えて部屋を出た。
(何やろ? 慌てとる感じやけど……、おやっさんのことやろか?)
声は静まり返った砂猫楼の中に、細々と聞こえてくる。
「……何で……」「……もし……」
フォコは忍び足で、声のする方に寄っていく。声は遠くなったり、近くなったりしている――どうやら、歩きながら話しているらしい。
「……でも……」「……とにかく……」
やはり、もう一人はアバントのようだ。その声からは緊張し、戸惑っているのが良く伝わってくる。
(……ここ、降りてったんか?)
声は地下、「テンペスト」を隠しているドックへ進んでいた。
「お、おやっさんが!?」「しっ」
アバントはジャールの部屋を訪ね、彼を起こして話を切り出した。
「実は今日の昼頃、連絡があったんだ。おやっさんを拉致し、身代金をよこせと」
「本当か?」
「ああ、この通りだ」
アバントはぴら、と手紙を見せる。
「俺と『テンペスト』の操舵手以外には誰にも報せるな、と。報せた場合、命は無いとも」
「何でだよ? こんな大変な話、何でおかみさんにも報せてないんだ?」
「もし本当だったらどうするんだ? 俺たちのせいでおやっさんが死ぬことになるんだぞ」
「そりゃ、そうだが。でも……」「とにかく」
アバントは無理矢理に話を切り上げ、ジャールを促す。
「助けに行こう。身代金を渡すフリをして」
「……そう、だな。オタオタしてる場合じゃない」
ジャールを説得したアバントは、そのまま地下ドックへと急いだ。
(……よし、成功した)
アバントは心の中で、ほっと一息つく。
(後は『テンペスト』を持って行けば、俺の役目は終わりだ。
今夜が『テンペスト』と『砂嵐』の、最後の航海だ……!)
夜の闇に染まった洋上を、漆黒の「テンペスト」が進んでいく。
「相手はどこで待ち合わせしてるんだ?」
「ここから真東の無人島だ。砂しかない小島で、名前も付いてない」
「逃げ出すのも、助けを呼ぶのも無理、ってことか」
アバントの指示に従い、ジャールは舵を切る。
「ところで、ジャール」
「何だ?」
「お前、風の術が使えるんだよな」
「ああ。モーリスさんに教わった」
「意外だよな、……いや、他意はないんだが」
「俺も意外だよ。まともに学校も行ってない俺が、魔術を使えるなんて思ってなかった。
つーか南海の奴らって、魔力を持ってる奴が結構多いらしいぜ。モーリスさんも不思議がってたよ。『これほど魔力を有する人間が、こんな限定された地域に集中しているとは』って、いつものお堅い口調でそう言ってた」
「そうなのか。……そうだな、確かに西方人は、魔力のない人間の方が圧倒的に多いよ。俺も無いし」
ここでジャールは、アバントに対し苛立ちを感じた。
(アバントのおっさん、緊張感ねーなぁ……。おやっさんが危ないってのに)
「普通なら、島はここから4時間くらいの場所だ。お前の腕と術なら、1時間もしないうちに着くだろう」
「ああ。任せてくれ」
ジャールは術に魔力を込め、さらに船速を上げた。
すっかり日は落ち、白と赤の薄い三日月が分厚い雲の向こうに、わずかに見え隠れしている。それを眺めていたルーが、残念そうにつぶやく。
「……今日はもう、帰ってきそうにないですね」
「そうですね。月明かりもほとんどないですし、これじゃ船を動かすの、危険ですよね」
ルーはしょんぼりした顔で、ぱたぱたと尻尾に付いた砂を払う。
「ま、結婚式は明後日の予定だから、まだ大丈夫ですけどね」
「ええ。明日には帰ってくるでしょ、流石に」
不安を感じつつも、フォコとルーは砂猫楼に戻った。
「……おやっさんが……」
(……ん?)
夜も更けた頃、フォコはうっすらと目を覚ました。
(何や今、話し声が聞こえたような……?)
上半身を起こし、狐耳を澄ます。
「……本当か……」「……ああ……」
どちらも男の声だ。一人は鈍く伸びた声――巨漢のジャールだ。
(もう一人は……? この渋い声、アバントさんやろか)
と、横に寝ていたティナも目を覚ます。
「どしたの?」
「あ、えっと、……トイレ」
「ん」
それを聞いて、ティナはまた眠りに入った。
「何やろ……? 何や……、胸騒ぎしとる」
フォコはそっとベッドを離れ、服を着替えて部屋を出た。
(何やろ? 慌てとる感じやけど……、おやっさんのことやろか?)
声は静まり返った砂猫楼の中に、細々と聞こえてくる。
「……何で……」「……もし……」
フォコは忍び足で、声のする方に寄っていく。声は遠くなったり、近くなったりしている――どうやら、歩きながら話しているらしい。
「……でも……」「……とにかく……」
やはり、もう一人はアバントのようだ。その声からは緊張し、戸惑っているのが良く伝わってくる。
(……ここ、降りてったんか?)
声は地下、「テンペスト」を隠しているドックへ進んでいた。
「お、おやっさんが!?」「しっ」
アバントはジャールの部屋を訪ね、彼を起こして話を切り出した。
「実は今日の昼頃、連絡があったんだ。おやっさんを拉致し、身代金をよこせと」
「本当か?」
「ああ、この通りだ」
アバントはぴら、と手紙を見せる。
「俺と『テンペスト』の操舵手以外には誰にも報せるな、と。報せた場合、命は無いとも」
「何でだよ? こんな大変な話、何でおかみさんにも報せてないんだ?」
「もし本当だったらどうするんだ? 俺たちのせいでおやっさんが死ぬことになるんだぞ」
「そりゃ、そうだが。でも……」「とにかく」
アバントは無理矢理に話を切り上げ、ジャールを促す。
「助けに行こう。身代金を渡すフリをして」
「……そう、だな。オタオタしてる場合じゃない」
ジャールを説得したアバントは、そのまま地下ドックへと急いだ。
(……よし、成功した)
アバントは心の中で、ほっと一息つく。
(後は『テンペスト』を持って行けば、俺の役目は終わりだ。
今夜が『テンペスト』と『砂嵐』の、最後の航海だ……!)
夜の闇に染まった洋上を、漆黒の「テンペスト」が進んでいく。
「相手はどこで待ち合わせしてるんだ?」
「ここから真東の無人島だ。砂しかない小島で、名前も付いてない」
「逃げ出すのも、助けを呼ぶのも無理、ってことか」
アバントの指示に従い、ジャールは舵を切る。
「ところで、ジャール」
「何だ?」
「お前、風の術が使えるんだよな」
「ああ。モーリスさんに教わった」
「意外だよな、……いや、他意はないんだが」
「俺も意外だよ。まともに学校も行ってない俺が、魔術を使えるなんて思ってなかった。
つーか南海の奴らって、魔力を持ってる奴が結構多いらしいぜ。モーリスさんも不思議がってたよ。『これほど魔力を有する人間が、こんな限定された地域に集中しているとは』って、いつものお堅い口調でそう言ってた」
「そうなのか。……そうだな、確かに西方人は、魔力のない人間の方が圧倒的に多いよ。俺も無いし」
ここでジャールは、アバントに対し苛立ちを感じた。
(アバントのおっさん、緊張感ねーなぁ……。おやっさんが危ないってのに)
「普通なら、島はここから4時間くらいの場所だ。お前の腕と術なら、1時間もしないうちに着くだろう」
「ああ。任せてくれ」
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