「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・砂嵐記 7
フォコの話、74話目。
火と氷の精神。
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火と氷の精神。
7.
飛んでくる何かを認識できないまま、「テンペスト」は延々と攻撃を受け続けた。
「火紅! 舵を、舵を取れッ!」
「で、でもっ、ジャールさんが、ジャールさんがっ……」
「……無理だ! もう、……海に沈んだ……」
甲板に叩きつけられ、大量に出血していたジャールは、3度目か4度目の攻撃で弾き飛ばされ、海に落ちていった。
フォコもクリオも、攻撃によって飛んだ大量の木片でケガを負い、血を流している。
「舵を取れ、火紅! 逃げるんだ!」
「は、はいっ、はい……っ」
ガタガタと震える手を、必死に舵へぶつけて取り舵を取る。
「くそ……! 何なんだ、ありゃ……!」
クリオは飛び散る木片を避け、フォコに命じる。
「今から風を作る! このままの方向を維持しろ!」
「はいっ……!」
フォコは命じられたまま、しがみつくように舵を握り、固定した。
「行くぞ……! 『ワールウインド』!」
ゴッと音を立て、船は勢い良くその場を離れていった。
「……撃ち方、やめ!」
ケネスの命令に、兵士たちはさっと砲台から手を離した。
「どうした?」
「射程距離外だ。もう弾は届かん」
「ふむ……、これも万能ではない、と言うことか」
アイシャはすっかり、その黒い粉が気に入ったらしい。服が汚れるのも構わず、粉をベタベタと触っている。
「この兵器では、だ。研究すればもっと、有効な使い方もあるだろう」
「……のう、『旦那様』」
アイシャは樽から離れ、半ば媚びるようなしぐさでケネスに歩み寄る。
「何だ?」
「これを、売ってくれぬか?」
「売る? 私がお前に?」
ケネスはにこやかな笑顔をアイシャに見せ、甘い声を出す。
「借金まみれのお前に、買えるわけが無いだろう?
それよりも、これがどれだけ有用なものか、世界中に知らしめる必要がある。それでだ、この南海で、無料で使わせてやろう。
それで成果を挙げ、宣伝してほしいんだ。この商品には価値があると。やってくれるか、アイシャ?」
「ああ、ああ……。致しましょうぞ、旦那様」
アイシャはうっとりとした顔で、ケネスに抱きついた。
ずっと東に船を進めていたせいか、夜明けも早く感じられた。
「もう朝、か……」
クリオの指示に従い、必死で舵を取っていたフォコは、ここでようやく顔を上げた。
「おやっさん、もう大丈夫ですよね」
「……ああ」
クリオはマストの柱にもたれ、顔を上げずに返事を返す。
「あ」
クリオの頭上を見上げ、フォコは困った声を漏らす。
「マスト折れちゃってますね」
「……そっか」
「どうやって帰りましょう?」
「……さあな」
「おやっさん……?」
クリオの返事が妙にぼんやりとしている。気になったフォコは、彼の側に近寄った。
「おやっさん? 大丈夫で、……っ!」
近付いたところで、フォコはクリオの背中に無数の木片が刺さっていることに気付いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……そう……見えるのか……お前さんは……?」
「……いえ」
「まあ……聞け……火紅……」
クリオはのろのろと、顔を上げる。その顔には明らかに、死相が浮かんでいた。
「見た通りだ……オレはもう……」
「そ、そんな! て、手当てします!」
「やめとけ……薬の無駄だ……。
……それよりも……だ……。火紅……お前は……もう……南海に戻るな……」
「え……っ?」
「……あの……滅茶苦茶な兵器……きっとケネスは……レヴィアに売る……。
そうなりゃ……また……まただよ……また……南海は……火の海になる」
「それならなおのこと、戻らなきゃいけないじゃないですか」
「……勝てるか……お前さん……ケネスに……?」
「……勝ちます」
「今は……無理だ……。
オレがいなくなれば……ジョーヌ海運は……傾くだろう……。ルーだけじゃ……切り盛りできねー……多分あいつは……西方に帰る……。そのまんま……ジョーヌ海運は解散することになる……。戻っても……何もできねーよ……。
それにだ……ケネスは……お前さんを消そうとする……。あの時……お前は……明言した……ケネスの野郎を……殺すと。
あいつは……自分の敵になるよーなヤツを……いつまでも……放っておくヤツじゃねー……。お前さんが……敵だと分かった今……間違いなく……殺しに来る……。
そんな時に……南海に戻ってみろや……。お前さん……間違いなく……死ぬぜ」
「……」
クリオの語調は、段々弱々しくなってくる。だがそれでも、目の光は強いままだった。
「いいか……火紅……。冷静でいろ……。そして……熱くあれ」
「冷静で……熱く?」
相反することを言われ、フォコは戸惑う。
「お前さんが冷静でいりゃ……どんな策略や企みも……及ばねー……。
でも冷静でいるってのは……考えるコト……歩く足を止めるってコトだ……。
じっと足を止めたままじゃ……何にもできねーだろ……。
だから……冷静で……かつ……熱くいろ……。
それが……オレが……望むコトだ……」
クリオはフォコの肩をつかみ、残った力を振り絞った目を向けた。
「ともかくだ……火紅……その二つを……同時に……こなせるなら……お前に不可能は……無い」
「……分かりました。やって……みせます」
「……おう……」
ずるりと、クリオの手が落ちる。
「おやっさん?」
「……」
クリオは無言で、フォコの目を見つめている。
いや――その目はもう、どこも見ていなかった。
「おやっさん……? お、おやっさあああん……ッ!」
フォコの泣き叫ぶ声も、クリオの耳には既に届いていなかった。
飛んでくる何かを認識できないまま、「テンペスト」は延々と攻撃を受け続けた。
「火紅! 舵を、舵を取れッ!」
「で、でもっ、ジャールさんが、ジャールさんがっ……」
「……無理だ! もう、……海に沈んだ……」
甲板に叩きつけられ、大量に出血していたジャールは、3度目か4度目の攻撃で弾き飛ばされ、海に落ちていった。
フォコもクリオも、攻撃によって飛んだ大量の木片でケガを負い、血を流している。
「舵を取れ、火紅! 逃げるんだ!」
「は、はいっ、はい……っ」
ガタガタと震える手を、必死に舵へぶつけて取り舵を取る。
「くそ……! 何なんだ、ありゃ……!」
クリオは飛び散る木片を避け、フォコに命じる。
「今から風を作る! このままの方向を維持しろ!」
「はいっ……!」
フォコは命じられたまま、しがみつくように舵を握り、固定した。
「行くぞ……! 『ワールウインド』!」
ゴッと音を立て、船は勢い良くその場を離れていった。
「……撃ち方、やめ!」
ケネスの命令に、兵士たちはさっと砲台から手を離した。
「どうした?」
「射程距離外だ。もう弾は届かん」
「ふむ……、これも万能ではない、と言うことか」
アイシャはすっかり、その黒い粉が気に入ったらしい。服が汚れるのも構わず、粉をベタベタと触っている。
「この兵器では、だ。研究すればもっと、有効な使い方もあるだろう」
「……のう、『旦那様』」
アイシャは樽から離れ、半ば媚びるようなしぐさでケネスに歩み寄る。
「何だ?」
「これを、売ってくれぬか?」
「売る? 私がお前に?」
ケネスはにこやかな笑顔をアイシャに見せ、甘い声を出す。
「借金まみれのお前に、買えるわけが無いだろう?
それよりも、これがどれだけ有用なものか、世界中に知らしめる必要がある。それでだ、この南海で、無料で使わせてやろう。
それで成果を挙げ、宣伝してほしいんだ。この商品には価値があると。やってくれるか、アイシャ?」
「ああ、ああ……。致しましょうぞ、旦那様」
アイシャはうっとりとした顔で、ケネスに抱きついた。
ずっと東に船を進めていたせいか、夜明けも早く感じられた。
「もう朝、か……」
クリオの指示に従い、必死で舵を取っていたフォコは、ここでようやく顔を上げた。
「おやっさん、もう大丈夫ですよね」
「……ああ」
クリオはマストの柱にもたれ、顔を上げずに返事を返す。
「あ」
クリオの頭上を見上げ、フォコは困った声を漏らす。
「マスト折れちゃってますね」
「……そっか」
「どうやって帰りましょう?」
「……さあな」
「おやっさん……?」
クリオの返事が妙にぼんやりとしている。気になったフォコは、彼の側に近寄った。
「おやっさん? 大丈夫で、……っ!」
近付いたところで、フォコはクリオの背中に無数の木片が刺さっていることに気付いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……そう……見えるのか……お前さんは……?」
「……いえ」
「まあ……聞け……火紅……」
クリオはのろのろと、顔を上げる。その顔には明らかに、死相が浮かんでいた。
「見た通りだ……オレはもう……」
「そ、そんな! て、手当てします!」
「やめとけ……薬の無駄だ……。
……それよりも……だ……。火紅……お前は……もう……南海に戻るな……」
「え……っ?」
「……あの……滅茶苦茶な兵器……きっとケネスは……レヴィアに売る……。
そうなりゃ……また……まただよ……また……南海は……火の海になる」
「それならなおのこと、戻らなきゃいけないじゃないですか」
「……勝てるか……お前さん……ケネスに……?」
「……勝ちます」
「今は……無理だ……。
オレがいなくなれば……ジョーヌ海運は……傾くだろう……。ルーだけじゃ……切り盛りできねー……多分あいつは……西方に帰る……。そのまんま……ジョーヌ海運は解散することになる……。戻っても……何もできねーよ……。
それにだ……ケネスは……お前さんを消そうとする……。あの時……お前は……明言した……ケネスの野郎を……殺すと。
あいつは……自分の敵になるよーなヤツを……いつまでも……放っておくヤツじゃねー……。お前さんが……敵だと分かった今……間違いなく……殺しに来る……。
そんな時に……南海に戻ってみろや……。お前さん……間違いなく……死ぬぜ」
「……」
クリオの語調は、段々弱々しくなってくる。だがそれでも、目の光は強いままだった。
「いいか……火紅……。冷静でいろ……。そして……熱くあれ」
「冷静で……熱く?」
相反することを言われ、フォコは戸惑う。
「お前さんが冷静でいりゃ……どんな策略や企みも……及ばねー……。
でも冷静でいるってのは……考えるコト……歩く足を止めるってコトだ……。
じっと足を止めたままじゃ……何にもできねーだろ……。
だから……冷静で……かつ……熱くいろ……。
それが……オレが……望むコトだ……」
クリオはフォコの肩をつかみ、残った力を振り絞った目を向けた。
「ともかくだ……火紅……その二つを……同時に……こなせるなら……お前に不可能は……無い」
「……分かりました。やって……みせます」
「……おう……」
ずるりと、クリオの手が落ちる。
「おやっさん?」
「……」
クリオは無言で、フォコの目を見つめている。
いや――その目はもう、どこも見ていなかった。
「おやっさん……? お、おやっさあああん……ッ!」
フォコの泣き叫ぶ声も、クリオの耳には既に届いていなかった。



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