「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第2部
火紅狐・砂嵐記 8
フォコの話、75話目。
永遠の戦争ゲーム。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
南海にとって双月暦304年は、昨年以上の激動の年となった。
レヴィア王国が再び、他国侵略に乗り出したのだ。
初めはどの国も、「海賊に成り下がった極貧国」と見なし、さして脅威と思っていなかった。だが、侵略された国々は、口を揃えてこう答えた。
「良く分からない方法で、遠くから総攻撃を受けた。魔術でもなく、ましてや弓矢でもない。とにかく良く分からないうちに、自軍は全滅してしまった」と。
「うふ、ふふ、ふふふ……」
ケネスから大量の火薬を調達したアイシャは有頂天になっていた。
この「魔法の粉」を手に入れ、侵略を開始して以降、どこのどんな国も、彼女の相手にならなかった。あのベール王国でさえも完全に制海権を握られてしまう始末であり、最早レヴィア王国にとって、敵は存在しないも同然だった。
「次はどこを攻めようぞ……、うふ、ふふふふ」
「陛下。お休みになられてはいかがですか?」
だが、大臣たちはしきりに休むよう諭す。
「いいや、もっと攻めねば! 旦那様に、もっと喜んでもらわね、……ば」
騒いでいたアイシャが、突然しゃがみ込んでしまった。
「……う、く」
「ほら、そのようなお体で興奮なさるから」
「……いいや」
アイシャは大臣の手を借り、ふらふらと立ち上がる。
「このような体だからこそ、じゃ。……この子も、喜んでおるはず。
父親の名誉、富につながることをしておるのじゃ。喜ばぬはずはない」
アイシャは膨らみ始めた腹をさすり、うっとりと微笑んだ。
「それはなかなかうらやま、……ゴホン、けしからん話だな。奥方がいる身と言うのに」
305年、ケネスとバーミー卿の会談。
「ま、思わぬ収穫と言うやつですな。富める者の特権とも言えますか。まあ、本妻も本妻で、それなりに大事に扱っていますから。
と……、それよりも」
ケネスは真面目な顔を作り、バーミー卿に計画を伝えた。
「南海での計画が成功し、現在レヴィア王国は着々と、領土を拡大しています。いずれは、中央政府への領土へも足を踏み入れるでしょうな」
「ふむ。それを口実にし、我が中央軍も戦闘態勢に入る。……そして、中央軍の武器供給もケネス、君がしてくれる、と」
「ええ。レヴィア王国と、同等のものをね」
「くっく……。そこが君の、賢しいところだな。
同等の武器で戦って、勝敗が決することはない。延々、延々と、戦い続けてもらう。その間、軍は中央政府の国庫を使い放題……」
「そして私は、金ヅルに困らないと言うわけですな。お互い、お得なお話なわけです」
二人は山吹色の未来に思いを馳せ、高笑いする。
「くく、くくく……、わはははははっ!」
「フフ、フハハ……、フハハハハハっ!」
と、ここでバーミー卿が真顔に戻る。
「そう言えば君……、レヴィア女王から、エール商会の債務を肩代わりしたそうじゃないか」
「ええ」
「それも何か、策略が?」
ケネスは肩をすくめ、こう答えた。
「ええ、まあ。またこれも、金を産む種ですな」
「債務だろう? 何故それが金に?」
「おや、ご存知ない?」
「何をだ?」
ケネスはニヤ、と笑みを浮かべる。
「今年の始め、エール翁が亡くなりましてな。今現在、商会は混乱しており、付け入る隙だらけなのですよ。そこで債務返済を起点として、エール商会の買収に乗り出そうかと」
「君ならそれも可能だろうな。……まったく、俺はいい『モノ』を拾ったものだ」
「喜んでいただけて何より」
ケネスはにっこりと笑って応え――心の中で、バーミー卿を罵った。
(フハハハ……! ずっとそうして、自分は高みの見物を決めているつもりでいるがいい!
アンタと私で世界を動かしているつもりだろうが、違う! 違うぞ! 私だけが、この世界を動かす絶対王者なのだ!
見るが良い! 南海は私の意のままに操れる! 中央大陸の経済も掌握している! そしてもう3年、4年も経てば、西方も私のものだ!
中央! 南海! 西方! そして後は北方を落とせば、……ほうら! 世界のすべては私のものだ! そして戦え! 争え! 争い続けろ!
未来永劫、私の、掌の上でっ……!)
ケネスはニコニコと笑いながら、グラスの中の酒をあおった。
火紅狐・砂嵐記 終
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永遠の戦争ゲーム。
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8.
南海にとって双月暦304年は、昨年以上の激動の年となった。
レヴィア王国が再び、他国侵略に乗り出したのだ。
初めはどの国も、「海賊に成り下がった極貧国」と見なし、さして脅威と思っていなかった。だが、侵略された国々は、口を揃えてこう答えた。
「良く分からない方法で、遠くから総攻撃を受けた。魔術でもなく、ましてや弓矢でもない。とにかく良く分からないうちに、自軍は全滅してしまった」と。
「うふ、ふふ、ふふふ……」
ケネスから大量の火薬を調達したアイシャは有頂天になっていた。
この「魔法の粉」を手に入れ、侵略を開始して以降、どこのどんな国も、彼女の相手にならなかった。あのベール王国でさえも完全に制海権を握られてしまう始末であり、最早レヴィア王国にとって、敵は存在しないも同然だった。
「次はどこを攻めようぞ……、うふ、ふふふふ」
「陛下。お休みになられてはいかがですか?」
だが、大臣たちはしきりに休むよう諭す。
「いいや、もっと攻めねば! 旦那様に、もっと喜んでもらわね、……ば」
騒いでいたアイシャが、突然しゃがみ込んでしまった。
「……う、く」
「ほら、そのようなお体で興奮なさるから」
「……いいや」
アイシャは大臣の手を借り、ふらふらと立ち上がる。
「このような体だからこそ、じゃ。……この子も、喜んでおるはず。
父親の名誉、富につながることをしておるのじゃ。喜ばぬはずはない」
アイシャは膨らみ始めた腹をさすり、うっとりと微笑んだ。
「それはなかなかうらやま、……ゴホン、けしからん話だな。奥方がいる身と言うのに」
305年、ケネスとバーミー卿の会談。
「ま、思わぬ収穫と言うやつですな。富める者の特権とも言えますか。まあ、本妻も本妻で、それなりに大事に扱っていますから。
と……、それよりも」
ケネスは真面目な顔を作り、バーミー卿に計画を伝えた。
「南海での計画が成功し、現在レヴィア王国は着々と、領土を拡大しています。いずれは、中央政府への領土へも足を踏み入れるでしょうな」
「ふむ。それを口実にし、我が中央軍も戦闘態勢に入る。……そして、中央軍の武器供給もケネス、君がしてくれる、と」
「ええ。レヴィア王国と、同等のものをね」
「くっく……。そこが君の、賢しいところだな。
同等の武器で戦って、勝敗が決することはない。延々、延々と、戦い続けてもらう。その間、軍は中央政府の国庫を使い放題……」
「そして私は、金ヅルに困らないと言うわけですな。お互い、お得なお話なわけです」
二人は山吹色の未来に思いを馳せ、高笑いする。
「くく、くくく……、わはははははっ!」
「フフ、フハハ……、フハハハハハっ!」
と、ここでバーミー卿が真顔に戻る。
「そう言えば君……、レヴィア女王から、エール商会の債務を肩代わりしたそうじゃないか」
「ええ」
「それも何か、策略が?」
ケネスは肩をすくめ、こう答えた。
「ええ、まあ。またこれも、金を産む種ですな」
「債務だろう? 何故それが金に?」
「おや、ご存知ない?」
「何をだ?」
ケネスはニヤ、と笑みを浮かべる。
「今年の始め、エール翁が亡くなりましてな。今現在、商会は混乱しており、付け入る隙だらけなのですよ。そこで債務返済を起点として、エール商会の買収に乗り出そうかと」
「君ならそれも可能だろうな。……まったく、俺はいい『モノ』を拾ったものだ」
「喜んでいただけて何より」
ケネスはにっこりと笑って応え――心の中で、バーミー卿を罵った。
(フハハハ……! ずっとそうして、自分は高みの見物を決めているつもりでいるがいい!
アンタと私で世界を動かしているつもりだろうが、違う! 違うぞ! 私だけが、この世界を動かす絶対王者なのだ!
見るが良い! 南海は私の意のままに操れる! 中央大陸の経済も掌握している! そしてもう3年、4年も経てば、西方も私のものだ!
中央! 南海! 西方! そして後は北方を落とせば、……ほうら! 世界のすべては私のものだ! そして戦え! 争え! 争い続けろ!
未来永劫、私の、掌の上でっ……!)
ケネスはニコニコと笑いながら、グラスの中の酒をあおった。
火紅狐・砂嵐記 終
第2部終了しました。
フォコ君がさらなる失敗、悲劇に打ちのめされたところで、
ここでとりあえずの幕。
第3部は11月14日からの予定です。
……ん?
11月?
もう11月ッ!?
……しまった、またブログ開設の記念日を思いっきり忘れてました(10月6日)。
うっかり2周年突破、3年目突入です。
……な、何かやりますか。うん。今さらになっちゃいますが。
フォコ君がさらなる失敗、悲劇に打ちのめされたところで、
ここでとりあえずの幕。
第3部は11月14日からの予定です。
……ん?
11月?
もう11月ッ!?
……しまった、またブログ開設の記念日を思いっきり忘れてました(10月6日)。
うっかり2周年突破、3年目突入です。
……な、何かやりますか。うん。今さらになっちゃいますが。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
世の中に「絶対」はなし。
残念ながら、そういう展開にはならず、ですね。
どっちにしても、悲恋ですが。
残念ながら、そういう展開にはならず、ですね。
どっちにしても、悲恋ですが。
NoTitle
第二部読了……。
ティナちゃんかわいそうであります。
絶対、嫉妬と復讐の鬼になってフォコくんを追うような気が。
「女難の相」が見えるのう(笑)
ティナちゃんかわいそうであります。
絶対、嫉妬と復讐の鬼になってフォコくんを追うような気が。
「女難の相」が見えるのう(笑)
NoTitle
お祝いの言葉、ありがとうございます。
LandMさんも1年継続、お疲れ様です。
お互い、これからも長く続けていけるよう頑張りましょう(*´∀`)b
また続き読まれた時は、感想お待ちしてますね。
LandMさんも1年継続、お疲れ様です。
お互い、これからも長く続けていけるよう頑張りましょう(*´∀`)b
また続き読まれた時は、感想お待ちしてますね。
3年目おめでとうございます!!
私はまだ1年ですからね。。。早いのか短いのか。
まあ、それなりに躍進をしてきた一年なのかなあ…と思いつつ、また次のステップを踏んでいこうと精進しております。
また続きは読ませていただきます。
なかなかゆとりができないですね。。。セイナ達を映像化できるように頑張っております。読む時間が。。。まあ、例ごとくマイペースで読んでまいります。
私はまだ1年ですからね。。。早いのか短いのか。
まあ、それなりに躍進をしてきた一年なのかなあ…と思いつつ、また次のステップを踏んでいこうと精進しております。
また続きは読ませていただきます。
なかなかゆとりができないですね。。。セイナ達を映像化できるように頑張っております。読む時間が。。。まあ、例ごとくマイペースで読んでまいります。
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NoTitle
露骨にしてしまうとR-18モノになってしまうので、あまり言及はできませんが。
もう4ヶ月も経てば4周年です。
今度は忘れないようにしないとw