「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・啓示記 2
フォコの話、77話目。
女神の降臨。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
フォコは意を決し、酒瓶の破片を喉に突き刺そうとした。
「……ッ」
目を閉じて寝転んだまま、両手に力を込める。
「……さよならや……」
ブツ、と自分のあごの下から音がした。
(……あ……苦しい……)
フォコは強い息苦しさを感じていた。
(まあ……そらそうやんな……喉突いたら苦しいよな……)
が――妙なことに気付く。
(……あれ? 僕、喉から破片、抜いたっけ?)
突いたと言うのに、喉の中には異物感が無い。感じる異物感は何故かその外から――手でつかまれたような圧迫感なのだ。
「……へ、っ?」
不思議に思ったフォコは、目を開けた。
《この、ボケが……ッ》
目の前には、フォコをものすごい形相でにらむ、金髪に赤いメッシュの入った、狐獣人の女がいた。
《何がさいならや、何が変わらん言うんや、おい、このドアホはあああ……ッ!》
「あ、あん、た、……ゲホッ、あんた、だ、誰や、ゴホッ」
女はギリギリと、フォコの喉を絞め上げている。
《アンタに尋ねる権利なんかある思てんのか、この酔っ払いが!》
「ぐえ、っ、く、くる、っし、い」
《苦しい? 苦しい言うたか? あ? どないやねんな!》
「い、うた、言うた、って、は、離して、っ」
あまりに強く絞めてくるので、フォコの頭は混乱していた。
「こ、ころ、殺さん、とい、てっ」
《はぁ? 殺すな? ついさっきまで死にたい死にたい言うとったアホが、何を抜かすか!?》
「し、死に、たくな、いっ」
思わず、フォコはそう言ってしまった。
《あぁ!? 死にたいんとちゃうんか!? 酒瓶で喉かっ切って、死のう思てたんとちゃうんかい!?》
「す、すみまっ、せん、でし、たっ」
《何がすまんねんや、コラ!?》
「死にたい、って、言って、すみません、でしたっ、ご、めんな、さ、いっ」
謝り倒すフォコに対して、女は依然喉を絞める手を緩めない。
《よし、よー言うた。ほんなら、これからアタシの言うコト、しっかり復誦しいや》
「へ?」
《繰り返せっちゅうてんねや! 分からんのんか、あ!?》
「へ、あ、はいっ」
女は喉をギリギリと絞め上げながら、こう告げた。
《卓に着く者は生ける者なり》
「た、卓に、着く者、は、……?」
言いかけて、フォコはこの一文をどこかで聞いた気がすると感じた。
《早よ誦めや!》
「たっ、卓に、着く者は、生ける、者なりっ」
《卓から離れる者は死せる者なり》
「卓から、離れる者は、死せる者なり」
《卓で挑み勝つ者は幸いなり》
「卓で挑み勝つ者は、幸いなり」
復誦しながら、フォコはこれをどこで聞いたのか考えていた。
《卓で挑み負けども汝離れること無かれ》
「卓で挑み負けども汝離れること無かれ」
《挑まず離れる時こそ死せる時》
「挑まず離れる時こそ死せる時」
そしてようやく、思い出す。
(あ……、これ……)
《離れず挑めばいずれ汝は幸いを得ん》
「離れず挑めばいずれ汝は幸いを得ん」
《もっかい》
「はい、卓に着く者は……」
(そうや、これは金火狐の玉文集――大始祖、エリザ・ゴールドマンが言うてたっちゅう言葉をまとめたもんの一つや。ちっちゃい頃、何度も復誦しとったなぁ……)
「……汝はいずれ幸いを得ん」
そこでようやく、金狐はフォコから手を離した。
《意味、言うてみい》
「はい。生きていると言うことは、何かに挑めると言うこと。挑んで勝利すれば幸せを得られる。
でも、負けてそのまま勝負から逃げれば、それはもう幸せが得られず、死んでいるのと同じこと。
だから勝負を諦めず、勝つまで挑み続けろ、……と言う意味ですよね」
《そうや。アンタには、金火狐の血が流れとるんやろ? 何で今、この言葉を思い出さん?》
「……すみませんでした。すっかり、忘れていました。毎日が、何て言うか、……その、本当にゴミみたいで……」
《そうしてしもたんはアンタや。ゴミみたいな毎日過ごさなあかん羽目になったんは、他の誰でも無い、アンタのせいやで?》
「でも挑めるものなんて、……何にも無いんですよ。じゃあぼんやり生活するしか無いって話で……」《ボケ》
金狐はフォコの頭をゴツンと殴り、まくし立てる。
《いとるやろが、あのふざけた短耳が。アタシらの財産がっつり食い荒らして、その上まだ足りひん、まだ足りひんって駄々こねとるゲスがおるやろが》
「あいつに、挑めと?」
《そうや。元々からアイツはアンタの親を殺しいの、師匠も殺しいのして、ことごとくアンタから幸せを奪ってきた極悪人や。
ソイツに挑まへんで、他に誰にケンカ売るっちゅうんや》
「……そりゃ、挑みたいですよ。勝ちたいですよ!」
フォコは涙を流しながら、金狐に怒鳴り返す。
「でもどうしろって言うんですか!? 僕にはもう、何も無い!
お金も無い! 職も無い! 家も、親しい友達も、愛する人も、何も無いんだ!
そんな僕に、あなたは何をしろと言うんですか!?」
《あのなぁ》
金狐はぎゅっと左拳を丸め、フォコを思い切りぶん殴った。
「ふぎゃっ!?」
《無い無い無い無いうるさいんじゃ! 無いんやったら作れ! ソレがアタシらの掟やろ!》
「つ、作れ、って」
《……はぁ。ほなな、いっこだけ助けたる。ソコから後は、自力で何とかせえ》
金狐は軽くため息をつき、殴り飛ばされたフォコを見下ろしていた。
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女神の降臨。
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2.
フォコは意を決し、酒瓶の破片を喉に突き刺そうとした。
「……ッ」
目を閉じて寝転んだまま、両手に力を込める。
「……さよならや……」
ブツ、と自分のあごの下から音がした。
(……あ……苦しい……)
フォコは強い息苦しさを感じていた。
(まあ……そらそうやんな……喉突いたら苦しいよな……)
が――妙なことに気付く。
(……あれ? 僕、喉から破片、抜いたっけ?)
突いたと言うのに、喉の中には異物感が無い。感じる異物感は何故かその外から――手でつかまれたような圧迫感なのだ。
「……へ、っ?」
不思議に思ったフォコは、目を開けた。
《この、ボケが……ッ》
目の前には、フォコをものすごい形相でにらむ、金髪に赤いメッシュの入った、狐獣人の女がいた。
《何がさいならや、何が変わらん言うんや、おい、このドアホはあああ……ッ!》
「あ、あん、た、……ゲホッ、あんた、だ、誰や、ゴホッ」
女はギリギリと、フォコの喉を絞め上げている。
《アンタに尋ねる権利なんかある思てんのか、この酔っ払いが!》
「ぐえ、っ、く、くる、っし、い」
《苦しい? 苦しい言うたか? あ? どないやねんな!》
「い、うた、言うた、って、は、離して、っ」
あまりに強く絞めてくるので、フォコの頭は混乱していた。
「こ、ころ、殺さん、とい、てっ」
《はぁ? 殺すな? ついさっきまで死にたい死にたい言うとったアホが、何を抜かすか!?》
「し、死に、たくな、いっ」
思わず、フォコはそう言ってしまった。
《あぁ!? 死にたいんとちゃうんか!? 酒瓶で喉かっ切って、死のう思てたんとちゃうんかい!?》
「す、すみまっ、せん、でし、たっ」
《何がすまんねんや、コラ!?》
「死にたい、って、言って、すみません、でしたっ、ご、めんな、さ、いっ」
謝り倒すフォコに対して、女は依然喉を絞める手を緩めない。
《よし、よー言うた。ほんなら、これからアタシの言うコト、しっかり復誦しいや》
「へ?」
《繰り返せっちゅうてんねや! 分からんのんか、あ!?》
「へ、あ、はいっ」
女は喉をギリギリと絞め上げながら、こう告げた。
《卓に着く者は生ける者なり》
「た、卓に、着く者、は、……?」
言いかけて、フォコはこの一文をどこかで聞いた気がすると感じた。
《早よ誦めや!》
「たっ、卓に、着く者は、生ける、者なりっ」
《卓から離れる者は死せる者なり》
「卓から、離れる者は、死せる者なり」
《卓で挑み勝つ者は幸いなり》
「卓で挑み勝つ者は、幸いなり」
復誦しながら、フォコはこれをどこで聞いたのか考えていた。
《卓で挑み負けども汝離れること無かれ》
「卓で挑み負けども汝離れること無かれ」
《挑まず離れる時こそ死せる時》
「挑まず離れる時こそ死せる時」
そしてようやく、思い出す。
(あ……、これ……)
《離れず挑めばいずれ汝は幸いを得ん》
「離れず挑めばいずれ汝は幸いを得ん」
《もっかい》
「はい、卓に着く者は……」
(そうや、これは金火狐の玉文集――大始祖、エリザ・ゴールドマンが言うてたっちゅう言葉をまとめたもんの一つや。ちっちゃい頃、何度も復誦しとったなぁ……)
「……汝はいずれ幸いを得ん」
そこでようやく、金狐はフォコから手を離した。
《意味、言うてみい》
「はい。生きていると言うことは、何かに挑めると言うこと。挑んで勝利すれば幸せを得られる。
でも、負けてそのまま勝負から逃げれば、それはもう幸せが得られず、死んでいるのと同じこと。
だから勝負を諦めず、勝つまで挑み続けろ、……と言う意味ですよね」
《そうや。アンタには、金火狐の血が流れとるんやろ? 何で今、この言葉を思い出さん?》
「……すみませんでした。すっかり、忘れていました。毎日が、何て言うか、……その、本当にゴミみたいで……」
《そうしてしもたんはアンタや。ゴミみたいな毎日過ごさなあかん羽目になったんは、他の誰でも無い、アンタのせいやで?》
「でも挑めるものなんて、……何にも無いんですよ。じゃあぼんやり生活するしか無いって話で……」《ボケ》
金狐はフォコの頭をゴツンと殴り、まくし立てる。
《いとるやろが、あのふざけた短耳が。アタシらの財産がっつり食い荒らして、その上まだ足りひん、まだ足りひんって駄々こねとるゲスがおるやろが》
「あいつに、挑めと?」
《そうや。元々からアイツはアンタの親を殺しいの、師匠も殺しいのして、ことごとくアンタから幸せを奪ってきた極悪人や。
ソイツに挑まへんで、他に誰にケンカ売るっちゅうんや》
「……そりゃ、挑みたいですよ。勝ちたいですよ!」
フォコは涙を流しながら、金狐に怒鳴り返す。
「でもどうしろって言うんですか!? 僕にはもう、何も無い!
お金も無い! 職も無い! 家も、親しい友達も、愛する人も、何も無いんだ!
そんな僕に、あなたは何をしろと言うんですか!?」
《あのなぁ》
金狐はぎゅっと左拳を丸め、フォコを思い切りぶん殴った。
「ふぎゃっ!?」
《無い無い無い無いうるさいんじゃ! 無いんやったら作れ! ソレがアタシらの掟やろ!》
「つ、作れ、って」
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~ Comment ~
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フォコが随分と様相が変わってますね。。。
何があったのか。
酒におぼれるのも悪くはないですが、夢まで捨てたらキツイですよね。
何があったのか。
酒におぼれるのも悪くはないですが、夢まで捨てたらキツイですよね。
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