「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・啓示記 3
フォコの話、78話目。
伏龍、目覚める。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
金狐は仰向けに倒れたフォコの側に座り込み、こう告げた。
《この街に、男の二人組が来とる。
一人は全身真っ黒で目ぇめっちゃ細い、背ぇ高いヤツ。もう一人は金髪の長耳で、いかにも頭良さそーにしとる眼鏡のヤツや。
こいつら、困っとるんや。港からさっさと出たいんやけど、金が無いねん。ソレ、助けたり》
「た、助けろって言うても、僕もお金無いんですけど」
《聞いたから知っとるわ。せやから、ソコは自力で何とかせえ》
「えー……」
困った声を出したフォコを、金狐はにらみつける。
《ちょっとはシャッキリせえや、アンタ。アタシの弟の名前付いとるクセに、……あー》
「……?」
金狐はそこでようやく、表情を崩した。
《そう言えば弟も大分ヘタレやったわ。こら、遺伝かなぁ……。
ま、とにかく気張りいや。うまく行けば、明日から路上で寝転ばんで済むんやし》
目を覚ますと、フォコは路上で大の字になっていた。
「……くしゅっ」
くしゃみで無意識に上半身を起こしながら、フォコは自分の喉元を確かめた。
「……? 切れてへんな」
切れてはいないが、妙な違和感がある。フォコは立ち上がり、表通りに出て鏡を探す。
「あ、あの窓でええかな。……うわ!?」
窓に自分の姿を映したフォコは驚いた。
喉にはくっきりと、両手で絞められた跡が残っていたからだ。
「あ、あれ……、夢や、無かったんか?
ぼ、僕は……。僕はなんてお方と、話をしてたんや……!」
フォコは喉を押さえ、戦慄した。
(……ふ、二人組、やったっけ。探さな……!
折角『あの方』が、こんなクズ同然の奴に啓示をくださったんや。活用せえへんで、どないするんや!?)
フォコは思考を切り替え、井戸を探す。
(まずシャッキリせな! こんな酒臭い顔、しとったらあかん!)
井戸を見つけ、顔と髪をバシャバシャと激しく洗う。
「……うわ」
地面に滴り落ちた水滴は、赤黒く染まっている。
(最後に顔洗ったんて、そう言えば……、半年? 一年前? ……ものすごい昔やな。
……うーん、落ちひん)
頭と上着を一通り洗い終えたものの、フォコの喉にはくっきりと、手の形をした痣が残っている。
(洗っても無駄やろな。……しゃあない)
とりあえず耳の出るフードを被り、喉元を隠す。
「……さー、心機一転や。……探そか」
フォコはプルプルと頭を振り、井戸を後にした。
すっきりした頭で街中を歩きながら、フォコは頭の中を整理していた。
(そうや、この2年、3年、ぼんやり過ごしとったから、……そもそも、あれから3年も経ってしもとるんやな。
僕は20歳の、ニコル・フォコ・ゴールドマン。……やけどまだ、名乗れへん。まだ僕は火紅や。ホコウ・ソレイユのまま。
今いてるんは、央北の港町。ノースポートっちゅうところや。あっちこっち適当にうろついとった。
そや……、あいつと、ケネスと勝負なんかでけへんと諦めて、離れよう離れようとしとったんや。
央北の中心地、クロスセントラルの周りの、端っこの街をグルグル回って、できる限りケネス関係と会わへんようにしとった。
……そら『あの方』も怒って首絞めてくるっちゅう話や。ホンマ、僕はヘタレやったなぁ)
フォコは自分の不甲斐なさに、久々に諦観ではなく、憤りを感じていた。
(ホンマに、何から何まで『あの方』の言う通りや。
僕はもっと、あいつに対して敵意と執念を持ってなあかんのや。そうや無かったら、今まであいつのせいで死んでしもた皆が、あんまりにも可哀想過ぎるやろ?
みんなの遺志を、僕が、僕一人が、一手に引き受けとるようなもんなんやし。それも忘れて、逃げて逃げて……。
どんだけ情けないんや、この大バカ……っ!)
と、嘆いていたところへ――裏通りへの曲がり角の向こうから、こんな話し声が聞こえてきた。
「すごいね、君。そんなこともできるのかい?」
「む、……まあ、まだこの術は不完全だ。精々、30分が限界と言うところか」
「そうなの? ……残念だな、折角の黄金なのに」
黄金と聞いて、フォコの狐耳がぴょこりと動く。
(金?)
そっと裏通りを覗いて見て、フォコは目を丸くした。
(こ、この二人!?)
そこにいたのは黒いコートを着込んだ長身の男と、金髪のエルフだった。
「じゃあ、他の方法を考えないといけないね。何とかしてお金を調達しなきゃ、いつ追っ手が来るか」
「まあ、来ても返り討ちだが、な」
「平和的に対応をお願いしたいんだけどなぁ」
「そうしても俺は構わないが、お前は困るだろう?」
「まあ、そうなんだけどさ」
どうやら、エルフの方は追われている身らしい。コソコソと、黒い男の掌に視線を留め、何かを相談している。
「……!」
黒い男の掌に乗っている物を見て、フォコはもう一度驚いた。
「金!?」
思わず、フォコは声を漏らしてしまう。
「……っ」
エルフの方は怯えた目を向けてきた。
「ひゃ……」
と、フォコの方も怯えさせられる。
黒い方が、刀身の真っ黒な刀を向けてきたからだ。
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伏龍、目覚める。
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3.
金狐は仰向けに倒れたフォコの側に座り込み、こう告げた。
《この街に、男の二人組が来とる。
一人は全身真っ黒で目ぇめっちゃ細い、背ぇ高いヤツ。もう一人は金髪の長耳で、いかにも頭良さそーにしとる眼鏡のヤツや。
こいつら、困っとるんや。港からさっさと出たいんやけど、金が無いねん。ソレ、助けたり》
「た、助けろって言うても、僕もお金無いんですけど」
《聞いたから知っとるわ。せやから、ソコは自力で何とかせえ》
「えー……」
困った声を出したフォコを、金狐はにらみつける。
《ちょっとはシャッキリせえや、アンタ。アタシの弟の名前付いとるクセに、……あー》
「……?」
金狐はそこでようやく、表情を崩した。
《そう言えば弟も大分ヘタレやったわ。こら、遺伝かなぁ……。
ま、とにかく気張りいや。うまく行けば、明日から路上で寝転ばんで済むんやし》
目を覚ますと、フォコは路上で大の字になっていた。
「……くしゅっ」
くしゃみで無意識に上半身を起こしながら、フォコは自分の喉元を確かめた。
「……? 切れてへんな」
切れてはいないが、妙な違和感がある。フォコは立ち上がり、表通りに出て鏡を探す。
「あ、あの窓でええかな。……うわ!?」
窓に自分の姿を映したフォコは驚いた。
喉にはくっきりと、両手で絞められた跡が残っていたからだ。
「あ、あれ……、夢や、無かったんか?
ぼ、僕は……。僕はなんてお方と、話をしてたんや……!」
フォコは喉を押さえ、戦慄した。
(……ふ、二人組、やったっけ。探さな……!
折角『あの方』が、こんなクズ同然の奴に啓示をくださったんや。活用せえへんで、どないするんや!?)
フォコは思考を切り替え、井戸を探す。
(まずシャッキリせな! こんな酒臭い顔、しとったらあかん!)
井戸を見つけ、顔と髪をバシャバシャと激しく洗う。
「……うわ」
地面に滴り落ちた水滴は、赤黒く染まっている。
(最後に顔洗ったんて、そう言えば……、半年? 一年前? ……ものすごい昔やな。
……うーん、落ちひん)
頭と上着を一通り洗い終えたものの、フォコの喉にはくっきりと、手の形をした痣が残っている。
(洗っても無駄やろな。……しゃあない)
とりあえず耳の出るフードを被り、喉元を隠す。
「……さー、心機一転や。……探そか」
フォコはプルプルと頭を振り、井戸を後にした。
すっきりした頭で街中を歩きながら、フォコは頭の中を整理していた。
(そうや、この2年、3年、ぼんやり過ごしとったから、……そもそも、あれから3年も経ってしもとるんやな。
僕は20歳の、ニコル・フォコ・ゴールドマン。……やけどまだ、名乗れへん。まだ僕は火紅や。ホコウ・ソレイユのまま。
今いてるんは、央北の港町。ノースポートっちゅうところや。あっちこっち適当にうろついとった。
そや……、あいつと、ケネスと勝負なんかでけへんと諦めて、離れよう離れようとしとったんや。
央北の中心地、クロスセントラルの周りの、端っこの街をグルグル回って、できる限りケネス関係と会わへんようにしとった。
……そら『あの方』も怒って首絞めてくるっちゅう話や。ホンマ、僕はヘタレやったなぁ)
フォコは自分の不甲斐なさに、久々に諦観ではなく、憤りを感じていた。
(ホンマに、何から何まで『あの方』の言う通りや。
僕はもっと、あいつに対して敵意と執念を持ってなあかんのや。そうや無かったら、今まであいつのせいで死んでしもた皆が、あんまりにも可哀想過ぎるやろ?
みんなの遺志を、僕が、僕一人が、一手に引き受けとるようなもんなんやし。それも忘れて、逃げて逃げて……。
どんだけ情けないんや、この大バカ……っ!)
と、嘆いていたところへ――裏通りへの曲がり角の向こうから、こんな話し声が聞こえてきた。
「すごいね、君。そんなこともできるのかい?」
「む、……まあ、まだこの術は不完全だ。精々、30分が限界と言うところか」
「そうなの? ……残念だな、折角の黄金なのに」
黄金と聞いて、フォコの狐耳がぴょこりと動く。
(金?)
そっと裏通りを覗いて見て、フォコは目を丸くした。
(こ、この二人!?)
そこにいたのは黒いコートを着込んだ長身の男と、金髪のエルフだった。
「じゃあ、他の方法を考えないといけないね。何とかしてお金を調達しなきゃ、いつ追っ手が来るか」
「まあ、来ても返り討ちだが、な」
「平和的に対応をお願いしたいんだけどなぁ」
「そうしても俺は構わないが、お前は困るだろう?」
「まあ、そうなんだけどさ」
どうやら、エルフの方は追われている身らしい。コソコソと、黒い男の掌に視線を留め、何かを相談している。
「……!」
黒い男の掌に乗っている物を見て、フォコはもう一度驚いた。
「金!?」
思わず、フォコは声を漏らしてしまう。
「……っ」
エルフの方は怯えた目を向けてきた。
「ひゃ……」
と、フォコの方も怯えさせられる。
黒い方が、刀身の真っ黒な刀を向けてきたからだ。
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やっぱり行動を復活させるには日々の洗顔だったり、身体を洗うことは大切ですよね。私も行動を一新させたいときとかシャワーを浴びますからねえ。
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