「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・啓示記 4
フォコの話、79話目。
二人の男と寸借詐欺。
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4.
「何者だ?」
黒い男は刀――央南風の、長細い刀身がわずかに反り返った片刃の武器だ――をフォコの鼻先に向け、尋ねてくる。
「あ、いえ、その、……声が聞こえたので」
「……ふむ。兵士や官吏の類では無さそうだ」
フォコの垢じみた身なりを見て、男は刀を下げた。そこで、フォコは尋ね返してみる。
「あの、今あなたが持ってたのって、金ですよね」
「……そうだ。だがもう既に……」
男は地面の砂を蹴ってみせる。
「あれ?」
「元の状態に戻ってしまっている。この術の効果は、30分と持たない」
「……え、それって」
フォコは目を丸くし、もう一度黒い男に尋ねた。
「錬金術ってやつじゃないですか!?」
「まあ、そうなるな」
「そうなるどころか、そのものド真ん中じゃないですか! 黄金を造れるなんて……!」
「……厳密には、造れていない。30分しかその光を留めておけん金など、金とは呼べん」
男は憮然とした顔になり、フォコをうざったそうに眺める。
「説明は終わりだ。消えろ」
「え、……いや、その」
だがそう言われても、フォコには従えない理由がある。
「何だ? 30分で土に還る金が、欲しいとでも言うのか?」
「いや、まあ、金は欲しいのは欲しいですけど、でも、30分じゃ……」「消えろ」
男はフォコの喉元に、す、と刀の切っ先を当てる。
「ちょ、ちょっとタイカ」
と、エルフの方が止めに入った。
「何だ?」
「揉め事はよそう。ここで彼に叫ばれでもしたら、面倒なことになる」
「……それもそうか」
タイカと呼ばれた男は、ひょいと黒い刀を下げた。
「見逃してやる。さっさと消えろ」
「……」
フォコはフードの下でボタボタと冷や汗をかきながら、二人のことを観察していた。
(『タイカ』? 央北の名前や無さそうやな。刀持っとるし、おやっさんの故郷と同じ、央南辺りの人やろか。
こっちのエルフさんは……、どー見ても央中北部か、央北あたりの顔やな。この街の人や無さそうやし、旅人にしては、装備が少なすぎる。
言うてることからして、どこかから逃げてきはったんかな……?)
観察するに従って、フォコの頭も落ち着いてくる。
(……にしても、練金術かぁ。この黒い短耳――かどうか分からへんなぁ。髪の毛とコートで隠れとるし――魔術師なんかな。
僕も詳しくは知らへんけど、金って誰も造ったこと無いんやろ? たった30分でも、それが造れるって……、ものすごいことなんちゃうん?
えーなぁ……。そんなんできるんやったら、僕なら――あ)
フォコはここで、あるアイデアを閃いた。
と、タイカがうざったそうにフォコをにらんでいる。
「お前の耳はハリボテか?」
「へ?」
「何度俺は、お前に『消えろ』と言った? いい加減、どこかへ行け」
「あ、えーと……」
フォコは気圧されつつも、思い切って話を切り出してみた。
「あの、良ければなんですけど」
「何だ?」
「もっかい、さっきの砂金作ってみてもらっても、いいですか?」
「……?」
タイカはけげんな表情をする。
「何故だ?」
「ちょっと考えがありまして」
タイカから砂金一袋分をもらったフォコは、街を走り回って人を探した。
(なるべくがめつそうな奴……、金汚そうな奴は、と……。
お、あいつなんか良さそうやな)
フォコはいかにも意地の汚そうな旅人を見つけ、声をかけた。
「す、すみません!」
「あ?」
旅人はうるさそうに返事をしてくる。
「何だ? 俺に用か?」
「お金を貸していただけませんか!?」
「は? なんで?」
当然、旅人は馬鹿にしたような顔をする。
「実は、早急にお金を作らなくてはならないんです! でも当てがなくて……」
「知るか」
背を向けようとする旅人に、フォコは砂金を見せる。
「勿論ただとは言いません! 我が家の家宝にしている砂金を、担保にしますから!」
「……砂金?」
フォコの狙い通り、旅人は目の色を変える。
「お願いします! どうか少しだけでも……!」
「……お、おう。まあ、人助けになるんなら、うん。で、いくらほしいんだ?」
「はい! 5000クラムあれば、何とか……」
「5000でいいの?」
「えっ」
「えっ」
旅人はしまったと言う顔をしつつも、コホンと咳をして取り繕う。
「あ、いや。じゃあ、5000ね。はい」
旅人はフォコの要求通り、5000クラムを渡してくれた。
「ありがとうございます! あの、すぐ戻ってきますから、どうかお待ちになっていてください! あ、こちら担保の砂金です。じゃ、ありがとうございました! すぐ戻りますから!」
そう言って、フォコはそそくさとその場を立ち去った。
フォコは曲がり角に入ったところで、そっと旅人の様子を眺めた。
「……ま、そらそうするやろな」
旅人はフォコの狙い通り、意地汚そうな笑みを浮かべ、そのままどこかに走り去っていった。
フォコは受け取った金を数え、ぽつりとこうつぶやいた。
「……さてと。次は誰に声、かけよかな」
この日、ノースポートの質屋に、ただの砂が入った袋を「砂金だ」と偽り持って来た旅人が、8名現れた。
当然、質屋は怒り、全員を追い返したそうだ。
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二人の男と寸借詐欺。
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「何者だ?」
黒い男は刀――央南風の、長細い刀身がわずかに反り返った片刃の武器だ――をフォコの鼻先に向け、尋ねてくる。
「あ、いえ、その、……声が聞こえたので」
「……ふむ。兵士や官吏の類では無さそうだ」
フォコの垢じみた身なりを見て、男は刀を下げた。そこで、フォコは尋ね返してみる。
「あの、今あなたが持ってたのって、金ですよね」
「……そうだ。だがもう既に……」
男は地面の砂を蹴ってみせる。
「あれ?」
「元の状態に戻ってしまっている。この術の効果は、30分と持たない」
「……え、それって」
フォコは目を丸くし、もう一度黒い男に尋ねた。
「錬金術ってやつじゃないですか!?」
「まあ、そうなるな」
「そうなるどころか、そのものド真ん中じゃないですか! 黄金を造れるなんて……!」
「……厳密には、造れていない。30分しかその光を留めておけん金など、金とは呼べん」
男は憮然とした顔になり、フォコをうざったそうに眺める。
「説明は終わりだ。消えろ」
「え、……いや、その」
だがそう言われても、フォコには従えない理由がある。
「何だ? 30分で土に還る金が、欲しいとでも言うのか?」
「いや、まあ、金は欲しいのは欲しいですけど、でも、30分じゃ……」「消えろ」
男はフォコの喉元に、す、と刀の切っ先を当てる。
「ちょ、ちょっとタイカ」
と、エルフの方が止めに入った。
「何だ?」
「揉め事はよそう。ここで彼に叫ばれでもしたら、面倒なことになる」
「……それもそうか」
タイカと呼ばれた男は、ひょいと黒い刀を下げた。
「見逃してやる。さっさと消えろ」
「……」
フォコはフードの下でボタボタと冷や汗をかきながら、二人のことを観察していた。
(『タイカ』? 央北の名前や無さそうやな。刀持っとるし、おやっさんの故郷と同じ、央南辺りの人やろか。
こっちのエルフさんは……、どー見ても央中北部か、央北あたりの顔やな。この街の人や無さそうやし、旅人にしては、装備が少なすぎる。
言うてることからして、どこかから逃げてきはったんかな……?)
観察するに従って、フォコの頭も落ち着いてくる。
(……にしても、練金術かぁ。この黒い短耳――かどうか分からへんなぁ。髪の毛とコートで隠れとるし――魔術師なんかな。
僕も詳しくは知らへんけど、金って誰も造ったこと無いんやろ? たった30分でも、それが造れるって……、ものすごいことなんちゃうん?
えーなぁ……。そんなんできるんやったら、僕なら――あ)
フォコはここで、あるアイデアを閃いた。
と、タイカがうざったそうにフォコをにらんでいる。
「お前の耳はハリボテか?」
「へ?」
「何度俺は、お前に『消えろ』と言った? いい加減、どこかへ行け」
「あ、えーと……」
フォコは気圧されつつも、思い切って話を切り出してみた。
「あの、良ければなんですけど」
「何だ?」
「もっかい、さっきの砂金作ってみてもらっても、いいですか?」
「……?」
タイカはけげんな表情をする。
「何故だ?」
「ちょっと考えがありまして」
タイカから砂金一袋分をもらったフォコは、街を走り回って人を探した。
(なるべくがめつそうな奴……、金汚そうな奴は、と……。
お、あいつなんか良さそうやな)
フォコはいかにも意地の汚そうな旅人を見つけ、声をかけた。
「す、すみません!」
「あ?」
旅人はうるさそうに返事をしてくる。
「何だ? 俺に用か?」
「お金を貸していただけませんか!?」
「は? なんで?」
当然、旅人は馬鹿にしたような顔をする。
「実は、早急にお金を作らなくてはならないんです! でも当てがなくて……」
「知るか」
背を向けようとする旅人に、フォコは砂金を見せる。
「勿論ただとは言いません! 我が家の家宝にしている砂金を、担保にしますから!」
「……砂金?」
フォコの狙い通り、旅人は目の色を変える。
「お願いします! どうか少しだけでも……!」
「……お、おう。まあ、人助けになるんなら、うん。で、いくらほしいんだ?」
「はい! 5000クラムあれば、何とか……」
「5000でいいの?」
「えっ」
「えっ」
旅人はしまったと言う顔をしつつも、コホンと咳をして取り繕う。
「あ、いや。じゃあ、5000ね。はい」
旅人はフォコの要求通り、5000クラムを渡してくれた。
「ありがとうございます! あの、すぐ戻ってきますから、どうかお待ちになっていてください! あ、こちら担保の砂金です。じゃ、ありがとうございました! すぐ戻りますから!」
そう言って、フォコはそそくさとその場を立ち去った。
フォコは曲がり角に入ったところで、そっと旅人の様子を眺めた。
「……ま、そらそうするやろな」
旅人はフォコの狙い通り、意地汚そうな笑みを浮かべ、そのままどこかに走り去っていった。
フォコは受け取った金を数え、ぽつりとこうつぶやいた。
「……さてと。次は誰に声、かけよかな」
この日、ノースポートの質屋に、ただの砂が入った袋を「砂金だ」と偽り持って来た旅人が、8名現れた。
当然、質屋は怒り、全員を追い返したそうだ。
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錬金術であることも、仮初のものであることも明記しているんですが……。