「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・啓示記 5
フォコの話、80話目。
ノースポート出港。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「締めて4万2千クラム弱、か。……やるな」
フォコが持って来た金を見て、初めは邪険にしていたタイカも、見直してくれたらしい。
「いえ、あなたのおかげです。……あの、ところで」
フォコは二人に、素性を尋ねてみた。
「お二人とも、早くこの港から逃げたがっているご様子でしたけど、何かあったんですか?」
「え、っと……、まあ、色々と、ね」
エルフの方は、言葉を濁して逃れようとする。
「お前には関係の無いことだ」
タイカも、まともに答えてくれそうに無い。そこでフォコは、カマをかけてみることにした。
「まあ、いいんですけどね。……大声、出しても」
さっと、エルフの顔色が変わる。
「ちょ、ちょっと」
「いや、出す気は無いんですけどね、まだ。ああ、でもさっき」
フォコは懐から、寒さしのぎに抱えていた紙を取り出す。
「さっきこれ拾った時は、流石に驚いちゃいました。思わず大声出しちゃいそうになりましたよ」
「……それは?」
タイカがにらんでくるが、フォコは怯まずに演技を押し通す。
「いや、お二人のお顔が描かれてるだけなんですけどね、これ。何かその下に、賞金とか書いてますけど、人違いですよね」
「……!」
「あ、言いませんよ、何にも。ええ、言いませんとも。中央軍の詰所に行ったりなんかしませんし、安心してください」
「……何が望みだ?」
ようやく、タイカが譲歩してくれた。
「いや、まあ……。お二人とも、ノースポートを発つ予定ですよね? 僕も、一緒に付いて行っていいですか?」
「え?」
この頼みは予想外だったらしく、エルフは目を丸くする。タイカの方も、細い目をわずかに見開いていた。
「そんなのでいいの? ……いや、それで済むんならいいんだけど」
「ありがとうございます。
あ、僕は、火紅・ソレイユって言います。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、挨拶したフォコに、タイカが応じる。
「ふむ。俺は克大火だ。大火と呼べ」
大火に続いて、エルフの方も挨拶を返そうとした。
「僕は、……と、知ってるんだよね、手配書見たんなら」
「あー、と」
街を発つ前に明かすわけにも行かず、フォコはしれっとごまかした。
「ええ、勿論。さ、早く港に行きましょう。早いとこ出ちゃいましょう、街」
「それもそうだね。いつまでも雑談しているわけにも行かないし」
三人は足早に、ノースポートの港に向かった。
追われているのは確からしく、大火たちは安価で安全な官業船ではなく、高価な割に設備や対応の悪い民間船を選んだ。
「うへ、一人5000クラムですかぁ」
「高いけど、登録は適当だからね。聞いた話じゃこの船を管理してる商会、経営破綻しかかってるんだとか。末端の管理は無茶苦茶らしい」
そう聞いて、フォコは船体に描かれている商会のマークを見る。
(えーと、虹と太陽、それに雲に乗る兎。これ、エール商会のんやったっけ。どこかで聞いたけど、前経営者が死んだ後、……『あいつ』が半分以上乗っ取ったらしいな。
昔は西方を代表する大商会やったらしいのにな……)
一抹の寂しさとケネスに対する嫌悪感を覚えつつ、フォコは船に乗った。
船が港を離れたところで、フォコは白状した。
「……あの、すみません」
「うん?」
「実はこれ、ただのチラシでした」
「え?」
フォコは先程手配書に見せた紙をエルフに見せ、頭を下げる。
「じゃあ、さっきのって」
「全部嘘です。どうしても、お二人に付いて行きたくて」
「……何で?」
けげんな顔をするエルフに、フォコはまたごまかした。
「えっと、何て言えばいいのかな、……まあ、その、旅、ですかね。お二人に付いて行けば、楽しそうかなって」
「楽しくないと思うよ」
フォコの答えに、エルフは表情を暗くした。
「これから僕たちがやることは、下手すると大量虐殺だから」
「えっ?」
「今からでも戻ったほうが良い。ホープ島で停泊したら、すぐ帰ってくれ」
「いや、その」
「関係ない人を巻き込みたくないんだ、あんまり。
そりゃ、お金を工面してくれたことには感謝するよ。でも僕とタイカの旅には、そんな面白おかしいような要素は全く無い。場合によっては、命の危険もある。
だから……」「でもですね」
フォコも金狐からの啓示を守ろうと、食い下がる。
「その工面したお金、使いましたよね? 連れて行ってくれないなら、返してくださいよ」
「1万を?」
「それだけじゃなく、4万2千……、ああ、僕の使った額を差し引いて、3万7千クラム全額。あなたにお渡ししてますよね」
「まあ、そうだけど」
「連れてって下さいよ」
「だから、そんな軽い気持ちで付いて来られても……」「お願いします!」
フォコはがばっとしゃがみ、土下座した。
「え、ちょっ?」
「嘘ばかりで済みません! でも一緒に行きたいんです!」
「……ランド」
と、成り行きを見ていた大火が口を開いた。
「事情は分からないが、どうしても付いて行きたいらしい。ここまでされて、断る理由もあるまい?」
「……まあ、そうだけど。……じゃあ、分かったよ。一緒に行こう」
「ありがとうございます!」
もう一度頭を下げたフォコに対し、エルフもしゃがみ込む。
「もういいから、そんなにペコペコしなくて。……頼むよ、目立ちたくないんだってば」
「あ、すみません」
フォコはひょいと顔を上げ、そそくさと立ち上がった。
「えっと……、そんなわけでお名前、知らないんです。
教えていただいてもいいですか?」
「ああ、うん」
エルフは憮然とした顔をしながら――こう名乗った。
「僕は元、中央政府政務大臣。ランド・ファスタだ」
火紅狐・啓示録 終
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ノースポート出港。
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「締めて4万2千クラム弱、か。……やるな」
フォコが持って来た金を見て、初めは邪険にしていたタイカも、見直してくれたらしい。
「いえ、あなたのおかげです。……あの、ところで」
フォコは二人に、素性を尋ねてみた。
「お二人とも、早くこの港から逃げたがっているご様子でしたけど、何かあったんですか?」
「え、っと……、まあ、色々と、ね」
エルフの方は、言葉を濁して逃れようとする。
「お前には関係の無いことだ」
タイカも、まともに答えてくれそうに無い。そこでフォコは、カマをかけてみることにした。
「まあ、いいんですけどね。……大声、出しても」
さっと、エルフの顔色が変わる。
「ちょ、ちょっと」
「いや、出す気は無いんですけどね、まだ。ああ、でもさっき」
フォコは懐から、寒さしのぎに抱えていた紙を取り出す。
「さっきこれ拾った時は、流石に驚いちゃいました。思わず大声出しちゃいそうになりましたよ」
「……それは?」
タイカがにらんでくるが、フォコは怯まずに演技を押し通す。
「いや、お二人のお顔が描かれてるだけなんですけどね、これ。何かその下に、賞金とか書いてますけど、人違いですよね」
「……!」
「あ、言いませんよ、何にも。ええ、言いませんとも。中央軍の詰所に行ったりなんかしませんし、安心してください」
「……何が望みだ?」
ようやく、タイカが譲歩してくれた。
「いや、まあ……。お二人とも、ノースポートを発つ予定ですよね? 僕も、一緒に付いて行っていいですか?」
「え?」
この頼みは予想外だったらしく、エルフは目を丸くする。タイカの方も、細い目をわずかに見開いていた。
「そんなのでいいの? ……いや、それで済むんならいいんだけど」
「ありがとうございます。
あ、僕は、火紅・ソレイユって言います。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、挨拶したフォコに、タイカが応じる。
「ふむ。俺は克大火だ。大火と呼べ」
大火に続いて、エルフの方も挨拶を返そうとした。
「僕は、……と、知ってるんだよね、手配書見たんなら」
「あー、と」
街を発つ前に明かすわけにも行かず、フォコはしれっとごまかした。
「ええ、勿論。さ、早く港に行きましょう。早いとこ出ちゃいましょう、街」
「それもそうだね。いつまでも雑談しているわけにも行かないし」
三人は足早に、ノースポートの港に向かった。
追われているのは確からしく、大火たちは安価で安全な官業船ではなく、高価な割に設備や対応の悪い民間船を選んだ。
「うへ、一人5000クラムですかぁ」
「高いけど、登録は適当だからね。聞いた話じゃこの船を管理してる商会、経営破綻しかかってるんだとか。末端の管理は無茶苦茶らしい」
そう聞いて、フォコは船体に描かれている商会のマークを見る。
(えーと、虹と太陽、それに雲に乗る兎。これ、エール商会のんやったっけ。どこかで聞いたけど、前経営者が死んだ後、……『あいつ』が半分以上乗っ取ったらしいな。
昔は西方を代表する大商会やったらしいのにな……)
一抹の寂しさとケネスに対する嫌悪感を覚えつつ、フォコは船に乗った。
船が港を離れたところで、フォコは白状した。
「……あの、すみません」
「うん?」
「実はこれ、ただのチラシでした」
「え?」
フォコは先程手配書に見せた紙をエルフに見せ、頭を下げる。
「じゃあ、さっきのって」
「全部嘘です。どうしても、お二人に付いて行きたくて」
「……何で?」
けげんな顔をするエルフに、フォコはまたごまかした。
「えっと、何て言えばいいのかな、……まあ、その、旅、ですかね。お二人に付いて行けば、楽しそうかなって」
「楽しくないと思うよ」
フォコの答えに、エルフは表情を暗くした。
「これから僕たちがやることは、下手すると大量虐殺だから」
「えっ?」
「今からでも戻ったほうが良い。ホープ島で停泊したら、すぐ帰ってくれ」
「いや、その」
「関係ない人を巻き込みたくないんだ、あんまり。
そりゃ、お金を工面してくれたことには感謝するよ。でも僕とタイカの旅には、そんな面白おかしいような要素は全く無い。場合によっては、命の危険もある。
だから……」「でもですね」
フォコも金狐からの啓示を守ろうと、食い下がる。
「その工面したお金、使いましたよね? 連れて行ってくれないなら、返してくださいよ」
「1万を?」
「それだけじゃなく、4万2千……、ああ、僕の使った額を差し引いて、3万7千クラム全額。あなたにお渡ししてますよね」
「まあ、そうだけど」
「連れてって下さいよ」
「だから、そんな軽い気持ちで付いて来られても……」「お願いします!」
フォコはがばっとしゃがみ、土下座した。
「え、ちょっ?」
「嘘ばかりで済みません! でも一緒に行きたいんです!」
「……ランド」
と、成り行きを見ていた大火が口を開いた。
「事情は分からないが、どうしても付いて行きたいらしい。ここまでされて、断る理由もあるまい?」
「……まあ、そうだけど。……じゃあ、分かったよ。一緒に行こう」
「ありがとうございます!」
もう一度頭を下げたフォコに対し、エルフもしゃがみ込む。
「もういいから、そんなにペコペコしなくて。……頼むよ、目立ちたくないんだってば」
「あ、すみません」
フォコはひょいと顔を上げ、そそくさと立ち上がった。
「えっと……、そんなわけでお名前、知らないんです。
教えていただいてもいいですか?」
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ここからようやく、フォコ君が反撃に出始めます。
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ここから名が知れ渡っていきます。
そしてフォコも。