「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・政争記 1
フォコの話、81話目。
ありえない起用。
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1.
「……かねてよりサイモン政務大臣の病状が懸念されていましたが、本日早朝、残念ながらお亡くなりになりました」
その発表に、政務院の官僚と職員たちは騒然となった。
「ほ、本当ですか!?」
「そんな……」
騒ぐ職員たちを前に、伝達に来た官僚は小さく咳払いし、今後の対応を伝える。
「よって本日、議会を緊急招集し、後任の大臣を高級官僚の中から選出します。それまでは通常業務を遂行するよう……」
と、そこにもう一名、官僚がやってくる。
「たった今、後任が決定した」
「え? まだ議会は召集されて……」「前政務大臣からの遺言状があったそうだ」
それを聞き、職員の一人がつぶやく。
「……執政法第6条、『大臣の選出は、前任者の推薦、もしくは議会の決定による』か」
「その通りだ。前大臣は遺言状により、次の大臣に……」
遺言状を持って来た官僚は、息を呑んで発表に耳を傾けていた職員たちの一人に目をやった。
「ファスタ君、君を指名した」
「……えっ?」
名前を呼ばれた本人は、目を丸くした。
「ぼ、僕、ですか? なんで? まだ僕、25歳で……、まだ、高級官僚になって、1年も、……えぇ?」
「……それは我々一同、まったく同じ思いだ。いくらなんでも若すぎる。
しかし法律は法律だ。本日より君は、政務大臣となった」
「……は、はあ」
中央政府の本拠地、クロスセントラルの某所。
「……本当に、君の仕業ではないんだな」
バーミー卿に詰問されたケネスは、フンと鼻を鳴らした。
「勿論ですとも。本当に、自然死です。
まあ、元々の計画からして、彼の病弱さに付け入ろうとしていたくらいですからな」
「ふーむ、確かに。あのじじいは、いつ死んでもおかしくは無かった」
ようやく納得してくれたバーミー卿に肩をすくめて見せながら、ケネスは自分が執っていた対応を説明した。
「ま、死んだのは予想外でしたが、それでも我々の付け入る余地が無かったかと言うと、そんなことも無く。
遺言状はしっかり、すり替えておきました」
それを聞いて、バーミー卿は首をかしげた。
「と言うことは、あの若僧を指定したのは君なのか?」
「ええ、私です」
ケネスの返答に、バーミー卿は腑に落ちない、と言う顔になる。
「何故だ? あんな若僧を登用して、計画にプラスになるのか?」
「プラスにもマイナスにもならんでしょう。計画の進行としては、原案通りですな」
「なら、何故……?」
「政務院の中枢に入って1年やそこらと言う、院内の右も左も分からん若僧なら、貧弱で他人に任せきりにしていた元大臣と変わらんと言うことです。
元々の計画通り、政務院をいいように操るには好都合かと」
「……ふ、む」
ケネスの所見に、バーミー卿はまだ納得していないような顔をしていたが、そこで話は終わった。
ケネスの「計画」は、中央政府の中枢、各執務院クラスへも及んでいた。
各院を掌握し、自分の意のままに操れるよう画策していたのだが、ここで一つのイレギュラー、想定外の事態が発生した。
かねてより健康が不安視されていた政務大臣が、病のために亡くなってしまったのだ。いくらケネスが優れた手練手管を用いようと、操る人間がいなければどうしようもない。
そこで代わりの人材を、いち早く手配したのだ。
が、このランド・ファスタと言う人間は、ケネスたちが思っているよりも聡明で実務能力に長け、かつ、高い理想を抱く青年だった。
(こんな大任を任されるなんて思ってもいなかったけど……、これは人生最大のチャンスだ。この地位を活かさない手は無い!
僕の目標――中央政府の腐敗を糺すのは、今しかない!)
理想を実現させるため、ランドは就任した直後から、全力で執務に当たり始めた。
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ありえない起用。
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「……かねてよりサイモン政務大臣の病状が懸念されていましたが、本日早朝、残念ながらお亡くなりになりました」
その発表に、政務院の官僚と職員たちは騒然となった。
「ほ、本当ですか!?」
「そんな……」
騒ぐ職員たちを前に、伝達に来た官僚は小さく咳払いし、今後の対応を伝える。
「よって本日、議会を緊急招集し、後任の大臣を高級官僚の中から選出します。それまでは通常業務を遂行するよう……」
と、そこにもう一名、官僚がやってくる。
「たった今、後任が決定した」
「え? まだ議会は召集されて……」「前政務大臣からの遺言状があったそうだ」
それを聞き、職員の一人がつぶやく。
「……執政法第6条、『大臣の選出は、前任者の推薦、もしくは議会の決定による』か」
「その通りだ。前大臣は遺言状により、次の大臣に……」
遺言状を持って来た官僚は、息を呑んで発表に耳を傾けていた職員たちの一人に目をやった。
「ファスタ君、君を指名した」
「……えっ?」
名前を呼ばれた本人は、目を丸くした。
「ぼ、僕、ですか? なんで? まだ僕、25歳で……、まだ、高級官僚になって、1年も、……えぇ?」
「……それは我々一同、まったく同じ思いだ。いくらなんでも若すぎる。
しかし法律は法律だ。本日より君は、政務大臣となった」
「……は、はあ」
中央政府の本拠地、クロスセントラルの某所。
「……本当に、君の仕業ではないんだな」
バーミー卿に詰問されたケネスは、フンと鼻を鳴らした。
「勿論ですとも。本当に、自然死です。
まあ、元々の計画からして、彼の病弱さに付け入ろうとしていたくらいですからな」
「ふーむ、確かに。あのじじいは、いつ死んでもおかしくは無かった」
ようやく納得してくれたバーミー卿に肩をすくめて見せながら、ケネスは自分が執っていた対応を説明した。
「ま、死んだのは予想外でしたが、それでも我々の付け入る余地が無かったかと言うと、そんなことも無く。
遺言状はしっかり、すり替えておきました」
それを聞いて、バーミー卿は首をかしげた。
「と言うことは、あの若僧を指定したのは君なのか?」
「ええ、私です」
ケネスの返答に、バーミー卿は腑に落ちない、と言う顔になる。
「何故だ? あんな若僧を登用して、計画にプラスになるのか?」
「プラスにもマイナスにもならんでしょう。計画の進行としては、原案通りですな」
「なら、何故……?」
「政務院の中枢に入って1年やそこらと言う、院内の右も左も分からん若僧なら、貧弱で他人に任せきりにしていた元大臣と変わらんと言うことです。
元々の計画通り、政務院をいいように操るには好都合かと」
「……ふ、む」
ケネスの所見に、バーミー卿はまだ納得していないような顔をしていたが、そこで話は終わった。
ケネスの「計画」は、中央政府の中枢、各執務院クラスへも及んでいた。
各院を掌握し、自分の意のままに操れるよう画策していたのだが、ここで一つのイレギュラー、想定外の事態が発生した。
かねてより健康が不安視されていた政務大臣が、病のために亡くなってしまったのだ。いくらケネスが優れた手練手管を用いようと、操る人間がいなければどうしようもない。
そこで代わりの人材を、いち早く手配したのだ。
が、このランド・ファスタと言う人間は、ケネスたちが思っているよりも聡明で実務能力に長け、かつ、高い理想を抱く青年だった。
(こんな大任を任されるなんて思ってもいなかったけど……、これは人生最大のチャンスだ。この地位を活かさない手は無い!
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