「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・政争記 3
フォコの話、83話目。
戦争屋への弾劾。
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3.
ランドは自分の地位を最大限に活用し、国内の官業・公共事業にはびこる汚職を撤廃しようと努めていた。
やや理想論の先行する主張・行動ではあったが、それが却って、議会の年配層に好評を博していた。
その後援もあって、汚職を議会で追及する機会が与えられた。
「次の議題です。昨年、304年より南海で起きている紛争への軍事介入が度々行われておりますが、その内容に関して不明な点、不可解な点があります」
壇上に立ったランドは、議会の最前列、大臣席に座るバーミー卿を見据えて詰問を始めた。
「まず、この紛争の中心となっているレヴィア王国に対し、中央軍は三回、議会承認も、天帝陛下への承認も得ず、独断で軍を動かし、閣僚級会談を行っていたと言う情報が、我々の元に入っています。ご存知かと思いますが、これは軍務法、執政法、及び世界平定憲法に抵触する行為です。
さらに調査を行った結果、これはバーミー卿、あなたの指示によるものだと判明しています。これは紛れも無く、議会、ひいては中央政府の政治運営をないがしろにした独断専横、越権行為に当たります」
「ふむ」
ランドにまくし立てられるが、バーミー卿は動じていない。
「しかし君の言っていることは、平時における場合を前提として、だろう?
南海での紛争は現在も激化の一途を辿っている。それを放っておくことは南海の、即ち世界の一地域全体の平和を揺るがすことになるのは間違いないはずだ。それを防ぐための行動であるし、この件は緊急時の行動と取れなくはないはずだ」
「お言葉を返すようですが」
ランドはさらにまくし立てる。
「会談の後、レヴィア王国の動きは変化なし、もしくはさらに激化していると言う見解が非常に多く寄せられています。会談によって彼らを刺激させている、とは考えられませんか?」
「短期的な見方でしかないだろう。こう言うことは、長期的に討議し、やんわりと火を消していくものではないのか? それを一瞬、一時期の動きで云々するのは、無意味なことでは無いだろうか」
予期していたケネスとの取引を取り沙汰されず、バーミー卿は内心ほっとしていた。
だがランドの追求はむしろ、ケネスが懸念していた方向へと向かい始めた。
「それだけではありません」
「と言うと?」
「会談後に必ず、レヴィア王国は軍備を再編しています。それも配置を換える、縮小すると言う平和的なものではなく、既存の基地に物資を大量に送ると言うような、いわゆる軍備の拡大を行っています。三回の会談の後に、必ず、です。
これはもう、関連性があると見て間違いない――言わば、会談で『軍備を拡大するように』と提言しているようなものです。紛争激化を防ぐための行動と言いながら、何故、煽るような行動を?」
「口を慎みたまえ、ファスタ卿」
バーミー卿は顔を真っ赤にして反論する。
「君の言うことは憶測だろう? 我々は間違いなく、防ぐように行動している。会談でも、これ以上増やさないようにと苦言を呈しているくらいだ! その行動を、『煽るような』だと!?」
「会談の詳しい内容を秘密にされている以上、我々は憶測ででしか話ができません。もし違うと断言されるなら、内容を克明に公表していただきたい。
それに――会談の内容がどうにせよ、確実に起こっていることは、紛争の激化です。結果的に、あなた方の行動は事態を悪化させていることに他ならない」
「何度も言うが、それはあくまで短期的な……」
「もう1年経っています! それをあなたは短期的、と仰るんですか!?」
のらりくらりとしたバーミー卿の弁明に、ランドは声を荒げた。
「1年間、南海の人々が苦しめられているのは事実ですよ! 1年を短期的と仰るなら、あなたは一体何年かけて問題を解決するおつもりですか!? 10年? 20年? もっとですか!? 何年、罪も無い人々を苦しめるつもりですかっ!?」
「無礼なことを! 私は平和のために……」
「もう一つ」
と、ランドは冷静な口調に戻って、さらに指摘を重ねた。
「こうした動きは、あなたが軍務大臣になった296年辺りから顕著になっています。度々、中央政府の意向を無視して会談を行い、実質的に問題のある国家の軍備を増強させて、世界各地の紛争を激化させている。
そこから考えれば、もう10年に届く。あなたの独断のために、紛争が長引いていると言っても過言ではない。いや、言い換えれば――まるであなたは、とっくに終わるはずの紛争を長引かせているようだ」
「ふっ、ふざけるな……っ」
バーミー卿は机を蹴飛ばして立ち上がり、ランドに怒鳴った。
「私が、この私が無闇に争いの種を増やしていると言うのか、この若僧がッ!」
と、議会のあちこちから声が飛ぶ。
「落ち着きなさい、大臣!」
「何が『この若僧が』だ! 暴言だぞ、暴言!」
「きちんと釈明しろ!」
気付けばバーミー卿に向かって、議会中から野次が飛んでいる。
「……ぐ、っ」
それ以上反論できる空気ではなく、バーミー卿は黙って座るしかなかった。
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戦争屋への弾劾。
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ランドは自分の地位を最大限に活用し、国内の官業・公共事業にはびこる汚職を撤廃しようと努めていた。
やや理想論の先行する主張・行動ではあったが、それが却って、議会の年配層に好評を博していた。
その後援もあって、汚職を議会で追及する機会が与えられた。
「次の議題です。昨年、304年より南海で起きている紛争への軍事介入が度々行われておりますが、その内容に関して不明な点、不可解な点があります」
壇上に立ったランドは、議会の最前列、大臣席に座るバーミー卿を見据えて詰問を始めた。
「まず、この紛争の中心となっているレヴィア王国に対し、中央軍は三回、議会承認も、天帝陛下への承認も得ず、独断で軍を動かし、閣僚級会談を行っていたと言う情報が、我々の元に入っています。ご存知かと思いますが、これは軍務法、執政法、及び世界平定憲法に抵触する行為です。
さらに調査を行った結果、これはバーミー卿、あなたの指示によるものだと判明しています。これは紛れも無く、議会、ひいては中央政府の政治運営をないがしろにした独断専横、越権行為に当たります」
「ふむ」
ランドにまくし立てられるが、バーミー卿は動じていない。
「しかし君の言っていることは、平時における場合を前提として、だろう?
南海での紛争は現在も激化の一途を辿っている。それを放っておくことは南海の、即ち世界の一地域全体の平和を揺るがすことになるのは間違いないはずだ。それを防ぐための行動であるし、この件は緊急時の行動と取れなくはないはずだ」
「お言葉を返すようですが」
ランドはさらにまくし立てる。
「会談の後、レヴィア王国の動きは変化なし、もしくはさらに激化していると言う見解が非常に多く寄せられています。会談によって彼らを刺激させている、とは考えられませんか?」
「短期的な見方でしかないだろう。こう言うことは、長期的に討議し、やんわりと火を消していくものではないのか? それを一瞬、一時期の動きで云々するのは、無意味なことでは無いだろうか」
予期していたケネスとの取引を取り沙汰されず、バーミー卿は内心ほっとしていた。
だがランドの追求はむしろ、ケネスが懸念していた方向へと向かい始めた。
「それだけではありません」
「と言うと?」
「会談後に必ず、レヴィア王国は軍備を再編しています。それも配置を換える、縮小すると言う平和的なものではなく、既存の基地に物資を大量に送ると言うような、いわゆる軍備の拡大を行っています。三回の会談の後に、必ず、です。
これはもう、関連性があると見て間違いない――言わば、会談で『軍備を拡大するように』と提言しているようなものです。紛争激化を防ぐための行動と言いながら、何故、煽るような行動を?」
「口を慎みたまえ、ファスタ卿」
バーミー卿は顔を真っ赤にして反論する。
「君の言うことは憶測だろう? 我々は間違いなく、防ぐように行動している。会談でも、これ以上増やさないようにと苦言を呈しているくらいだ! その行動を、『煽るような』だと!?」
「会談の詳しい内容を秘密にされている以上、我々は憶測ででしか話ができません。もし違うと断言されるなら、内容を克明に公表していただきたい。
それに――会談の内容がどうにせよ、確実に起こっていることは、紛争の激化です。結果的に、あなた方の行動は事態を悪化させていることに他ならない」
「何度も言うが、それはあくまで短期的な……」
「もう1年経っています! それをあなたは短期的、と仰るんですか!?」
のらりくらりとしたバーミー卿の弁明に、ランドは声を荒げた。
「1年間、南海の人々が苦しめられているのは事実ですよ! 1年を短期的と仰るなら、あなたは一体何年かけて問題を解決するおつもりですか!? 10年? 20年? もっとですか!? 何年、罪も無い人々を苦しめるつもりですかっ!?」
「無礼なことを! 私は平和のために……」
「もう一つ」
と、ランドは冷静な口調に戻って、さらに指摘を重ねた。
「こうした動きは、あなたが軍務大臣になった296年辺りから顕著になっています。度々、中央政府の意向を無視して会談を行い、実質的に問題のある国家の軍備を増強させて、世界各地の紛争を激化させている。
そこから考えれば、もう10年に届く。あなたの独断のために、紛争が長引いていると言っても過言ではない。いや、言い換えれば――まるであなたは、とっくに終わるはずの紛争を長引かせているようだ」
「ふっ、ふざけるな……っ」
バーミー卿は机を蹴飛ばして立ち上がり、ランドに怒鳴った。
「私が、この私が無闇に争いの種を増やしていると言うのか、この若僧がッ!」
と、議会のあちこちから声が飛ぶ。
「落ち着きなさい、大臣!」
「何が『この若僧が』だ! 暴言だぞ、暴言!」
「きちんと釈明しろ!」
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ただ、ちょっと潔癖で経験が浅いのが難点。