「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・政争記 5
フォコの話、85話目。
ルピアの逆襲。
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5.
政務大臣が短い期間で立て続けに変わったことで、先代のソロン帝が危惧していた通り、政情は不安定になった。
元々ランドの前任者が推し進めていた政策――その多くはケネスとバーミー卿にとって都合がいいものだった――を、ランドは全面的に見直した上で半分以上を廃し、新たな政策を立てて進めていた。ところがランドも更迭されたため、ランドの次に政務大臣となった人物は先々代の状況に戻そうと試みた。
それが中央政府の内外に、大きな混乱を呼んだ。立ち上がりかけた計画が頓挫したり、休眠、もしくは廃止した事業を立ち上げ直したりと、下部組織はくるくると変わる方針に振り回された。
ランド更迭の一件とこの混乱は、中央政府、そして天帝への不信感を募る一因となり、内外からの反発を高めることとなった。
そしてここにはもう一つ、混乱の火種があった。
ケネスはランドが央中の大商家、ルピア・ネールの息子だと知らなかったことだ。
「……な、ん、だ、とぉ」
ランドが更迭・投獄された報告を受け、ルピアは激怒した。
「ふざけるなッ! 何故、何故あいつが投獄なんぞされにゃならんのだ!」
「し、しかし姉さん」
この一報を持って来たルピアの弟、ポーロはなだめようとする。が、ルピアの怒りは収まらない。
「しかしもかかしもあるかッ! すぐ調べろッ!」
「し、調べる? 何を?」
「考えてもみろ! 25歳で大臣になって、そこから1年もしないうちに、いきなり更迭されて投獄だと? こんな出来の悪い三文芝居みたいな話があるか?
誰かが仕組んだのでなけりゃ、こんな滅茶苦茶なことなど起こりえない! そして、その仕組んだ奴には何らかのメリットもあるはずだ!
この茶番劇で得をする奴が誰か、調べて来い!」
「わ、分かったっ」
姉の剣幕に逆らえず、ポーロは飛ぶようにして央北へと渡った。
と言っても、その利害関係は明らかなものである。すぐにバーミー卿にとってメリットのある話だと分かり、すぐに伝えられた。
「カーチス・バーミー卿が? ……解せんな」
「しかし、この件で彼は、去年から停止させられていたいくつかの権限を復活させている。その上、無断で行っていた閣僚級会談に関してのお咎めも受けずに済むように……」
「ああ、それは確かだ。だが気になるのは、バーミー卿の政治手腕だ。
あの男は直情径行、傲慢不遜の軍人バカだ。こんな手の込んだことのできる器でも頭でもない」
「まあ、そりゃ、そうだな」
「ぶっちゃけ、あいつにはこの件を計画するのは無理だ。となればあいつの腹心か、あいつと懇意にしてる奴がこの計画を立てていた、と考えるのが妥当か。
……ポーロ。……調べてほしいことがある」
「またかよ……。俺だってそう何度も、央北と央中を行ったり来たりしたくないんだが」
「そう言うな。……私の息子に罪を着せたのも許せんが、それ以上に気になるのが、この混乱を――中央政府がガタつくほどの騒ぎを起こしたことだ。
放っておけば、いずれ我がネール職人組合にも悪影響が出るかも知れん。そうなってからでは遅い、……かも分からんからな。
中央政府や天帝を動かせる奴が、小物だとは思えん」
「……分かった。調べてみる」
真剣な面持ちの当主ルピアに、ポーロは素直に従った。
この後――央中ではある抗争が勃発した。
ネール職人組合はゴールドマン商会に対し、一切の提携を破棄した。また、総帥であるケネスが今回の混乱を招いた張本人であると言う出所不明の告発文書が、中央大陸各地に出回った。
この2つの出来事がゴールドマン商会の、央中における信用度を落とし、また、後の世につながる「狼と狐の対立」を生んだ。
(やれやれ……、これは予想外のダメージを負ったものだ)
思わぬ攻撃を受けたケネスは、軽くため息をつきながら、手に入れたその告発文の一つを、くしゃくしゃと丸めて捨てた。
「アンタ、あのうわさってホンマなん?」
そこに、ケネスの「正妻」リンダが、不安げな面持ちで声をかけてきた。
「まさか」
ケネスは笑顔を作り、否定してみせる。
「私が……、いや、ゴールドマン商会が急成長を遂げていることに対しての、嫌がらせだろう。
第一、こないだの政争と一商人でしかない私に、どう関係があると? こじつけもいいところだよ」
「……そうやんな」
リンダは上目遣いに夫を見上げ、彼の手を握りしめた。
「でもな、うわさちゅうても……」
「何だ?」
「ここら辺のみんな、疑っとるみたいやねん。……フォブがな、こないだ」
「フォブが? 何かされたのか?」
フォブと言うのは、ケネスとリンダの息子である。
「……顔にあざ、作っとってん。なんや、いきなり殴られたらしいねん」
「本当か?」
息子が殴られたと聞き、ケネスは憤った顔と声を作ってみせる。
「何と言う卑怯なことを! 私に攻撃するのではなく、私の息子を攻撃するとは!」
だが冷血漢のケネスである――その心中は、特に憤りも、侮蔑も感じていない。
考えているのは、今後の身の振り方だった。
(評判を落とした、か。これは少し、計画にとってマイナスになるか)
「……なあ、アンタ」
リンダは困った顔をしながら、こうつぶやく。
「あたし、アンタがかなりアコギなコトしよるっちゅうのんは、何も文句言わへん。でもな、ソレであたしらに迷惑かかるっちゅうのん、嫌やねん。
何とかならへん? ならへんのやったら、もうせんといてほしいねん」
「……むう」
妻に、目に涙をたたえつつそう言われてしまっては、流石のケネスも閉口するしかない。
「手は、考える。……少し、我慢をしていてほしい」
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ルピアの逆襲。
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政務大臣が短い期間で立て続けに変わったことで、先代のソロン帝が危惧していた通り、政情は不安定になった。
元々ランドの前任者が推し進めていた政策――その多くはケネスとバーミー卿にとって都合がいいものだった――を、ランドは全面的に見直した上で半分以上を廃し、新たな政策を立てて進めていた。ところがランドも更迭されたため、ランドの次に政務大臣となった人物は先々代の状況に戻そうと試みた。
それが中央政府の内外に、大きな混乱を呼んだ。立ち上がりかけた計画が頓挫したり、休眠、もしくは廃止した事業を立ち上げ直したりと、下部組織はくるくると変わる方針に振り回された。
ランド更迭の一件とこの混乱は、中央政府、そして天帝への不信感を募る一因となり、内外からの反発を高めることとなった。
そしてここにはもう一つ、混乱の火種があった。
ケネスはランドが央中の大商家、ルピア・ネールの息子だと知らなかったことだ。
「……な、ん、だ、とぉ」
ランドが更迭・投獄された報告を受け、ルピアは激怒した。
「ふざけるなッ! 何故、何故あいつが投獄なんぞされにゃならんのだ!」
「し、しかし姉さん」
この一報を持って来たルピアの弟、ポーロはなだめようとする。が、ルピアの怒りは収まらない。
「しかしもかかしもあるかッ! すぐ調べろッ!」
「し、調べる? 何を?」
「考えてもみろ! 25歳で大臣になって、そこから1年もしないうちに、いきなり更迭されて投獄だと? こんな出来の悪い三文芝居みたいな話があるか?
誰かが仕組んだのでなけりゃ、こんな滅茶苦茶なことなど起こりえない! そして、その仕組んだ奴には何らかのメリットもあるはずだ!
この茶番劇で得をする奴が誰か、調べて来い!」
「わ、分かったっ」
姉の剣幕に逆らえず、ポーロは飛ぶようにして央北へと渡った。
と言っても、その利害関係は明らかなものである。すぐにバーミー卿にとってメリットのある話だと分かり、すぐに伝えられた。
「カーチス・バーミー卿が? ……解せんな」
「しかし、この件で彼は、去年から停止させられていたいくつかの権限を復活させている。その上、無断で行っていた閣僚級会談に関してのお咎めも受けずに済むように……」
「ああ、それは確かだ。だが気になるのは、バーミー卿の政治手腕だ。
あの男は直情径行、傲慢不遜の軍人バカだ。こんな手の込んだことのできる器でも頭でもない」
「まあ、そりゃ、そうだな」
「ぶっちゃけ、あいつにはこの件を計画するのは無理だ。となればあいつの腹心か、あいつと懇意にしてる奴がこの計画を立てていた、と考えるのが妥当か。
……ポーロ。……調べてほしいことがある」
「またかよ……。俺だってそう何度も、央北と央中を行ったり来たりしたくないんだが」
「そう言うな。……私の息子に罪を着せたのも許せんが、それ以上に気になるのが、この混乱を――中央政府がガタつくほどの騒ぎを起こしたことだ。
放っておけば、いずれ我がネール職人組合にも悪影響が出るかも知れん。そうなってからでは遅い、……かも分からんからな。
中央政府や天帝を動かせる奴が、小物だとは思えん」
「……分かった。調べてみる」
真剣な面持ちの当主ルピアに、ポーロは素直に従った。
この後――央中ではある抗争が勃発した。
ネール職人組合はゴールドマン商会に対し、一切の提携を破棄した。また、総帥であるケネスが今回の混乱を招いた張本人であると言う出所不明の告発文書が、中央大陸各地に出回った。
この2つの出来事がゴールドマン商会の、央中における信用度を落とし、また、後の世につながる「狼と狐の対立」を生んだ。
(やれやれ……、これは予想外のダメージを負ったものだ)
思わぬ攻撃を受けたケネスは、軽くため息をつきながら、手に入れたその告発文の一つを、くしゃくしゃと丸めて捨てた。
「アンタ、あのうわさってホンマなん?」
そこに、ケネスの「正妻」リンダが、不安げな面持ちで声をかけてきた。
「まさか」
ケネスは笑顔を作り、否定してみせる。
「私が……、いや、ゴールドマン商会が急成長を遂げていることに対しての、嫌がらせだろう。
第一、こないだの政争と一商人でしかない私に、どう関係があると? こじつけもいいところだよ」
「……そうやんな」
リンダは上目遣いに夫を見上げ、彼の手を握りしめた。
「でもな、うわさちゅうても……」
「何だ?」
「ここら辺のみんな、疑っとるみたいやねん。……フォブがな、こないだ」
「フォブが? 何かされたのか?」
フォブと言うのは、ケネスとリンダの息子である。
「……顔にあざ、作っとってん。なんや、いきなり殴られたらしいねん」
「本当か?」
息子が殴られたと聞き、ケネスは憤った顔と声を作ってみせる。
「何と言う卑怯なことを! 私に攻撃するのではなく、私の息子を攻撃するとは!」
だが冷血漢のケネスである――その心中は、特に憤りも、侮蔑も感じていない。
考えているのは、今後の身の振り方だった。
(評判を落とした、か。これは少し、計画にとってマイナスになるか)
「……なあ、アンタ」
リンダは困った顔をしながら、こうつぶやく。
「あたし、アンタがかなりアコギなコトしよるっちゅうのんは、何も文句言わへん。でもな、ソレであたしらに迷惑かかるっちゅうのん、嫌やねん。
何とかならへん? ならへんのやったら、もうせんといてほしいねん」
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