「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・逢魔記 1
フォコの話、87話目。
牢の中の知性。
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1.
ルピアとケネスが争っている間も、ランドはずっと牢獄につながれていた。
(何故こんなことに……?)
ランドは愚帝、オーヴェルによって政治犯の烙印を押され、牢の奥深くに投獄された。
天帝直々に「中央政府を危険にさらした極悪犯」と蔑まれ、最早彼を助けようとする人間は、中央政府内にいなかった。
(こうなったのは、何故なんだ?)
彼の周りは頑丈で殺風景な壁と扉に囲まれ、彼に一切の情報を与えない。明り取りの狭い窓からわずかに見える地面ぎりぎりの景色と、一日二回の食事とが、何とか彼を正常に保っていた。
(……何故……?)
そして彼自身も、自分を正常に保たせようと、ひたすら思案に暮れていた。
どこまでも、考える。
(何故僕は投獄された?)
考え続ける。
(直接の原因、それはオーヴェル帝の勅令だ。彼が僕を捕らえよと言ったから、僕は捕らわれた)
ひたすら思考の渦に、身をゆだねる。
(じゃあ、何故? 何故、オーヴェル帝は僕を捕らえさせたんだろう?
彼は僕の政策を、全面否定した。それは何故? 本当に、僕のやっていることが中央政府の害になると?
それはない。だってそうだろう? 僕なりに、どの懸案も真剣に考え、修正案を提示した。その後、議会の皆で微調整もしたし。その点に関しては、僕に間違いは無かったはずだし、間違いがあれば皆、指摘しないはずが無い。
それに間違っていたなら先帝、ソロン陛下が口を挟んでいたはずだ。あの方は自分で意見を発するよりも、他人の意見を推敲するタイプの方だった。僕が間違っていたなら、それを咎めないわけがない。
それでも、もし、間違っていたとするなら、……それはもう、陛下の御心が先帝や僕たちと、あまりにも乖離してしまっている、としか言えない)
思考の渦に呑まれ、また浮き上がる。
(……僕が正しかったのに、投獄されたとしたら?
それはもう、何かしらの陰謀があったとしか思えない。でも僕を陥れることで、陛下は得をしたんだろうか? ……いや、それもない。陛下と僕との間に、接点が無いもの。
オーヴェル帝は即位して間も無いし、僕だって政務大臣になって1年ほどだった。利害関係なんて、築けてない。
なのに彼は、僕を投獄した。それは何故?)
何も無い独房の中で、ランドの思考から感情が削ぎ落とされていく。初めは戸惑いや怒り、恐れや不安に満ちていたランドの脳内が、純粋な思考、思索に満たされていく。
(オーヴェル帝は……、あまり、頭のいいタイプじゃない。政治や経済のことに、あまり明るいとは言えない。元々、さほど興味も無かったみたいだし。
そんな彼がそもそも、僕の政策を理解した上で異議を唱えたんだろうか? それは……、考えにくい。誰かが『この政策は陛下のためにならない』なんて口ぞえでもしない限り、あんな風に僕を罵り、糾弾なんてしないし、できるはずもない。
……いたんだろうな。オーヴェル帝に口ぞえし、彼を誘導した人物が。それは誰だろう?)
すぐに、ランドはその人物に思い当たる。
(あの時、陛下が異議を唱えた時、賞賛されたのはバーミー卿だった。……じゃあ、彼なんだろうか?
……それもおかしい。彼は根っからの軍人だし、直情径行型で傲慢なタイプだ。自分から策を弄して人を陥れるなんてことを、するタイプの人間じゃない。
となると、彼の腹心か、彼と深い利害関係にあり、かつ、非常に根回しの利く、頭のいい人間がバックにいたんだろうな)
母ルピアと同じ思考を辿り、続いて彼は、母が調べさせたその先へ、自力で辿り着いた。
(バーミー卿はこの数年、エンターゲートと言う商人と懇意にしていた。中央軍の装備は、ほとんど彼のところから卸されていたし、前述の深い利害関係が、確かに存在する。
……ケネス・エンターゲートだったっけ。塾長が不思議がってたな、そう言えば。『塾にいた時はぱっとしなかったが、この数年で急激に成り上がった奇才だ』って評価してたな。
もしかしたら、彼が黒幕なのかな……?)
ランドはついに、真実へと辿り着いた。
だが、その深い洞察力、驚くべき推理力も――この何も無い空間の中では、何の意味も無かった。
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ルピアとケネスが争っている間も、ランドはずっと牢獄につながれていた。
(何故こんなことに……?)
ランドは愚帝、オーヴェルによって政治犯の烙印を押され、牢の奥深くに投獄された。
天帝直々に「中央政府を危険にさらした極悪犯」と蔑まれ、最早彼を助けようとする人間は、中央政府内にいなかった。
(こうなったのは、何故なんだ?)
彼の周りは頑丈で殺風景な壁と扉に囲まれ、彼に一切の情報を与えない。明り取りの狭い窓からわずかに見える地面ぎりぎりの景色と、一日二回の食事とが、何とか彼を正常に保っていた。
(……何故……?)
そして彼自身も、自分を正常に保たせようと、ひたすら思案に暮れていた。
どこまでも、考える。
(何故僕は投獄された?)
考え続ける。
(直接の原因、それはオーヴェル帝の勅令だ。彼が僕を捕らえよと言ったから、僕は捕らわれた)
ひたすら思考の渦に、身をゆだねる。
(じゃあ、何故? 何故、オーヴェル帝は僕を捕らえさせたんだろう?
彼は僕の政策を、全面否定した。それは何故? 本当に、僕のやっていることが中央政府の害になると?
それはない。だってそうだろう? 僕なりに、どの懸案も真剣に考え、修正案を提示した。その後、議会の皆で微調整もしたし。その点に関しては、僕に間違いは無かったはずだし、間違いがあれば皆、指摘しないはずが無い。
それに間違っていたなら先帝、ソロン陛下が口を挟んでいたはずだ。あの方は自分で意見を発するよりも、他人の意見を推敲するタイプの方だった。僕が間違っていたなら、それを咎めないわけがない。
それでも、もし、間違っていたとするなら、……それはもう、陛下の御心が先帝や僕たちと、あまりにも乖離してしまっている、としか言えない)
思考の渦に呑まれ、また浮き上がる。
(……僕が正しかったのに、投獄されたとしたら?
それはもう、何かしらの陰謀があったとしか思えない。でも僕を陥れることで、陛下は得をしたんだろうか? ……いや、それもない。陛下と僕との間に、接点が無いもの。
オーヴェル帝は即位して間も無いし、僕だって政務大臣になって1年ほどだった。利害関係なんて、築けてない。
なのに彼は、僕を投獄した。それは何故?)
何も無い独房の中で、ランドの思考から感情が削ぎ落とされていく。初めは戸惑いや怒り、恐れや不安に満ちていたランドの脳内が、純粋な思考、思索に満たされていく。
(オーヴェル帝は……、あまり、頭のいいタイプじゃない。政治や経済のことに、あまり明るいとは言えない。元々、さほど興味も無かったみたいだし。
そんな彼がそもそも、僕の政策を理解した上で異議を唱えたんだろうか? それは……、考えにくい。誰かが『この政策は陛下のためにならない』なんて口ぞえでもしない限り、あんな風に僕を罵り、糾弾なんてしないし、できるはずもない。
……いたんだろうな。オーヴェル帝に口ぞえし、彼を誘導した人物が。それは誰だろう?)
すぐに、ランドはその人物に思い当たる。
(あの時、陛下が異議を唱えた時、賞賛されたのはバーミー卿だった。……じゃあ、彼なんだろうか?
……それもおかしい。彼は根っからの軍人だし、直情径行型で傲慢なタイプだ。自分から策を弄して人を陥れるなんてことを、するタイプの人間じゃない。
となると、彼の腹心か、彼と深い利害関係にあり、かつ、非常に根回しの利く、頭のいい人間がバックにいたんだろうな)
母ルピアと同じ思考を辿り、続いて彼は、母が調べさせたその先へ、自力で辿り着いた。
(バーミー卿はこの数年、エンターゲートと言う商人と懇意にしていた。中央軍の装備は、ほとんど彼のところから卸されていたし、前述の深い利害関係が、確かに存在する。
……ケネス・エンターゲートだったっけ。塾長が不思議がってたな、そう言えば。『塾にいた時はぱっとしなかったが、この数年で急激に成り上がった奇才だ』って評価してたな。
もしかしたら、彼が黒幕なのかな……?)
ランドはついに、真実へと辿り着いた。
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