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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・逢魔記 2

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    フォコの話、88話目。
    悪魔がやってくる。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     投獄から1年が過ぎ、ランドのことを覚えている者は次第にいなくなっていった。
    「……」
     いや、覚えている余裕など無いのだろう。
     何も無い独房の中で、耳を澄ませば時折、扉の閉まる音が響いてくる。それと前後して、人の嘆き悲しみ、あるいは怒り狂う声も。
    (次々と、投獄されている)
     外の事情は知る由も無いが、何が起こっているのかは何となくは把握できた。
    (陛下が次々に、人を消しているのだろうな。僕を皮切りに、恐らくは大臣級、高級官僚級の人間が、次々と。
     そして多分、陛下はバーミー卿とエンターゲート氏に操られている。それはつまり、あの二人が中央政府を、世界全体を動かしているんだ。
     ……! そうか、まさか……!?)
     不意に、ランドの頭に閃きが走った。
    (バーミー卿は、戦争を誘発させるような軍事行動を執っていた。そしてエンターゲート氏は武器商人。戦争が起これば、儲からないはずが無い。
     この流れを、仕組んでいるのか……!? 戦いの火種をあちこちに撒き、燃え上がればそれを消しに回り、一方でまた、どこかに火種を撒く。それが繰り返されれば、……どうなる?
     バーミー卿は『緊急時の行動』と言う大義名分の下、好き勝手に軍と政府を動かせる。エンターゲート氏は自分の商品を、いくらでも買ってもらえる。バーミー卿属する中央政府側にも、戦争を起こしている当事国にもだ。
     ……何て恐ろしいことをッ! あの二人の権力と利益のために、世界中が振り回されると言うのか!? そんな……)
     ランドは思わず独房の中で立ち上がり、叫んだ。
    「そんな非道が許されてたまるかッ……! あの二人が、たった二人だけが美味しい思いをするために、世界中が犠牲になると言うのか!?」
    「おい、うるさいぞ!」
     ガンガンと扉を蹴る音が独房中に響いたが、ランドは呆然と立ち尽くしたままだった。

     その結論に行き着いて以降、ランドは居ても立ってもいられなくなった。
    (何とかしなきゃ……! このまま放っておいたら、世界はどうしようもなく傷付けられ、蹂躙され、いずれは破滅する!
     どうにかしてこの牢獄を脱出し、彼らを抑えなければ! そうしなきゃ、世界は破滅してしまう!)
     ランドは扉や窓に目をやるが、その途端、気持ちがしぼんでしまう。
    (……どうやって出るって言うんだ? 誰かが出してくれると?
     誰が? 議会の誰かが嘆願を? ……そんなわけが無い。あの時手を差し伸べてくれなかったんだし、きっともう、何人かは投獄されている。そして残った人も萎縮してるだろうな。そんな冒険、してくれるわけがない。
     ルピアさんが保釈金を……、なんて、それも無いだろうな。何とかして助けてやりたいとは思ってくれてるだろうけど、いくらなんでも政治犯を簡単に釈放しようなんて、中央政府や陛下は容認しない。いくらお金を積もうと、出してはくれないだろう。
     ……はは、は。結局、出られないんじゃ、なぁ……)
     ランドは諦めに満ちたため息をつき、横になる。しかしじっとしていると、世界の危機と言う不安が、頭をよぎる。
     ランドは狭い独房の中で立ったり座ったりと、せわしなく動いていた。



     そんな独り相撲にも疲れ、ランドはぐったりと横になった。
    (いくら僕に優れた頭脳があろうと、この中じゃどうしようもない。何も出来ないんだ。
     ……でも、諦められない。このまま世界が腐っていくのを、黙って見ているなんてできやしないんだ。
     ……誰か……)
     無駄とは分かっていながらも、ランドはそれを口にした。
    「……誰か、僕をここから出してくれ。ここから出して、僕に世界を救わせてくれ。
     そのためなら、何でもする。何でもあげるから」
     返事が返って来るはずの無い願いを口にし、ランドは目をつぶった。

     だが――返事が返って来た。
    「今の言葉、本心だろうな?」
    「……!?」
     どこかから、声が聞こえてきた。
    「だ、誰?」
    「もう一度聞くぞ。お前は『そこから出られるなら、何でもやる』と言ったな?」
    「……ここから出て、世界を救えるなら、だよ」
     誰が声をかけているのかは分からないが、ランドは応じてみた。
    「いいだろう。契約成立だ」
    「……なんだって?」
     ランドは目を開け、むくりと起き上がった。
    「契約?」
    「扉の近くでしゃがめ。そこは危険だ」
    「え?」
     戸惑いつつも、ランドは言われた通り、扉に張り付くようにしゃがみ込んだ。
     次の瞬間――。
    「『五月雨』」
     明り取りの窓の面積が、一千倍に広がった。
    「……~っ!?」
     頑丈なはずの漆喰の壁が、あっと言う間に瓦礫になる。
     目を丸くしたランドの前に、その瓦礫の向こうから何かが降り立った。
    「立て」
    「な、な……!?」
    「二度も言わせるな」
    「……あ、う、うん」
     ランドは突然の事態に混乱しつつも、相手の言う通りに立ち上がる。
    「さっさと逃げるぞ」
     壁を壊してくれたらしい、真っ黒なコートを羽織った男が、ランドに促した。
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    NoTitle 

    悪魔との契約。
    良からぬことが起きそうですね。

    NoTitle 

    契約してしまったv-399
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