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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・悪夢録 4

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    晴奈の話、第82話。
    黒の次は、白。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     博士の葬儀が終わったその夜。
     晴奈は一人、寝室の床に座って、たそがれていた。
    (私は、何と愚かな……)
     誇り高き剣士である自分が、己の欲望に操られ、しかも敵にそれを看破されてしまった。さらには気迫をぶつけられただけで身動きできなくなると言う、完膚なき負け方である。
    (まったく無様だな……)
     何もする気が起きず、晴奈はただぼんやりと尻尾をいじっていた。

     部屋の戸を叩く音がする。続いて、弱々しい声が聞こえる。
    「お姉さま、いらっしゃいますか?」
    「ああ、明奈。いるよ」
     そう答えると、静かに戸を開けて明奈が入ってきた。
    「どうした、明奈?」
    「あの、眠れなくて」
    「そうか」
     そう言って、明奈は晴奈の横に座る。
     顔を合わせないまま、二人はじっと座っていた。
    「お姉さま、あの」
    「何だ?」
    「……いいえ、何でも」
     時折、明奈が何かを言おうとするが途中で口をつぐみ、しばらく沈黙が続く。
     30分ほどそうしているうち、また明奈が口を開く。
    「……怖かった」
    「……そうか」
     そこで晴奈は、明奈が小さく震えていることに気付いた。明奈は怯えるような眼で、晴奈をチラ、と見てまた顔をそらず。
    「黒炎様のお姿も、博士が亡くなったことも。それから、お姉さまのお顔も」
    「顔? 私の?」
     晴奈は顔を向けて聞き返したが、明奈は目を合わさない。
    「黒炎様のことを伝えた時、お姉さまはとても怖い顔をしていらっしゃったわ。まるで、鬼か悪魔か、そう言った何か、恐ろしいもののようだった」
    「鬼、か」
     怯えた顔でぽつりぽつりと放たれる明奈の言葉が、晴奈の心をずきんと痛めた。
    (やはり、修羅になりかけていたと言うことか)
     晴奈はぎゅっと、明奈の肩を抱く。
    「お姉さま?」
    「……まったく、私は無様だ。鬼にもなりきれず、克大火に気迫負けした。かと言って聖人にもなれず、お前を放っておいた。
     中途半端に、どちらも投げ出したんだ。まったく、ひどい有様だ」
     愚痴の途中から、晴奈はポロポロと涙をこぼしていた。明奈も泣いている。
    「本当に、ひどい。何もかも、ひどかった」
    「うん……」



     泣いているうちに、どうやら眠ってしまったらしい。
     晴奈は、夢を見ていた。

     夢の中でも、隣には明奈がいる。
    「お姉さま、見て!」
     と、その明奈が叫ぶ。
     彼女の指差した方を見ると、そこにはまばゆい光が瞬いていた。
    「何だ、あれは?」
    《人をアレとか、言わないでほしいなぁ》
     すぐ近くから男とも女ともつかない、中性的な声が聞こえてくる。晴奈も明奈も、きょろきょろと辺りを見回す。
    「どなた?」「誰だ?」
    《目の前にいるじゃないか、ホラ!》
     いつの間にか光は消え、そこには銀と黒の瞳をした、洋風の衣装に身を包んだ、銀髪に白い毛並みの猫獣人が立っていた。
    「あなたは……?」
    《好きなように呼びなよ、白猫とでも、何とでも。ホラホラ、落ち込んでる場合じゃないよ、二人とも》
     辺りの風景が、ガラリと変わる。晴奈たちはいつの間にか、白い花をふんだんに飾った白い部屋の中にいた。
    《立って話もし辛いだろ? 座りなよ、セイナ、メイナ》
     白猫はどこからか現れた簡素な白い椅子を指差し、晴奈たちに座るよう促した。
    「落ち込んでいる場合ではない、とはどう言う意味だ?」
     晴奈たちが座ったところで、白猫も別の椅子に座る。
    《数日のうちに黒炎教団がまた攻め込んでくるのさ》
     白猫の言葉に、晴奈は耳を疑った。
    「何だと、また!?」
    《良く考えてよセイナ。奴らはまだ、目的を達成してないんだよ。メイナはまだ、コウカイにいるんだから。
     だから攻めて来るのさ。今度は生半可な数じゃない。5万人規模に及ぶ、重厚な物量作戦を仕掛けてくる。こうなると戦争だよ、最早》
    「ご、5万人!? 馬鹿な!
     確かにこれまでも、教団は人海戦術での攻めを主体としてきたが、兵の数はせいぜい、数千人程度だったはずだ!
     それを5万にも増員するだと!? 一体何故、そこまでして我々を襲うのだ!?」
    《理由は3つある。一つはメンツだよ。キミたち焔流とはかなり因縁が深いから。
     しかもココ数年、キミたちの方が勝ち越してる。相当アタマに来てるはずだよ。だよね、メイナ?》
     白猫に尋ねられ、明奈はぎこちなく頭を縦に振る。
    「え、ええ。確かに、わたしがいた頃はずっと、焔流打倒の声が強かったように思います」
    《だろ? で、二つ目の理由は教区の拡大だ。ま、コレは言ったそのまんまだし裏も無いから説明はしない。
     で、最後の理由。教主の息子の一人が、昔ケガを負わされた奴の妹が、教団にいたって知っててさ。怒り半分、色欲半分でその子を奪おうとしてるんだ》
     白猫の話に、二人は顔を見合わせる。
    「ウィルバーか……!?」
    「そう言えばウィルバー様、何かとわたしにお声をかけて……」
    「つまり明奈を狙って、街ごと奪う気か!」
    「黄家のわたしとの縁が結ばれれば、自然に黄海に対する教団の影響力が強くなり、ひいては央南西部への教化が進むでしょうね」
    「そうなれば私との関係から、焔流の顔も丸つぶれ――なるほど、三つの理由が合わさる」
    「何て、いやらしい……!」
     二人の様子を眺めながら、白猫は話を続ける。
    《く、ふふっ。イヤだよねぇ、そんなの。だから、ボクはキミたちを助けてやろうと思うんだ。
     策を授けよう。エルスに助けを求めるんだ。彼は『知多星』ナイジェル博士の愛弟子だからアタマもいいし、何より軍事関係全般に強い。
     彼を総大将にすえて戦えば、まず負けるコトは無い》
    「エルスに、か?」「でも、エルスさんは……」
     晴奈と明奈は、再度顔を見合わせる。
    「確かに実力は認めるが、しかし……」
    「ええ、エルスさんは教団や焔流とは無関係ですし、ましてや央南の人間でもありませんし」
    「ああ。無関係の人間を巻き込むのは、気乗りがしない」
     だが、白猫は人差し指を立て、二人の思索をさえぎる。
    《文句は聞かない。って言うかボクに言っても仕方無い。コレは彼の運命でもあるんだから。
     言っとくけど、エルス・グラッドは大物だよ。いや、コレから大物になる。この一件は彼が世に名を馳せる、その第一歩になるんだ。
     無関係だからだとか、央南人じゃないからとか、そんな理屈は言うだけ無駄だ。それよりも彼を助けた方が、キミたちにとってもずっといい。分かった、二人とも?》
    「え、でも」「その」
     反論しようとする晴奈たちを、白猫はにらみつける。
    《わ、か、っ、た!?》
    「は、はい」「わ、分かった」
     その剣幕に、二人は思わず承諾する。その返事を聞き、白猫は満足げにうなずいた。
    《うん、よし。じゃあその誓い、立ててもらうよ》
    「えぇ?」「自分で誓わせておいて、一体何を言うんだ?」
    《いーからいーから。ま、そんなに難しいコトじゃない。
     ただ水色の着物着て、エルスのトコに挨拶に行ってくれればいいだけ。ちょーどいい具合に、用事もできるから》
    「はあ……? それくらいなら、構いませんが」「まあ、やってみようか」
    《く、ふふっ。それじゃ頑張るんだよ、晴明姉妹》
     白猫は席を立ち、その場を後にする。

     そこで晴奈は、不思議な夢から覚めた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載・加筆修正
    2016.03.06 修正
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    NoTitle 

    相変わらずです。
    ここでも人を操ろうとしています。

    NoTitle 

    出やがったな白猫!111v-283
    相変わらずなやつ
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