「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・逢魔記 3
フォコの話、89話目。
恐怖の顕現。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
壊された壁を抜け、えぐり取られた地面を登って地上に上ると、そこはドミニオン城の横、頑丈な鉄柵で囲まれた牢獄の庭だった。
「……外……なの? 本当に?」
「俺が幻でごまかすと思うのか?」
「『俺が』、……って言われても」
ランドは自分を助けた、髪から肌、服装、靴に至るまで真っ黒な男に向かって口をとがらせる。
「君、誰なんだい?」
「ああ、自己紹介が遅れたな。……と」
男はランドから視線を離し、辺りを見回す。
「流石に騒がしくしすぎたようだ」
ランドたちを囲むように、看守の兵士たちが集まってくる。
「脱獄だ! 脱獄だーッ!」
「捕らえろ! 逃がすな!」
兵士たちはそれぞれ手に槍や縄を持ち、バタバタと足音を立てて寄って来る。
「ど、どうするのさ!?」
「……」
ランドの問いに、男は答えない。何かを考えているような顔をしている。
「囲まれるよ!? 逃げなきゃ!」
「騒々しい」
男はうざったそうに顔をしかめ、ランドに向き直った。
「ここで待っていろ。10秒で片付ける」
「片付ける?」
ランドがそう尋ねるより先に、男は刀を抜いて駆け出した。
男が駆け出したのを見て、兵士たちは武器を構え――ようとした。
「……、っ」
だが、その3分の1がばたりと倒れる。そしていつの間にか、彼らの足元には血の池ができていた。
「は、やい……っ」
「ゆ、油断する、な……」
続く3分の1も、糸が切れた操り人形のように、かくんと崩れ落ちる。
「……ひ、いっ」
残った3分の1は、それで戦意を喪失した。一様にがくりと膝を付き、血ではない液体で池を作っている。
それほどまでに、男の力は圧倒的過ぎた。
「片付いた。行くぞ」
呆然と見ていたランドに、男は何も無かったかのように淡々と声をかける。
「き、君、……人をっ」
「ああ。……二度も言わせるなと、さっきも言ったはずだが?」
ランドは男の所業を咎めようとしたが、脱獄のチャンスは今しかないし、何より咎めて改めてくれそうなタイプでも無さそうである。
ランドは何も言えず、男に付いていった。
「……と、自己紹介だったな」
そこで、男が思い出したようにランドに向き直った。
「俺の名は克大火。大火と呼べ」
「あ、う、うん。僕は、ランド・ファスタ。ちょっと前まで、大臣だった」
「そうか」
そう返され、ランドは面食らった。
「君って……、僕が大臣だったから、とか、強い正義感があったから、とか、そんな理由で助けたんじゃないんだね」
「そうだ」
それだけ返し、大火と名乗った男は背を向け、鉄柵の方へと歩いていく。
「融かせ、『テルミット』」
大火が手をかざした瞬間、鉄柵が真っ赤に光ってドロドロに融け、「燃え上がる」。
「う、わ……」
魔術や化学に関しては、ノイマン塾の一般教養でほんの少しかじった程度のランドだったが、それでも大火の力がどれほどのものか、先程の凶行も含め、はっきりと理解できた。
(鉄柵が、鉄の塊が燃えるなんて……。鉄が燃える温度は――まだ、誰もそんな実験を成功させてないから、理論上だったはずなんだけど――2千、いや、3千度くらいだって聞いたことがある。
それほどの火力を出すには……、高炉や溶鉱炉なら、クラフトランドのネール職人組合にあったやつの数倍、十数倍の大きさがいる。それを魔力に換算すれば、何百、何千人分もの量が必要になる。
……つまり、タイカはそれなんだ。まさに、一騎当千の……)「……あ、あく、ま、だ」
へたり込んでいた兵士の一人が、わななく声でそうつぶやいた。
「あの、あの黒い男……、あいつは、悪魔だ……っ」
「ひ、ひいいっ……」
「た、助けて、助けて……」
「殺さないで、死にたくない……」
兵士たちは恐怖に押し潰され、ランドたちを追うことも、逃げることもできないでいる。
「燃え尽きた。行くぞ」
そんな彼らにまったく構うことなく、大火は跡形も無く燃え落ちた鉄柵の跡を踏み越え、牢獄の外へ出た。
(悪魔……、か。僕はとんでもないものと、契約してしまったみたいだ)
ランドは――今度は急かされる前に――大火の後に付いていった。
この事件に関わり、生き残った兵士は全員、除隊を申し出た。また、軍も除隊せざるを得なくなった。
あまりの恐怖に心身を患い、とても兵役に就ける状態ではなくなってしまったからである。
軍はただちに、ランドとこの「黒い悪魔」克大火に、指名手配をかけた。
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壊された壁を抜け、えぐり取られた地面を登って地上に上ると、そこはドミニオン城の横、頑丈な鉄柵で囲まれた牢獄の庭だった。
「……外……なの? 本当に?」
「俺が幻でごまかすと思うのか?」
「『俺が』、……って言われても」
ランドは自分を助けた、髪から肌、服装、靴に至るまで真っ黒な男に向かって口をとがらせる。
「君、誰なんだい?」
「ああ、自己紹介が遅れたな。……と」
男はランドから視線を離し、辺りを見回す。
「流石に騒がしくしすぎたようだ」
ランドたちを囲むように、看守の兵士たちが集まってくる。
「脱獄だ! 脱獄だーッ!」
「捕らえろ! 逃がすな!」
兵士たちはそれぞれ手に槍や縄を持ち、バタバタと足音を立てて寄って来る。
「ど、どうするのさ!?」
「……」
ランドの問いに、男は答えない。何かを考えているような顔をしている。
「囲まれるよ!? 逃げなきゃ!」
「騒々しい」
男はうざったそうに顔をしかめ、ランドに向き直った。
「ここで待っていろ。10秒で片付ける」
「片付ける?」
ランドがそう尋ねるより先に、男は刀を抜いて駆け出した。
男が駆け出したのを見て、兵士たちは武器を構え――ようとした。
「……、っ」
だが、その3分の1がばたりと倒れる。そしていつの間にか、彼らの足元には血の池ができていた。
「は、やい……っ」
「ゆ、油断する、な……」
続く3分の1も、糸が切れた操り人形のように、かくんと崩れ落ちる。
「……ひ、いっ」
残った3分の1は、それで戦意を喪失した。一様にがくりと膝を付き、血ではない液体で池を作っている。
それほどまでに、男の力は圧倒的過ぎた。
「片付いた。行くぞ」
呆然と見ていたランドに、男は何も無かったかのように淡々と声をかける。
「き、君、……人をっ」
「ああ。……二度も言わせるなと、さっきも言ったはずだが?」
ランドは男の所業を咎めようとしたが、脱獄のチャンスは今しかないし、何より咎めて改めてくれそうなタイプでも無さそうである。
ランドは何も言えず、男に付いていった。
「……と、自己紹介だったな」
そこで、男が思い出したようにランドに向き直った。
「俺の名は克大火。大火と呼べ」
「あ、う、うん。僕は、ランド・ファスタ。ちょっと前まで、大臣だった」
「そうか」
そう返され、ランドは面食らった。
「君って……、僕が大臣だったから、とか、強い正義感があったから、とか、そんな理由で助けたんじゃないんだね」
「そうだ」
それだけ返し、大火と名乗った男は背を向け、鉄柵の方へと歩いていく。
「融かせ、『テルミット』」
大火が手をかざした瞬間、鉄柵が真っ赤に光ってドロドロに融け、「燃え上がる」。
「う、わ……」
魔術や化学に関しては、ノイマン塾の一般教養でほんの少しかじった程度のランドだったが、それでも大火の力がどれほどのものか、先程の凶行も含め、はっきりと理解できた。
(鉄柵が、鉄の塊が燃えるなんて……。鉄が燃える温度は――まだ、誰もそんな実験を成功させてないから、理論上だったはずなんだけど――2千、いや、3千度くらいだって聞いたことがある。
それほどの火力を出すには……、高炉や溶鉱炉なら、クラフトランドのネール職人組合にあったやつの数倍、十数倍の大きさがいる。それを魔力に換算すれば、何百、何千人分もの量が必要になる。
……つまり、タイカはそれなんだ。まさに、一騎当千の……)「……あ、あく、ま、だ」
へたり込んでいた兵士の一人が、わななく声でそうつぶやいた。
「あの、あの黒い男……、あいつは、悪魔だ……っ」
「ひ、ひいいっ……」
「た、助けて、助けて……」
「殺さないで、死にたくない……」
兵士たちは恐怖に押し潰され、ランドたちを追うことも、逃げることもできないでいる。
「燃え尽きた。行くぞ」
そんな彼らにまったく構うことなく、大火は跡形も無く燃え落ちた鉄柵の跡を踏み越え、牢獄の外へ出た。
(悪魔……、か。僕はとんでもないものと、契約してしまったみたいだ)
ランドは――今度は急かされる前に――大火の後に付いていった。
この事件に関わり、生き残った兵士は全員、除隊を申し出た。また、軍も除隊せざるを得なくなった。
あまりの恐怖に心身を患い、とても兵役に就ける状態ではなくなってしまったからである。
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