「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・逢魔記 4
フォコの話、90話目。
世界と大火への思索。
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4.
脱獄に成功し、そのまま中央政府の首都、クロスセントラルを脱出したランドと大火は、一旦街道を外れて森に入り、そこで一息つくことにした。
「……まさか外に出られるとは思わなかった。ありがとう、タイカ」
「礼を言うのはまだ早いだろう」
ぺこりと頭を下げたランドに対し、大火は肩をすくめて見せる。
「お前が獄を抜けたら、それで世界は平和になると?」
「なるわけないじゃないか。……ああ、そう言うことか」
ランドは眼鏡を服の裾で拭きながら、大火との「契約」を確認する。
「君が助けてくれたのは、世界平和のため、だよね」
「お前が望んだのだろう? 世界を平和にする、と」
「ま、そうだね。……ま、そりゃそうか。君は平和にしてくれそうにないし。僕がやらなきゃいけないわけだ、それは」
ランドは近くの岩に腰かけ、考えをめぐらせる。
「さて、と。どうしたらいいかな」
「俺に聞いているのか?」
「いいや。自分に問いかけてるんだよ。……ま、答えてくれてもいいけどね」
「……おかしな奴だな」
大火はここでようやく、ランドに興味を持ったらしい。不思議そうな目を、ランドに向けてきた。
「さっきの兵士のように怯えているわけでもなく、かと言って助けた俺にひれ伏したわけでもなく。
俺と対等のつもり……、でもなく。ただの隣人程度にしか見ていないようだ、な」
「ま、そんな感じかな。助けてくれたことには感謝してるけど、君、危ない人っぽいし。そこまで敬服できないよ」
「……」
大火は憮然とした顔をするが、ランドは構わず自問自答にふける。
「ま、今この世界で何が起こってるか、って言うのをちゃんと把握しなきゃいけないな。随分長い間、牢屋の中にいたし。
とりあえず、中央政府の圏内にはいられないかな。間違いなく、指名手配されてるだろうし。クロスセントラルから遠い央南か、北方大陸、西方大陸、南海地域のどこかに高飛びしないといけない。
でも南海は無いな。僕が大臣やってた時からきな臭かったし、中央政府から逃げても、今度は現地で命の危険に晒されるだろう。それじゃ高飛びの意味が無い。同じ理由から、央南も無い。あそこももめてるから。後は北方と、西方か。
……まあ、手元に判断材料の無い今、あれこれ考えても無意味かな。とりあえず、港町に行こう。まずは央北から出なきゃ、何にもならない」
「ふむ」
と、そこで大火が質問する。
「悪いが、俺はあまりこのせ……、辺りの、地理に詳しくない」
(『せ』?)
ランドの心に引っかかるものがあったが、そのまま大火の話を聞く。
「ここから近い港町は、どの辺りだ?」
「えっと……。クロスセントラルからだと、主なところでは北北東にノースポートと、北西にウエストポートって言う街があるけど、……うーん、距離的にはどっちもどっちかな」
「ふむ。どちらに向かう?」
「そうだな……、まあ、ノースポートかな。そっちの方がほんの少し近い。
となれば、北方に行くのがいいかな。ノースポートからなら、北方の方が近いし」
「なるほど。
……向かう前に、服を用意した方がいいか。そんな垢じみた貫頭服では、脱獄犯と宣伝して回っているようなものだからな」
「あー、……うん、そうだね」
「調達してくる。ここで待っていろ」
そう言うなり、大火はランドの前から――文字通り、一瞬で――姿を消した。
「えっ」
ランドは辺りを見回すが、どこにも大火の姿は無い。
「……つくづく彼は人間じゃないな」
ランドは苦笑し、大火の帰りを待つことにした。
大火が戻ってくるまで、ランドは大火の素性について推理してみることにした。
(まず気になるのは、あの強さだ。兵士20数人を、あっと言う間に片付けたあの強さ。とても並の兵士とか傭兵とか、そんな感じじゃない。まるで別次元のものだ。
魔力も半端じゃない。魔術師の人とあんまり面識ないけど、それでもあそこまですごい力を持った人は二人といない、って言うのははっきり分かる。
そう言う異次元的、人間離れした力量を抜きにしても、あの物腰と性格も隔世の感がある。人をあそこまでばっさり、事も無げに斬り捨てておいて、まるで精神にブレが無い。動揺もしてないし、高揚してた感じも無い。本当に、『邪魔だからどかした』くらいの感覚しか無いらしい。
……ダメだなぁ。動揺してるのは僕だ。落ち着いて物を考えていられない。どうも、上ずってる)
そうしているうちに、大火が袋を提げて――これも唐突に、目の前に現れて――戻ってきた。
「着ろ。それと、簡単だが食事も持って来た」
「ありがとう」
(……ま、とりあえず、いいか。いいか悪いかで言えば極悪だけど、僕に対してはそうじゃないし)
ランドは思索をやめ、ともかく大火の厚意に甘えることにした。
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世界と大火への思索。
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脱獄に成功し、そのまま中央政府の首都、クロスセントラルを脱出したランドと大火は、一旦街道を外れて森に入り、そこで一息つくことにした。
「……まさか外に出られるとは思わなかった。ありがとう、タイカ」
「礼を言うのはまだ早いだろう」
ぺこりと頭を下げたランドに対し、大火は肩をすくめて見せる。
「お前が獄を抜けたら、それで世界は平和になると?」
「なるわけないじゃないか。……ああ、そう言うことか」
ランドは眼鏡を服の裾で拭きながら、大火との「契約」を確認する。
「君が助けてくれたのは、世界平和のため、だよね」
「お前が望んだのだろう? 世界を平和にする、と」
「ま、そうだね。……ま、そりゃそうか。君は平和にしてくれそうにないし。僕がやらなきゃいけないわけだ、それは」
ランドは近くの岩に腰かけ、考えをめぐらせる。
「さて、と。どうしたらいいかな」
「俺に聞いているのか?」
「いいや。自分に問いかけてるんだよ。……ま、答えてくれてもいいけどね」
「……おかしな奴だな」
大火はここでようやく、ランドに興味を持ったらしい。不思議そうな目を、ランドに向けてきた。
「さっきの兵士のように怯えているわけでもなく、かと言って助けた俺にひれ伏したわけでもなく。
俺と対等のつもり……、でもなく。ただの隣人程度にしか見ていないようだ、な」
「ま、そんな感じかな。助けてくれたことには感謝してるけど、君、危ない人っぽいし。そこまで敬服できないよ」
「……」
大火は憮然とした顔をするが、ランドは構わず自問自答にふける。
「ま、今この世界で何が起こってるか、って言うのをちゃんと把握しなきゃいけないな。随分長い間、牢屋の中にいたし。
とりあえず、中央政府の圏内にはいられないかな。間違いなく、指名手配されてるだろうし。クロスセントラルから遠い央南か、北方大陸、西方大陸、南海地域のどこかに高飛びしないといけない。
でも南海は無いな。僕が大臣やってた時からきな臭かったし、中央政府から逃げても、今度は現地で命の危険に晒されるだろう。それじゃ高飛びの意味が無い。同じ理由から、央南も無い。あそこももめてるから。後は北方と、西方か。
……まあ、手元に判断材料の無い今、あれこれ考えても無意味かな。とりあえず、港町に行こう。まずは央北から出なきゃ、何にもならない」
「ふむ」
と、そこで大火が質問する。
「悪いが、俺はあまりこのせ……、辺りの、地理に詳しくない」
(『せ』?)
ランドの心に引っかかるものがあったが、そのまま大火の話を聞く。
「ここから近い港町は、どの辺りだ?」
「えっと……。クロスセントラルからだと、主なところでは北北東にノースポートと、北西にウエストポートって言う街があるけど、……うーん、距離的にはどっちもどっちかな」
「ふむ。どちらに向かう?」
「そうだな……、まあ、ノースポートかな。そっちの方がほんの少し近い。
となれば、北方に行くのがいいかな。ノースポートからなら、北方の方が近いし」
「なるほど。
……向かう前に、服を用意した方がいいか。そんな垢じみた貫頭服では、脱獄犯と宣伝して回っているようなものだからな」
「あー、……うん、そうだね」
「調達してくる。ここで待っていろ」
そう言うなり、大火はランドの前から――文字通り、一瞬で――姿を消した。
「えっ」
ランドは辺りを見回すが、どこにも大火の姿は無い。
「……つくづく彼は人間じゃないな」
ランドは苦笑し、大火の帰りを待つことにした。
大火が戻ってくるまで、ランドは大火の素性について推理してみることにした。
(まず気になるのは、あの強さだ。兵士20数人を、あっと言う間に片付けたあの強さ。とても並の兵士とか傭兵とか、そんな感じじゃない。まるで別次元のものだ。
魔力も半端じゃない。魔術師の人とあんまり面識ないけど、それでもあそこまですごい力を持った人は二人といない、って言うのははっきり分かる。
そう言う異次元的、人間離れした力量を抜きにしても、あの物腰と性格も隔世の感がある。人をあそこまでばっさり、事も無げに斬り捨てておいて、まるで精神にブレが無い。動揺もしてないし、高揚してた感じも無い。本当に、『邪魔だからどかした』くらいの感覚しか無いらしい。
……ダメだなぁ。動揺してるのは僕だ。落ち着いて物を考えていられない。どうも、上ずってる)
そうしているうちに、大火が袋を提げて――これも唐突に、目の前に現れて――戻ってきた。
「着ろ。それと、簡単だが食事も持って来た」
「ありがとう」
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業務連絡というか、達成報告。
ブログランキング「くつろぐ」、芸術・人文/小説ランキングにて、本日1位になったことを確認しました。
みなさん、ありがとうございます!(*´∀`)
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NoTitle
その「対価」がなんなのかは、物語の終盤にて。
ありがとうございます。
2年近く前ですがw