「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・乱北記 1
フォコの話、92話目。
腐敗した軍。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
フォコたち一行は一ヶ月の船旅を終え、北方の港町、グリーンプールに降り立った。
「8月……、なのに」
「大分、涼しいね」
中央大陸圏内では暑苦しく見えたフォコのフード姿も、ここではそれなりに馴染んで見える。
「僕も何か、上着を買わないとな。カーディガン程度じゃ、肌寒いくらいだ」
「まだお金は2万くらい残ってます。でも、あんまり無駄遣いもできないですよ」
「ま、そうだね。収入の当ても無いのに、散財はできない。これから長居するのに、ノースポートでやったようなことを何度もやれば、足が付くだろうし」
そう言って、ランドは辺りを見回した。
「これからどうするんです?」
「とりあえず、首都がある山間部に向かう。大臣時代に面識のあった人間を頼ろうと思ってね」
「それって……、大丈夫なんですか?」
フォコはその人間に、ランドの居場所を密告されたりはしないかと不安がる。が、ランドはちゃんと見越しているらしい。
「大丈夫、大丈夫。元々から北方って、中央政府とあんまり仲が良くないんだ。二天戦争って言う古い戦争で、中央は北方を打ち負かしちゃった側だからね。
今この大陸の大部分を治めてるノルド王国の祖は中央側に味方してたんだけど、今はそれが仇になってる」
「って言うと?」
「中央政府はここ数年、世界各地の紛争を収め切れて無いからさ。
北方もここ数十年、ノルド王室の権威が低下しつつある。それに伴って、各地で軍人が勝手に地方を支配して、我が物顔でいるんだ。で、中央政府……、と言うか、中央軍はその風潮を止めに入って見せてるけど、実際は余計に事態を悪化させている。
こっちの人間にとっては、中央政府は『いらない口を挟んで状況を悪化させているよそ者』なわけだよ。そしてそれに与するノルド王室も、同罪ってわけさ。
これから会う予定のキルシュ卿って人は、どちらかと言うとそのノルド王室と対立関係にある人なんだ。だから中央政府から逃げてきた僕を拘束して引き渡すとか、そう言うことにはまず、ならないよ」
「なるほど。……それにしても、どこも物々しいんですねぇ」
フォコも先程のランド同様、辺りを見回してみる。
確かに港から市街地へ続く道中、どこを見ても軍人の姿が目に付いた。
そして、その質はあまり良くないらしい。
「おっ、うまそうな魚だな」
「へえ、獲れたてです」
道端で魚を売っていた漁師風の、短耳の老人を、軍服姿の男たち2、3人が囲んでいる。
「じゃ、もらおう」
「どうも、42万グランで……」「あ?」
と、漁師が売値を口にしたところで、3人は態度を豹変させる。
「金を取るのか、俺たちから?」
「え? いや、商売ですし……」
「俺たちを誰だと思ってる!? 泣く子も黙る、イドゥン軍閥の者だぞ!」
「で、でも。ちゃんと買ってもらわないと、俺が困るんですが……」「ええい、うるさい!」
困り顔の漁師を、軍人たちはいきなり蹴り飛ばした。
「うげっ……」
「軍にたてついた罪で、この物資は徴発する!」
「そうだそうだ、素直に渡せ!」
滅茶苦茶な言い分を暴力で通し、軍人たちはそのまま魚を持っていってしまった。
「……何ですか、今の」
修羅場を幾度と無く潜ったフォコも、これには唖然とした。
「今、ノルド王国内の軍閥は半分近くが野放し状態だからね。うわさには聞いてたけど、これほどひどいとは」
ともかく、目の前で人が傷つけられて、素通りできる二人ではない。
「大丈夫ですか?」
散々蹴られ、ピクリとも動かない漁師に声をかけた。
「……」
「とりあえず、休めるところを探そう。この人も、ここに放置したままにはできないし」
「じゃ、僕が背負います」
「お願いするよ」
フォコとランドは漁師を連れ、宿を探すことにした。
と、フォコの背後から、ぽつりと声が聞こえてきた。
「……許さねえ……絶対に許さねえぞ……」
「……っ」
恨みのこもったその漁師のつぶやきに、フォコの狐耳は総毛だった。
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腐敗した軍。
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フォコたち一行は一ヶ月の船旅を終え、北方の港町、グリーンプールに降り立った。
「8月……、なのに」
「大分、涼しいね」
中央大陸圏内では暑苦しく見えたフォコのフード姿も、ここではそれなりに馴染んで見える。
「僕も何か、上着を買わないとな。カーディガン程度じゃ、肌寒いくらいだ」
「まだお金は2万くらい残ってます。でも、あんまり無駄遣いもできないですよ」
「ま、そうだね。収入の当ても無いのに、散財はできない。これから長居するのに、ノースポートでやったようなことを何度もやれば、足が付くだろうし」
そう言って、ランドは辺りを見回した。
「これからどうするんです?」
「とりあえず、首都がある山間部に向かう。大臣時代に面識のあった人間を頼ろうと思ってね」
「それって……、大丈夫なんですか?」
フォコはその人間に、ランドの居場所を密告されたりはしないかと不安がる。が、ランドはちゃんと見越しているらしい。
「大丈夫、大丈夫。元々から北方って、中央政府とあんまり仲が良くないんだ。二天戦争って言う古い戦争で、中央は北方を打ち負かしちゃった側だからね。
今この大陸の大部分を治めてるノルド王国の祖は中央側に味方してたんだけど、今はそれが仇になってる」
「って言うと?」
「中央政府はここ数年、世界各地の紛争を収め切れて無いからさ。
北方もここ数十年、ノルド王室の権威が低下しつつある。それに伴って、各地で軍人が勝手に地方を支配して、我が物顔でいるんだ。で、中央政府……、と言うか、中央軍はその風潮を止めに入って見せてるけど、実際は余計に事態を悪化させている。
こっちの人間にとっては、中央政府は『いらない口を挟んで状況を悪化させているよそ者』なわけだよ。そしてそれに与するノルド王室も、同罪ってわけさ。
これから会う予定のキルシュ卿って人は、どちらかと言うとそのノルド王室と対立関係にある人なんだ。だから中央政府から逃げてきた僕を拘束して引き渡すとか、そう言うことにはまず、ならないよ」
「なるほど。……それにしても、どこも物々しいんですねぇ」
フォコも先程のランド同様、辺りを見回してみる。
確かに港から市街地へ続く道中、どこを見ても軍人の姿が目に付いた。
そして、その質はあまり良くないらしい。
「おっ、うまそうな魚だな」
「へえ、獲れたてです」
道端で魚を売っていた漁師風の、短耳の老人を、軍服姿の男たち2、3人が囲んでいる。
「じゃ、もらおう」
「どうも、42万グランで……」「あ?」
と、漁師が売値を口にしたところで、3人は態度を豹変させる。
「金を取るのか、俺たちから?」
「え? いや、商売ですし……」
「俺たちを誰だと思ってる!? 泣く子も黙る、イドゥン軍閥の者だぞ!」
「で、でも。ちゃんと買ってもらわないと、俺が困るんですが……」「ええい、うるさい!」
困り顔の漁師を、軍人たちはいきなり蹴り飛ばした。
「うげっ……」
「軍にたてついた罪で、この物資は徴発する!」
「そうだそうだ、素直に渡せ!」
滅茶苦茶な言い分を暴力で通し、軍人たちはそのまま魚を持っていってしまった。
「……何ですか、今の」
修羅場を幾度と無く潜ったフォコも、これには唖然とした。
「今、ノルド王国内の軍閥は半分近くが野放し状態だからね。うわさには聞いてたけど、これほどひどいとは」
ともかく、目の前で人が傷つけられて、素通りできる二人ではない。
「大丈夫ですか?」
散々蹴られ、ピクリとも動かない漁師に声をかけた。
「……」
「とりあえず、休めるところを探そう。この人も、ここに放置したままにはできないし」
「じゃ、僕が背負います」
「お願いするよ」
フォコとランドは漁師を連れ、宿を探すことにした。
と、フォコの背後から、ぽつりと声が聞こえてきた。
「……許さねえ……絶対に許さねえぞ……」
「……っ」
恨みのこもったその漁師のつぶやきに、フォコの狐耳は総毛だった。
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