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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・乱北記 2

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    フォコの話、93話目。
    未来の想定。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     宿を取り、漁師を休ませたところで、フォコたちは彼からこの国の情勢を聞きだした。
    「いやもう、最近じゃ商売もまともにできないんだわ」
    「無理矢理奪うなんて、まるで盗賊ですよ」
    「本当だよ……。特に今は、イドゥン軍閥ってのがこの辺りを占拠しちまってね。ノルド峠も封鎖しちまったし、やりたい放題なんだ、本当」
    「え……。峠を、封鎖?」
     これを聞いて、ランドの顔が曇った。
    「峠を越えた先にある、ギジュン軍閥ってのと仲違いしちまったんだよ。で、封鎖しちまったらしちまったで、首都と完璧に縁が切れちまったもんだから、日に日にムチャクチャするようになって……」
    「まったくですね……」
     相槌を打ちながら、フォコは先程漁師を背負った時に聞いたつぶやきを思い出していた。
    (『絶対に許さない』……、って、あんなボコボコにされとったのに、何でそう言えるんや?
     このおっちゃん、確かに筋肉はあるっちゃあるねんけど、年寄りやし、実際さっきもやられっ放しやった。それやのに、どうやって仕返しするんやろか?)
    「あの、峠を封鎖したって言うのは……?」
     と、ランドが困った顔で尋ねてくる。
    「そのまんまの意味だよ。行き来できないように、土嚢積んだり関所増やしたりして、通行不能にしちまったんだ」
    「そうですか……」
     これを聞いて、ランドは腕を組んでうなった。
    「どうしたんですか?」
    「どうもこうも。
     君も港に着いたところで分かったと思うけど、この大陸は非常に山が険しいんだ。首都のある山間部へ行く方法は、その封鎖された峠を通るしかない。
     でもそこが封鎖されちゃったって言うなら……」
    「僕らが山間部へ行くのは不可能、……ってわけですか」

     思い悩むランドを残し、フォコは宿の外に出た。
    (おっちゃん、何するつもりなんやろ?)
     漁師の言葉が耳から離れず、フォコは考えをめぐらせた。
    (あのおっちゃん一人では無理やろし……、誰かに助けを? 例えば……)「例えば仲間と共謀して闇討ち、か?」「……っ!」
     いつの間にか、横に大火が並んでいる。
    「俺も気にはなっていた。普通、屈強な男に――言い換えれば、己の力ではどうにもならん相手に囲まれて袋叩きにされれば、大抵は心が折れる。
     だがあの漁師、反撃する意思が見て取れた。と言うことは、その手段を明確に持っていると言うことだ」
    「なるほど、確かに。……タイカさんも、それは仲間と組んで行動に出ること、と見ているんですか?」
    「ああ。……少し、泳がせてみよう」
    「あの人を帰して、後をつけるってことですね」
    「そうだ。……火紅、お前もなかなか聡い男だな」
    「へへ、良く言われます」
    「そうか」
     それだけ返し、大火は宿に戻っていった。



     夕闇が迫る頃になって、漁師はフォコたちの部屋を後にした。
    「俺が後をつける。お前らは休んでいるといい」
    「頼んだ」
     大火に尾行を任せ、フォコとランドは会話に興じた。
    「ランドさんって、これからどうしようと思ってるんですか?」
    「うん?」
    「えっと、キルシュ卿でしたっけ、その人のところへ行って、まあ、安全が確保されたとしますよね。で、それからどうするのかなって」
    「態勢の立て直し、かな。僕は世界最大・最強の組織を相手にしなきゃならない。それならこっち側も、相応の組織固めをしなきゃ対抗できない。
     だからまず、キルシュ卿に協力し、彼がノルド王国で最大の実権を得られるように手助けをする。それが成功したら、今度は僕のために協力してもらおうかな、って」
    「……まあ、確かに、それは確実と言えば、確実な方法ですけど」
     話を聞いて、フォコは首をかしげる。
    「すごく時間がかかりそうですね、年単位で」
    「それは仕方ない。そうそう都合よく、強力なバックアップを得ることなんてできないさ」
    「でも……」
     フォコは納得行かず、食い下がる。
    「悠長にしてたら、どうしようもなくなることもありますよ」
    「他に僕たちが取れる方法は無い。いくら時間がかかりそうでも、これ以外にはやれることはないんだ。
     ……ホコウ、ちょっと聞くけど」
    「はい?」
    「君はどこまで、僕たちに付いて来る気だい?」
    「え?」
    「何度も言ったことだけど、君は僕たちに関係が無い。言ってしまえば、僕たちがどうなろうと君は逃げてしまえば済む話なんだ。
     なのに何故、君は僕たちに協力しようとするんだい?」
    「……言っても、納得しないですよ」
     そう返したフォコに、ランドはいぶかしげな目を向けた。
    「やっぱり、何かしらの理由があるんだね。単に興味本位ってだけじゃない、もっと大きな、切実な理由が」
    「そう思ってくれていいです」
    「そうさせてもらうよ」
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    NoTitle 

    「悠長にしてたら、どうしようもなくなることもありますよ」ですね、まさに。

    NoTitle 

    逆襲するころにはおじいちゃんになってまうでv-509
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