「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・乱北記 5
フォコの話、96話目。
砦からの脱出。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
1時間ほどで、船はどこかの港に停泊した。
「さ、今夜はもう遅いから、さっさと寝ましょ。片付けは明日でいいわ」
「うーっす」
「おやすみなさーい」
ぞろぞろと人が消え、船に残ったのはフォコたち三人だけになった。
「……もういいぞ」
大火の声が聞こえると同時に術が解除され、三人の姿が現れた。
「ふう……。潜入成功ですね」
「ああ。これからどうする?」
「そうだな……」
ランドは物陰から辺りを見回しつつ、今後の行動を決める。
「とりあえず、ここがどこだか確認して、一旦グリーンプールに戻ろう。それでまた、改めてここを訪れて、協力を申し出ることにしようかな、と。
丁度ホコウ、君がノースポートで僕らにやったみたいな感じで」
「……ああ、なるほど。『脅しと頼み込み』ってことですか」
「そう言うこと。実際、あれは非常に揺さぶりが効くよ。
頼みを受けてもとりあえずマイナスは無いけど、断れば明確なマイナスが発生する。まともな人間なら、十中八九要望を呑む作戦だよ。
見た目に合わず、君って狡猾だよね」
「へへ……」
笑みを漏らしたフォコを見て、ランドは少しだけ苦い顔をした。
「……ほめたつもりは無いんだけどなぁ」
フォコたちはドックを抜け、そろそろと通路を歩く。
「さっきの術……、えーと、何だっけ」
「『インビジブル』か?」
「そう、それ。あれは使えないの? 今使ったら、便利だと思うんだけど」
大火は肩をすくめ、こう返した。
「使ってもいいが、互いの姿が見えん上に、一言も発せなくなる。何らかのイレギュラーが起これば、致命的な状況に陥るぞ」
「何でしゃべっちゃダメなんですか?」
「術の特性上、だ。あれは風の術をベースにしている。
風の術は風、即ち空気を操っている。術の対象の外から来る力には非常に強いが、内側、つまりかけた対象自身からの力には弱い。少しの空気振動でも、非常に不安定になるのだ」
「つまりしゃべることで、その振動が起きちゃうってことですね」
「ああ。……?」
と、大火が怪訝な顔になる。
「妙だな」
「え?」
「……いや」
大火は軽く首を振り、そのまま歩き出した。
「どうしたんですか?」
「何でもない、……とは言い切れんか。
足音がした。ガチャガチャと、重たい甲冑を着けて動き回っているような音だ。だが妙なのは……」
「妙なのは?」
「そいつの気配が無いのだ」
「って言うと、つまり……?」
「……」
大火はそれについて説明せず、歩を進めた。
数人の見回り、見張りはいたものの、それほど警戒もしていないのか、それらに見つかることなく、三人は砦の外に出ることができた。
「なるほど……、崖にできた洞窟を砦に造り変えてたのか。沖から見たら、ただの洞穴にしか見えないだろうな」
「陸からも、この位置なら発見は難しいだろう。人間の視覚の盲点になった、砦にするには都合のいい場所だな」
「えーと、……それで、ここはどこなんでしょうか?」
フォコの問いに、ランドははっとした表情を浮かべた。
「……そうだな、どこなんだろう?」
「船の動きは南へ向いていた。……が、そこまでしか分からんな。まあ、海沿いに北上すれば恐らく、グリーンプールへ戻れるだろう」
「だろうね。船で一時間くらいだったから、徒歩だと……」
計算しかけたランドに、大火が提案する。
「俺が魔術で飛ばしてやろう。こんな右も左も分からん土地で長時間うろついていては、何かと困りごとに出くわすかも知れんから、な」
「それもそうだね。じゃあ、お願いするよ」
「ああ。では……」
と、手を差し伸べかけた大火が動きを止める。
「……ん?」
「どうしたの?」
「あの妙な――気配の無い、だが足音を立てて近付いてくる何かが、こちらに近付いてくる」
「えっ」
その言葉に、フォコとランドは辺りを見回そうとした。だが――。
「……そこから離れろ!」
大火が突然、二人を蹴り飛ばした。
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砦からの脱出。
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5.
1時間ほどで、船はどこかの港に停泊した。
「さ、今夜はもう遅いから、さっさと寝ましょ。片付けは明日でいいわ」
「うーっす」
「おやすみなさーい」
ぞろぞろと人が消え、船に残ったのはフォコたち三人だけになった。
「……もういいぞ」
大火の声が聞こえると同時に術が解除され、三人の姿が現れた。
「ふう……。潜入成功ですね」
「ああ。これからどうする?」
「そうだな……」
ランドは物陰から辺りを見回しつつ、今後の行動を決める。
「とりあえず、ここがどこだか確認して、一旦グリーンプールに戻ろう。それでまた、改めてここを訪れて、協力を申し出ることにしようかな、と。
丁度ホコウ、君がノースポートで僕らにやったみたいな感じで」
「……ああ、なるほど。『脅しと頼み込み』ってことですか」
「そう言うこと。実際、あれは非常に揺さぶりが効くよ。
頼みを受けてもとりあえずマイナスは無いけど、断れば明確なマイナスが発生する。まともな人間なら、十中八九要望を呑む作戦だよ。
見た目に合わず、君って狡猾だよね」
「へへ……」
笑みを漏らしたフォコを見て、ランドは少しだけ苦い顔をした。
「……ほめたつもりは無いんだけどなぁ」
フォコたちはドックを抜け、そろそろと通路を歩く。
「さっきの術……、えーと、何だっけ」
「『インビジブル』か?」
「そう、それ。あれは使えないの? 今使ったら、便利だと思うんだけど」
大火は肩をすくめ、こう返した。
「使ってもいいが、互いの姿が見えん上に、一言も発せなくなる。何らかのイレギュラーが起これば、致命的な状況に陥るぞ」
「何でしゃべっちゃダメなんですか?」
「術の特性上、だ。あれは風の術をベースにしている。
風の術は風、即ち空気を操っている。術の対象の外から来る力には非常に強いが、内側、つまりかけた対象自身からの力には弱い。少しの空気振動でも、非常に不安定になるのだ」
「つまりしゃべることで、その振動が起きちゃうってことですね」
「ああ。……?」
と、大火が怪訝な顔になる。
「妙だな」
「え?」
「……いや」
大火は軽く首を振り、そのまま歩き出した。
「どうしたんですか?」
「何でもない、……とは言い切れんか。
足音がした。ガチャガチャと、重たい甲冑を着けて動き回っているような音だ。だが妙なのは……」
「妙なのは?」
「そいつの気配が無いのだ」
「って言うと、つまり……?」
「……」
大火はそれについて説明せず、歩を進めた。
数人の見回り、見張りはいたものの、それほど警戒もしていないのか、それらに見つかることなく、三人は砦の外に出ることができた。
「なるほど……、崖にできた洞窟を砦に造り変えてたのか。沖から見たら、ただの洞穴にしか見えないだろうな」
「陸からも、この位置なら発見は難しいだろう。人間の視覚の盲点になった、砦にするには都合のいい場所だな」
「えーと、……それで、ここはどこなんでしょうか?」
フォコの問いに、ランドははっとした表情を浮かべた。
「……そうだな、どこなんだろう?」
「船の動きは南へ向いていた。……が、そこまでしか分からんな。まあ、海沿いに北上すれば恐らく、グリーンプールへ戻れるだろう」
「だろうね。船で一時間くらいだったから、徒歩だと……」
計算しかけたランドに、大火が提案する。
「俺が魔術で飛ばしてやろう。こんな右も左も分からん土地で長時間うろついていては、何かと困りごとに出くわすかも知れんから、な」
「それもそうだね。じゃあ、お願いするよ」
「ああ。では……」
と、手を差し伸べかけた大火が動きを止める。
「……ん?」
「どうしたの?」
「あの妙な――気配の無い、だが足音を立てて近付いてくる何かが、こちらに近付いてくる」
「えっ」
その言葉に、フォコとランドは辺りを見回そうとした。だが――。
「……そこから離れろ!」
大火が突然、二人を蹴り飛ばした。
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詳しいことは、またどこか別のところで話しているかも。