「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・乱北記 6
フォコの話、97話目。
黒い悪魔と鉄の悪魔の邂逅。
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6.
大火に蹴飛ばされ、二人はゴロゴロと転げ回る。
「い、いてて……」
「いきなり何を……」
文句を言いかけて、フォコは口をつぐむ。
フォコの目に映ったのは黒い大火と、彼の構える刀の上に乗った、真っ黒なフードを被った何かだった。
「く、っ」
大火の表情がこわばり、彼の両腕が小刻みに震えている。人間離れした大火の力を以ってしても、相当に重たい何かのようだ。
「何の、用、だ?」
「お前たちだな」
と、そのフードから感情に乏しい声が聞こえてきた。
「我々の船に忍び込み、偵察していたのは。
軍閥の者か? それにしては軍人らしからぬ格好ではあるが」
「不正解、だ」
大火は依然顔をこわばらせながらも、飄々とした口ぶりで答えた。
「軍なんぞに、関係は無いし、軍人でも無い。ましてや、偵察の、つもりも無い」
「ならば何故、ここに来た」
「そうだな、『契約』と、言うところか。俺とお前らの、欲求を満たすための、交渉に、な」
「不要だ。消えろ」
そう言って、その黒フードは刀の切っ先から飛び上がった。
「……ッ」
次の瞬間、大火の体がわずかに跳ねる。
「む……?」
地面に降り立った黒フードから、ガシャンと言う金属の揺れる音がした。
「何故死なぬ?」
「こんな撫でるような蹴りで、俺が死ぬと思うのか?」
「知ったことか」
黒フードはそう吐き捨てるように返し、そのまま大火に襲い掛かった。
「た、タイカ!?」
「すまんな、徒歩でしばらく歩いてくれ。すぐ追いつく」
大火は遠巻きに見守るフォコたちにそれだけ言って、黒フードに応戦した。
何度目かの打撃をかわしたところで、大火は黒フードに尋ねてみた。
「で、何者だ、お前は?」
「言う必要など無い」
「そうか。ならば……」
大火は黒フードから5メートルほど離れたところで、ひゅっと音を立てて刀を払った。
すると――。
「……う、ぐゥッ!?」
パシュ、と言う鋭い音と共に、黒フードが裂けた。
「な、何ヲシタ……!?」
「何だその、壊れたラッパのような声は?
……さっきの言葉、そっくり返させてもらおう」
大火はニヤリと笑い、こう返した。
「言う必要など無い」
「フ……、フザケタ真似ヲッ!」
黒フードは大火に飛びかかろうとするが、先程の攻撃が余程効いたらしく、数歩歩いたところでガクリと膝を着いた。
「ウ……、動カン、ダト?」
「ふむ」
大火は刀を下ろし、黒フードを観察した。
「なるほど、……この世界に似つかわしいよう古臭く言えば、『自律人形』と言う奴か。そんなものがまだ、この時代に残っているとは」
「オ前ハ何者ダ!? 何故、何故私ノ正体ヲ!?」
「二度も言わせるな、鉄クズ」
大火は刀を上段に構え直し、そのまま黒フードのすぐ側まで一足飛びに迫り、振り下ろした。
「言う必要など、無い」
大火はその一振りで一刀両断する気満々だったが、ぎち、と言う怖気の走る音が、大火の刀と黒フードの腕との間で響くだけに留まる。
「ガ、ガガ……、こんな、こんな程度の棒切れで、私を斬れると思うなッ!」
黒フードはそう吐き捨てると、ばっと後ろに飛びのいて間合いを取った。
しかし――そこで黒フードは動けなくなった。
「……ッ……」
「棒切れだと?」
大火は細い目をわずかに見開き、黒フードをにらみつけていた。
「棒切れと言ったか? 俺の刀を、この名刀『夜桜』を、棒切れだと?」
そこには普段の、飄々と、淡々とした、人間味と気配の薄い大火はいなかった。
「……グ……ヌ……」
そのすべてを黒く塗りつぶすような殺気に、黒フードは攻め手を見失う。
「鉄クズ。二つ教えておいてやろう」
次の瞬間、黒フードの首が飛んだ。
「グゲ……ッ」
「この刀は俺が弟子たちと研究・研鑽し、己の持てる技術を余すところ無く注ぎ込んだ逸品だ。神器と評してもいい。
それを『棒切れ』とは、あまりにも愚かしい侮辱だ」
「コ、コノ……私ガ……何故ダ……ナゼ……コンナ……カンタン……ニ……ッ」
首と胴体とに別れた黒フードは、そのまま爆発した。
「そしてもう一つ――俺を侮辱することは、死を意味する」
「……何、今の音?」
「何でしょう……?」
黒フードから逃げていたフォコたちは、背後から聞こえてきた爆発音に振り返った。
「逃げて……、良かったんでしょうか?」
「それ以外に方法があると? あの場で最も戦闘力のあるタイカが『先に行け』って言ったんだ。なら、戦力にならない僕たちができることは、それ以外に無いんだよ」
「……うーん」
その説明に納得が行かず、フォコは向かっていた方角に、再度振り返った。
「あ」
と、その先に人がいるのに気付く。
辺りを見回せば、同様の人影が二人をそれとなく囲んでいるのが分かった。
「えーと、ランドさん」
「うん。……前言撤回するよ。もっと策を講じれば良かった」
そして二人の目の前に、あの「猫姫」――イール嬢が現れた。
「あの……、とりあえず、来てもらっても、……いい?」
「……はい」
困惑気味に告げてきたイールに、二人は素直に従った。
火紅狐・乱北記 終
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黒い悪魔と鉄の悪魔の邂逅。
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大火に蹴飛ばされ、二人はゴロゴロと転げ回る。
「い、いてて……」
「いきなり何を……」
文句を言いかけて、フォコは口をつぐむ。
フォコの目に映ったのは黒い大火と、彼の構える刀の上に乗った、真っ黒なフードを被った何かだった。
「く、っ」
大火の表情がこわばり、彼の両腕が小刻みに震えている。人間離れした大火の力を以ってしても、相当に重たい何かのようだ。
「何の、用、だ?」
「お前たちだな」
と、そのフードから感情に乏しい声が聞こえてきた。
「我々の船に忍び込み、偵察していたのは。
軍閥の者か? それにしては軍人らしからぬ格好ではあるが」
「不正解、だ」
大火は依然顔をこわばらせながらも、飄々とした口ぶりで答えた。
「軍なんぞに、関係は無いし、軍人でも無い。ましてや、偵察の、つもりも無い」
「ならば何故、ここに来た」
「そうだな、『契約』と、言うところか。俺とお前らの、欲求を満たすための、交渉に、な」
「不要だ。消えろ」
そう言って、その黒フードは刀の切っ先から飛び上がった。
「……ッ」
次の瞬間、大火の体がわずかに跳ねる。
「む……?」
地面に降り立った黒フードから、ガシャンと言う金属の揺れる音がした。
「何故死なぬ?」
「こんな撫でるような蹴りで、俺が死ぬと思うのか?」
「知ったことか」
黒フードはそう吐き捨てるように返し、そのまま大火に襲い掛かった。
「た、タイカ!?」
「すまんな、徒歩でしばらく歩いてくれ。すぐ追いつく」
大火は遠巻きに見守るフォコたちにそれだけ言って、黒フードに応戦した。
何度目かの打撃をかわしたところで、大火は黒フードに尋ねてみた。
「で、何者だ、お前は?」
「言う必要など無い」
「そうか。ならば……」
大火は黒フードから5メートルほど離れたところで、ひゅっと音を立てて刀を払った。
すると――。
「……う、ぐゥッ!?」
パシュ、と言う鋭い音と共に、黒フードが裂けた。
「な、何ヲシタ……!?」
「何だその、壊れたラッパのような声は?
……さっきの言葉、そっくり返させてもらおう」
大火はニヤリと笑い、こう返した。
「言う必要など無い」
「フ……、フザケタ真似ヲッ!」
黒フードは大火に飛びかかろうとするが、先程の攻撃が余程効いたらしく、数歩歩いたところでガクリと膝を着いた。
「ウ……、動カン、ダト?」
「ふむ」
大火は刀を下ろし、黒フードを観察した。
「なるほど、……この世界に似つかわしいよう古臭く言えば、『自律人形』と言う奴か。そんなものがまだ、この時代に残っているとは」
「オ前ハ何者ダ!? 何故、何故私ノ正体ヲ!?」
「二度も言わせるな、鉄クズ」
大火は刀を上段に構え直し、そのまま黒フードのすぐ側まで一足飛びに迫り、振り下ろした。
「言う必要など、無い」
大火はその一振りで一刀両断する気満々だったが、ぎち、と言う怖気の走る音が、大火の刀と黒フードの腕との間で響くだけに留まる。
「ガ、ガガ……、こんな、こんな程度の棒切れで、私を斬れると思うなッ!」
黒フードはそう吐き捨てると、ばっと後ろに飛びのいて間合いを取った。
しかし――そこで黒フードは動けなくなった。
「……ッ……」
「棒切れだと?」
大火は細い目をわずかに見開き、黒フードをにらみつけていた。
「棒切れと言ったか? 俺の刀を、この名刀『夜桜』を、棒切れだと?」
そこには普段の、飄々と、淡々とした、人間味と気配の薄い大火はいなかった。
「……グ……ヌ……」
そのすべてを黒く塗りつぶすような殺気に、黒フードは攻め手を見失う。
「鉄クズ。二つ教えておいてやろう」
次の瞬間、黒フードの首が飛んだ。
「グゲ……ッ」
「この刀は俺が弟子たちと研究・研鑽し、己の持てる技術を余すところ無く注ぎ込んだ逸品だ。神器と評してもいい。
それを『棒切れ』とは、あまりにも愚かしい侮辱だ」
「コ、コノ……私ガ……何故ダ……ナゼ……コンナ……カンタン……ニ……ッ」
首と胴体とに別れた黒フードは、そのまま爆発した。
「そしてもう一つ――俺を侮辱することは、死を意味する」
「……何、今の音?」
「何でしょう……?」
黒フードから逃げていたフォコたちは、背後から聞こえてきた爆発音に振り返った。
「逃げて……、良かったんでしょうか?」
「それ以外に方法があると? あの場で最も戦闘力のあるタイカが『先に行け』って言ったんだ。なら、戦力にならない僕たちができることは、それ以外に無いんだよ」
「……うーん」
その説明に納得が行かず、フォコは向かっていた方角に、再度振り返った。
「あ」
と、その先に人がいるのに気付く。
辺りを見回せば、同様の人影が二人をそれとなく囲んでいるのが分かった。
「えーと、ランドさん」
「うん。……前言撤回するよ。もっと策を講じれば良かった」
そして二人の目の前に、あの「猫姫」――イール嬢が現れた。
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