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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・猫姫記 1

     ←キャラ紹介;ランド、大火 →火紅狐・猫姫記 2
    フォコの話、98話目。
    猫姫の素顔。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「えーと……、名前から聞いていい?」
     拘束され、砦に連れ戻されたフォコとランドは、目の前の「猫姫」の質問に、淡々と従った。
    「火紅・ソレイユです」
    「ランド・ファスタだ」
    「ホコウと、ランドね? あ、あたしはイール。イール・サンドラ。よろしくね」
     にこりと笑いかけるイールに、フォコたちは困惑した。
    (え……? 怒ってたり、してへんみたいやな?)
    「それじゃホコウとランド、何であなたたちはここに?」
    「え、と……」
     口を開きかけたランドが、そこで言葉に詰まる。
     フォコたちとイールとを囲んでいた男たちが、一斉に武器を構え出したからだ。
    「ちょっと、やめてよみんな」
     それを見て、イールが口をとがらせた。
    「尋問はあたしがするから。あなたたちは、そこでじっとしてて」
    「うっす」
     男たちは武器を下げたが、依然表情は堅いままだ。
    (……怒ってないわけないわな。そら、侵入者やもんな、僕ら)
    「で、何でここに?」
     イールにもう一度尋ねられ、ランドは小さく咳払いをして答えた。
    「ん、ん……、その、僕たちは山間部に行きたいんだ」
    「山間部?」
    「そこに住んでる人に、用があってね。で、中央から遠路はるばる来てみたら、封鎖されてるって言うじゃないか」
     ランドはぺらぺらとしゃべりつつも、当たり障りなく話を進める。
    「それでどうしようかって、彼と相談しながら情報収集してたんだ。そしたらさ、どうも封鎖元と対立してる組織があるってことが分かったから、軍港をずっと見張ってた。
     で、丁度良く君たちがいたから、小舟でそっと乗り込んで、ここまで来たってわけさ」
    「へー」
     が、ランドの説明に対し、イールはさほど興味を示していない。
    「まあ、ここの場所は分かったし、皆今夜はもう寝ようってことらしかったから、僕らも一旦帰って、また日を改めてお願いに来ようかなって思って……」「アルコンはどこ?」
     ランドの弁解をさえぎり、イールがとげとげしく尋ねてきた。
    「ある、こん?」
    「あなたたちを追ってきた、黒いフードの同志よ。何であなたたち、彼に捕まってないの?」
     ランドは動揺しつつも、無理矢理に口を回して話をつなぐ。
    「いや、知らないよ、そんな人。誰だか分からないな」
    「そんなわけないでしょ? あいつが獲物を取り逃がすなんてこと、ありっこないのよ」
    「そんな人が僕たちを追っていたら、こうして君たちに捕まっているなんてことは、無いだろう? じゃあ会ってない、そう結論は付けられないかい?」
    「そんなの詭弁よ!」
     イールは立ち上がり、ランドの襟元をつかんで怒鳴るように言い放った。
    「あんたたちがちゃんと捕まってくれてなきゃ、あたしたちが困るのよ!」
    「……どう言うことだい?」

    「つまりは、そのアルコンと言う黒フードがお前らを制御・統制していた、と」
     と、どこからか声が聞こえてきた。
    「な、何者だ!?」
     イールとフォコたちが囲んでいる机の上に突如降り立った影に、ランドは安堵の声を漏らす。
    「タイカ、戻ってきてくれたのか」
    「それなら吉報となるかな。その黒フードは、俺が倒したぞ」
    「……えっ?」
     大火の一言に、イールも、周りの男たちも目を丸くした。
    「どう言う意味よ?」
    「そのままの意味だ。あいつが襲い掛かってきたから、俺が返り討ちにしたのだ」
    「できるわけないじゃない!」
    「できたとも。先程の詭弁云々を繰り返すのも馬鹿馬鹿しいが、そいつがここにいないと言うことは、俺の言が正しいと言うことになる」
    「……本当に、あなたが倒したの? あいつは悪魔よ?」
    「悪魔? あの鉄クズが?」
     大火は鼻で笑い、手にしていた焦げた布――と言っても、元が黒いので焦げているのかどうか、臭いでしか判断できないが――をイールに投げつけた。
    「わ、っぷ……、ってこれ、まさか」
    「その通りだ、猫姫とやら」
     ニヤリと笑った大火に対し、イールは布を投げ捨て、しばらく頭を抱えて黙り込んでいたが、やがてそのまま、ぼそりとつぶやいた。
    「……やめて、それ」
    「ん?」
     イールは猫耳をプルプルさせながら、うざったそうに話を続ける。
    「『猫姫』って言われるの、すっごく嫌なのよ。あたしそもそも姫じゃないし。
     そんなの、あいつが勝手に『お前はこの世界を統べる御子、女王となるのだ』とか抜かしてただけよ。
     それを周りが適当に拾って、『猫姫』『猫姫サマ』『猫姫ちゃん』って……!」
    「あ、そうなんだ」
     ランドはポリポリと頭をかきながら、イールを上目遣いに見る形でしゃがみ、謝った。
    「それは悪かった。僕から謝るよ。……タイカ、言わないようにしてくれよ」
    「ああ、善処しよう」
     大火は机の端に座り込み、肩をすくめて同意する。
    「それでイール、その、アルコンだっけ。彼に脅されて、反乱軍を率いてたの?」
    「うん、そう。……まあ、あたしは、何て言うか、アルコンが言ってたんだけど、他の人に比べて、すごく魔力が強くて、おまけに魔術についてのセンスがいいんだって。
     だから、魔術をアルコンから教わって、で、それを使って四大軍閥のあっちこっちの拠点を攻撃してたら、人が付いてきちゃって……」
    「そうしていつの間にか、『猫姫』扱いか。……おっと失礼、ククク」
    「……あんた、底意地悪いわね」
     ようやく顔を挙げたイールは、今度はふくれっ面をしていた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    まったく逆ですね。
    アルコンは弱者の言うことを聞くようなタイプではありません。
    「そんな下らないことは捨て置け」と、イールに命令するでしょう。
    いなくなって良かったタイプです。

    NoTitle 

    アルコンいないと魚の恨み晴らせないv-390
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