「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・猫姫記 5
フォコの話、102話目。
とっておきの隠し峠。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
ランドの言い分に納得したイールは、フォコたち三人を伴って沿岸部南端のある村に来ていた。
「ここはブラックウッド。表向きは、杉の伐採と麦農業で細々と生計を立ててる村よ」
「ふーん」
確かにイールの言う通り、傍目にはのどかな農村にしか見えない。
が、かつて海賊と造船所員を兼業し、武具のカモフラージュに精通しているフォコの目はごまかされなかった。
「……多いですね、農具」
「えっ?」
「あんなちっちゃな納屋一つ一つに、何で鍬や鎌が7つも8つもかかってるんです? しかも刃が妙にギラギラ尖ってますし。
あれってもしかして、『いざと言う時』には形を組み替えて、曲刀とか槍とかにできたりしません?」
「す、鋭いわね」
看破されたイールは、驚いた目を向けてくる。
「そう、その通りよ。ここはあたしたち反乱軍の拠点の一つでもあるの。前に言ってた隠し峠を発見されないように、こうして農村を装ってるってわけ」
「じゃ、あそこでのんびり畑を耕してる人たちも……」
「そう、あたしたちの同志」
イールはそう答えつつ、畑を耕す老夫婦に手を振る。老夫婦は嬉しそうに、手を振り返してくれた。
「あの人たちも? 言い方は悪いかも知れないけど、戦闘の役に立つとは思えないけど……?」
そう尋ねたランドに、イールはほんの少し顔をしかめた。
「そりゃ、戦えないわよ。
でも戦争って、前線に出てる兵士だけの問題じゃないでしょ? 兵糧とか後方支援、司令塔もあって、それでちゃんと戦えるようになるってもんでしょ。
あの人たちはあたしたちの休める場所と食べれるご飯を守り、管理してくれてるのよ。……それに、戦いで犠牲になった同志の子供の世話も、ね」
「……なるほど。そっか、ごめんね」
「いいわよ、別に」
話しているうちに、一行は崖を背にして建てられた納屋の前に到着した。
「これもカモフラージュ。見た目も中も、ただの納屋」
中に入ると、確かにどこにでもありそうな納屋にしか見えない。
が、イールは納屋の壁の前で立ち止まり、格子上に組まれた木板の一枚を剥ぎ取り、中にあったレバーを引く。
「でもこの裏には……」
ガタンと音を立て、壁の一部が外向きに開く。
「あたしたちの切り札の一つ、山間部への隠し峠の道があるってわけ。
さ、行きましょ。結構険しいから、気を付けてね」
確かにイールの言う通り、峠道は険しかった。
四人の中で最も体力の無いランドが、真っ先にへばる。
「きゅ、きゅう、けい……」
「何言ってんの。まだ30分も登ってないわよ」
「嘘だろぉ……。僕の中じゃもう、2時間は経ってるよ……」
「……はぁ」
イールが呆れた様子で、ランドの背中に手をやる。
「背中押してあげるから、もうちょっと頑張んなさいよ」
「うぐうぅ……」
「もお……。まったく、こんなんじゃ半月くらいかかるわよ。あたしたちの脚でも、3、4日はかかるのに」
「うへぇ」
辛そうにしているランドを見て、フォコはふと、大火に尋ねてみた。
「タイカさんなら空飛ぶとか瞬間移動とか、ホイホイっとできそうな気しますけどね」
「……」
と、そう言ってみた途端、大火がほんのわずかにではあるが、ニヤリと笑みを返してきた。
「そう思うか?」
「え? ええ、はい」
「そうか。ならば見せてやろう」
大火はそう言うなり、へばっているランドの襟をぐい、とつかむ。
「へ、何……っ、わあああぁぁぁぁ……」
次の瞬間、大火とランドの姿は空高くに移る。
「少し行ったところで待っている。ゆっくり来るがいい」
「はーい」
「……」
素直に返事するフォコの横で、イールが憮然とした顔をしていた。
「何よアイツ……。調子乗りすぎでしょ」
「ま、ま。……おだてたら予想以上にノってくるタイプなんですね、タイカさん」
その後、大火を散々おだてたフォコの働きにより、一行はイールの見立てより随分早く、山間部に到着することができた。
「あれがノルド王国の首都、フェルタイルよ」
「首都? 本当に? ……なんだか静かな気がするんだけど。活気が無さすぎるって言うか」
「ま、ね。……到着したからって、気を抜いちゃダメよ。この国の政情は、ホントに不安定なんだからね」
「ああ。……行こう」
一行は街に向かい、歩を進めた。
火紅狐・猫姫記 終
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とっておきの隠し峠。
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ランドの言い分に納得したイールは、フォコたち三人を伴って沿岸部南端のある村に来ていた。
「ここはブラックウッド。表向きは、杉の伐採と麦農業で細々と生計を立ててる村よ」
「ふーん」
確かにイールの言う通り、傍目にはのどかな農村にしか見えない。
が、かつて海賊と造船所員を兼業し、武具のカモフラージュに精通しているフォコの目はごまかされなかった。
「……多いですね、農具」
「えっ?」
「あんなちっちゃな納屋一つ一つに、何で鍬や鎌が7つも8つもかかってるんです? しかも刃が妙にギラギラ尖ってますし。
あれってもしかして、『いざと言う時』には形を組み替えて、曲刀とか槍とかにできたりしません?」
「す、鋭いわね」
看破されたイールは、驚いた目を向けてくる。
「そう、その通りよ。ここはあたしたち反乱軍の拠点の一つでもあるの。前に言ってた隠し峠を発見されないように、こうして農村を装ってるってわけ」
「じゃ、あそこでのんびり畑を耕してる人たちも……」
「そう、あたしたちの同志」
イールはそう答えつつ、畑を耕す老夫婦に手を振る。老夫婦は嬉しそうに、手を振り返してくれた。
「あの人たちも? 言い方は悪いかも知れないけど、戦闘の役に立つとは思えないけど……?」
そう尋ねたランドに、イールはほんの少し顔をしかめた。
「そりゃ、戦えないわよ。
でも戦争って、前線に出てる兵士だけの問題じゃないでしょ? 兵糧とか後方支援、司令塔もあって、それでちゃんと戦えるようになるってもんでしょ。
あの人たちはあたしたちの休める場所と食べれるご飯を守り、管理してくれてるのよ。……それに、戦いで犠牲になった同志の子供の世話も、ね」
「……なるほど。そっか、ごめんね」
「いいわよ、別に」
話しているうちに、一行は崖を背にして建てられた納屋の前に到着した。
「これもカモフラージュ。見た目も中も、ただの納屋」
中に入ると、確かにどこにでもありそうな納屋にしか見えない。
が、イールは納屋の壁の前で立ち止まり、格子上に組まれた木板の一枚を剥ぎ取り、中にあったレバーを引く。
「でもこの裏には……」
ガタンと音を立て、壁の一部が外向きに開く。
「あたしたちの切り札の一つ、山間部への隠し峠の道があるってわけ。
さ、行きましょ。結構険しいから、気を付けてね」
確かにイールの言う通り、峠道は険しかった。
四人の中で最も体力の無いランドが、真っ先にへばる。
「きゅ、きゅう、けい……」
「何言ってんの。まだ30分も登ってないわよ」
「嘘だろぉ……。僕の中じゃもう、2時間は経ってるよ……」
「……はぁ」
イールが呆れた様子で、ランドの背中に手をやる。
「背中押してあげるから、もうちょっと頑張んなさいよ」
「うぐうぅ……」
「もお……。まったく、こんなんじゃ半月くらいかかるわよ。あたしたちの脚でも、3、4日はかかるのに」
「うへぇ」
辛そうにしているランドを見て、フォコはふと、大火に尋ねてみた。
「タイカさんなら空飛ぶとか瞬間移動とか、ホイホイっとできそうな気しますけどね」
「……」
と、そう言ってみた途端、大火がほんのわずかにではあるが、ニヤリと笑みを返してきた。
「そう思うか?」
「え? ええ、はい」
「そうか。ならば見せてやろう」
大火はそう言うなり、へばっているランドの襟をぐい、とつかむ。
「へ、何……っ、わあああぁぁぁぁ……」
次の瞬間、大火とランドの姿は空高くに移る。
「少し行ったところで待っている。ゆっくり来るがいい」
「はーい」
「……」
素直に返事するフォコの横で、イールが憮然とした顔をしていた。
「何よアイツ……。調子乗りすぎでしょ」
「ま、ま。……おだてたら予想以上にノってくるタイプなんですね、タイカさん」
その後、大火を散々おだてたフォコの働きにより、一行はイールの見立てより随分早く、山間部に到着することができた。
「あれがノルド王国の首都、フェルタイルよ」
「首都? 本当に? ……なんだか静かな気がするんだけど。活気が無さすぎるって言うか」
「ま、ね。……到着したからって、気を抜いちゃダメよ。この国の政情は、ホントに不安定なんだからね」
「ああ。……行こう」
一行は街に向かい、歩を進めた。
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