「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・合従記 3
フォコの話、105話目。
砦乗っ取り計画。
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3.
ランドの主張に、イールは反論する。
「できるわけないじゃない!」
「なぜ?」
「だって、王室は絶対納得しないわよ? 反発して、全域を支配したいって軍閥もあるし、まとまりっこないわ!」
「そうさせたいなら、させればいい。僕らだけで、新しく国を作ればいいんだ」
自分の常識の範疇を飛び越えた発想に、イールは唖然とした。
「く、国を作る?」
「そう。ノルド王国が同意しないなら、同意した者同士で国を抜けて、新しく立国すればいいんだ。
冷静に考えれば、手を組むメリットが非常に大きく、デメリットが非常に小さいことは誰にでも分かる。敵対して余計な戦費を使うよりも、協力して取引関係を築く方が、どれだけ得になるか――必ず、協力してくれるはずだ。
そして万一、協力できないところがあれば、その国、その共同体から締め出す。好きなだけ敵対させとけばいい。そうすればそのうち疲弊して、僕たちに協力を願い出るようになるさ。
この策が実れば、きっと『皆が』幸せになる」
「でも……、今さら敵対してきた奴らが、納得なんて」
「それを達成させるために、僕はこれからお願いするんだ。反乱軍を、そのために使ってもいいか、と」
ランドはキルシュ卿とイールに、深々と頭を下げた。
「お願いします。この策を、実行させていただけませんか?」
壮大な戦略に言葉を失ったイールを置いて、キルシュ卿は静かに尋ねてきた。
「その策には、……大きな問題がありますな」
「何でしょうか?」
「我々の国、と言えば聞こえはいい。ですが、国を構成するには、国王、人民、そして領土が必要になる。
人民は、反乱軍とすればよろしいでしょう。国王も、……まあ、イールや、私の息子なりを据えればいいでしょう。
ですが、領土は? まさか、この屋敷を領土と主張すると言うのですか?」
「……ふむ」
ランドはそこでもう一度、椅子に座り込んだ。
「確かにその点は、憂慮すべきではある。……ですが、手は無いわけではない。
イール」
ランドは呆然としたままのイールに声をかける。
「……え、な、なに?」
「どうやっても、間違いなく、絶対、この提案に乗らないだろう軍閥って、どこか無いかい?」
「何個もあるわよ」
「この近くだと?」
「そうね……、例えば四大軍閥の、ロドン中将。ここから西の、ミラーフィールド大塩湖北部を牛耳ってる、超が付くほどの野心家。絶対、協力なんてしやしないわ」
「そりゃいいや」
思いもよらない反応に、イールはまた呆然とする。
「何がいいのよ?」
「潰すには持って来い、ってことさ」
「潰すって……。反乱軍を使って? 無理よ、まだノルド峠は封鎖されたままだし、みんな登って来られないわ」
「いや、反乱軍の皆は別のことに使う。……タイカ、ちょっといいかな?」
ランドはくい、と顔を傍観していた大火に向けた。
「なんだ?」
「無理だと思うけどさ」
「言っただろう? 俺に無理なことなどない」
半日後、フォコたち一行はミラーフィールドと呼ばれる土地に立っていた。
「そっか、それなら良かった。流石だよ、タイカ」
「……」
どことなく得意げな大火を背に、ランドは眼下にそびえる砦を指差した。
「あれが、中将の本拠地?」
「そう、通称イスタス砦。2世紀くらいに造られた砦だけど、中将が金に飽かせて整備したおかげで、今じゃ難攻不落の場所よ。
どうやって陥とすつもり?」
「まあ、やりようによっては、たった一名の犠牲を出すだけで済むかな」
「一名? ……あんたまさか」
イールはランドが考えていることを推察する。
「中将を暗殺しようってんじゃないわよね!?」
「最悪の場合、そうしなきゃいけなくなるだろうけど、それよりももっと穏やかに事を済ませるつもりさ」
「あたしが言ったこと、忘れてないわよね? ここ、警備が半端じゃなく厳重なのよ? 何百人、いいえ、千、二千を超える兵士たちにガッチガチに守られてるのに、暗殺なんてできるわけないじゃない」
「だから、それは最悪の場合だってば。
僕だって何度も言うけどさ。力も度胸もないんだ、僕には。実力行使で押し通そうとするには、命が何個あったって足りやしない。
だからもっと別の、得意な方面から内部を切り崩す。……そのためには、やっぱり僕の、なけなしの度胸を使わなきゃいけないけど」
大火の術を使って内部に侵入した四人は、密かに倉庫へ押し入った。
「武器と食糧、か。金に飽かせて、って言ってただけはあるな。いっぱいある」
「どうするの、ここで?」
イールの問いに、ランドはすぐには答えず、腕を組んでしばらく考え込む。
「ねえ?」
「……そうだな、……タイカ」
「なんだ?」
「こんなことってできる? ここと、別の場所を瞬時に行き来できる方法、あるかな?」
「ある」
「そりゃいい」
ランドはいたずらっぽく、イールに笑いかけた。
「……あ!」
イールは辺りを見回し、思わず大声を出しかける。
「あんた、ここの備蓄を全部……」「しー」「むぐ」
それを抑えつつ、ランドは話を続ける。
「大体その通り。君が何度も教えてくれたように、ロドン中将の強みはこの堅固な砦と、大量の備蓄にある。
それをそっくり奪わせてもらうんだ。……と言っても、ただ単に、物理的にここから奪うって話じゃない。ちょっと、効果的な手を盛り込ませてもらう」
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砦乗っ取り計画。
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ランドの主張に、イールは反論する。
「できるわけないじゃない!」
「なぜ?」
「だって、王室は絶対納得しないわよ? 反発して、全域を支配したいって軍閥もあるし、まとまりっこないわ!」
「そうさせたいなら、させればいい。僕らだけで、新しく国を作ればいいんだ」
自分の常識の範疇を飛び越えた発想に、イールは唖然とした。
「く、国を作る?」
「そう。ノルド王国が同意しないなら、同意した者同士で国を抜けて、新しく立国すればいいんだ。
冷静に考えれば、手を組むメリットが非常に大きく、デメリットが非常に小さいことは誰にでも分かる。敵対して余計な戦費を使うよりも、協力して取引関係を築く方が、どれだけ得になるか――必ず、協力してくれるはずだ。
そして万一、協力できないところがあれば、その国、その共同体から締め出す。好きなだけ敵対させとけばいい。そうすればそのうち疲弊して、僕たちに協力を願い出るようになるさ。
この策が実れば、きっと『皆が』幸せになる」
「でも……、今さら敵対してきた奴らが、納得なんて」
「それを達成させるために、僕はこれからお願いするんだ。反乱軍を、そのために使ってもいいか、と」
ランドはキルシュ卿とイールに、深々と頭を下げた。
「お願いします。この策を、実行させていただけませんか?」
壮大な戦略に言葉を失ったイールを置いて、キルシュ卿は静かに尋ねてきた。
「その策には、……大きな問題がありますな」
「何でしょうか?」
「我々の国、と言えば聞こえはいい。ですが、国を構成するには、国王、人民、そして領土が必要になる。
人民は、反乱軍とすればよろしいでしょう。国王も、……まあ、イールや、私の息子なりを据えればいいでしょう。
ですが、領土は? まさか、この屋敷を領土と主張すると言うのですか?」
「……ふむ」
ランドはそこでもう一度、椅子に座り込んだ。
「確かにその点は、憂慮すべきではある。……ですが、手は無いわけではない。
イール」
ランドは呆然としたままのイールに声をかける。
「……え、な、なに?」
「どうやっても、間違いなく、絶対、この提案に乗らないだろう軍閥って、どこか無いかい?」
「何個もあるわよ」
「この近くだと?」
「そうね……、例えば四大軍閥の、ロドン中将。ここから西の、ミラーフィールド大塩湖北部を牛耳ってる、超が付くほどの野心家。絶対、協力なんてしやしないわ」
「そりゃいいや」
思いもよらない反応に、イールはまた呆然とする。
「何がいいのよ?」
「潰すには持って来い、ってことさ」
「潰すって……。反乱軍を使って? 無理よ、まだノルド峠は封鎖されたままだし、みんな登って来られないわ」
「いや、反乱軍の皆は別のことに使う。……タイカ、ちょっといいかな?」
ランドはくい、と顔を傍観していた大火に向けた。
「なんだ?」
「無理だと思うけどさ」
「言っただろう? 俺に無理なことなどない」
半日後、フォコたち一行はミラーフィールドと呼ばれる土地に立っていた。
「そっか、それなら良かった。流石だよ、タイカ」
「……」
どことなく得意げな大火を背に、ランドは眼下にそびえる砦を指差した。
「あれが、中将の本拠地?」
「そう、通称イスタス砦。2世紀くらいに造られた砦だけど、中将が金に飽かせて整備したおかげで、今じゃ難攻不落の場所よ。
どうやって陥とすつもり?」
「まあ、やりようによっては、たった一名の犠牲を出すだけで済むかな」
「一名? ……あんたまさか」
イールはランドが考えていることを推察する。
「中将を暗殺しようってんじゃないわよね!?」
「最悪の場合、そうしなきゃいけなくなるだろうけど、それよりももっと穏やかに事を済ませるつもりさ」
「あたしが言ったこと、忘れてないわよね? ここ、警備が半端じゃなく厳重なのよ? 何百人、いいえ、千、二千を超える兵士たちにガッチガチに守られてるのに、暗殺なんてできるわけないじゃない」
「だから、それは最悪の場合だってば。
僕だって何度も言うけどさ。力も度胸もないんだ、僕には。実力行使で押し通そうとするには、命が何個あったって足りやしない。
だからもっと別の、得意な方面から内部を切り崩す。……そのためには、やっぱり僕の、なけなしの度胸を使わなきゃいけないけど」
大火の術を使って内部に侵入した四人は、密かに倉庫へ押し入った。
「武器と食糧、か。金に飽かせて、って言ってただけはあるな。いっぱいある」
「どうするの、ここで?」
イールの問いに、ランドはすぐには答えず、腕を組んでしばらく考え込む。
「ねえ?」
「……そうだな、……タイカ」
「なんだ?」
「こんなことってできる? ここと、別の場所を瞬時に行き来できる方法、あるかな?」
「ある」
「そりゃいい」
ランドはいたずらっぽく、イールに笑いかけた。
「……あ!」
イールは辺りを見回し、思わず大声を出しかける。
「あんた、ここの備蓄を全部……」「しー」「むぐ」
それを抑えつつ、ランドは話を続ける。
「大体その通り。君が何度も教えてくれたように、ロドン中将の強みはこの堅固な砦と、大量の備蓄にある。
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戦闘パートで活躍するタイプではないので。
ドラ○エ4でト○ネコさんをボス戦に登用する頻度が少ないのと一緒。