「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・合従記 4
フォコの話、106話目。
上兵無兵。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フォコたち一行がキルシュ卿と会ってから、2ヶ月ほどが経った頃。
「横流し……、だと?」
イスタス砦の主、熊獣人のロドン将軍の耳に、不穏な噂が入った。
「はい。ここしばらくの間、倉庫からちょくちょく、物資が消えていると言う情報をお伝えしましたが……」
「ああ、覚えている。小麦や芋が一袋、二袋など、非常にわずかずつではあるが、毎日のように消えていると言うことだったな」
側近は短くうなずき、報告を続ける。
「はい。それで調べましたところ、どうも近辺の町村に、その消えた物資が出回っているようでして……」
「むう」
将軍は渋い顔をし、側近にこう命令した。
「事実ならば、我が軍閥の規律を大きく歪ませる由々しき事態だ。その近隣町村に出向き、真否を確認しろ」
「了解です」
一方、ノルド王国の首都、フェルタイル。
「塾では色んなこと学んだけど……」
イールの家で彼女と話していたランドが、こんな話をし始めた。
「一番衝撃的だったのは、戦略理論だったな」
「せん……りゃく?」
イールは聞いたこともない、と言うような顔をする。
「簡単に言うと、戦いをどう持っていくかって言う考え方だよ」
「あの、さ、ランド。あんたの言うこと、あたしはいっつも、よく分かんないって気持ちで聞いてるんだけど」
イールは肩をすくめ、自分の考えを述べる。
「戦いをどう持っていくって、どう考えても、結局は相手を倒して、自分が生き残るようにするもんでしょ?」
「それがもういけない。落第点だよ」
「はい?」
ランドも肩をすくめ、こう返した。
「戦いにおいて『戦う』『相手を潰す』って選択がもう既に、最低の方策なんだよ。ま、僕も最初、先生からこれを尋ねられた時は、そう返したけどさ」
「何それ……?」
「戦えばお金やモノを使うし、人も使う。消耗品、って意味で。
でもそれが何を生み出す? モノや金、人を消費しつくして、その先に何が生まれるだろうか?
『自分たちの軍が勝利した』、と言う達成感の他に、何を得られるだろう?」
「そりゃ、相手の陣地とか、お金とかでしょ?」
「相手も疲労してるんだ。ましてや、負けてボロボロになってる。豊かな土地や有り余るお金なんて、あるだろうか?」
「……そうね、そう言われたら、確かに」
深くうなずいたイールに、ランドはさらに自説を語る。
「だから戦いにおける最良の策は、『戦わずして勝つ』。無闇に争うことなく、ただ、勝利と利益のみを手にする」
「……ずっるー」
口をとがらせたイールに、ランドは「はは……」と苦笑した。
「そうだね、戦略って時にはずるいものだ。でも殴り合って互いに大ケガするよりは、随分マシな話だろ?」
「まあ、そう考えればそうだけど。
じゃあ、2か月前からあんたがやってることも、そう言うつもりなの?」
「うん」
そこでイールが、さらに深く尋ねてくる。
「それもあたし、よく分かんないのよ。なんで全部、一度に奪わないの? しかもあたしたちの懐に一切入れず、あの砦の周りの街にバラ撒いたりして……。
それもセンリャクなの?」
「そうだよ」
「調査した結果、やはり近隣に物資が出回っていたのは確かでした。ただ、横流しをしたのが何者か、までは……」「決まっている!」
側近の報告を、ロドン将軍は途中で遮った。
「この砦は堅固だ! 外からの侵入者など有り得ん!
犯人は我が軍の者以外になかろう!? それも下級の兵士どもだ!」
「そう、でしょうか……?」
「それ以外に誰が、こんな汚いことをすると言うのだ!?
わしか? お前か? せんだろう!? しなくとも、金をたんまり持っている! そんな下衆なことをするのは、金のない下の者だ!
徹底的に調べ上げるぞ! 下衆者を、我が軍に居させてたまるかッ!」
こうしてロドン将軍の主導により、イスタス砦中に監査が入った。
が、当然これは空振りに終わる。犯人はランドたちであり、砦内の兵士ではないのだ。犯人の見当がまるで外れているのに、監査の成果が挙がるわけもない。
そのうちに――砦内の空気に、不穏・不和の色が現れ始めた。
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フォコたち一行がキルシュ卿と会ってから、2ヶ月ほどが経った頃。
「横流し……、だと?」
イスタス砦の主、熊獣人のロドン将軍の耳に、不穏な噂が入った。
「はい。ここしばらくの間、倉庫からちょくちょく、物資が消えていると言う情報をお伝えしましたが……」
「ああ、覚えている。小麦や芋が一袋、二袋など、非常にわずかずつではあるが、毎日のように消えていると言うことだったな」
側近は短くうなずき、報告を続ける。
「はい。それで調べましたところ、どうも近辺の町村に、その消えた物資が出回っているようでして……」
「むう」
将軍は渋い顔をし、側近にこう命令した。
「事実ならば、我が軍閥の規律を大きく歪ませる由々しき事態だ。その近隣町村に出向き、真否を確認しろ」
「了解です」
一方、ノルド王国の首都、フェルタイル。
「塾では色んなこと学んだけど……」
イールの家で彼女と話していたランドが、こんな話をし始めた。
「一番衝撃的だったのは、戦略理論だったな」
「せん……りゃく?」
イールは聞いたこともない、と言うような顔をする。
「簡単に言うと、戦いをどう持っていくかって言う考え方だよ」
「あの、さ、ランド。あんたの言うこと、あたしはいっつも、よく分かんないって気持ちで聞いてるんだけど」
イールは肩をすくめ、自分の考えを述べる。
「戦いをどう持っていくって、どう考えても、結局は相手を倒して、自分が生き残るようにするもんでしょ?」
「それがもういけない。落第点だよ」
「はい?」
ランドも肩をすくめ、こう返した。
「戦いにおいて『戦う』『相手を潰す』って選択がもう既に、最低の方策なんだよ。ま、僕も最初、先生からこれを尋ねられた時は、そう返したけどさ」
「何それ……?」
「戦えばお金やモノを使うし、人も使う。消耗品、って意味で。
でもそれが何を生み出す? モノや金、人を消費しつくして、その先に何が生まれるだろうか?
『自分たちの軍が勝利した』、と言う達成感の他に、何を得られるだろう?」
「そりゃ、相手の陣地とか、お金とかでしょ?」
「相手も疲労してるんだ。ましてや、負けてボロボロになってる。豊かな土地や有り余るお金なんて、あるだろうか?」
「……そうね、そう言われたら、確かに」
深くうなずいたイールに、ランドはさらに自説を語る。
「だから戦いにおける最良の策は、『戦わずして勝つ』。無闇に争うことなく、ただ、勝利と利益のみを手にする」
「……ずっるー」
口をとがらせたイールに、ランドは「はは……」と苦笑した。
「そうだね、戦略って時にはずるいものだ。でも殴り合って互いに大ケガするよりは、随分マシな話だろ?」
「まあ、そう考えればそうだけど。
じゃあ、2か月前からあんたがやってることも、そう言うつもりなの?」
「うん」
そこでイールが、さらに深く尋ねてくる。
「それもあたし、よく分かんないのよ。なんで全部、一度に奪わないの? しかもあたしたちの懐に一切入れず、あの砦の周りの街にバラ撒いたりして……。
それもセンリャクなの?」
「そうだよ」
「調査した結果、やはり近隣に物資が出回っていたのは確かでした。ただ、横流しをしたのが何者か、までは……」「決まっている!」
側近の報告を、ロドン将軍は途中で遮った。
「この砦は堅固だ! 外からの侵入者など有り得ん!
犯人は我が軍の者以外になかろう!? それも下級の兵士どもだ!」
「そう、でしょうか……?」
「それ以外に誰が、こんな汚いことをすると言うのだ!?
わしか? お前か? せんだろう!? しなくとも、金をたんまり持っている! そんな下衆なことをするのは、金のない下の者だ!
徹底的に調べ上げるぞ! 下衆者を、我が軍に居させてたまるかッ!」
こうしてロドン将軍の主導により、イスタス砦中に監査が入った。
が、当然これは空振りに終わる。犯人はランドたちであり、砦内の兵士ではないのだ。犯人の見当がまるで外れているのに、監査の成果が挙がるわけもない。
そのうちに――砦内の空気に、不穏・不和の色が現れ始めた。
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