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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・因縁録 2

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    晴奈の話、85話目。
    「戦略家」エルス、本領発揮。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「アンタら、何遊んでんのよ!」
     囲碁の対局が進み、5戦目を迎えたところでリストが呼びに来た。
    「ん、何かあったの、リスト?」
    「あった、じゃ無いわよ! 敵がもう、すぐそこまで来てんのよ!」
    「ありゃ、そっかー……。折角、2勝2敗ってところだったのになぁ。じゃ、また後で続きやろっか」
    「そうだな。きっちり片を付けたいところだ」
     晴奈とエルスは少し名残惜しさを感じながらも、リストの後に続いた。街の南西部へ進みながら、リストから状況について説明を受ける。
    「ざっと説明するとね。街の南西門から、約10キロ西南西のところに敵の先発隊が3~4隊いるらしいわ。そこからさらに南に3キロほど下ったところに、本隊が陣を構えてるみたいよ」
     説明しているうちに、南西門へ到着する。
    「そっか、なるほど。……よし、みんなを呼んで」
     エルスは短くうなずくと、周囲の剣士たちを呼び集めて輪を作った。
    「それじゃ作戦を説明するから、よく聞いておいて。
     敵は恐らく街を囲んでいる壁を崩し、そこから侵入するつもりだろう。でも、あえてそれは放っておこう」
     エルスの言葉に剣士たちは驚き、どよめく。
    「な、何故?」
    「一体どう言うつもりだ?」
    「ま、落ち着いて聞いて、聞いて。
     簡単に言うとね、それらと戦っても相手にはまったく痛手が無いんだよ、『下っ端』だから。それに相手の数は半端じゃない。いくらみんなが体力自慢、力自慢って言っても、数があまりにも多すぎる。全部相手してたら屈強な剣士といえども、力尽きて倒れるのがオチだよ。
     それよりももっと効果的で、敵に大きな痛手を負わせる方法がある」
     エルスは懐から書類を取り出し――先ほど書いていた兵法と地図だ――皆に見せる。
    「報告によれば、敵の本陣はここから13キロ離れた場所にあるらしい。そこには間違いなく、この大部隊を指揮している者がいるはずだ。で、それを倒す」
    「なるほど、頭を叩くと言うわけか」
     晴奈の相槌に、エルスは大きくうなずく。
    「そう言うこと。教団は人海戦術や物量作戦を得意とする、大掛かりな組織。そう言った組織は得てして『上』の権力が非常に強く、『下』の意思が希薄だ。
     だから指揮官を倒してしまえば残った大部隊は混乱し、その結果最も執りやすく被害の少ない作戦、つまり撤退を選ぶだろう」

     協議の結果、エルスは南西門周辺での指揮を担当し、晴明姉妹とリスト、そして手練の剣士十数名が敵本陣に忍び込むことになった。
     晴奈たちは黄海のもう一つの出入り口、南東門から敵部隊に気付かれないようにそっと抜け出し、街道を横切って森の中に入り、そこから敵本陣に向かって進み始めた。
    「敵が壁を崩すまで、恐らく3~4時間はかかる。それまでに敵本陣に攻め込み、頭を獲るぞ! 全速、前進ッ!」
    「おうッ!」
     晴奈の号令に、剣士たちは拳を振り上げて付き従う。森の中を分け入り、一直線に西へと進んでいく。
     だが、はじめの頃は黙々と付いてきた剣士たちも、時間が経つに連れて段々と不安を口にし始める。
    「本当に、街を放っておいて良いものか……?」
    「もし間に合わなかったら、えらいことになるぞ」
    「やはり、戻って防衛に努めた方が……」
     ブツブツと騒ぐ剣士たちに、晴奈とリストの特徴的な耳がピクピクとイラつき始める。その耳に、決して彼女らに言ってはならない一言が飛び込んできた。
    「大体あの外人、信用できるのか?」
     聞こえた途端、二人はギロリと後ろを睨んだ。
    「アンタら、ふざけたコトくっちゃべってると、その軽い口ごと、頭吹っ飛ばすわよ!」
    「くだらぬ妄想をほざくな、お前らッ! 黙って進め!」
     剣士たちはその剣幕に圧され、それきり不安を口にすることは無くなった。



     ほぼ同じ頃、ウィルバーはほんのわずかながら、ぞくりと殺気を感じた。
    (……? ん……、何だ、今の『気』は?)
     くるりと辺りを見回すが、それらしいものは何も見えない。
    「おい」
     不安を感じ、横にいた従者に声をかける。
    「はい、何でございましょう?」
     かけたものの、それほど強く不安を感じたわけではないため、やんわりと命じる。
    「……ん、まあ、念のため、見回りを強化するよう、皆に指示しておいてくれ」
    「はあ……?」
     従者は首をかしげ、ウィルバーの言葉を繰り返す。
    「見回りの強化、ですか?」
    「そうだ。少し、気になってな。まあ、ちょっとでいいんだ」
    「必要ないと思われるのですが……。奴らは街を守るので精一杯でしょうし」
     従者の言葉にうなずきかけたが、そこでまた、ウィルバーの心中に不安がよぎる。
    「ん……。まあ、確かに、そうかも知れない。だが、気になってな。頼んだぞ」
    「はあ、そうですか。では、まあ、伝えてまいります」
     従者はのそのそとウィルバーの側を離れる。残ったウィルバーは心の中で毒づいた。
    (はっ! まったく、気の無い素振りだな! このオレが、『やれ』と言ってるだろうが!)

     ウィルバーから離れた従者は、途端に態度を変えて愚痴をこぼす。
    「フン、まったく心配性なお坊ちゃんだ!」
     ポットを乱暴につかみ、直接口に付けて飲みだす。
    「来るわけない! あんな馬鹿で粗雑な剣士どもが、目先の敵、先発隊を相手にしないわけが無いんだ! 無駄だ、無駄! だーれが、見回りなんかするかっての!」
     周りに誰もいないため、従者の愚痴は止まる気配が無い。もう一度ポットを上げて、二口目を飲んでから、さらに愚痴を続けようとした。
     ところが顔の上に上げていたポットが、パンと言う音と共に突然、破裂した。当然、中の液体とポットの破片が従者の顔に降り注ぐ。
    「ぎえ……!? っちゃ、熱ちちちっ!」
     顔を押さえ、何が起こったのか分からずもがく。
     だが、その途中で意識が飛んだ。鳩尾を、内臓が飛び出すかと思うほど強く蹴っ飛ばされたからだ。

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    2008.10.09 転載
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