「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・融計記 1
フォコの話、117話目。
バッティング。
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1.
順風満帆に地域経済を立て直していくジーン王国に転機が訪れたのは308年、極寒の北方大陸山間部に、ようやく春の兆しが仄見えようかと言う頃だった。
「え……? どっちなの?」
「両方です」
「両方って……、ギジュン准将とスノッジ少将が、同時に?」
連絡を受けたイールは、非常に驚いた。
なんと、残る四大軍閥のトップ2名が、同時にジーン王国を訪れたと言うのだ。
「じゃあ、今この砦に、二人が来てるって言うの?」
「はい。……それでサンドラ閣下、あの」
「何よ?」
「間違えて、お二方を同じ待合室に案内してしまったんです。……どうか、仲立ちを」
「あたしが? えー……」
イールは猫耳を伏せ、嫌そうな声を漏らした。
「……」
「……」
その待合室にて。
四大軍閥、とくくられてはいるが、全員の仲がいいわけではない。元々反発して、個別に領土を牛耳った者たちである。
待合室の空気は、険悪そのものだった。
「……なんです?」
先に口を開いたのは、スノッジ将軍の方だった。
「何も言ってねーだろ、おばはん」
「……」
それきり、両者ともそっぽを向いてしまう。
「……ったく、なんでこの俺がこんな年増と相席しなきゃなんねーんだか」
と、今度はギジュン将軍がぼそ、とつぶやく。
「わたくしも、あなたのような野蛮人と同席など、したくもありません」
じわじわと、両者の間に火花が散り始める。
「あ……? 誰が野蛮人だ? 気取りやがって」
「おお、なんと口汚いことでしょう。耳が腐ってしまいますわ」
「いいじゃねーか。長すぎるくらいだし、腐らせちまえよ」
「あなたの尻尾も少しは整えらしては? まるで古びたモップのようですし」
「ケンカ売ってんのか、おばはん」
「それはあなたの方でしょう? まったく、気は短い、口は汚い、尻尾も汚い。よく将軍などと名乗れますね」
「……てめえ」
ガタ、と椅子を倒し、ギジュン将軍が立ち上がる。と同時に、スノッジ将軍が魔杖を構える。
「そのケンカ、買ってやる!」
「望むところです」
と、今にもつかみかかろうとしたところで――。
「やめなさいよ、あんたたち! 人の砦で、そんなことさせないわよ!」
イールが仲裁に入り、高まっていた二人の緊張が解けた。
「……フン」「……」
席に着き直した両者を確認し、イールは彼らに尋ねた。
「で、何の用なの? 宣戦布告でもしに来たの?」
「なわけねーだろ。……内々で話したいことがあって尋ねた。人払いを頼む」
と、この言葉にスノッジ将軍が反発した。
「人払い? わたくしのことですか? お断りします。
サンドラ、……卿、わたくしも密かに伺いたいことがあるので、人払いを」
「俺の方が先だ。すっこんでろ、ババア」
「わたくしの方が年長ですよ。従いなさい、お坊ちゃん」
「ざけんな!」
またも飛びかかろうとしたギジュン将軍に、イールは平手打ちを食らわせた。
「バカじゃないの、あんたたち」
「何すんだよ!」
「こんなケダモノと一緒にしないでください」
「もっかい言うわよ、バカなのねあんたたち。
ここはソーリン砦でも、アーゼル砦でもないわ。あんたらのお家じゃないのよ? それなのにまあ、ギャーギャー騒いで。んなことやりたいなら、外でやんなさいよ。
で、話って何よ? 今ここで説明しなきゃ、二人とも追い出すわよ」
「……」
イールの剣幕に、二人は黙り込んだ。
「話しなさいよ。それとも日が暮れるまでずーっと、あたしをにらむつもり?」
「……では、わたくしから」
ようやくスノッジ将軍が折れ、口を開いた。
「サンドラ卿もご存じの通り、わたくしの守る砦はミラーフィールド南岸部にあります。そして同時に、ノルド王国首都であるフェルタイルにも近い場所です。
そのフェルタイルにて、最近また、グランの増発が行われたようなのです」
「ふうん……?」
「つまり、まとまったお金が必要になる行動を執ろうとしている、ってわけさ」
と、そこにランドがやってきて、助け舟を出してくれた。
「それは何か? 半世紀やってない道路の整備? 困ってる人民の救済?
いや、それよりも、最近裕福になりつつあるミラーフィールド、即ちこのジーン王国への侵攻、と考えた方が自然だ」
「あら、お分かりになる方がいらっしゃったのですね」
「あまり我々を愚弄しないでいただきたいですね、将軍閣下。
で、つまるところは閣下、あなたも資金繰りのためにいらっしゃったのでしょう?」
「そうです。概ねは」
スノッジ将軍は含みのあるセリフとともに、こくりとうなずいた。
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バッティング。
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順風満帆に地域経済を立て直していくジーン王国に転機が訪れたのは308年、極寒の北方大陸山間部に、ようやく春の兆しが仄見えようかと言う頃だった。
「え……? どっちなの?」
「両方です」
「両方って……、ギジュン准将とスノッジ少将が、同時に?」
連絡を受けたイールは、非常に驚いた。
なんと、残る四大軍閥のトップ2名が、同時にジーン王国を訪れたと言うのだ。
「じゃあ、今この砦に、二人が来てるって言うの?」
「はい。……それでサンドラ閣下、あの」
「何よ?」
「間違えて、お二方を同じ待合室に案内してしまったんです。……どうか、仲立ちを」
「あたしが? えー……」
イールは猫耳を伏せ、嫌そうな声を漏らした。
「……」
「……」
その待合室にて。
四大軍閥、とくくられてはいるが、全員の仲がいいわけではない。元々反発して、個別に領土を牛耳った者たちである。
待合室の空気は、険悪そのものだった。
「……なんです?」
先に口を開いたのは、スノッジ将軍の方だった。
「何も言ってねーだろ、おばはん」
「……」
それきり、両者ともそっぽを向いてしまう。
「……ったく、なんでこの俺がこんな年増と相席しなきゃなんねーんだか」
と、今度はギジュン将軍がぼそ、とつぶやく。
「わたくしも、あなたのような野蛮人と同席など、したくもありません」
じわじわと、両者の間に火花が散り始める。
「あ……? 誰が野蛮人だ? 気取りやがって」
「おお、なんと口汚いことでしょう。耳が腐ってしまいますわ」
「いいじゃねーか。長すぎるくらいだし、腐らせちまえよ」
「あなたの尻尾も少しは整えらしては? まるで古びたモップのようですし」
「ケンカ売ってんのか、おばはん」
「それはあなたの方でしょう? まったく、気は短い、口は汚い、尻尾も汚い。よく将軍などと名乗れますね」
「……てめえ」
ガタ、と椅子を倒し、ギジュン将軍が立ち上がる。と同時に、スノッジ将軍が魔杖を構える。
「そのケンカ、買ってやる!」
「望むところです」
と、今にもつかみかかろうとしたところで――。
「やめなさいよ、あんたたち! 人の砦で、そんなことさせないわよ!」
イールが仲裁に入り、高まっていた二人の緊張が解けた。
「……フン」「……」
席に着き直した両者を確認し、イールは彼らに尋ねた。
「で、何の用なの? 宣戦布告でもしに来たの?」
「なわけねーだろ。……内々で話したいことがあって尋ねた。人払いを頼む」
と、この言葉にスノッジ将軍が反発した。
「人払い? わたくしのことですか? お断りします。
サンドラ、……卿、わたくしも密かに伺いたいことがあるので、人払いを」
「俺の方が先だ。すっこんでろ、ババア」
「わたくしの方が年長ですよ。従いなさい、お坊ちゃん」
「ざけんな!」
またも飛びかかろうとしたギジュン将軍に、イールは平手打ちを食らわせた。
「バカじゃないの、あんたたち」
「何すんだよ!」
「こんなケダモノと一緒にしないでください」
「もっかい言うわよ、バカなのねあんたたち。
ここはソーリン砦でも、アーゼル砦でもないわ。あんたらのお家じゃないのよ? それなのにまあ、ギャーギャー騒いで。んなことやりたいなら、外でやんなさいよ。
で、話って何よ? 今ここで説明しなきゃ、二人とも追い出すわよ」
「……」
イールの剣幕に、二人は黙り込んだ。
「話しなさいよ。それとも日が暮れるまでずーっと、あたしをにらむつもり?」
「……では、わたくしから」
ようやくスノッジ将軍が折れ、口を開いた。
「サンドラ卿もご存じの通り、わたくしの守る砦はミラーフィールド南岸部にあります。そして同時に、ノルド王国首都であるフェルタイルにも近い場所です。
そのフェルタイルにて、最近また、グランの増発が行われたようなのです」
「ふうん……?」
「つまり、まとまったお金が必要になる行動を執ろうとしている、ってわけさ」
と、そこにランドがやってきて、助け舟を出してくれた。
「それは何か? 半世紀やってない道路の整備? 困ってる人民の救済?
いや、それよりも、最近裕福になりつつあるミラーフィールド、即ちこのジーン王国への侵攻、と考えた方が自然だ」
「あら、お分かりになる方がいらっしゃったのですね」
「あまり我々を愚弄しないでいただきたいですね、将軍閣下。
で、つまるところは閣下、あなたも資金繰りのためにいらっしゃったのでしょう?」
「そうです。概ねは」
スノッジ将軍は含みのあるセリフとともに、こくりとうなずいた。
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