「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・融計記 2
フォコの話、118話目。
腹黒おばはん。
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2.
ランドたちとスノッジ将軍は場を変え、ギジュン将軍に聞かれないよう、密談に進んだ。
「名目上、ソーリン砦もノルド王国の領地ですし、首都の本軍がやってくれば、我々のところに駐留することになるでしょう。
が、通貨を増発しているとは言え、相手は極貧の大軍。となると我々が何かと面倒を見なければならなくなるのは、明白。試算の結果、我々の資産だけでは足りなくなるだろう、と言う意見が出たので、わたくし自らがこうして、あなた方のところに出向いたわけです」
「ほう。しかしそう言うことであれば、あなたがこちらへいらっしゃるのは、まずいことなのでは? ジーン王国は、ノルド王国にとって敵になりますし」
「名目上は、です。実質的には敵でも味方でもなく、ただの取引相手です。
万が一ノルド王国があなた方を倒すなら、そのままノルド王国に付いていればいい。このまま順当にジーン王国が成長を続けるなら、そのままジーン王国と取引を続ければいい。
ただそれだけの話です」
スノッジ将軍は、にべもなくそう言ってのけた。
「では今回、こちらへいらっしゃったのは、単に無心だけではない、と言うことですね」
ランドの問いに、スノッジ将軍はうなずいた。
「ええ。今リークした通り、近々ノルド王国は軍を率いて、あなた方のところに侵攻してきます。これは値千金の情報でしょう?」
「確かに」
「これに千金でなくとも、いくらかの値をつけていただきたいのですが」
「ふむ」
スノッジ将軍の慇懃無礼な態度と、あまりの厚かましさに、イールは目を吊り上らせる。
「あんたねぇ……。こっちは別に、そんな情報ほしいって言って……」「イール、いいよ」
が、ランドはそれを遮り、同意した。
「分かりました。我々の財務担当を呼んでまいりますので、少々お待ちを」
「いいの?」
「ああ。確かに今聞いた情報の価値は高い。対価を要求されるのならば、応じないわけには行かない」
数分後、フォコがその場にやってきた。
「すみません、お待たせしまして」
「いえいえ」
「情報料を、ちゅうことでしたね。お支払いは何でさせてもらいましょうか? グランで? それともステラにしましょか?」
そう問われ、スノッジ将軍はこう返した。
「クラムでお願いいたします。確かな価値がありますし」
これには普段は温厚なフォコも、内心カチンと来た。
(どこまで失礼なおばはんやねん……。ステラ通貨圏のド真ん中で、それを言うんか)
が、後々のことを考え、平静を装ってうなずいた。
「かしこまりました。それでは1000万クラムを」
「そんなに……!?」
驚くイールに、フォコはにっこりと笑って返す。
「ええ。敵さんが攻めてくる、ちゅうのんは早めに知っておけば知っておくほど、色々と対策が打てますし。1000万の価値はあります」
「ありがとうございます」
「すぐにご用意させていただきます。これからもどうぞ、良い取引相手と言うことで、ごひいきに」
フォコはぺこりと頭を下げ、スノッジ将軍との話を切り上げようとした。
ところが――。
「ああ、まだお話は終わりではないですよ」
「はい?」
「もう一つ、耳寄りな提案があります。
その、攻め込んでくるノルド軍。当然、わたくしの軍もそれに参加することになりますが、もしあなた方が何らかの誠意を見せてくれるのならば、その侵攻を妨害できます」
この提案に、イールとフォコはそれぞれ、嫌なものを感じた。
(どこまで腹黒いねん、このおばはん……。そら、将軍になれるわな)
(攻めてこさせないように取引って……。あくまでも、敵じゃないって言うのね、ジーン王国は。どんだけなめてんのよ、あたしらを)
が、確かに魅力的な案だと言える。ランドはこの提案に、即座に応じた。
「なるほど。……そうですね、ではこうしましょう。
まず、前渡しで1000万クラム。妨害に成功し、ノルド王国軍が撤退すれば、もう1000万。
そして……」
ランドはわずかに口の端を歪ませ、こう提案し返した。
「妨害だけではなく、戦闘中に我々に寝返っていただければ――1億」
「お、く……っ!?」
この提案に、イールは目を丸くする。そしてふてぶてしい態度を執っていたスノッジ将軍も、流石に面食らったらしい。
「それは……、本当に、1億を? 1億クラムで? 確約していただけますか?」
「ええ、勿論。構わないよね、ホコウ」
「は、い。本当に、我々の完全な味方になってもらえるちゅうことでしたら、まあ……」
それを聞いて、スノッジ将軍はゴクリと喉を鳴らす。
「……寝返る、と言うことは、つまり戦闘中に、ノルド王国軍を攻撃しろ、と、そう言うことですね?」
「はい」
「そして、それはつまり、ジーン王国の傘下に収まれ、と?」
「いいえ」
ランドはこの質問に、横に首を振る。
「私たちはあくまで取引相手、でしょう? ノルド王国に反旗を翻した後は、スノッジ王国でも何でもお作りになればいい。
勿論、我々の傘下に収まっていただいても、それはそれでありがたいことですが」
「……」
スノッジ将軍はしばらくして、ニヤッと笑った。
「……引き受けましょう。念のため、証文もお願いします」
「ええ」
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2011.01.02に、ブログの総拍手数が1000件を迎えました。
皆様、ありがとうございます。
これからも多くの評価をいただけるよう、頑張ります。
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腹黒おばはん。
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ランドたちとスノッジ将軍は場を変え、ギジュン将軍に聞かれないよう、密談に進んだ。
「名目上、ソーリン砦もノルド王国の領地ですし、首都の本軍がやってくれば、我々のところに駐留することになるでしょう。
が、通貨を増発しているとは言え、相手は極貧の大軍。となると我々が何かと面倒を見なければならなくなるのは、明白。試算の結果、我々の資産だけでは足りなくなるだろう、と言う意見が出たので、わたくし自らがこうして、あなた方のところに出向いたわけです」
「ほう。しかしそう言うことであれば、あなたがこちらへいらっしゃるのは、まずいことなのでは? ジーン王国は、ノルド王国にとって敵になりますし」
「名目上は、です。実質的には敵でも味方でもなく、ただの取引相手です。
万が一ノルド王国があなた方を倒すなら、そのままノルド王国に付いていればいい。このまま順当にジーン王国が成長を続けるなら、そのままジーン王国と取引を続ければいい。
ただそれだけの話です」
スノッジ将軍は、にべもなくそう言ってのけた。
「では今回、こちらへいらっしゃったのは、単に無心だけではない、と言うことですね」
ランドの問いに、スノッジ将軍はうなずいた。
「ええ。今リークした通り、近々ノルド王国は軍を率いて、あなた方のところに侵攻してきます。これは値千金の情報でしょう?」
「確かに」
「これに千金でなくとも、いくらかの値をつけていただきたいのですが」
「ふむ」
スノッジ将軍の慇懃無礼な態度と、あまりの厚かましさに、イールは目を吊り上らせる。
「あんたねぇ……。こっちは別に、そんな情報ほしいって言って……」「イール、いいよ」
が、ランドはそれを遮り、同意した。
「分かりました。我々の財務担当を呼んでまいりますので、少々お待ちを」
「いいの?」
「ああ。確かに今聞いた情報の価値は高い。対価を要求されるのならば、応じないわけには行かない」
数分後、フォコがその場にやってきた。
「すみません、お待たせしまして」
「いえいえ」
「情報料を、ちゅうことでしたね。お支払いは何でさせてもらいましょうか? グランで? それともステラにしましょか?」
そう問われ、スノッジ将軍はこう返した。
「クラムでお願いいたします。確かな価値がありますし」
これには普段は温厚なフォコも、内心カチンと来た。
(どこまで失礼なおばはんやねん……。ステラ通貨圏のド真ん中で、それを言うんか)
が、後々のことを考え、平静を装ってうなずいた。
「かしこまりました。それでは1000万クラムを」
「そんなに……!?」
驚くイールに、フォコはにっこりと笑って返す。
「ええ。敵さんが攻めてくる、ちゅうのんは早めに知っておけば知っておくほど、色々と対策が打てますし。1000万の価値はあります」
「ありがとうございます」
「すぐにご用意させていただきます。これからもどうぞ、良い取引相手と言うことで、ごひいきに」
フォコはぺこりと頭を下げ、スノッジ将軍との話を切り上げようとした。
ところが――。
「ああ、まだお話は終わりではないですよ」
「はい?」
「もう一つ、耳寄りな提案があります。
その、攻め込んでくるノルド軍。当然、わたくしの軍もそれに参加することになりますが、もしあなた方が何らかの誠意を見せてくれるのならば、その侵攻を妨害できます」
この提案に、イールとフォコはそれぞれ、嫌なものを感じた。
(どこまで腹黒いねん、このおばはん……。そら、将軍になれるわな)
(攻めてこさせないように取引って……。あくまでも、敵じゃないって言うのね、ジーン王国は。どんだけなめてんのよ、あたしらを)
が、確かに魅力的な案だと言える。ランドはこの提案に、即座に応じた。
「なるほど。……そうですね、ではこうしましょう。
まず、前渡しで1000万クラム。妨害に成功し、ノルド王国軍が撤退すれば、もう1000万。
そして……」
ランドはわずかに口の端を歪ませ、こう提案し返した。
「妨害だけではなく、戦闘中に我々に寝返っていただければ――1億」
「お、く……っ!?」
この提案に、イールは目を丸くする。そしてふてぶてしい態度を執っていたスノッジ将軍も、流石に面食らったらしい。
「それは……、本当に、1億を? 1億クラムで? 確約していただけますか?」
「ええ、勿論。構わないよね、ホコウ」
「は、い。本当に、我々の完全な味方になってもらえるちゅうことでしたら、まあ……」
それを聞いて、スノッジ将軍はゴクリと喉を鳴らす。
「……寝返る、と言うことは、つまり戦闘中に、ノルド王国軍を攻撃しろ、と、そう言うことですね?」
「はい」
「そして、それはつまり、ジーン王国の傘下に収まれ、と?」
「いいえ」
ランドはこの質問に、横に首を振る。
「私たちはあくまで取引相手、でしょう? ノルド王国に反旗を翻した後は、スノッジ王国でも何でもお作りになればいい。
勿論、我々の傘下に収まっていただいても、それはそれでありがたいことですが」
「……」
スノッジ将軍はしばらくして、ニヤッと笑った。
「……引き受けましょう。念のため、証文もお願いします」
「ええ」
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