「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・融計記 3
フォコの話、119話目。
金融と計略。
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3.
スノッジ将軍との会談を終え、フォコたちは続いてギジュン将軍の話を聞くことにした。
「頼む! 金、貸してくれ!」
スノッジ将軍と違い、ギジュン将軍は熱血漢の、直情径行な性質だった。
「え、と。閣下、今我々が行っている政策、経営方針はご存じですよね? でなければ閣下自らが、こちらへお越しになるわけがない、……と思うんですけども」
「分かっている。……承知で、言ってる」
ギジュン将軍は、深々と頭を下げた。
「この通りだ!」
「……何や、事情がありそうな感じしますね? 良かったら、聞かせてもろてもええですか?」
そう問いかけたフォコに、ギジュン将軍は妙な顔をして頭を上げた。
「アンタ……、変なしゃべり方だな。妙な訛りがあると言うか。……ああ、関係のないことだな、すまん」
「いえいえ」
「その、つまりだな。サンドラ、……卿は知っているよな、俺に妹がいることを」
「あんたらね……。一々あたしにケンカ売らないと話できないの?」
取って付けたような敬称に、イールはいらだたしげに尻尾を震わせる。
「すまん。だってあの『猫姫』が、よもや将軍になるなんて思いも、……す、すまん。俺は口が悪いんだ」
「いいけどさ……。
まあ、知ってるっちゃ知ってるわよ。あんた、妹がいるのよね。で、その子はイドゥン少将に軟禁されて、もう半年以上経ってる。そうよね?」
「そうだ。……もしかしたらもう手籠めにされて、無理矢理結婚させられているかも分からん。それでも俺のたった一人の肉親、大事な妹だ。助けられるなら、何としてでも助けてやりたいんだ。
そう思っていたところに、イドゥン卿の動向について、情報が飛び込んできた。どうも俺を打ち負かし、峠の封鎖を解かせたいらしい。そしてイリア……、妹にとってたった一人の肉親である俺を亡き者にして、諦めを付けさせたいらしい、とも」
「それだけやないでしょうね。聞くところによれば、中央の商人から多額の借金をしてて、その形にあれやこれや指図されとるらしいですし、これも恐らくは……」
「それも関係しているだろうな。……何にせよ、イドゥン卿は攻めてくる。
地の利は俺にあるが、人の利、すなわち兵士の数や装備は、イドゥン卿に大きく分がある。激戦、泥沼になることは必至だ。
長引けば資金や備蓄の多寡が勝敗を分ける。借金まみれにはなるが、イドゥン卿には金ヅルがいるからな。俺の方が不利になるのは明白なんだ。だからこうして、無心に来たんだ。
頼む! これ以上イドゥン卿に下衆な振る舞いはしてほしくないし、妹の身も気がかりなんだ。少しだけでもいいから、貸してくれ」
「振る舞いは……、してほしくない?」
尋ねたフォコに、イールが代わりに答える。
「ギジュン卿がこの若さで准将になれたのは、その武勲も大きいけど、イドゥン将軍の根回しがあったからなのよ。借金まみれになる前は、それなりに気骨のあった人だし。
さっきのスノッジ将軍や、あたしたちが追い出したロドン将軍みたいな、ろくでもない奴らばっかりだったノルド王国軍の立て直しを、数年前の彼は真面目に考えてたのよ」
「だけど、立て直しには金がいる。それで借金したら、そいつに縛られたってわけさ」
ギジュン将軍はもう一度、深々と頭を下げた。
「頼む……! もうこれ以上、俺の恩人が最低の奴になっていくのを見るのは、耐えられないんだ……!」
「……」
フォコはしばらく自分の尻尾を撫でながら思案していたが、意を決した。
「……分かりました。お貸ししましょう」
「いいのか? ……恩に着る!」
「でも、条件があります」
「……やっぱり、そうだよな」
ギジュン将軍は開き直ったように椅子に座り、ばし、と自分の両膝を叩いた。
「煮るなり焼くなり好きにしてくれ! 俺は妹を助け、イドゥン卿の暴走を止められるなら、何でもする!」
「じゃあ、これです」
フォコはピンと指を立て、条件を提示した。
「アーゼル砦とその周辺、つまり閣下が現在私有している土地。それから閣下が率いている兵と、閣下自身。
それをすべて持って、我々の傘下に下ってください。その代わりに、我々は全軍を挙げてイドゥン軍閥に対抗します」
「……やっぱ、そう来たか。まあ……、そうだよな。俺が持ってる財産って言えば、それくらいだもんな」
ギジュン将軍はガリガリと虎耳をかき、うなずいた。
「分かった。今日から俺は、あんたたちの軍門に下る」
「……ダメ元で言うてみたんですけど、ホンマにええんですか?」
「ああ。どっちみち、ノルド王国からは半分抜けてたんだ。
と言って、俺の采配じゃ回り切ってなかったし、そんならもっと、しっかりした奴に委ねた方がいい」
「……じゃ、ま。よろしくね、ギジュン卿」
はにかみながら手を差し出したイールに、ギジュン将軍はこう返して手を握った。
「レブでいい。下ったって言うなら、アンタとは同輩なんだし、卿って言われるのも、言うのも気恥ずかしかったしな」
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スノッジ将軍との会談を終え、フォコたちは続いてギジュン将軍の話を聞くことにした。
「頼む! 金、貸してくれ!」
スノッジ将軍と違い、ギジュン将軍は熱血漢の、直情径行な性質だった。
「え、と。閣下、今我々が行っている政策、経営方針はご存じですよね? でなければ閣下自らが、こちらへお越しになるわけがない、……と思うんですけども」
「分かっている。……承知で、言ってる」
ギジュン将軍は、深々と頭を下げた。
「この通りだ!」
「……何や、事情がありそうな感じしますね? 良かったら、聞かせてもろてもええですか?」
そう問いかけたフォコに、ギジュン将軍は妙な顔をして頭を上げた。
「アンタ……、変なしゃべり方だな。妙な訛りがあると言うか。……ああ、関係のないことだな、すまん」
「いえいえ」
「その、つまりだな。サンドラ、……卿は知っているよな、俺に妹がいることを」
「あんたらね……。一々あたしにケンカ売らないと話できないの?」
取って付けたような敬称に、イールはいらだたしげに尻尾を震わせる。
「すまん。だってあの『猫姫』が、よもや将軍になるなんて思いも、……す、すまん。俺は口が悪いんだ」
「いいけどさ……。
まあ、知ってるっちゃ知ってるわよ。あんた、妹がいるのよね。で、その子はイドゥン少将に軟禁されて、もう半年以上経ってる。そうよね?」
「そうだ。……もしかしたらもう手籠めにされて、無理矢理結婚させられているかも分からん。それでも俺のたった一人の肉親、大事な妹だ。助けられるなら、何としてでも助けてやりたいんだ。
そう思っていたところに、イドゥン卿の動向について、情報が飛び込んできた。どうも俺を打ち負かし、峠の封鎖を解かせたいらしい。そしてイリア……、妹にとってたった一人の肉親である俺を亡き者にして、諦めを付けさせたいらしい、とも」
「それだけやないでしょうね。聞くところによれば、中央の商人から多額の借金をしてて、その形にあれやこれや指図されとるらしいですし、これも恐らくは……」
「それも関係しているだろうな。……何にせよ、イドゥン卿は攻めてくる。
地の利は俺にあるが、人の利、すなわち兵士の数や装備は、イドゥン卿に大きく分がある。激戦、泥沼になることは必至だ。
長引けば資金や備蓄の多寡が勝敗を分ける。借金まみれにはなるが、イドゥン卿には金ヅルがいるからな。俺の方が不利になるのは明白なんだ。だからこうして、無心に来たんだ。
頼む! これ以上イドゥン卿に下衆な振る舞いはしてほしくないし、妹の身も気がかりなんだ。少しだけでもいいから、貸してくれ」
「振る舞いは……、してほしくない?」
尋ねたフォコに、イールが代わりに答える。
「ギジュン卿がこの若さで准将になれたのは、その武勲も大きいけど、イドゥン将軍の根回しがあったからなのよ。借金まみれになる前は、それなりに気骨のあった人だし。
さっきのスノッジ将軍や、あたしたちが追い出したロドン将軍みたいな、ろくでもない奴らばっかりだったノルド王国軍の立て直しを、数年前の彼は真面目に考えてたのよ」
「だけど、立て直しには金がいる。それで借金したら、そいつに縛られたってわけさ」
ギジュン将軍はもう一度、深々と頭を下げた。
「頼む……! もうこれ以上、俺の恩人が最低の奴になっていくのを見るのは、耐えられないんだ……!」
「……」
フォコはしばらく自分の尻尾を撫でながら思案していたが、意を決した。
「……分かりました。お貸ししましょう」
「いいのか? ……恩に着る!」
「でも、条件があります」
「……やっぱり、そうだよな」
ギジュン将軍は開き直ったように椅子に座り、ばし、と自分の両膝を叩いた。
「煮るなり焼くなり好きにしてくれ! 俺は妹を助け、イドゥン卿の暴走を止められるなら、何でもする!」
「じゃあ、これです」
フォコはピンと指を立て、条件を提示した。
「アーゼル砦とその周辺、つまり閣下が現在私有している土地。それから閣下が率いている兵と、閣下自身。
それをすべて持って、我々の傘下に下ってください。その代わりに、我々は全軍を挙げてイドゥン軍閥に対抗します」
「……やっぱ、そう来たか。まあ……、そうだよな。俺が持ってる財産って言えば、それくらいだもんな」
ギジュン将軍はガリガリと虎耳をかき、うなずいた。
「分かった。今日から俺は、あんたたちの軍門に下る」
「……ダメ元で言うてみたんですけど、ホンマにええんですか?」
「ああ。どっちみち、ノルド王国からは半分抜けてたんだ。
と言って、俺の采配じゃ回り切ってなかったし、そんならもっと、しっかりした奴に委ねた方がいい」
「……じゃ、ま。よろしくね、ギジュン卿」
はにかみながら手を差し出したイールに、ギジュン将軍はこう返して手を握った。
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