「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・融計記 4
フォコの話、120話目。
卑劣な死の商人たち。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
レブと、彼の持つ軍閥と土地を併合したジーン王国は、すぐにイドゥン軍閥への対抗措置を執ることにした。
「まず、ノルド峠ですけども、306年以降に建てられた関所は全部、撤廃しときましょか。
もうアーゼル砦との間に壁は不要ですし、それでなくてもあんな、6つも7つもいりません。関税と交通税を絞り取るより、自由に行き来して商売してくれた方が、よっぽど金になりますしな」
「そうだね。だけど、まだ沿岸部との関所は維持しないといけない。関所本来の役割――不審者と敵軍の侵入を阻んでもらわないといけないし」
敵軍、と聞き、レブの表情は暗くなる。
「……決着付けなきゃな」
その発言に対し、ランドは肩をすくめる。
「付けるにしても、それが戦いによって、とも限らない。君も言ってただろ、イドゥン将軍は借金漬けでおかしくなっちゃったって。
幸い、僕たちにはかなりの額の蓄えがある。ホコウの尽力で、7~80億クラム程度の支払い能力はあるのさ。
借金をきっちり清算できたら、イドゥン将軍も立ち直れるかも知れない」
途方もない額を聞かされ、レブの尻尾は毛羽立った。
「80だと……!? お前ら、そんなに持ってたのか……!?」
「ええ。ちゅうても、クラム通貨自体はせいぜい4、5億程度ですけどもね。
僕たちが発行してきたステラ通貨と、それと交換で集めてきたグラン通貨を全部両替したら、総額でそんくらいにはなります。
まあ、問題はありますけどな」
「問題って?」
イールに尋ねられ、ランドが眼鏡を拭きながら答える。
「ステラとグランが両替できないんだよ。
さっきの試算は、あくまでもまだ、まともな交易があった頃のレートだし、今はもっと価値を下げている可能性が高い。ステラ通貨もまだ、対外的には全く知られてないから、国外での信用度は無い。
もしイドゥン将軍の借金が5億クラム以上、つまり僕らの支払い能力分を超えていたら、その不足分をグランやステラで……、と提案しても、相手は受け取ってくれないだろう」
「そこまで増えてないことを祈るしかないわね」
「ああ。それに、場合によればスノッジ将軍へも、1億1000万の支払いをしなければいけないだろうし、実質、僕たちが支払える額は、3億ちょっとくらいさ。
それに借金してるのは、イドゥン将軍だけじゃない。他の軍閥も、細々と借金があるだろうし、その総額がいくらになるか……」
「5億持ってても、カッツカツなんだな……」
「まあ、あれこれ対策は講じてみるけど。……もし実らなければ、直接対決になる。それは、心しておいてほしい」
「手筈は整ったかね、スパス総裁」
西方の工業都市、スカーレットヒル。
ケネスはあの裏切り者――クリオの拉致に加担し、ジョーヌ海運とエール商会を貶めた男、アバントと会っていた。
「整えてあります、ゴールドマン様」
彼は南海で何とか命拾いした後にケネスと改めて手を組み、彼の身代として西方で猛威を奮っていた。
ここ、スカーレットヒルの軍事工場も、彼の管轄である。
「直剣、短槍、短弓各2000単位、大剣、長槍、魔杖各1200単位、そして火薬4トン、既に用意してございます。
また、設営用の資材も、予定の500セットのうち、既に400弱が完成しております」
「完成はいつかね?」
「もう間もなく。来週の配送までには、十分に間に合います」
「よろしい。……その件に関しては、問題なさそうだな」
ケネスは工場の天井近くに張られた金属製の空中通路を、カツカツと威圧的な音を立てて歩いていく。その後ろからアバントの、卑屈そうなコンコンとした足音が続く。
眼下に広がる製造ラインを楽しそうに望みながら、ケネスはアバントに尋ねる。
「追加発注を頼みたいのだが、今、聞けるかね?」
「少しお待ちを」
アバントはそそくさとメモを取り出――そうとして、通路に落としてしまった。
「あ……」
「まだ指は不自由なのか?」
「え、ええ。……忌々しいことです。あのゴミどものせいで」
アバントは微妙に曲がったままの指で、足元に落ちたメモをヨタヨタとつかむ。
「発注でございましたね。どうぞ、お申し付けください」
「うむ。……そうだな、今回の2倍ほど、用意してほしい。納期は二ヶ月以内だ」
「2倍、でございますか」
「ああ。今回のイドゥン軍閥への配送を皮切りに、そろそろ沿岸部にいる奴隷……、おっと、軍閥宗主たちに揺さぶりをかけていこうかと、そう考えているのだ」
奴隷、と言う言葉に、アバントは引きつったように笑う。
「はは、は……」
「奴らはもう、進退窮まっている。ここでちょっと『金を返せ』と怒鳴れば、簡単に言うことを聞かせられる」
「進退窮まる、ですか。一体、どれほどの額で……?」
そう尋ねたアバントに、ケネスはクックッと笑いながら答えた。
「総額……、ざっと、14億クラムと言うところだな。もうどこにも、払ってもらうアテなぞないだろう。
そろそろ北方を丸ごと、買い叩く時が来たと言うわけだ」
@au_ringさんをフォロー
卑劣な死の商人たち。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
レブと、彼の持つ軍閥と土地を併合したジーン王国は、すぐにイドゥン軍閥への対抗措置を執ることにした。
「まず、ノルド峠ですけども、306年以降に建てられた関所は全部、撤廃しときましょか。
もうアーゼル砦との間に壁は不要ですし、それでなくてもあんな、6つも7つもいりません。関税と交通税を絞り取るより、自由に行き来して商売してくれた方が、よっぽど金になりますしな」
「そうだね。だけど、まだ沿岸部との関所は維持しないといけない。関所本来の役割――不審者と敵軍の侵入を阻んでもらわないといけないし」
敵軍、と聞き、レブの表情は暗くなる。
「……決着付けなきゃな」
その発言に対し、ランドは肩をすくめる。
「付けるにしても、それが戦いによって、とも限らない。君も言ってただろ、イドゥン将軍は借金漬けでおかしくなっちゃったって。
幸い、僕たちにはかなりの額の蓄えがある。ホコウの尽力で、7~80億クラム程度の支払い能力はあるのさ。
借金をきっちり清算できたら、イドゥン将軍も立ち直れるかも知れない」
途方もない額を聞かされ、レブの尻尾は毛羽立った。
「80だと……!? お前ら、そんなに持ってたのか……!?」
「ええ。ちゅうても、クラム通貨自体はせいぜい4、5億程度ですけどもね。
僕たちが発行してきたステラ通貨と、それと交換で集めてきたグラン通貨を全部両替したら、総額でそんくらいにはなります。
まあ、問題はありますけどな」
「問題って?」
イールに尋ねられ、ランドが眼鏡を拭きながら答える。
「ステラとグランが両替できないんだよ。
さっきの試算は、あくまでもまだ、まともな交易があった頃のレートだし、今はもっと価値を下げている可能性が高い。ステラ通貨もまだ、対外的には全く知られてないから、国外での信用度は無い。
もしイドゥン将軍の借金が5億クラム以上、つまり僕らの支払い能力分を超えていたら、その不足分をグランやステラで……、と提案しても、相手は受け取ってくれないだろう」
「そこまで増えてないことを祈るしかないわね」
「ああ。それに、場合によればスノッジ将軍へも、1億1000万の支払いをしなければいけないだろうし、実質、僕たちが支払える額は、3億ちょっとくらいさ。
それに借金してるのは、イドゥン将軍だけじゃない。他の軍閥も、細々と借金があるだろうし、その総額がいくらになるか……」
「5億持ってても、カッツカツなんだな……」
「まあ、あれこれ対策は講じてみるけど。……もし実らなければ、直接対決になる。それは、心しておいてほしい」
「手筈は整ったかね、スパス総裁」
西方の工業都市、スカーレットヒル。
ケネスはあの裏切り者――クリオの拉致に加担し、ジョーヌ海運とエール商会を貶めた男、アバントと会っていた。
「整えてあります、ゴールドマン様」
彼は南海で何とか命拾いした後にケネスと改めて手を組み、彼の身代として西方で猛威を奮っていた。
ここ、スカーレットヒルの軍事工場も、彼の管轄である。
「直剣、短槍、短弓各2000単位、大剣、長槍、魔杖各1200単位、そして火薬4トン、既に用意してございます。
また、設営用の資材も、予定の500セットのうち、既に400弱が完成しております」
「完成はいつかね?」
「もう間もなく。来週の配送までには、十分に間に合います」
「よろしい。……その件に関しては、問題なさそうだな」
ケネスは工場の天井近くに張られた金属製の空中通路を、カツカツと威圧的な音を立てて歩いていく。その後ろからアバントの、卑屈そうなコンコンとした足音が続く。
眼下に広がる製造ラインを楽しそうに望みながら、ケネスはアバントに尋ねる。
「追加発注を頼みたいのだが、今、聞けるかね?」
「少しお待ちを」
アバントはそそくさとメモを取り出――そうとして、通路に落としてしまった。
「あ……」
「まだ指は不自由なのか?」
「え、ええ。……忌々しいことです。あのゴミどものせいで」
アバントは微妙に曲がったままの指で、足元に落ちたメモをヨタヨタとつかむ。
「発注でございましたね。どうぞ、お申し付けください」
「うむ。……そうだな、今回の2倍ほど、用意してほしい。納期は二ヶ月以内だ」
「2倍、でございますか」
「ああ。今回のイドゥン軍閥への配送を皮切りに、そろそろ沿岸部にいる奴隷……、おっと、軍閥宗主たちに揺さぶりをかけていこうかと、そう考えているのだ」
奴隷、と言う言葉に、アバントは引きつったように笑う。
「はは、は……」
「奴らはもう、進退窮まっている。ここでちょっと『金を返せ』と怒鳴れば、簡単に言うことを聞かせられる」
「進退窮まる、ですか。一体、どれほどの額で……?」
そう尋ねたアバントに、ケネスはクックッと笑いながら答えた。
「総額……、ざっと、14億クラムと言うところだな。もうどこにも、払ってもらうアテなぞないだろう。
そろそろ北方を丸ごと、買い叩く時が来たと言うわけだ」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
ただ、これを予測できないランドではありません。
詳しくは後ほど。