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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・融計記 5

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    フォコの話、121話目。
    仕組まれる同士討ち。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     レブが参入して、半月後。
    「来たか……」
     ノルド峠の麓に、イドゥン軍閥と、その他いくつかの小さな軍閥数点とで混成された軍が集まっていると言う情報が入った。
    「どうする?」
     レブの問いに、ランドは渋い顔をした。
    「間に合ってくれるかと期待してたんだけどな……」
    「あん?」
    「いや、こっちの話だ。……そうだな、地の利を活かし、防衛に努めてほしい」
    「分かった」
     ランドはイールとフォコに振り向き、顔をこわばらせつつ指示を出す。
    「僕たちも、一緒に向かおう」
    「分かったわ」
    「あのー」
     と、ここでフォコが手を挙げる。
    「何かな?」
    「タイカさんは? ずーと、姿見てませんけど。あの人、半端なく強いんですし、こう言う時にいてへんと意味無いやないですか」
    「それなんだよね」
     ランドは眼鏡を外し、服の裾で拭きながらつぶやいた。
    「間に合わなかったみたいだ」
    「何がです?」
    「いや、こっちの話」

     ともかく、一行はさらに一週間をかけ、防衛の最前線である、ノルド峠の関所へ到着した。
    「もう、門の向こうは兵士だらけです」
     門番の言葉に、フォコは門の隙間から、そっと覗いてみた。
    「……うへぇ」
     確かに門の向こう、沿岸部側には、関所を囲むように、扇状に軍営が立ち並んでいる。
    「よぉ、かき集めたもんやなぁ」
    「斥候の情報によれば、イドゥン閣下が号令をかけ、集めたそうです。表向きは」
    「じゃ、裏向きは?」
     イールはそう尋ねてはみたが、これまでの話の流れで、答えは大体分かっている。
    「それぞれ、借金の形に軍を動かさせられている、との情報が入っています」
    「でしょうね」
    「と言うことは、ここに借金持ちの軍閥宗主が集合してる、ってわけか。……うーん」
     ランドは顎に手を当て、しばらく逡巡していたが、やがて意を決したようにうなずいた。
    「……彼らと交渉の場を設けたい。相手にそう、打診できるかな」
    「可能です」
    「それは良かった」
    「交渉って……」
     イールは不安げな顔を、ランドに向けた。
    「借金の肩代わりをする代わりに、兵士をここから撤退させてくれないか、ってね」
    「この前言ってたアレね。……でも、5億で足りるかしら」
    「分からない。……でも、難しいかも知れない」
     ランドも門の隙間から、相手を観察する。
    「装備が新調されているグループが、いくつかある。恐らくまた借金を重ねて、整えたんだろう。となるとその額は、想定していたものより高くなっている可能性が、非常に高い」
    「……ひでえよ、マジひでえ」
     レブは地面を蹴り、悔しそうにうなった。
    「借金背負わせて、北方人同士で戦わせるのかよ! ひどすぎんだろ、んなの……ッ!」
    「ホンマですわ。
     ……ホンマに、怖気が走りますわ。自分たちは一切手を汚さんと、一滴の血ぃも流さんと、金に物言わせて、海の向こうで行われる同士討ちを、高みの見物。
     外道にも程があるで、ケネス――こんな悪魔みたいなこと、どんな神経してたらやり通せるんや……ッ!」
     フォコも全身を震わせ、ケネスへの怒りを吐露した。

     と――。
    「待たせたな」
     どこからか、声が飛んできた。
    「え……?」
    「ギリギリじゃないか、タイカ。ヒヤヒヤさせないでくれよ」
    「集めるのに苦労していたようだ。
     伝言も託っている。『流石にこの額は、お前の頼みでも苦しかったぞ。……頼ってくれて、うれしいのは本当だけどな』だそうだ」
     いつの間にか、陣中に大火の姿があった。
     その両脇には、ジャラジャラと音を立てる大きな箱が抱えられている。
    「そっか。……後で、できれば顔を見せに行きたいな」
    「事が一通り済んだら、連れて来てやろう」
    「ありがとう。……よし、交渉の場をすぐ、立ててくれ!」
     先程の不安げな様子をガラリと変え、ランドはハキハキとした口調で命令した。



    「とうとう……、やる時が来たのか……」
     一方、こちらは沿岸部側の陣中。
     イドゥン将軍は、沈痛な面持ちで本営の椅子に座っていた。
    「許せ、レブ……。せめてイリアは、幸せに、……ああ、くそっ!」
     自分でつぶやいた言葉に、自分で憤る。
    「何がせめて幸せに、……だ! これから彼女の兄を、たった一人の肉親を殺そうとしている、この吾輩に! この吾輩に、そんなことを言う資格など……!」
     そしてまた、落ち込んでいく。
    「……許してくれ、許してくれ、レブ。この戦いが終わったら、吾輩も後を追うからな……!」
     イドゥン将軍は震える手で、胸に隠しているナイフを服の上からさすった。
     と――本営内に、伝令が飛び込んできた。
    「閣下! ギジュン准将より、『交渉したい』との連絡が入りました!」
    「む、こ、交渉? そ、そうか。……分かった、すぐに応じると伝えてくれ!」
     その伝達に、イドゥン将軍は心底ほっとした。
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    NoTitle 

    ジャラジャラ音を立てる重たいものです。
    詳しくは次話にて。

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    大火が持ってきたものは一体v-394
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