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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・融計記 6

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    フォコの話、122話目。
    借金完済。

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    6.
     交渉の場は、門のちょうど中間で行われることとなった。
     門を開き、周囲を天幕で覆った簡単な部屋に机と椅子が設置され、両軍の将軍が同時に席に着いた。
    「レブ、その……、久しいな」
     イドゥン将軍がカチコチと挨拶をする一方、レブは単刀直入に話を切り出した。
    「兄貴、……いや、イドゥン卿。すぐ、撤退してくれ」
    「ああ、そうだろうな、そうだろうよ。……だが、吾輩は決心したのだ。どうあっても、吾輩はイリアを……」「んな話は今、いいよ」「……何?」
     てっきりイリアをめぐる問題に触れると思っていたイドゥン将軍は、完全に虚を突かれてしまった。
    「お前、その、妹のこと……」
    「そんなことより、兄貴よ。金に、困ってんだろ?」
    「な、何故それを」
    「誰でも知ってるっつの。……いくらいるんだ?」
    「い、言えるわけなかろうが」
     顔を赤くするイドゥン将軍に対し、レブはそれを笑い飛ばしてやる。
    「ははっ……、見栄張らないでくれよ、兄貴。俺は、あんたを助けたいんだよ」
    「……その気持ちは、ありがたい。本当に、ありがたい」
     イドゥン将軍は、悲しそうな顔で首を横に振る。
    「だが、もう遅すぎたのだ。とても、お前に払える額ではなくなって……」「20億ある」
     と、イドゥン将軍の言葉を遮り、レブはそう告げる。だがそれでも、イドゥン将軍の表情は沈んだままだ。
    「……そんなはした金では、無理なのだ。とても20億グランやそこらでは……」「ちげーって」
     レブはまた、クスクスと笑う。
    「20億、クラムだ。グランでも、ステラでもない。20億クラム、俺たちは用意している」
    「……」
     何を言っているのか分からず、イドゥン将軍は硬直した。
    「……に? く? ……に、にじゅ、にじゅうおくッ!? クラムでかッ!?」
    「ああ」
     と、そこに先程大火が持ってきた木箱が運ばれてきた。がしゃんと音を立てる木箱に、イドゥン将軍は思わず立ち上がって中身を確かめる。
    「……な、な、ななな、なん、と……っ」
    「この通り、20億クラムある。俺の同輩たちが、集めてきてくれたんだ。
     そうだ、他の宗主も呼んできてくれよ。そいつらも、金に困ってんだろ? きれいさっぱり、返してやるよ」
    「……れ、レブ……っ」
     突然、イドゥン将軍はレブに向かって土下座した。
    「お、おいおい」
    「すまなかった! 本当にすまなかった!
     借金で首が回らなくなった吾輩は、とんでもないことばかりしてしまった! 不安で不安でたまらず、その挙句にイリアを軟禁するなど……!
     許してくれレブ、この通りだ……!」
     謝り倒すイドゥン将軍に、レブはしゃがみ込み、ポンポンと肩を叩きつつ、優しく声をかけた。
    「いいって。それより、みんなを呼んできてくれよ。
     もうこれ以上、同じ北方人同士で争うの、よそうぜ」



     ノルド峠麓での一件から、一か月後。
    「どう言うことか、詳しく説明していただきたいですな」
     イドゥン将軍や他の沿岸部軍閥が突然、ノルド峠から撤退したと言う話を聞きつけ、ケネスが大慌てで北方へ飛んできた。
    「……」
     居丈高に振る舞うケネスに対し、イドゥン将軍は口を真一文字に結び、黙り込んでいる。
    「将軍閣下、あなたは確約したはずですな? 私どもからの借金を返済する代わりに、ギジュン軍閥を倒し、首都との連絡を回復、そして山間部の鉱山を渡すように働きかける、と」
    「……」
    「ところが何です? 突然、撤退ですって? 何故です!? 怖気づいたのですか、そんな土壇場で! なんとまあ、意気地のない! 軍人失格ですな、イドゥン将軍閣下殿!」
    「……」
    「それとも何ですか、まさか『吾輩、やはり皆に祝福されて婚姻に臨みたいのである』とでも仰るおつもりで?」
    「……」
     前回同様に、ケネスはすい、と立ち上がり、交渉が決裂したかのように振る舞おうとする。
    「どこへ行こうというのだ、当主殿?」
    「契約を履行する気がないと判断させていただきました。即刻、中央軍に働きかけ、あなたを抹殺させていただきます」
     前回と違い、ケネスの言動には直接的な表現が多い。流石に狼狽しているようだ。
    「く、くくっ……」
     それに気付き、イドゥン将軍は思わず笑ってしまった。
    「……なんです、その態度は?」
     憤った顔を見せたケネスに、イドゥン将軍は立ち上がり、こう尋ねた。
    「確か当主殿、吾輩が負った借金の額は、1億2301万、いいや、端数まで入れれば1億2301万8750クラム。
     そして追加の借り入れの2000万に利子を加えた、合計1億4901万8750クラムであったな?」
    「はい? まさか払うとでも言うおつもりですか? 一体どこから? 本国に泣き付いてグランでも発行しましたか? 足りない分はそれで、などと言うおつもりではないでしょうな? そんな不確かな通貨、私は願い下げですよ」
    「まさか」
     イドゥン将軍はフン、と鼻を鳴らし、パンパンと手を叩いて側近を呼び寄せた。
    「……っ!?」
     ケネスの目に、有り得ないものが映る。
    「この通り、1億4901万8750クラム、確かに用意したぞ!
     さあ、とっととこれを持ってお引き取り願おうか、当主殿ッ!」
    「バカな……!?」
     流石の老獪なケネスも、これには唖然とする。
    「どうした!? まさか受け取りを拒否するつもりか!? そうなればそちらが、契約不履行になるな?
     かっか、これは大珍事であるな! 大商人たるケネス・ゴールドマンが、まさか受け取りを拒否、契約を守ろうとせぬとは!」
    「ぐ、っ」
    「そう言うわけには行きますまい、当主殿? 商人であるならば、契約は確固として守らねば沽券に係わると言うもの。
     さあ、とっとと受け取るがいい! そして即刻立ち去り、二度とその下卑た眼鏡面を吾輩の前に見せるなッ!」
    「ぬ、ぐ、くく、くううう……ッ」
     ケネスの顔が、怒りで真っ赤に染まる。
     だが確かに、イドゥン将軍の言う通り――契約を守らねば、それはもう商人ではない。「契約を自ら破棄し、金を受け取るのを拒否した」などと言ううわさが広まれば、ケネスの商人としての信用は地に墜ちる。
    「……分かり、ました。それでは、お受け取り、致しま、しょうか、な」
     ケネスは折れ、その1億5000万近い額のクラムを受け取った。
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    NoTitle 

    イドゥン将軍単体で約1億5千万クラム。
    北方沿岸部全体で約14億です。
    イドゥン将軍はその中でも一番の借金王でした。

    NoTitle 

    あれ14億じゃなかったのかv-394
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