「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・因縁録 3
晴奈の話、86話目。
因縁、三度目。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「よし!」
倒れ込み、ピクリとも動かなくなった兎獣人を確認し、晴奈は満足げにうなずく。
「全員集合だ!」
晴奈は刀に火を灯して合図を送り、森の中で待機している剣士たちを呼び寄せる。
集合後、明奈とリストが晴奈の元に駆け寄った。
「どう、すごいでしょ?」
リストが自慢げにクルクルと銃を回して見せびらかす。晴奈はその様子に苦笑しながらも、素直にほめる。
「ああ、あれほど遠くから攻撃できるとは。なかなか便利な武器だな、銃と言うのは」
「アンタも使ってみたくなった?」
晴奈はまた苦笑して、刀の柄を叩いた。
「いやいや、私にはこれが一番だ。……さてと」
皆が集合し終えたところで、晴奈が次の行動を命令する。
「雑魚には構うな! 頭を探して討て!」
晴奈の号令に従い、剣士たちは2、3人ごとに固まり、四方に散る。
残った晴奈と明奈、リストも同様に3人で集まり、敵将ウィルバーを捜索し始めた。
当初はできる限り隠密な行動を心がけていたのだが、敵の数が多いためか何班か見つかってしまったらしく、陣内は次第に騒がしくなる。
晴奈たちも例外ではなく、何度も教団員たちに発見され、その都度応戦しなくてはならなかった。
「くそ、面倒だ!」
相手の多さに痺れを切らした晴奈は、目の前にいた教団員に向かって飛びかかる。
「どけッ!」
目前まで迫っても勢いを殺さず、そのまま突っ込んでいく。
「ぎゃっ!?」
棍を構えていた教団員の腕に脚をかけ、踏み台にして跳び、敵の包囲網を無理矢理抜けた。
「どけどけッ、邪魔立てすると刀錆にするぞッ!」
寄ってくる敵をかわし、斬り捨て、晴奈は陣内を駆け回る。
「どこだ、ウィルバー! 出て来い! この黄晴奈が相手になるぞ!」
そうやって名乗りを上げているうちに、横から声が飛んできた。
「そんなにオレと勝負したいのか、『猫』ッ!」
晴奈が横を向くと同時にウィルバーが駆け込み、棍を放つ。晴奈はそれをかわし、刀を払う。ウィルバーもこれを避け、二人は間合いを取って対峙した。
「久しぶりだな。つくづく、因縁が深いと見える」
「ああ、確かにな。何だかんだ言って、会うのはこれでもう3回目だ」
ウィルバーは妙に嬉しそうに笑っている。
「2度の戦いで、オレの考え方は劇的に変わった。女と見て侮ることは、もうしない。
お前は間違い無くオレの好敵手、オレの目標だよ」
妙にほめ言葉を並べるウィルバーを不審に思い、晴奈は刀を構え直す。
「何のつもりだ、ウィルバー? 一体何が言いたい?」
「単刀直入に言おう。オレと組まないか、セイナ?」
突然の申し出に、晴奈は面食らった。
「何だと?」
「お前の妹、メイナのことはそれなりに気に入ってるし、娶りたいとも考えている。
もし結ばれればセイナ、お前はオレの縁者になる。その上でオレと組み、その実力を振るって君臨すれば、お前も教団の権力者だ。何でも思いのまま、一生栄華を極めていられるぞ。
どうだ、悪い話じゃないだろう?」
ウィルバーはニヤリと笑い、右手を差し出す。
握手を求めてくるウィルバーをしばらく見つめた後、晴奈はフン、と鼻を鳴らした。
「笑止。お前如き犬っころにくれてやるほど、妹は安くない。何よりお前の右腕などと言う肩書きは、私には吊り合わぬ。
対価が低すぎて、私の食指はピクリとも動かん」
晴奈のにべもない言葉に、ウィルバーの笑顔は凍りついた。
「ク、クク、ク……、そうか、ああ、そうか。あくまでオレに、たてつくと言うんだな?
そんなら話は終わりだ! ここで果てろ、セイナ!」
ウィルバーは棍を振り上げ、飛びかかってきた。
晴奈はウィルバーの初弾を、刀をかざして防ぐ。
その瞬間、晴奈の両手に重たい衝撃が走り、刀と棍の間から火花が飛び散る。
「む、……ッ!」
受けきれず、体をひねって棍を左に流す。すかさずウィルバーが蹴りを放ち、晴奈のあごを狙ってくる。
「甘いッ!」
向かってきた左脚を紙一重で避け、刀から左手を離し、右手を利かせて刀で鋭い山を描く。その軌跡がわずかにウィルバーの脚を捕らえ、さく、さくと二度斬る。
「……ッ、速いな!」
ウィルバーの僧兵服が裂け、ふくらはぎと太ももに赤い筋がにじむ。
だが、ウィルバーはその傷を気にかける様子も無く、棍を手首だけで振って、鞭のようにしならせて突いてきた。
「っと!」
晴奈は刀を構え直して縦一直線に振り下ろし、棍を叩き落す。棍は当たらずに済んだが、刀から金属同士がぶつかる鋭い音と、何かがこすれるような、気味の悪い音が響く。
その音が耳に入った瞬間晴奈は舌打ちし、反面、ウィルバーは笑みを浮かべた。
「ハハ……、どうした? 今の音は何だ、セイナ?」
「チッ、なまくらめ」
晴奈の刀の、その中ほどの刃が欠けていたからだ。
同時刻、リストたちも敵の包囲を切り抜け、晴奈を探していた。
「ホント、アンタのお姉ちゃんってこーゆー時、無鉄砲よね!」
「すみません、本当に」
明奈が謝るが、リストの怒りは収まらない。
「大体さ、『メイナは絶対守ってやる』とか何とかカッコつけてたくせに、この前だってアンタをほっといて、カツミと戦おうとしてたんでしょ?
言うコトとやるコトが違うなんて、そこからしてろくなヤツじゃないわよ」
姉の悪口を言われ、普段温厚な彼女にしては珍しく、明奈は目を吊り上がらせる。
「そんな言い方、無いんじゃないですか?
お姉さまは確かに一人で動くことが多い方ですけれども、心の中では皆さんのこと、全体のことをきちんと考えていらっしゃいます。
リストさんこそ人のことを簡単に悪く言って! それこそ人をろくに見ない、いい加減な方です!」
「何ですって!?」
明奈とリストの間に、険悪な空気が立ち込める。
と――遠くから、鋭い金属音が響いてきた。
「……!?」「何、今の!?」
まるで分厚い鋼板に散弾を放ったような異様な音を聞きつけ、二人はそちらへと向かった。
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因縁、三度目。
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「よし!」
倒れ込み、ピクリとも動かなくなった兎獣人を確認し、晴奈は満足げにうなずく。
「全員集合だ!」
晴奈は刀に火を灯して合図を送り、森の中で待機している剣士たちを呼び寄せる。
集合後、明奈とリストが晴奈の元に駆け寄った。
「どう、すごいでしょ?」
リストが自慢げにクルクルと銃を回して見せびらかす。晴奈はその様子に苦笑しながらも、素直にほめる。
「ああ、あれほど遠くから攻撃できるとは。なかなか便利な武器だな、銃と言うのは」
「アンタも使ってみたくなった?」
晴奈はまた苦笑して、刀の柄を叩いた。
「いやいや、私にはこれが一番だ。……さてと」
皆が集合し終えたところで、晴奈が次の行動を命令する。
「雑魚には構うな! 頭を探して討て!」
晴奈の号令に従い、剣士たちは2、3人ごとに固まり、四方に散る。
残った晴奈と明奈、リストも同様に3人で集まり、敵将ウィルバーを捜索し始めた。
当初はできる限り隠密な行動を心がけていたのだが、敵の数が多いためか何班か見つかってしまったらしく、陣内は次第に騒がしくなる。
晴奈たちも例外ではなく、何度も教団員たちに発見され、その都度応戦しなくてはならなかった。
「くそ、面倒だ!」
相手の多さに痺れを切らした晴奈は、目の前にいた教団員に向かって飛びかかる。
「どけッ!」
目前まで迫っても勢いを殺さず、そのまま突っ込んでいく。
「ぎゃっ!?」
棍を構えていた教団員の腕に脚をかけ、踏み台にして跳び、敵の包囲網を無理矢理抜けた。
「どけどけッ、邪魔立てすると刀錆にするぞッ!」
寄ってくる敵をかわし、斬り捨て、晴奈は陣内を駆け回る。
「どこだ、ウィルバー! 出て来い! この黄晴奈が相手になるぞ!」
そうやって名乗りを上げているうちに、横から声が飛んできた。
「そんなにオレと勝負したいのか、『猫』ッ!」
晴奈が横を向くと同時にウィルバーが駆け込み、棍を放つ。晴奈はそれをかわし、刀を払う。ウィルバーもこれを避け、二人は間合いを取って対峙した。
「久しぶりだな。つくづく、因縁が深いと見える」
「ああ、確かにな。何だかんだ言って、会うのはこれでもう3回目だ」
ウィルバーは妙に嬉しそうに笑っている。
「2度の戦いで、オレの考え方は劇的に変わった。女と見て侮ることは、もうしない。
お前は間違い無くオレの好敵手、オレの目標だよ」
妙にほめ言葉を並べるウィルバーを不審に思い、晴奈は刀を構え直す。
「何のつもりだ、ウィルバー? 一体何が言いたい?」
「単刀直入に言おう。オレと組まないか、セイナ?」
突然の申し出に、晴奈は面食らった。
「何だと?」
「お前の妹、メイナのことはそれなりに気に入ってるし、娶りたいとも考えている。
もし結ばれればセイナ、お前はオレの縁者になる。その上でオレと組み、その実力を振るって君臨すれば、お前も教団の権力者だ。何でも思いのまま、一生栄華を極めていられるぞ。
どうだ、悪い話じゃないだろう?」
ウィルバーはニヤリと笑い、右手を差し出す。
握手を求めてくるウィルバーをしばらく見つめた後、晴奈はフン、と鼻を鳴らした。
「笑止。お前如き犬っころにくれてやるほど、妹は安くない。何よりお前の右腕などと言う肩書きは、私には吊り合わぬ。
対価が低すぎて、私の食指はピクリとも動かん」
晴奈のにべもない言葉に、ウィルバーの笑顔は凍りついた。
「ク、クク、ク……、そうか、ああ、そうか。あくまでオレに、たてつくと言うんだな?
そんなら話は終わりだ! ここで果てろ、セイナ!」
ウィルバーは棍を振り上げ、飛びかかってきた。
晴奈はウィルバーの初弾を、刀をかざして防ぐ。
その瞬間、晴奈の両手に重たい衝撃が走り、刀と棍の間から火花が飛び散る。
「む、……ッ!」
受けきれず、体をひねって棍を左に流す。すかさずウィルバーが蹴りを放ち、晴奈のあごを狙ってくる。
「甘いッ!」
向かってきた左脚を紙一重で避け、刀から左手を離し、右手を利かせて刀で鋭い山を描く。その軌跡がわずかにウィルバーの脚を捕らえ、さく、さくと二度斬る。
「……ッ、速いな!」
ウィルバーの僧兵服が裂け、ふくらはぎと太ももに赤い筋がにじむ。
だが、ウィルバーはその傷を気にかける様子も無く、棍を手首だけで振って、鞭のようにしならせて突いてきた。
「っと!」
晴奈は刀を構え直して縦一直線に振り下ろし、棍を叩き落す。棍は当たらずに済んだが、刀から金属同士がぶつかる鋭い音と、何かがこすれるような、気味の悪い音が響く。
その音が耳に入った瞬間晴奈は舌打ちし、反面、ウィルバーは笑みを浮かべた。
「ハハ……、どうした? 今の音は何だ、セイナ?」
「チッ、なまくらめ」
晴奈の刀の、その中ほどの刃が欠けていたからだ。
同時刻、リストたちも敵の包囲を切り抜け、晴奈を探していた。
「ホント、アンタのお姉ちゃんってこーゆー時、無鉄砲よね!」
「すみません、本当に」
明奈が謝るが、リストの怒りは収まらない。
「大体さ、『メイナは絶対守ってやる』とか何とかカッコつけてたくせに、この前だってアンタをほっといて、カツミと戦おうとしてたんでしょ?
言うコトとやるコトが違うなんて、そこからしてろくなヤツじゃないわよ」
姉の悪口を言われ、普段温厚な彼女にしては珍しく、明奈は目を吊り上がらせる。
「そんな言い方、無いんじゃないですか?
お姉さまは確かに一人で動くことが多い方ですけれども、心の中では皆さんのこと、全体のことをきちんと考えていらっしゃいます。
リストさんこそ人のことを簡単に悪く言って! それこそ人をろくに見ない、いい加減な方です!」
「何ですって!?」
明奈とリストの間に、険悪な空気が立ち込める。
と――遠くから、鋭い金属音が響いてきた。
「……!?」「何、今の!?」
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