「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・融計記 7
フォコの話、123話目。
大金の出所。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
イドゥン軍閥と同様のことが沿岸部の、借金を負っていた軍閥すべてで起こった。どの軍閥も、綺麗さっぱり借金を返済してしまったのだ。
ケネスは利息で膨れ上がった借金、総額14億クラムを回収しはしたものの、本懐――借金の形に沿岸部の軍を操って北方を攻め、ノルド王国と北方全土を隷属させる計画は完全に瓦解、水泡に帰した。
ケネスは北方隷属計画が成功していればケネスに次ぎ、最も利権を得られるはずだった人物――バーミー卿からの糾弾を受けていた。
「どう言うことだ、ケネス」
「私にも、……皆目見当が付きません」
「まさか、北方の奴らがクラムを偽造したか?」
その問いに、ケネスは首を振る。
「確かに、本物でした。詳しく調べてみましたが、体積、比重、含有物、意匠……、どれをとっても、間違いなく中央政府発行のクラム通貨に間違いありませんでした」
「ならば、どこかと取引をしたか」
「それもあり得ません。クラムが余分に流入しないよう、あちこちで制御していたはずですから」
答えの出ない会話に、いよいよバーミー卿が怒り出す。
「では、どう言うわけなのだ!? 返答によっては、ただでは済ますまいぞ!」
「『ただでは』? それは私に言っているのですか?」
ケネスも反発する。
「それは、私の過去、現在、そして未来の貢献を無視しての発言ですか?」
その一言に、バーミー卿はばつの悪そうな顔をした。
「……ゴホン、ゴホン。いや、……まあ、うむ。
とにかく、調べておいてくれ。二度と、こんなわけのわからぬ大失態が起こらぬよう」
「言われずとも。原因が判明し次第、報告させていただきます。
あいつらに多額の資金を供給した、そのふざけた富豪には、それ相応の制裁を加えていただかねばなりますまい……!」
ケネスは怒りに満ちた顔で、そう答えた。
時間と場所は、衝突が回避され、安堵の雰囲気が漂うノルド峠に戻る。
「で、説明してもらわな、僕には何が何やらさっぱりなんですけども。
どうやって、20億クラムを用意したんです?」
帰途の途中、そう尋ねてきたフォコに、ランドはニコニコしながら答えた。
「実質的にさ、僕たちは時価80億クラムの資産を持ってた。だろ?」
「ええ」
「でもそのほとんどは、グランやステラと言った通貨であり、この一件を解決するためには、どうしてもクラムに換える必要があった。
だけども沿岸部との交通は封鎖されてたし、為替取引ができる状況じゃなかった。このままじゃ僕たちは、クラムを手にできない。
そこでタイカに、協力してもらってたんだ」
その説明を、大火が継ぐ。
「ランドからグラン通貨とステラ通貨を預かった俺は『テレポート』――一言で言うと、世界を自在に飛び回れる術だ――を使い、こいつの生家を訪問した」
「また掟破りな技、持っとりますな。……って、生家?」
「あれ、言ってなかったっけ。僕のとこ、央中じゃ結構大きな商家なんだよ」
「聞いてまへん」
「じゃ、今言った。ま、それはともかく。
僕の母が商家の当主をやってるんだけど、彼女に両替をお願いしたんだ。流石に市場に出回ってない通貨だし、了承してくれるかどうか分からなかった。
了承してくれたとしても、流石に20億も集めてくれるか。不安要素はかなりいっぱいだったんだけど……」
「結果は、良しですな」
事の顛末を聞き、フォコの疑問はようやく晴れた。
「ほんなら、もう沿岸部との問題は解決して、次はいよいよ、ノルド王国との対決になりますな」
「ああ。……だけどきっと、これも僕たちの勝ちになるよ」
「なんや策でも?」
「うん。もう講じてある。
ほら、今さ、ここにジーン王国の主要人物のほとんどが集まってるだろ?」
「そうですね。……って、まずいんやないですか、それ?」
そう尋ねたフォコに、ランドはまたにっこり笑った。
「普通はね。だけど、事前に一つの楔を打ってある。覚えてるかな?」
「ん……?」
フォコは自分たちがここ最近取った行動を思い返してみる。
「……ああ、もしかしてアレですか」
「そう、それ」
「何だ?」
尋ねた大火に、フォコとランドは同時にニヤッと笑った。
「腹黒おばはんの金汚さのせいで、ノルド王国軍は困ったことになる、ちゅうことですわ」
「……?」
北方を離れていた大火には、何が起ころうとしているのか、皆目分からなかった。
火紅狐・融計記 終
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大金の出所。
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イドゥン軍閥と同様のことが沿岸部の、借金を負っていた軍閥すべてで起こった。どの軍閥も、綺麗さっぱり借金を返済してしまったのだ。
ケネスは利息で膨れ上がった借金、総額14億クラムを回収しはしたものの、本懐――借金の形に沿岸部の軍を操って北方を攻め、ノルド王国と北方全土を隷属させる計画は完全に瓦解、水泡に帰した。
ケネスは北方隷属計画が成功していればケネスに次ぎ、最も利権を得られるはずだった人物――バーミー卿からの糾弾を受けていた。
「どう言うことだ、ケネス」
「私にも、……皆目見当が付きません」
「まさか、北方の奴らがクラムを偽造したか?」
その問いに、ケネスは首を振る。
「確かに、本物でした。詳しく調べてみましたが、体積、比重、含有物、意匠……、どれをとっても、間違いなく中央政府発行のクラム通貨に間違いありませんでした」
「ならば、どこかと取引をしたか」
「それもあり得ません。クラムが余分に流入しないよう、あちこちで制御していたはずですから」
答えの出ない会話に、いよいよバーミー卿が怒り出す。
「では、どう言うわけなのだ!? 返答によっては、ただでは済ますまいぞ!」
「『ただでは』? それは私に言っているのですか?」
ケネスも反発する。
「それは、私の過去、現在、そして未来の貢献を無視しての発言ですか?」
その一言に、バーミー卿はばつの悪そうな顔をした。
「……ゴホン、ゴホン。いや、……まあ、うむ。
とにかく、調べておいてくれ。二度と、こんなわけのわからぬ大失態が起こらぬよう」
「言われずとも。原因が判明し次第、報告させていただきます。
あいつらに多額の資金を供給した、そのふざけた富豪には、それ相応の制裁を加えていただかねばなりますまい……!」
ケネスは怒りに満ちた顔で、そう答えた。
時間と場所は、衝突が回避され、安堵の雰囲気が漂うノルド峠に戻る。
「で、説明してもらわな、僕には何が何やらさっぱりなんですけども。
どうやって、20億クラムを用意したんです?」
帰途の途中、そう尋ねてきたフォコに、ランドはニコニコしながら答えた。
「実質的にさ、僕たちは時価80億クラムの資産を持ってた。だろ?」
「ええ」
「でもそのほとんどは、グランやステラと言った通貨であり、この一件を解決するためには、どうしてもクラムに換える必要があった。
だけども沿岸部との交通は封鎖されてたし、為替取引ができる状況じゃなかった。このままじゃ僕たちは、クラムを手にできない。
そこでタイカに、協力してもらってたんだ」
その説明を、大火が継ぐ。
「ランドからグラン通貨とステラ通貨を預かった俺は『テレポート』――一言で言うと、世界を自在に飛び回れる術だ――を使い、こいつの生家を訪問した」
「また掟破りな技、持っとりますな。……って、生家?」
「あれ、言ってなかったっけ。僕のとこ、央中じゃ結構大きな商家なんだよ」
「聞いてまへん」
「じゃ、今言った。ま、それはともかく。
僕の母が商家の当主をやってるんだけど、彼女に両替をお願いしたんだ。流石に市場に出回ってない通貨だし、了承してくれるかどうか分からなかった。
了承してくれたとしても、流石に20億も集めてくれるか。不安要素はかなりいっぱいだったんだけど……」
「結果は、良しですな」
事の顛末を聞き、フォコの疑問はようやく晴れた。
「ほんなら、もう沿岸部との問題は解決して、次はいよいよ、ノルド王国との対決になりますな」
「ああ。……だけどきっと、これも僕たちの勝ちになるよ」
「なんや策でも?」
「うん。もう講じてある。
ほら、今さ、ここにジーン王国の主要人物のほとんどが集まってるだろ?」
「そうですね。……って、まずいんやないですか、それ?」
そう尋ねたフォコに、ランドはまたにっこり笑った。
「普通はね。だけど、事前に一つの楔を打ってある。覚えてるかな?」
「ん……?」
フォコは自分たちがここ最近取った行動を思い返してみる。
「……ああ、もしかしてアレですか」
「そう、それ」
「何だ?」
尋ねた大火に、フォコとランドは同時にニヤッと笑った。
「腹黒おばはんの金汚さのせいで、ノルド王国軍は困ったことになる、ちゅうことですわ」
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