fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・挟策記 1

     ←クルマのドット絵 その41 →火紅狐・挟策記 2
    フォコの話、124話目。
    でまかせ兵法。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     フォコたちがノルド峠へ出向き、沿岸部との衝突回避に努めていた頃。
    「何故だ、スノッジ卿? 何故今、イスタス砦を落とさぬ?」
     首都からやってきた本軍の最高幹部たちが並ぶ会議室にて、あの「腹黒おばはん」、スノッジ将軍が質問攻めに遭っていた。
     ブレーンであるランドとフォコや、将軍のイール、レブらと言った主要人物が離れ、手薄になっているはずのジーン王国へ攻め込むことに、彼女が強く反対しているからだ。
    「何故かと? いえいえ、これは少し落ち着いて考えていただければ、自ずと見えてくること。ご同輩一同、今一度、よくよくご検討のほどを」
    「何度もやった! 砦が今、もぬけの殻であることは明白!
     今、イスタス砦には王を僭称(せんしょう)するクラウス・キルシュ、そして元商政大臣のエルネスト・キルシュ親子しかいないのは分かり切っている!
     奴らにはまったく、戦闘経験はない! さらには相手軍の半数以上、ノルド峠へ向かっている! 兵も、将も手薄! 紙細工同然の相手に、何を逡巡する必要があるのか!?」
    「で、ございましょう? それが却って、怪しゅうございます」
     そう返したスノッジ将軍に、一同は首をかしげる。
    「どう言うことだ?」
    「『空城計』と言う言葉をご存じですか?」
    「くう、じょう……?」
     スノッジ将軍は何とか軍を留めさせようと、ランドからあらかじめ吹き込まれていた方便を伝える。
    「敵があえて、わざと我々に攻め込ませようと、いない振りをすると言う策のことです。
     こうして我々がすぐ、目の前にいるこの状況で、敵は今、本陣にいないことを、隠し立てもせず、あからさまに広く報せています。
     これが罠でなくて、なんでしょうか?」
    「何をバカな……!」
     大半はスノッジ将軍の意見を鼻で笑ったが、それでも数人は納得し始めた。
    「いや、そうとも言い切れんよ」
    「何ですと?」
    「あのイスタス砦、元々はロドン元将軍が持っていたものだったが、キルシュ卿ら、現在のジーン王国の中心人物らに陥落させられたそうではないか。
     そして陥落のタイミングも、異様に良かったと聞く。降って湧いたように軍備の横流し騒ぎが起き、その犯人探しで砦内の空気が険悪になったところで、その不仲を狙ったように攻め込んだと言うではないか。
     これはあまりにもできすぎた流れと思わんかね――ブレーンになっていると言うファスタ卿の仕業ではないかと、わしは思うのだ」
    「むう……」
    「そしてノルド峠でいざこざが起こっているとは言え、今まさに、我々が迫っていると言うのに。相手は砦を留守にしておいて、それを隠そうともしない。
     この防御のなさは、余りにも不気味だ。罠の可能性は、捨てきれんだろう」
    「確かにそうかも……」
    「しかし……、そのファスタ卿も、砦にはいないと」
    「そこがまた怪しい。戦闘に参加しないはずの人間が何故、戦地の最前線に向かうと言うのか? 冷静に考えれば、そんな行動は理屈に合わん。
     例えば影武者を立てるなどして、実際のところはあの砦に籠っており、そして、我々がノコノコ襲ってくるのを、手ぐすね引いて待っているのではなかろうか?
     罠の臭いを、感じずにはいられん」
    「そう考えれば、そうとも取れなくは……」
    「いやしかし、兵がいないのは間違いなく……」
    「だがそれも引っかけ、と思えなくも……」
     会議は煮詰まり、結論は一向に出ない。

     この流れに、スノッジ卿は心の中で、ほっと溜息をついた。
    (これなら思惑通り、本軍の足止めができそうね)
     何しろ、1億クラムの取引である。
     スノッジ将軍としては、1億の獲得のため、何としてでも成功させなければならなかったし、何より相手はポンと1億を出せる「お客」なのだ。
     ここで本軍に潰されてしまっては、1億の取引は丸つぶれになるし、さらに今後の取引を考えれば、相手に残ってもらわなければならない。
    (こいつらの戦果や利権など、どうでもいい。肝心なのは、わたくし。
     わたくしの、利益。わたくしの、権利。わたくしの、お金。それがちゃんと確保されなければ、何にもなりはしないもの)
     膠着した会議の中、スノッジ将軍は自分の懐を潤わせることに、考えを巡らせていた。
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【クルマのドット絵 その41】へ
    • 【火紅狐・挟策記 2】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    金汚くてしかも腹黒いおばはんです。

    NoTitle 

    こういうおばさんはよくいるv-389
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【クルマのドット絵 その41】へ
    • 【火紅狐・挟策記 2】へ