「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・挟策記 1
フォコの話、124話目。
でまかせ兵法。
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1.
フォコたちがノルド峠へ出向き、沿岸部との衝突回避に努めていた頃。
「何故だ、スノッジ卿? 何故今、イスタス砦を落とさぬ?」
首都からやってきた本軍の最高幹部たちが並ぶ会議室にて、あの「腹黒おばはん」、スノッジ将軍が質問攻めに遭っていた。
ブレーンであるランドとフォコや、将軍のイール、レブらと言った主要人物が離れ、手薄になっているはずのジーン王国へ攻め込むことに、彼女が強く反対しているからだ。
「何故かと? いえいえ、これは少し落ち着いて考えていただければ、自ずと見えてくること。ご同輩一同、今一度、よくよくご検討のほどを」
「何度もやった! 砦が今、もぬけの殻であることは明白!
今、イスタス砦には王を僭称(せんしょう)するクラウス・キルシュ、そして元商政大臣のエルネスト・キルシュ親子しかいないのは分かり切っている!
奴らにはまったく、戦闘経験はない! さらには相手軍の半数以上、ノルド峠へ向かっている! 兵も、将も手薄! 紙細工同然の相手に、何を逡巡する必要があるのか!?」
「で、ございましょう? それが却って、怪しゅうございます」
そう返したスノッジ将軍に、一同は首をかしげる。
「どう言うことだ?」
「『空城計』と言う言葉をご存じですか?」
「くう、じょう……?」
スノッジ将軍は何とか軍を留めさせようと、ランドからあらかじめ吹き込まれていた方便を伝える。
「敵があえて、わざと我々に攻め込ませようと、いない振りをすると言う策のことです。
こうして我々がすぐ、目の前にいるこの状況で、敵は今、本陣にいないことを、隠し立てもせず、あからさまに広く報せています。
これが罠でなくて、なんでしょうか?」
「何をバカな……!」
大半はスノッジ将軍の意見を鼻で笑ったが、それでも数人は納得し始めた。
「いや、そうとも言い切れんよ」
「何ですと?」
「あのイスタス砦、元々はロドン元将軍が持っていたものだったが、キルシュ卿ら、現在のジーン王国の中心人物らに陥落させられたそうではないか。
そして陥落のタイミングも、異様に良かったと聞く。降って湧いたように軍備の横流し騒ぎが起き、その犯人探しで砦内の空気が険悪になったところで、その不仲を狙ったように攻め込んだと言うではないか。
これはあまりにもできすぎた流れと思わんかね――ブレーンになっていると言うファスタ卿の仕業ではないかと、わしは思うのだ」
「むう……」
「そしてノルド峠でいざこざが起こっているとは言え、今まさに、我々が迫っていると言うのに。相手は砦を留守にしておいて、それを隠そうともしない。
この防御のなさは、余りにも不気味だ。罠の可能性は、捨てきれんだろう」
「確かにそうかも……」
「しかし……、そのファスタ卿も、砦にはいないと」
「そこがまた怪しい。戦闘に参加しないはずの人間が何故、戦地の最前線に向かうと言うのか? 冷静に考えれば、そんな行動は理屈に合わん。
例えば影武者を立てるなどして、実際のところはあの砦に籠っており、そして、我々がノコノコ襲ってくるのを、手ぐすね引いて待っているのではなかろうか?
罠の臭いを、感じずにはいられん」
「そう考えれば、そうとも取れなくは……」
「いやしかし、兵がいないのは間違いなく……」
「だがそれも引っかけ、と思えなくも……」
会議は煮詰まり、結論は一向に出ない。
この流れに、スノッジ卿は心の中で、ほっと溜息をついた。
(これなら思惑通り、本軍の足止めができそうね)
何しろ、1億クラムの取引である。
スノッジ将軍としては、1億の獲得のため、何としてでも成功させなければならなかったし、何より相手はポンと1億を出せる「お客」なのだ。
ここで本軍に潰されてしまっては、1億の取引は丸つぶれになるし、さらに今後の取引を考えれば、相手に残ってもらわなければならない。
(こいつらの戦果や利権など、どうでもいい。肝心なのは、わたくし。
わたくしの、利益。わたくしの、権利。わたくしの、お金。それがちゃんと確保されなければ、何にもなりはしないもの)
膠着した会議の中、スノッジ将軍は自分の懐を潤わせることに、考えを巡らせていた。
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フォコたちがノルド峠へ出向き、沿岸部との衝突回避に努めていた頃。
「何故だ、スノッジ卿? 何故今、イスタス砦を落とさぬ?」
首都からやってきた本軍の最高幹部たちが並ぶ会議室にて、あの「腹黒おばはん」、スノッジ将軍が質問攻めに遭っていた。
ブレーンであるランドとフォコや、将軍のイール、レブらと言った主要人物が離れ、手薄になっているはずのジーン王国へ攻め込むことに、彼女が強く反対しているからだ。
「何故かと? いえいえ、これは少し落ち着いて考えていただければ、自ずと見えてくること。ご同輩一同、今一度、よくよくご検討のほどを」
「何度もやった! 砦が今、もぬけの殻であることは明白!
今、イスタス砦には王を僭称(せんしょう)するクラウス・キルシュ、そして元商政大臣のエルネスト・キルシュ親子しかいないのは分かり切っている!
奴らにはまったく、戦闘経験はない! さらには相手軍の半数以上、ノルド峠へ向かっている! 兵も、将も手薄! 紙細工同然の相手に、何を逡巡する必要があるのか!?」
「で、ございましょう? それが却って、怪しゅうございます」
そう返したスノッジ将軍に、一同は首をかしげる。
「どう言うことだ?」
「『空城計』と言う言葉をご存じですか?」
「くう、じょう……?」
スノッジ将軍は何とか軍を留めさせようと、ランドからあらかじめ吹き込まれていた方便を伝える。
「敵があえて、わざと我々に攻め込ませようと、いない振りをすると言う策のことです。
こうして我々がすぐ、目の前にいるこの状況で、敵は今、本陣にいないことを、隠し立てもせず、あからさまに広く報せています。
これが罠でなくて、なんでしょうか?」
「何をバカな……!」
大半はスノッジ将軍の意見を鼻で笑ったが、それでも数人は納得し始めた。
「いや、そうとも言い切れんよ」
「何ですと?」
「あのイスタス砦、元々はロドン元将軍が持っていたものだったが、キルシュ卿ら、現在のジーン王国の中心人物らに陥落させられたそうではないか。
そして陥落のタイミングも、異様に良かったと聞く。降って湧いたように軍備の横流し騒ぎが起き、その犯人探しで砦内の空気が険悪になったところで、その不仲を狙ったように攻め込んだと言うではないか。
これはあまりにもできすぎた流れと思わんかね――ブレーンになっていると言うファスタ卿の仕業ではないかと、わしは思うのだ」
「むう……」
「そしてノルド峠でいざこざが起こっているとは言え、今まさに、我々が迫っていると言うのに。相手は砦を留守にしておいて、それを隠そうともしない。
この防御のなさは、余りにも不気味だ。罠の可能性は、捨てきれんだろう」
「確かにそうかも……」
「しかし……、そのファスタ卿も、砦にはいないと」
「そこがまた怪しい。戦闘に参加しないはずの人間が何故、戦地の最前線に向かうと言うのか? 冷静に考えれば、そんな行動は理屈に合わん。
例えば影武者を立てるなどして、実際のところはあの砦に籠っており、そして、我々がノコノコ襲ってくるのを、手ぐすね引いて待っているのではなかろうか?
罠の臭いを、感じずにはいられん」
「そう考えれば、そうとも取れなくは……」
「いやしかし、兵がいないのは間違いなく……」
「だがそれも引っかけ、と思えなくも……」
会議は煮詰まり、結論は一向に出ない。
この流れに、スノッジ卿は心の中で、ほっと溜息をついた。
(これなら思惑通り、本軍の足止めができそうね)
何しろ、1億クラムの取引である。
スノッジ将軍としては、1億の獲得のため、何としてでも成功させなければならなかったし、何より相手はポンと1億を出せる「お客」なのだ。
ここで本軍に潰されてしまっては、1億の取引は丸つぶれになるし、さらに今後の取引を考えれば、相手に残ってもらわなければならない。
(こいつらの戦果や利権など、どうでもいい。肝心なのは、わたくし。
わたくしの、利益。わたくしの、権利。わたくしの、お金。それがちゃんと確保されなければ、何にもなりはしないもの)
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