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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・因縁録 4

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    晴奈の話、第87話。
    黄海防衛戦、ひとまず終息。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「くそ……!」
     晴奈は真っ二つに折れた刀を見下ろし、悪態をつく。
    「くそ……!」
     ウィルバーが立て続けに放った棍が、晴奈の刀を折ってしまったのだ。
     仕方無く脇差を抜いたものの、こちらは長さも切れ味も、刀より大分劣る。劣勢に立たされた晴奈は、ポタポタと冷や汗が流れていた。
    「どうやらオレの勝ちらしいな。どうする? 今なら介錯してやらなくも無いぜ? 姉の無残な屍なんか、妹に見せたいもんでもないだろ?」
     居丈高に振る舞うウィルバーに、晴奈は虚勢を構える。
    「勝負はまだ付いてはいない!」
     晴奈は懸命に脇差を振り回すが、三節棍の長さには到底太刀打ちできない。加えて大柄なウィルバーの手足の長さは、長身の晴奈でも分が悪い。
     攻撃はウィルバーに余裕でかわされ、かわしざまにひらりひらりと棍が飛んでくる。その一撃一撃が、晴奈をじわじわと弱らせていく。
    「くッ……!」
     打つ手が見い出せず、晴奈の消耗がじわじわと積もっていく。
     その劣勢を見抜いたらしく、ウィルバーがより一層の攻勢に出た。
    「それッ!」
     勢い良く棍が突き出され、晴奈は脇差を構え、それを防ぐ。しかしその衝撃を削ぎきれず、晴奈は体勢を崩す。
    「ハハ、これでオレの勝ちだ!」
     棍が跳ね返ってきたところで、ウィルバーは棍をつなぐ鎖に指をかけた。
    「……!」
     そこが支点となり、三節棍全体が回転する。鎖を指で吊ったまま、ウィルバーは腕をぐるりと回した。指にかかった棍に勢いが付き、晴奈に向かって飛んでいく。
     一瞬のうちに、防いだはずの棍が自分に戻っていく。だがよろけた晴奈には、それをかわず余裕が無い。
    (これは、あの時と……!)
     7年前、ウィルバーに負けた時の記憶が、晴奈の脳裏に蘇る。このままでは7年前と同じように、棍は晴奈の額を割ることになる。
    (た……、倒れてなるものか! 二度も同じ辱めを受けて、倒れてしまうわけには行かぬ!)
     晴奈は歯を食いしばり、迫り来る棍を凝視した。

     ところが、ここで信じられないことが――少なくとも、三節棍の達人であるウィルバーにとっては、まずありえないと断言するようなことが起きた。
     宙を飛び、晴奈に向かっていた三節棍が、突然上に跳ね上がったのだ。
    「……は?」
     ウィルバーの鋭い目が真ん丸になる。晴奈も驚き、言葉を失う。
     続いて棍は、もう一度空中で跳ねる。ウィルバーはまだ驚いたままだ。晴奈は相手より一瞬早く我に返り、驚いているウィルバーをにらむ。
     また棍が跳ねたところで、ようやくウィルバーが晴奈の方に目を向けたが、既に遅かった。
    「しまっ……!」
     晴奈が脇差を振り上げ、ウィルバーに迫る。ウィルバーは体をひねるが避け切れず、脇差が左肩に食い込む。
    「ぐ……、ッ」
     晴奈は脇差から手を離し、肩を押さえてのけぞったウィルバーの腹を蹴り、そのまま転倒させた。
     そしてくるくると宙を飛んでいた棍が、ウィルバーの顔に落ちていく。
     一瞬の間を置いて、ボキ、と言う鈍い音が、晴奈の耳に届いた。



    「……うう」「おお、気が付かれましたか、僧兵長!」
     ウィルバーは動く馬車の中で目を覚ました。起きようとしたところで、腹と肩、そして顔全体に痛みを感じ、思わずえずく。
    「う、げ」
    「あ、あ、安静になさってください」
     横にいる従者は、すまなそうな顔をしている。顔に包帯が巻かれたその様子は、垂れた兎耳と相まって、とても情けなく映る。
    「ろうなっら……、ああん?」
     ウィルバーはしゃべろうとしたところで、自分の発音がおかしいことに気付く。
    「あ、まはか」
     口を触ってみると、前歯の感触が無い。どうやら三節棍が当たった時、折れてしまったらしい。
    「くほ……、なはけねえ」
    「そ、それで、その、ですね」
     従者は泣きそうな顔で報告する。
    「あの、僧兵長のですね、その、御身がですね、危ういと、その、感じましてですね、はい、あの、これはまずいなと、そう、そんな風に、あの、思いましてですね、……その、撤退、を、ですね、はい、いたしまして、はい」
    「……てめえ」
     ウィルバーは体中の痛みも忘れ、従者の兎耳を力任せに引っ張った。
    「あ、痛い、痛いです、お止めください、僧兵長、痛い、痛い!」
    「らから、気ほ付けろっへ言っはんら、オレは! この、大マヌケめ!」

    「かたじけない、リスト」
    「へっへーん」
     リストがまた、銃をクルクル回して見せびらかしている。
     先程の戦いで、リストがウィルバーの三節棍を狙撃していたのだ。
    「ま、とっさにとは言え、うまく行って良かったわ。メイナの強化術のおかげね」
    「いえ、そんな……」
     ウィルバーが倒されたことが陣内に伝わり、教団は大急ぎで撤退を始めた。
     晴奈たちもその間に他の剣士たちを集め、戦闘地域から離脱。今は既に、黄海の壁が見える辺りまで戻って来ていた。
    「もう教団のヤツらはいないわね。作戦終了、と」
     リストは銃を収め、晴明姉妹に笑いかける。
    「さ、戻ろっか、セイナ、メイナ」
    「ええ、そうしましょう」
    「そうだな。エルスもきっと待ちかねている」



     その後、数回にわたって教団は人員を増やし、黄海の制圧を試みたが、黄海側も焔流や州軍などと連携し、応戦を続けた。
     これが2年半に渡って続き、央南西部・中部を騒がせた、央南抗黒戦争の始まりである。
     そしてそれは同時に、戦略家「大徳」エルス・グラッドと、剣豪「蒼天剣」黄晴奈、この二人の伝説の、始まりでもあった。

    蒼天剣・因縁録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.09 転載
    2016.03.06 修正
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    ~ Comment ~

     

    この辺りから、特に縁が強くなっていく感じですね。
    戦って対立を深めたり、また、戦って互いを理解し合ったりと、
    晴奈とウィルバーの間には、必ず「戦い」が絡んできます。
    そこら辺が「因縁」かな、と思ってます。

     

    ウィルバーとセイナの戦い再びですね。
    戦えば戦うほど味が出る関係もいいですね。ここまでくると、どこがどう因縁なんだかわからなくなってきますね。会えば即戦闘。そんな感じな関係というのもいいですよね。どうもLandMでした。
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