「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・地星記 3
フォコの話、131話目。
静かな政権交代。
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3.
ノルド側に交渉の意向を伝え、間もなく城門が開かれた。
「案外すんなり応じてくれたようで、ほっとした」
「油断はできないわよ」
安堵した顔をするクラウスに、イールが釘を刺す。
「護衛はランドとあたしだけなんだし、隙を突いて暗殺される可能性は大きいわ」
「……そうだな」
しかし、そんな警戒とは裏腹に、城内に立つ近衛兵たちは疲れ切った顔で出迎えてくる。
「陛下は奥におわします」
「ありがとう」
どの兵士たちも、ほぼ同じことしか言わず、表情もほとんど変わらない。それを眺めていたランドは、ぽつりとこう漏らした。
「……何だかな。みんな、人形か何かみたいだ」
「私が昔、この城を訪れた時も、同じような応対を受けた。恐らく彼らは、昔からあれしか仕事が無かったのだろう」
「だから、……こんな時でも、戦いもせず、挨拶しかできないってことなのかしら」
「かもね」
間もなく三人は――近衛兵の言った通り――謁見の間に通された。
「……久しいな、クラウス。いや、ジーン王と呼んだ方がいいか?」
「クラウスでいい。私も砕けた雰囲気で話がしたい」
「そうか。……皆、下がってくれ。余はクラウスと、二人のみで話をする」
ノルド王、バトラーの言葉に従い、玉座の周囲にいた従者たちは部屋を後にする。
「ファスタ卿、サンドラ将軍。君たちも……」
「はい」「分かったわ」
ランドたちも部屋を去り、謁見の間にはクラウスとバトラーだけになった。
「……それでクラウス。余、……コホン、俺に何を望むんだ? 命か?」
「馬鹿な。そんな野蛮なことはしたくない」
「……ほっとした。見せしめに、さらし首にでもされるかと思って、不安だったんだ」
「そんなこと、するわけないじゃないか。親友だった、君に」
クラウスはバトラーのすぐ前の床に、ひょいと座り込む。
「さっき金髪の、眼鏡の青年がいただろう? 彼が今回の制圧作戦を初めとして、ジーン王国建国の、一連の戦略を立ててくれていたんだ。
彼は平和に対して、強い思いを抱いてくれていた。できる限り、北方人同士で戦うことなく、平和裏に解決できるよう、尽力してくれたんだ」
「そうだったのか。……そうだな、俺の方にも、この制圧戦で死んだ兵はいないって聞いてた。せいぜい、頭にコブを作ったくらいらしいし」
「ああ。無論、僕らの方にも死者はいない。
……本当に、難しいことだったと思うよ。死者を出さずに、首都を制圧だなんて。僕にはこんな作戦を推し進めるなんて、とてもできないし、作戦を思いつくことさえできなかっただろう。
だけど、平和を愛する気持ちは同じだ。こうして無血で、この城内に入れたことを、非常にうれしく思っている」
「……ああ。俺もほっとしてる。こんな何もできない奴のために誰かが死ぬなんて、……あってほしくなかった」
「僕も同じだ。実は、僕も特に、何もしてなかったりするんだ。書類にサインするくらいしか。……はは」
自然に、二人の間に笑いが込み上げてきた。
「ふふ、ははは……」
「くっく、くくく……」
それは周囲の重圧から解放された、さわやかさを感じる笑いだった。
「……ああ、何だかすっきりした。
クラウス、これ、受け取ってくれ」
バトラーは玉座から立ち上がり、自分の頭に載っていた王冠を、クラウスの頭にポンと載せた。
「いいのか? こんな、簡単に」
「いいよ。……お前の話を聞いて、これを載せるのは俺じゃないなって分かったんだ。
俺の周り……、って言うか、俺の国はもう、みんな自分の利益を追いかける奴ばっかりで、立ち直れるような雰囲気じゃなかった。もう、この国はおしまいなんだよ。
逆にお前の国は、これからどんどん活気づいてくるはずだ。この北方大陸が立ち直るには、お前の国が治めるしかないよ」
「……」
バトラーは玉座には座らず、クラウスの前に屈み込んだ。
「俺がこんなこと、言えた義理じゃないけど。
頼んだぜ、北方大陸を」
「……ああ」
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静かな政権交代。
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3.
ノルド側に交渉の意向を伝え、間もなく城門が開かれた。
「案外すんなり応じてくれたようで、ほっとした」
「油断はできないわよ」
安堵した顔をするクラウスに、イールが釘を刺す。
「護衛はランドとあたしだけなんだし、隙を突いて暗殺される可能性は大きいわ」
「……そうだな」
しかし、そんな警戒とは裏腹に、城内に立つ近衛兵たちは疲れ切った顔で出迎えてくる。
「陛下は奥におわします」
「ありがとう」
どの兵士たちも、ほぼ同じことしか言わず、表情もほとんど変わらない。それを眺めていたランドは、ぽつりとこう漏らした。
「……何だかな。みんな、人形か何かみたいだ」
「私が昔、この城を訪れた時も、同じような応対を受けた。恐らく彼らは、昔からあれしか仕事が無かったのだろう」
「だから、……こんな時でも、戦いもせず、挨拶しかできないってことなのかしら」
「かもね」
間もなく三人は――近衛兵の言った通り――謁見の間に通された。
「……久しいな、クラウス。いや、ジーン王と呼んだ方がいいか?」
「クラウスでいい。私も砕けた雰囲気で話がしたい」
「そうか。……皆、下がってくれ。余はクラウスと、二人のみで話をする」
ノルド王、バトラーの言葉に従い、玉座の周囲にいた従者たちは部屋を後にする。
「ファスタ卿、サンドラ将軍。君たちも……」
「はい」「分かったわ」
ランドたちも部屋を去り、謁見の間にはクラウスとバトラーだけになった。
「……それでクラウス。余、……コホン、俺に何を望むんだ? 命か?」
「馬鹿な。そんな野蛮なことはしたくない」
「……ほっとした。見せしめに、さらし首にでもされるかと思って、不安だったんだ」
「そんなこと、するわけないじゃないか。親友だった、君に」
クラウスはバトラーのすぐ前の床に、ひょいと座り込む。
「さっき金髪の、眼鏡の青年がいただろう? 彼が今回の制圧作戦を初めとして、ジーン王国建国の、一連の戦略を立ててくれていたんだ。
彼は平和に対して、強い思いを抱いてくれていた。できる限り、北方人同士で戦うことなく、平和裏に解決できるよう、尽力してくれたんだ」
「そうだったのか。……そうだな、俺の方にも、この制圧戦で死んだ兵はいないって聞いてた。せいぜい、頭にコブを作ったくらいらしいし」
「ああ。無論、僕らの方にも死者はいない。
……本当に、難しいことだったと思うよ。死者を出さずに、首都を制圧だなんて。僕にはこんな作戦を推し進めるなんて、とてもできないし、作戦を思いつくことさえできなかっただろう。
だけど、平和を愛する気持ちは同じだ。こうして無血で、この城内に入れたことを、非常にうれしく思っている」
「……ああ。俺もほっとしてる。こんな何もできない奴のために誰かが死ぬなんて、……あってほしくなかった」
「僕も同じだ。実は、僕も特に、何もしてなかったりするんだ。書類にサインするくらいしか。……はは」
自然に、二人の間に笑いが込み上げてきた。
「ふふ、ははは……」
「くっく、くくく……」
それは周囲の重圧から解放された、さわやかさを感じる笑いだった。
「……ああ、何だかすっきりした。
クラウス、これ、受け取ってくれ」
バトラーは玉座から立ち上がり、自分の頭に載っていた王冠を、クラウスの頭にポンと載せた。
「いいのか? こんな、簡単に」
「いいよ。……お前の話を聞いて、これを載せるのは俺じゃないなって分かったんだ。
俺の周り……、って言うか、俺の国はもう、みんな自分の利益を追いかける奴ばっかりで、立ち直れるような雰囲気じゃなかった。もう、この国はおしまいなんだよ。
逆にお前の国は、これからどんどん活気づいてくるはずだ。この北方大陸が立ち直るには、お前の国が治めるしかないよ」
「……」
バトラーは玉座には座らず、クラウスの前に屈み込んだ。
「俺がこんなこと、言えた義理じゃないけど。
頼んだぜ、北方大陸を」
「……ああ」
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