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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・地星記 4

     ←火紅狐・地星記 3 →火紅狐番外編 その1
    フォコの話、132話目。
    北方統一の実現。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     併合宣言書を読み終えた将軍たちは、一様に地べたに座り込み、呆然としていた。
    「……どうします?」
     不意に、将軍の一人が、ぽつりと質問を投げかける。
    「……帰ろう」
    「そうじゃな」
     意外にも、年配の将軍たちは冷静に振る舞っている。
    「ま、……もうノルド王国の将軍でなくなったのじゃから、言うてしまうが。
     疲れとったんじゃ、わし。もう、領土だの金だの権力だのメンツだの、やいのやいの言うのも言われるのも、うんざりしとった」
    「ああ、……うむ。私もそうだな。親の、親の、そのまた親の代から、何が何でも成り上がれ、成り上がろう、成り上がってやれと、したくもない争いをしていた。もうやらんでいい、となれば」
    「すっきりするってもんだ。……あーあ、疲れた疲れた」
     それに応えるように、若手の将軍たちも武具を脱ぎ始めた。
    「帰りますか、ね」
    「ああ、そうしよう」



     こうして308年、短い夏が終わるかと言う頃、何十年と続けられた北方の内乱は収められた。
     各地で独断専行を続けていた将軍たちには、ジーン王室政府から正式に領地を認められ、各領地ごとで政治を執り行い、王室政府がそれを統括する連邦制が敷かれることとなった。
     さらに新通貨、ステラが北方全域に流通したことと、フォコとキルシュ卿が適切に各地の取引・税制を指導したことにより、何十年も続いていたインフレと経済崩壊は、ようやく終息に向かった。
     この処遇と処置により、「好き勝手に統治することが認められた上に、金まで融通してくれるとは」と、各地の軍閥や権力者たちは、この新しい国に嬉々として従った。
     北方の権力者たちの人気と信頼を得たジーン王国は、それまでの荒れ果てた北方大陸の様相を一変させた。

     情勢が落ち着き始めた、309年の春。
    「おめでとう!」
    「おめでとうございます!」
     こじれていたレブとイドゥン将軍の関係が修復した後、改めてイリアとの縁談が進められていた。
    「ありがとう、ありがとう……」
     莫大な借金のために、一時は見る影もないほど覇気を落とし、木偶同然に振る舞っていたイドゥン将軍だったが、ノルド峠での衝突以降、かつての威厳と男気を取り戻していた。
     皮肉なことに――借金漬けで半錯乱状態だった時には、まったくイドゥン将軍になびかなかったイリアは、彼が立ち直って以降は積極的に接するようになり、そしてこの日、ようやく結婚へ至ったのだ。
    「みなさん、ありがとうございます!」
     イドゥン将軍に肩を抱かれた彼女は、幸せそうに微笑んでいた。
    「……うぐ、ぐすっ」
     反面、レブはボタボタと涙をこぼしている。
    「ちょっとあんた、泣き過ぎじゃない?」
     呆れるイールに、レブは鼻声で小さく返す。
    「うっせぇ、……ぐす」
    「……ま、これでもう、ホントに、平和になったって実感できるわね。去年、一昨年の情勢のままだったら、絶対こんな結果には、ならなかったんだし」
    「だなぁ、……ぐすっ」
    「……はい」
     イールは見るに見かね、ハンカチを差し出した。

     幸せな雰囲気に包まれた式場の中、フォコはその様子をぼんやりと見つめながら、一人沈んでいた。
    (ティナ……。
     僕がもし、無事に、おやっさんを連れてナラン島に戻って来られてたら、結婚してたはず、……やったんやな、そう言えば)
     昔の記憶にかかっていた霞を拭いながら、フォコは訪れなかった未来を描く。
    (そうやんな……。もしもあの時、僕が帰ってたら、僕は今頃、あの素敵なティナを奥さんにして、幸せな家庭を築いてたかも知れへんのやんな。
     もしかしたら、子供もできてたかも知れへんし。もしかしたら、おやっさんのお子さんたちと、その子とで、仲良う遊んでるとこ、おやっさんとおかみさんと、ティナとで、のんびり眺めとった、かも、……っ)
     不意に、フォコの目からボタボタと涙が流れる。
    「……ぐ、……うう」
     思わず漏れた嗚咽に、フォコは口を抑えた。
    (アカン、アカンて……。こんな日に、こんなとこで泣いとったら、変に思われるわ。しゃっきり、せな)
     と、無理矢理に涙をこらえ、顔を乱暴に拭いて立ち上がった、その時だった。
    「ホコウ、ここにいたんだ」
    「ぅへ? ……ああ、ども、ランドさん」
     フォコはフードを深めにかぶって顔を隠しつつ、ランドの方に向き直った。
    「……?」
     彼の横に、どこかで見た覚えのある、一人の狼獣人が立っていた。
    「あれ?」
     と、その「狼」の女性が驚いた声を上げた。
    「お前、もしかして……」
    「……っ!?」
     次の瞬間、フォコはその場から逃げだした。
    「お、おい!? 待てよ!?」
     背後からかけられた声にも構わず、フォコは逃げ去ってしまった。
    (な、……な、なんで? なんで僕は、……なんで、あの人が、……なんでやねん!?)
     自分がどこに行くのかも分からないまま、フォコは式場から逃げ去った。

    火紅狐・地星記 終
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    NoTitle 

    違いますねぇ。
    現実で出会った人です。

    NoTitle 

    首絞めた人か?v-394
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