「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
火紅狐番外編 その1
フォコの話、からちょっと後に起こった話。
腹黒将軍の末路。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
火紅狐番外編 その1
「……参ったわ」
将軍たちから追い払われ、ほうほうの体で自分の拠点、ソーリン砦に戻ったスノッジ将軍は、今後の対策を講じていた。
「まさか露見するとは思わなかったわね……」
他の将軍たちを過小評価したがために失態を見せたにも関わらず、この期に及んでまだ、彼女は周囲を軽く見ていた。
「今頃きっと、イスタス砦周辺は修羅場と化しているでしょうね。……恐らくは、1週間か、2週間か、かなりの長期戦となるはず。
どうせ皆、戦っている間は、わたくしに注意など向けはしないでしょう。……これは逆に、全員を手玉に取るチャンスと言うものね。
今のうちに首都に連絡を取り、……そうね、わたくしに無実の罪を着せて砦から追い出そうとした、とでも言っておきましょうか。それを大義名分として、首都に残っている本軍の残りを動かして、戦い疲れた彼らを一網打尽にしてしまおうかしらね」
と、自分の悪行をごまかし、仕返しをしようと考えていたところに。
「……え? へ、併合ですって?」
彼女のところにも、ノルド王国がジーン王国に併合されたと言う報せが届いた。
これではノルド王国の助けを借りることなどできないし、ましてや、自分がしたことをうやむやにすることも不可能である。
「……じゃ、じゃあ、えーと、……どうしようかしら?
……そうね、そもそもよ、取引を持ちかけてきたのは向こうなわけだから、それを楯にして、あの国に正当性が無い、北方を統治する資格などないと非難して、……それで何とか、近隣の支持を得て、……そうだ、ノルド王も追い出されてるでしょうし、彼を擁立して、……わたくしの地位を維持。
そうよ、これなら……」
と、またも自分を棚に上げ、自分勝手な理屈を並べたてて、権力奪取に乗り出そうとしたが。
「帰ってくれ」
「な、何故です?」
既に城を離れ、首都郊外の村に軟禁されていた――それでもクラウス王の庇護を受け、十分に厚遇された暮らしをしていたが――元ノルド王、バトラーの元を訪れたスノッジ将軍は、にべもなく追い払われた。
「俺はもう、王位や政治に興味はない。こうして静かに余生を送るつもりだ」
「し、しかしですね」
「それに聞いているぞ、あちこちでお前がしたと言う、小汚い取引のことを」
「そんなこと……! わたくしばかりが責め立てられることではないでしょう!?」
「何を言うか! 事あるごとに、散々金をねだっていたそうではないか!
仮にも将軍の地位であった者がそんな下賎なことを繰り返して、恥ずかしいとは思わなかったのか!?
だれがそんな小汚い奴に協力などするものか! 帰れ、帰れッ!」
「……」
取りつく島もなく、スノッジ将軍は仕方なくその場を去ろうとした。
「そうだ、将軍。……いや、元将軍」
「は、い?」
バトラーはフンと鼻を鳴らし、こう言い放った。
「知っているか? ノルド王国に属していた将軍たちや資産家、商人などの権力層の8割が、ジーン王国から改めて領地や爵位、将軍職、その他利権を賜ったそうだ。
残りの2割になったようだな、お前は」
「……ッ」
バトラーの言う通り、スノッジ将軍は完全に、ジーン王国から排除されてしまった。
さらに――元々ソーリン砦は、ノルド王国の管轄下にあったものであり、スノッジ将軍はそもそも、その土地を貸与されていただけである。
立ち退くよう指示を受け、スノッジ将軍はそれに従わざるを得なかった。
本拠と側近、兵を失ったスノッジ卿は、ジーン王国との取引で残っていた資金をかき集め、山間部の北部地域に落ち延びた。
「え、……えーと、……どうしようかしら。
……わたくしと同じように、放逐された将軍や、商人なんかがいると言うし、……それを集めて、わたくしも立国しようかしら」
これは、どうにか成功はした。
が――放逐されたのには、放逐されたなりの理由がある。
到底まとまるような人材ではなく、建国されたスノッジ王国は末期のノルド王国と同じように、年を経るごとに荒れていった。
双月暦330年頃。
結局スノッジ王国は滅び、ジーン王国に併合された。
@au_ringさんをフォロー
腹黒将軍の末路。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
火紅狐番外編 その1
「……参ったわ」
将軍たちから追い払われ、ほうほうの体で自分の拠点、ソーリン砦に戻ったスノッジ将軍は、今後の対策を講じていた。
「まさか露見するとは思わなかったわね……」
他の将軍たちを過小評価したがために失態を見せたにも関わらず、この期に及んでまだ、彼女は周囲を軽く見ていた。
「今頃きっと、イスタス砦周辺は修羅場と化しているでしょうね。……恐らくは、1週間か、2週間か、かなりの長期戦となるはず。
どうせ皆、戦っている間は、わたくしに注意など向けはしないでしょう。……これは逆に、全員を手玉に取るチャンスと言うものね。
今のうちに首都に連絡を取り、……そうね、わたくしに無実の罪を着せて砦から追い出そうとした、とでも言っておきましょうか。それを大義名分として、首都に残っている本軍の残りを動かして、戦い疲れた彼らを一網打尽にしてしまおうかしらね」
と、自分の悪行をごまかし、仕返しをしようと考えていたところに。
「……え? へ、併合ですって?」
彼女のところにも、ノルド王国がジーン王国に併合されたと言う報せが届いた。
これではノルド王国の助けを借りることなどできないし、ましてや、自分がしたことをうやむやにすることも不可能である。
「……じゃ、じゃあ、えーと、……どうしようかしら?
……そうね、そもそもよ、取引を持ちかけてきたのは向こうなわけだから、それを楯にして、あの国に正当性が無い、北方を統治する資格などないと非難して、……それで何とか、近隣の支持を得て、……そうだ、ノルド王も追い出されてるでしょうし、彼を擁立して、……わたくしの地位を維持。
そうよ、これなら……」
と、またも自分を棚に上げ、自分勝手な理屈を並べたてて、権力奪取に乗り出そうとしたが。
「帰ってくれ」
「な、何故です?」
既に城を離れ、首都郊外の村に軟禁されていた――それでもクラウス王の庇護を受け、十分に厚遇された暮らしをしていたが――元ノルド王、バトラーの元を訪れたスノッジ将軍は、にべもなく追い払われた。
「俺はもう、王位や政治に興味はない。こうして静かに余生を送るつもりだ」
「し、しかしですね」
「それに聞いているぞ、あちこちでお前がしたと言う、小汚い取引のことを」
「そんなこと……! わたくしばかりが責め立てられることではないでしょう!?」
「何を言うか! 事あるごとに、散々金をねだっていたそうではないか!
仮にも将軍の地位であった者がそんな下賎なことを繰り返して、恥ずかしいとは思わなかったのか!?
だれがそんな小汚い奴に協力などするものか! 帰れ、帰れッ!」
「……」
取りつく島もなく、スノッジ将軍は仕方なくその場を去ろうとした。
「そうだ、将軍。……いや、元将軍」
「は、い?」
バトラーはフンと鼻を鳴らし、こう言い放った。
「知っているか? ノルド王国に属していた将軍たちや資産家、商人などの権力層の8割が、ジーン王国から改めて領地や爵位、将軍職、その他利権を賜ったそうだ。
残りの2割になったようだな、お前は」
「……ッ」
バトラーの言う通り、スノッジ将軍は完全に、ジーン王国から排除されてしまった。
さらに――元々ソーリン砦は、ノルド王国の管轄下にあったものであり、スノッジ将軍はそもそも、その土地を貸与されていただけである。
立ち退くよう指示を受け、スノッジ将軍はそれに従わざるを得なかった。
本拠と側近、兵を失ったスノッジ卿は、ジーン王国との取引で残っていた資金をかき集め、山間部の北部地域に落ち延びた。
「え、……えーと、……どうしようかしら。
……わたくしと同じように、放逐された将軍や、商人なんかがいると言うし、……それを集めて、わたくしも立国しようかしら」
これは、どうにか成功はした。
が――放逐されたのには、放逐されたなりの理由がある。
到底まとまるような人材ではなく、建国されたスノッジ王国は末期のノルド王国と同じように、年を経るごとに荒れていった。
双月暦330年頃。
結局スノッジ王国は滅び、ジーン王国に併合された。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2015.06.01 タイトル表記を修正
2015.06.01 タイトル表記を修正
- 関連記事
-
-
火紅狐番外編 その3 2011/08/05
-
火紅狐番外編 その2 2011/06/20
-
火紅狐番外編 その1 2011/01/20
-
公安チームの挑戦 11 2010/04/13
-
公安チームの挑戦 10 2010/04/12
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~