「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・再逅記 1
フォコの話、133話目。
再び巡り合う。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
走り去っていった狐獣人を眺めながら、彼女は隣に立つ息子に尋ねた。
「……なんなんだ、ありゃ」
「さ、さあ? 一体どうしたんだろうね?」
「私が聞いてるんだっつの。……なあ、ランド。ちょっと聞くが」
その狼獣人――世界最大の職人組合(ギルド)を率いる女丈夫、ルピア・ネールは、何の気なしにこう尋ねてみた。
「あの狐っ子、昔ウチに来た子だよな?」
「え?」
ルピアは自分の髪をくしゃ、と撫でながら、腑に落ち無さそうな顔をする。
「『ホコウ』ってなんだ? まるで中央語がド下手くそな央南人が付けたようなあだ名だな」
「いや……? 彼がそう名乗ってたんだ。ホコウ・ソレイユって」
「はぁ? いやいや、私の記憶が確かなら、あいつは……」
と、そこへ大火がやってくる。
「どうした? こんなところに突っ立って」
「おう、カツミ君」
仏頂面の大火に、ルピアはニコニコしながら手を振る。
「君じゃないよな、あだ名付けたのって」
「何のことだ?」
「……ああ、いや。あいつがそう名乗ったって言ったな。……カツミ君、ホコウ君のところに連れてってもらえるか? どこかへ行ってしまってな」
「構わん」
「あ、じゃあ僕も……」
言いかけたランドに、ルピアは首を振る。
「いや、二人で話をしてみたい。悪いな」
「……そっか。じゃあ僕、式場に戻ってるよ。折角のごちそう、食べ逃しちゃいそうだし」
「おう」
フォコはいつの間にか、結婚式が行われていた沿岸部の街、グリーンプールの港まで逃げていた。
「……はぁ、はぁ」
走り疲れ、桟橋の縁にぺたんと座り込む。
(……なんか、この匂い嗅ぐと、落ち着くわぁ)
3年嗅いできた潮の香りが、ようやくフォコを落ち着かせる。
(ずーっと、山奥でなんやかやとやっとったしなぁ。久々やな、この匂い嗅ぐのんは)
南海の陽気な海とは違う、静かな、しかし厳しさがあちこちににじむ北海の風景に、フォコは思わず、ぼそ、とつぶやいた。
「……みんな、どうしてんねやろ」
「みんなって?」
遠い昔に聞いた覚えのある、張りと威厳のある、しかし、どこか優しさが見え隠れする女性の声に、フォコの狐耳は逆立った。
「……っ」
「よう」
声をかけてきたのは、ルピアだった。
「元気してたか?」
「……」
ルピアはフォコの隣に座り、親しげに話しかけてくる。
「何年振りだっけ? 10年ぶりくらいか? 大きくなったなぁ、君」
「あ……、う……」
何も言えず、フォコは困った顔を向けることしかできない。
「何だよ、そんな顔して。ほれ、笑えって」
ルピアはさわ、とフォコの尻尾をくすぐった。
「ぅひひゃあ!?」
「ぷ、……あはははっ」
妙な声を出したフォコを見て、ルピアは楽しそうに笑った。
「……と、いじるのはこんくらいにしておいて、だ。
君、フォコ君だろ? 昔ウチに来てた、ニコル・フォコ・ゴールドマン君」
「……」
フォコは首を振り、否定しようとする。
「ちがいま……」「ちがわない」
だが、それをルピアが遮る。
「私の目は確かだよ。何年経とうが、一度会った人間の顔は、忘れたりしない。
ほれ、もうこんなフード取っちゃえよ」
そう言って、ルピアはフォコが被っていたフードを無理矢理はぎ取った。
「わっ、ちょ、ルピアさん」
「おーや?」
フォコの発言に、ルピアはニヤッと笑う。
「私はいつ、自己紹介したっけかなぁ?」
「……う」
「やっぱりフォコ君だった、な。
……元気そうで、本当に良かったよ」
そう言うとルピアは、フォコをぎゅっと抱きしめた。
「え、ちょ……?」
「嘘、もう付かなくていいからさ。お疲れさん、フォコ君」
「……ぅ、っ」
「10年ドコにいて、ナニしてたのか知らないけどさ。
……君は何だか、とっても悲しそうな目をするようになっている。とんでもなく嫌な目にばっかり遭ったんだろうな。
だけどさ、これ以上嘘付いて誤魔化したら、もっと嫌な気分になってしまうぞ。本音を全部吐き出して、楽になった方がいい」
「……うう、うううー……」
たまらず、フォコは泣き出してしまった。
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再び巡り合う。
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走り去っていった狐獣人を眺めながら、彼女は隣に立つ息子に尋ねた。
「……なんなんだ、ありゃ」
「さ、さあ? 一体どうしたんだろうね?」
「私が聞いてるんだっつの。……なあ、ランド。ちょっと聞くが」
その狼獣人――世界最大の職人組合(ギルド)を率いる女丈夫、ルピア・ネールは、何の気なしにこう尋ねてみた。
「あの狐っ子、昔ウチに来た子だよな?」
「え?」
ルピアは自分の髪をくしゃ、と撫でながら、腑に落ち無さそうな顔をする。
「『ホコウ』ってなんだ? まるで中央語がド下手くそな央南人が付けたようなあだ名だな」
「いや……? 彼がそう名乗ってたんだ。ホコウ・ソレイユって」
「はぁ? いやいや、私の記憶が確かなら、あいつは……」
と、そこへ大火がやってくる。
「どうした? こんなところに突っ立って」
「おう、カツミ君」
仏頂面の大火に、ルピアはニコニコしながら手を振る。
「君じゃないよな、あだ名付けたのって」
「何のことだ?」
「……ああ、いや。あいつがそう名乗ったって言ったな。……カツミ君、ホコウ君のところに連れてってもらえるか? どこかへ行ってしまってな」
「構わん」
「あ、じゃあ僕も……」
言いかけたランドに、ルピアは首を振る。
「いや、二人で話をしてみたい。悪いな」
「……そっか。じゃあ僕、式場に戻ってるよ。折角のごちそう、食べ逃しちゃいそうだし」
「おう」
フォコはいつの間にか、結婚式が行われていた沿岸部の街、グリーンプールの港まで逃げていた。
「……はぁ、はぁ」
走り疲れ、桟橋の縁にぺたんと座り込む。
(……なんか、この匂い嗅ぐと、落ち着くわぁ)
3年嗅いできた潮の香りが、ようやくフォコを落ち着かせる。
(ずーっと、山奥でなんやかやとやっとったしなぁ。久々やな、この匂い嗅ぐのんは)
南海の陽気な海とは違う、静かな、しかし厳しさがあちこちににじむ北海の風景に、フォコは思わず、ぼそ、とつぶやいた。
「……みんな、どうしてんねやろ」
「みんなって?」
遠い昔に聞いた覚えのある、張りと威厳のある、しかし、どこか優しさが見え隠れする女性の声に、フォコの狐耳は逆立った。
「……っ」
「よう」
声をかけてきたのは、ルピアだった。
「元気してたか?」
「……」
ルピアはフォコの隣に座り、親しげに話しかけてくる。
「何年振りだっけ? 10年ぶりくらいか? 大きくなったなぁ、君」
「あ……、う……」
何も言えず、フォコは困った顔を向けることしかできない。
「何だよ、そんな顔して。ほれ、笑えって」
ルピアはさわ、とフォコの尻尾をくすぐった。
「ぅひひゃあ!?」
「ぷ、……あはははっ」
妙な声を出したフォコを見て、ルピアは楽しそうに笑った。
「……と、いじるのはこんくらいにしておいて、だ。
君、フォコ君だろ? 昔ウチに来てた、ニコル・フォコ・ゴールドマン君」
「……」
フォコは首を振り、否定しようとする。
「ちがいま……」「ちがわない」
だが、それをルピアが遮る。
「私の目は確かだよ。何年経とうが、一度会った人間の顔は、忘れたりしない。
ほれ、もうこんなフード取っちゃえよ」
そう言って、ルピアはフォコが被っていたフードを無理矢理はぎ取った。
「わっ、ちょ、ルピアさん」
「おーや?」
フォコの発言に、ルピアはニヤッと笑う。
「私はいつ、自己紹介したっけかなぁ?」
「……う」
「やっぱりフォコ君だった、な。
……元気そうで、本当に良かったよ」
そう言うとルピアは、フォコをぎゅっと抱きしめた。
「え、ちょ……?」
「嘘、もう付かなくていいからさ。お疲れさん、フォコ君」
「……ぅ、っ」
「10年ドコにいて、ナニしてたのか知らないけどさ。
……君は何だか、とっても悲しそうな目をするようになっている。とんでもなく嫌な目にばっかり遭ったんだろうな。
だけどさ、これ以上嘘付いて誤魔化したら、もっと嫌な気分になってしまうぞ。本音を全部吐き出して、楽になった方がいい」
「……うう、うううー……」
たまらず、フォコは泣き出してしまった。
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