「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第3部
火紅狐・再逅記 2
フォコの話、134話目。
10年振りの会話。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ようやくフォコが落ち着いたところで、ルピアはくしゃくしゃとフォコの頭を撫でてきた。
「ふふ、あの頼りなさげな狐っ子が、こう成長したか。ま、外見は予想通りだな」
ルピアはひょい、と立ち上がり、フォコに手を差し伸べる。
「腹も減ったし、そこら辺の店で飯でも食べよう。ここ、クラム使えるよな?」
「あ、はい」
フォコが手をつかんだところで、ルピアはまたニヤッと笑った。
「ほい」「ふぇ!?」
ルピアより断然若い、男のフォコが、彼女の片手で簡単に持ち上げられてしまった。
「軽いなぁ、君。ちゃんと飯食ってるのか?」
「い、一応は」
ここでようやくフォコは気付いたのだが、ルピアはかなり身長が高かった。
(あれぇー……。そら確かに僕、そんな身長高い方やないけど……)
腕をぐい、と上に掲げられ、フォコは軽く爪先立ちになっている。
(子供の時も確かに高いなーて思てたけど、……大人になった今でも、負けるとは思わへんかった)
「ははは」
フォコの手首をつかんだままのルピアは、しっかりとかかとを地面につけている。
「る、ルピアさんて」
「うん?」
「身長、思ってたより高かったんです、……ね」
「おう。181だ」
「でかっ。シロッコさんよりでかいんやないですか?」
「いやー、まだちょっとダンナの方が、……って君」
ようやくここで手を放したルピアが、意外そうな目を向けてきた。
「シロッコに会ったのか?」
「ええ、まあ」
「どこで?」
「南海で。えーと、6、7年くらい前やったと思いますけど」
「あ、もしかして」
今度は納得した顔になる。
「そう、5年前になるかな。あいつ、突然戻ってきたんだよ」
「ホンマに?」
「ああ。んでその時、『実は旅先で、君を知っている人に会ってね。絶対帰ってやれ、って諭されてしまって』って言ってたんだ。もしかして君か?」
「多分そうです」
「そうかー……」
ルピアはまた表情を変え、嬉しそうにフォコの頭をクシャクシャとかき混ぜた。
「ありがとよ、フォコ君。本当に嬉しかった、あの時は。……嬉しすぎて色々あったりしたけどな」
「色々?」
「……ランニャに妹ができたり、……な」
「ぶっ、……あは、はははは」
恥ずかしそうにはにかむルピアに、フォコもたまらず笑い出した。
「え、じゃあ」
「ああ。その後まーた、いなくなってしまった」
二人は食堂に移り、話を続けていた。
「また、子供が生まれたところで旅に出るとか……。ホンマにあの人、放浪癖ひどいですねぇ」
「ま、それもあいつの長所だよ。いつ会っても若いままだ」
「ルピアさんかて若いですよ。昔会った、そのまんまです」
「おいおい、こんなおばちゃんをつかまえて何言ってる、ははは……」
と、和んだ雰囲気の中、またフォコの胸中に寂しさが募る。
「……はぁ」
「ん? どうした?」
「あ、いえ」
濁そうとしたフォコに、ルピアはデコピンをぶつけてきた。
「えい」「いてっ」
額をさするフォコに対し、ルピアは唇を尖らせる。
「あのな、さっきも言っただろう。全部吐き出せ、フォコ君。溜め込むな溜め込むな、腹に溜めるのは飯だけで十分だよ」
「……まあ、そのですね。……どうしてるんかなって、ランニャちゃん」
「会ってみるか?」
「え」
「ほら、カツミ君がいるだろ? 彼に頼めば、クラフトランドまでひとっとびだ」
「あ、……そうですね」
可能である、と気付き、フォコは考え込んだ。
(そやな……、会いたいなぁ、ランニャちゃん。僕のいっこ下やったから、今は21になっとるんやんな。
昔はよー、引っ張られとったなぁ。あっち行き、こっち行きして、……そう、ティナも結構先に進むタイプで……)
そこまで考えて、フォコの胸にずきんと来るものがあった。
「……ティナ」
「ん?」
「……すんません、ルピアさん。やっぱ、会えません」
「はぁ?」
ティナを思った途端、フォコの心の中に、冷たく、黒く、重たいものが流れ込んでくる。
「僕には会う資格が無いです」「ふざけろ」
フォコの反応に、ルピアは声を荒げた。
「何べん言わせるつもりだ、フォコ。何でも話せって、何度も言っただろ。自分の中に何でもかんでも溜め込むなよ。
もうその溜め込んだもの、溜め過ぎて壁になってるんじゃないか? その壁、越えられる気がしないから、いきなり『やめます』なんて言ってしまったんだろう?
君、いつまでその壁から逃げるんだ? 壁はいつか越えるものだぞ。逃げてどうする」
「……」
ルピアに諭され、フォコは机に視線を落とし、黙り込んだ。
「……そうですね。ルピアさんの言う通り、ですよね」
「ティナってのは、君の恋人か?」
「……恋人、だった子です。5年前に、生き別れになりまして」
「今どうしてるのか、分かんないってわけか。で、その子に未練があるから、央中には帰れない、と。そう言うことか?」
「……はい」
「じゃ、会って来いよ。別にさ、『ランニャと付き合え』なんて、私言ってないぞ。好きな子がいるんなら、その子に会って、改めて交際しな」
「……はい」
「で、さ」
ルピアはデザートの、ブルーベリーのタルトに手を付けつつ、尋ねてきた。
「そろそろ聞かせてくれよ、フォコ君。この10年、君がドコで、ナニをしてたのかを、さ」
@au_ringさんをフォロー
10年振りの会話。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ようやくフォコが落ち着いたところで、ルピアはくしゃくしゃとフォコの頭を撫でてきた。
「ふふ、あの頼りなさげな狐っ子が、こう成長したか。ま、外見は予想通りだな」
ルピアはひょい、と立ち上がり、フォコに手を差し伸べる。
「腹も減ったし、そこら辺の店で飯でも食べよう。ここ、クラム使えるよな?」
「あ、はい」
フォコが手をつかんだところで、ルピアはまたニヤッと笑った。
「ほい」「ふぇ!?」
ルピアより断然若い、男のフォコが、彼女の片手で簡単に持ち上げられてしまった。
「軽いなぁ、君。ちゃんと飯食ってるのか?」
「い、一応は」
ここでようやくフォコは気付いたのだが、ルピアはかなり身長が高かった。
(あれぇー……。そら確かに僕、そんな身長高い方やないけど……)
腕をぐい、と上に掲げられ、フォコは軽く爪先立ちになっている。
(子供の時も確かに高いなーて思てたけど、……大人になった今でも、負けるとは思わへんかった)
「ははは」
フォコの手首をつかんだままのルピアは、しっかりとかかとを地面につけている。
「る、ルピアさんて」
「うん?」
「身長、思ってたより高かったんです、……ね」
「おう。181だ」
「でかっ。シロッコさんよりでかいんやないですか?」
「いやー、まだちょっとダンナの方が、……って君」
ようやくここで手を放したルピアが、意外そうな目を向けてきた。
「シロッコに会ったのか?」
「ええ、まあ」
「どこで?」
「南海で。えーと、6、7年くらい前やったと思いますけど」
「あ、もしかして」
今度は納得した顔になる。
「そう、5年前になるかな。あいつ、突然戻ってきたんだよ」
「ホンマに?」
「ああ。んでその時、『実は旅先で、君を知っている人に会ってね。絶対帰ってやれ、って諭されてしまって』って言ってたんだ。もしかして君か?」
「多分そうです」
「そうかー……」
ルピアはまた表情を変え、嬉しそうにフォコの頭をクシャクシャとかき混ぜた。
「ありがとよ、フォコ君。本当に嬉しかった、あの時は。……嬉しすぎて色々あったりしたけどな」
「色々?」
「……ランニャに妹ができたり、……な」
「ぶっ、……あは、はははは」
恥ずかしそうにはにかむルピアに、フォコもたまらず笑い出した。
「え、じゃあ」
「ああ。その後まーた、いなくなってしまった」
二人は食堂に移り、話を続けていた。
「また、子供が生まれたところで旅に出るとか……。ホンマにあの人、放浪癖ひどいですねぇ」
「ま、それもあいつの長所だよ。いつ会っても若いままだ」
「ルピアさんかて若いですよ。昔会った、そのまんまです」
「おいおい、こんなおばちゃんをつかまえて何言ってる、ははは……」
と、和んだ雰囲気の中、またフォコの胸中に寂しさが募る。
「……はぁ」
「ん? どうした?」
「あ、いえ」
濁そうとしたフォコに、ルピアはデコピンをぶつけてきた。
「えい」「いてっ」
額をさするフォコに対し、ルピアは唇を尖らせる。
「あのな、さっきも言っただろう。全部吐き出せ、フォコ君。溜め込むな溜め込むな、腹に溜めるのは飯だけで十分だよ」
「……まあ、そのですね。……どうしてるんかなって、ランニャちゃん」
「会ってみるか?」
「え」
「ほら、カツミ君がいるだろ? 彼に頼めば、クラフトランドまでひとっとびだ」
「あ、……そうですね」
可能である、と気付き、フォコは考え込んだ。
(そやな……、会いたいなぁ、ランニャちゃん。僕のいっこ下やったから、今は21になっとるんやんな。
昔はよー、引っ張られとったなぁ。あっち行き、こっち行きして、……そう、ティナも結構先に進むタイプで……)
そこまで考えて、フォコの胸にずきんと来るものがあった。
「……ティナ」
「ん?」
「……すんません、ルピアさん。やっぱ、会えません」
「はぁ?」
ティナを思った途端、フォコの心の中に、冷たく、黒く、重たいものが流れ込んでくる。
「僕には会う資格が無いです」「ふざけろ」
フォコの反応に、ルピアは声を荒げた。
「何べん言わせるつもりだ、フォコ。何でも話せって、何度も言っただろ。自分の中に何でもかんでも溜め込むなよ。
もうその溜め込んだもの、溜め過ぎて壁になってるんじゃないか? その壁、越えられる気がしないから、いきなり『やめます』なんて言ってしまったんだろう?
君、いつまでその壁から逃げるんだ? 壁はいつか越えるものだぞ。逃げてどうする」
「……」
ルピアに諭され、フォコは机に視線を落とし、黙り込んだ。
「……そうですね。ルピアさんの言う通り、ですよね」
「ティナってのは、君の恋人か?」
「……恋人、だった子です。5年前に、生き別れになりまして」
「今どうしてるのか、分かんないってわけか。で、その子に未練があるから、央中には帰れない、と。そう言うことか?」
「……はい」
「じゃ、会って来いよ。別にさ、『ランニャと付き合え』なんて、私言ってないぞ。好きな子がいるんなら、その子に会って、改めて交際しな」
「……はい」
「で、さ」
ルピアはデザートの、ブルーベリーのタルトに手を付けつつ、尋ねてきた。
「そろそろ聞かせてくれよ、フォコ君。この10年、君がドコで、ナニをしてたのかを、さ」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle