「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・玉銀記 1
フォコの話、137話目。
ケネスの腹心たち。
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1.
南海へと向かう、大海洋の途上。
「おっと、17だ。親の一発アガリ」
「うげぇ」
2ヶ月の船旅の間、フォコはネール母娘とカードゲームに興じながら、色々な話を交わしていた。
「この辺にしておくか。流石に飽きた」
「そうだね」
「あ、お金賭けてなかったですね」
と、フォコがそうつぶやいたところ、母娘はしょんぼりした顔になった。
「……賭ける気にならん」
「え?」
「うちが傾きかけてる原因の一つは、そこにあるからね。
ほら、ガルフくんっていただろ? あたしの従兄弟の」
「あー、と、……いたような」
「ほら、『7オブ7』で一緒に卓を囲んだ」
「……ああ、はい。思い出しました」
ランニャはカードをぱらぱらとテーブルに撒きながら、ため息をつく。
「ガルフくんをはじめとして、うちの職人の半分以上が、カジノ漬けになってしまってるんだ。
エンターゲートが、クラフトランドのかなり近いところに、でっかいカジノを作っちゃったせいで」
「え……」
ルピアは苦々しい顔で、経緯を説明してくれた。
「何しろ、超が2つ3つ付く大金持ちだ。胴元が破綻することは、まずない。どれだけ『子』が大勝しようと、いずれはその勝ち分を吸収されてしまう。
最初は目と鼻の先に出張ってきた金火狐を一丁揉んでやろう、あるいは単に楽しもうと、うちの奴らが向かって行ったんだが、完璧に中毒になってしまった。
で、職人の半分以上がまともに働けなくなってしまったんだ。そうなりゃ、職人たちで構成されてるギルドの操業なんて、ままならない。
結果、この2年でガクッと業績が落ち込んだんだ」
「またケネスの仕業か……」
フォコも苦虫を噛み潰したような顔をしたところで、ランニャが首を振った。
「違う。ケネスの腹心がやってるんだよ」
「へ?」
「ケネスはあくまでも、カジノ運営の元手を出しただけだよ。まあ、多分命令はしてるだろうけどね。
実質的なカジノのオーナーは、……誰だったっけ?」
「ヨセフ・トランプって言う奴だ。元は央北の、片田舎の大地主だったが、その土地をケネスに買い取ってもらった後、代わりにカジノを任されたんだ。
そんな経歴だから、はっきり言って経営能力は三流だが、……何しろ、客は自分から飛びついてくる奴ばっかりだからな。経営難に陥ることは、まずない。自分の利益が守られるならいいやって性格だから、ケネスに楯突くことも無い。
反発も反抗もせず、黙々と金を献上する、言いなりの傀儡――腹心としちゃ、適材ってわけだ」
「腹心、……ですか」
フォコの脳裏に、北方のキルシュ卿がかつて言っていた言葉がよみがえってくる。
――その、スパスと言う商会主。金火狐当主とつながっていて、彼の指示のもと、あちこちの買収を続けている。そう言ううわさが流れているのだ――
「腹心って、どんだけいるんでしょうね」
「うわさ半分だが、4人いるらしいな。
今言ったトランプに、君も知っていると言っていた、西方のスパス。それから南海の、レヴィア女王。あと央南にも、西方から出張ってる奴がいるとかいないとか。
今じゃもう、世界全域にあいつの手が伸びているんだ」
「……何だかそれもう、世界の王様、天帝さん気取りですね」
「だな。人が神の真似など、……反吐が出る」
ルピアはカードをしまいながら、重々しいため息をついた。
「が、流石のあいつも、北方では下手を打ったらしいな」
と、そのため息に続いてくっくっと笑いが聞こえてくる。
「北方の将軍たちを借金漬けにして、奴隷にしようとしてたらしいな」
「ええ、恐らくは」
「なめすぎなんだ、あいつは。他人も、他の商会も、本拠地以外の地域も、……いいや、自分以外のすべてを、虚仮にして生きている。
だから20億クラムを用意されて追い払われるなんて、思ってもいなかったろうな。あの後、奴はかなり怒り狂っていたらしい。憂さ晴らしに、しばらく南海へ籠っていたそうだ」
「南海に?」
「ああ。さっき言ってたレヴィア女王。実は、ケネスの愛人、と言うか、二人目の女房になってるらしい」
「はぁ?」
思いもよらない話に、フォコの目が点になる。
(おやっさん助けに行った時、女王さん、なんやケネスの後ろでおびえとったけど、……そこから何やかや口説いて、重婚しよったんか? なんちゅう奴や!)
フォコが憤る横で、ルピアも憎々しげに鼻を鳴らした。
「フン……。天帝気取りと君は言ったが、その通りかも知れんな。
金と権力に任せ、自分の欲望のまま、何もかもむさぼる。まさにやりたい放題。暴君が如し、だな。
そんな奴が、未来永劫のさばれるはずがない。いいや、のさばらせてたまるものか」
ルピアは怒りに満ちた目で、水平線を眺めていた。
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1週間ぶりの更新。第4部、開始です。
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ケネスの腹心たち。
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南海へと向かう、大海洋の途上。
「おっと、17だ。親の一発アガリ」
「うげぇ」
2ヶ月の船旅の間、フォコはネール母娘とカードゲームに興じながら、色々な話を交わしていた。
「この辺にしておくか。流石に飽きた」
「そうだね」
「あ、お金賭けてなかったですね」
と、フォコがそうつぶやいたところ、母娘はしょんぼりした顔になった。
「……賭ける気にならん」
「え?」
「うちが傾きかけてる原因の一つは、そこにあるからね。
ほら、ガルフくんっていただろ? あたしの従兄弟の」
「あー、と、……いたような」
「ほら、『7オブ7』で一緒に卓を囲んだ」
「……ああ、はい。思い出しました」
ランニャはカードをぱらぱらとテーブルに撒きながら、ため息をつく。
「ガルフくんをはじめとして、うちの職人の半分以上が、カジノ漬けになってしまってるんだ。
エンターゲートが、クラフトランドのかなり近いところに、でっかいカジノを作っちゃったせいで」
「え……」
ルピアは苦々しい顔で、経緯を説明してくれた。
「何しろ、超が2つ3つ付く大金持ちだ。胴元が破綻することは、まずない。どれだけ『子』が大勝しようと、いずれはその勝ち分を吸収されてしまう。
最初は目と鼻の先に出張ってきた金火狐を一丁揉んでやろう、あるいは単に楽しもうと、うちの奴らが向かって行ったんだが、完璧に中毒になってしまった。
で、職人の半分以上がまともに働けなくなってしまったんだ。そうなりゃ、職人たちで構成されてるギルドの操業なんて、ままならない。
結果、この2年でガクッと業績が落ち込んだんだ」
「またケネスの仕業か……」
フォコも苦虫を噛み潰したような顔をしたところで、ランニャが首を振った。
「違う。ケネスの腹心がやってるんだよ」
「へ?」
「ケネスはあくまでも、カジノ運営の元手を出しただけだよ。まあ、多分命令はしてるだろうけどね。
実質的なカジノのオーナーは、……誰だったっけ?」
「ヨセフ・トランプって言う奴だ。元は央北の、片田舎の大地主だったが、その土地をケネスに買い取ってもらった後、代わりにカジノを任されたんだ。
そんな経歴だから、はっきり言って経営能力は三流だが、……何しろ、客は自分から飛びついてくる奴ばっかりだからな。経営難に陥ることは、まずない。自分の利益が守られるならいいやって性格だから、ケネスに楯突くことも無い。
反発も反抗もせず、黙々と金を献上する、言いなりの傀儡――腹心としちゃ、適材ってわけだ」
「腹心、……ですか」
フォコの脳裏に、北方のキルシュ卿がかつて言っていた言葉がよみがえってくる。
――その、スパスと言う商会主。金火狐当主とつながっていて、彼の指示のもと、あちこちの買収を続けている。そう言ううわさが流れているのだ――
「腹心って、どんだけいるんでしょうね」
「うわさ半分だが、4人いるらしいな。
今言ったトランプに、君も知っていると言っていた、西方のスパス。それから南海の、レヴィア女王。あと央南にも、西方から出張ってる奴がいるとかいないとか。
今じゃもう、世界全域にあいつの手が伸びているんだ」
「……何だかそれもう、世界の王様、天帝さん気取りですね」
「だな。人が神の真似など、……反吐が出る」
ルピアはカードをしまいながら、重々しいため息をついた。
「が、流石のあいつも、北方では下手を打ったらしいな」
と、そのため息に続いてくっくっと笑いが聞こえてくる。
「北方の将軍たちを借金漬けにして、奴隷にしようとしてたらしいな」
「ええ、恐らくは」
「なめすぎなんだ、あいつは。他人も、他の商会も、本拠地以外の地域も、……いいや、自分以外のすべてを、虚仮にして生きている。
だから20億クラムを用意されて追い払われるなんて、思ってもいなかったろうな。あの後、奴はかなり怒り狂っていたらしい。憂さ晴らしに、しばらく南海へ籠っていたそうだ」
「南海に?」
「ああ。さっき言ってたレヴィア女王。実は、ケネスの愛人、と言うか、二人目の女房になってるらしい」
「はぁ?」
思いもよらない話に、フォコの目が点になる。
(おやっさん助けに行った時、女王さん、なんやケネスの後ろでおびえとったけど、……そこから何やかや口説いて、重婚しよったんか? なんちゅう奴や!)
フォコが憤る横で、ルピアも憎々しげに鼻を鳴らした。
「フン……。天帝気取りと君は言ったが、その通りかも知れんな。
金と権力に任せ、自分の欲望のまま、何もかもむさぼる。まさにやりたい放題。暴君が如し、だな。
そんな奴が、未来永劫のさばれるはずがない。いいや、のさばらせてたまるものか」
ルピアは怒りに満ちた目で、水平線を眺めていた。
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NoTitle
張り合いたいタイプの人間じゃないですからねぇ。
同じところには堕ちたくないなって感じの。