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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・玉銀記 2

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    フォコの話、138話目。
    太陽のような思い出。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     夕暮れになり、洋上は金色に染まる。
     フォコとランニャは、甲板の先でそれを眺めていた。
    「わあ……! まるで金が熔けてるみたいだ!」
    「はは、そやねぇ」
     職人らしい例えをしたランニャに、フォコはクスリと笑った。
    「フォコくんはさ、3年くらい南海にいたんだよね?」
    「ん? うん、おったよ」
    「こんな夕日、毎日見れたんだよね」
    「あー、……そやねぇ。ほとんど晴ればっかりやったし、ホンマに毎日見とったなぁ」
    「飽きたりしなかったの?」
     そう問われ、フォコはこの会話に既視感を覚える。
    「あー、……えーと」
     そして、その時「彼女」が答えたことを、ほぼそのままランニャに返した。
    「ま、飽きたっちゅうたら飽きてたかもやけど、それでも嫌や、もう見たないってことはあらへんかったわ。
     見る度に、なんか感動させられるもん、あったしな」
    「そうなんだ。
     ……じゃあ、さ」
     唐突に、ランニャはフォコの手を握ってきた。
    「へ?」
    「こーやってさ、ティナさんと夕日を見ながらデートなんかしてた?」
    「……ん、うん」
    「あははは」
     フォコの顔を見たランニャは、手を振り払って笑い出す。
    「な、なんよ?」
    「夕日の中でもフォコくん、顔が真っ赤って分かるよ。……君って、不思議だね」
    「え?」
    「17で結婚を約束した恋人がいたくらいだって言うのに、なんでこんなに純情くんなんだろうな、ってさ。
     ううん、それにさ。君も――比較されたらイヤかもだけどさ――エンターゲートも、どこからともなくお金を生み出す不思議な才能を持ってる。
     なのに、あいつと君とは、まるで正反対。あいつのせいで両親が殺されて、お師匠さんも殺されて、おまけに3年浮浪者になってたって言うのに。
     なんで君は、そんなにまっすぐでいられる?」
    「……」
     その問いに、フォコは静かに首を振った。
    「僕も、ねじけとった時期はあったんよ。
     ホンマに何もかもが嫌で嫌でたまらんかって、何もやる気せえへん、何やっても無駄にしか思えへん。そう言う時期、あってん。
     でもな、僕の大先祖さんがこんな言葉、残しとるねん。『卓に付く者は生ける者なり。卓から離れる者は死せる者なり』――生きてる限りは、勝負できるんや。それもせんと逃げたら、もう死んでるんもおんなじや。
     それを、……思い出して、僕は立ち上がったんや。もっかい、ケネスと勝負したらなと思って。ほんで、今度こそは、……何としてでも、勝ってやろうって」
    「そっか」
     ランニャはそう返し、自分の尻尾をくしゃ、と撫でた。
    「それが君の強さなんだな。仇、討とうって言う気持ちが」
    「……それだけやないよ」
     フォコは手すりにひょいと座り、黄金色の海に目を向けながらつぶやいた。
    「僕がただ、仇討ちしたいってだけやったら、そんなん簡単や。さっさと央中のイエローコースト行って、ケネスの家に乗り込んだったらええねん。
     でもな、そんなんして、後はどうなるやろ? ケネスには腹心がおる、ってルピアさん、言うてたやん」
    「そだね」
    「もし今ここで、ケネスが死んだら。……その後、その腹心がその椅子に座ろうとするやろ、きっと」
    「そだね、多分」
    「そんなことが起こるとして、世界は平和やろか?」
    「……なんなさそうだ」
     フォコはため息をつき、続けてこう言った。
    「せやったら、僕がその椅子に座る。いや、その椅子を潰して、もっとでかい、自分の椅子を置く。誰も座られへんように、ガッチリ固定してな。
     僕は喰うつもりなんや、ケネスを。ひとかけらも残さずな」
    「……フォコくん?」
     不安そうなランニャの声に、フォコは振り向いた。
     ランニャは狼耳と尻尾を毛羽立たせ、何か恐ろしいものを見るかのような目を向けていた。
    「……おわ、わわわととととおおおっ!?」
     それに虚を突かれ――フォコは手すりから落っこちた。
    「ちょ、……フォコくーんっ!?」

     この後、何とか甲板のへりにつかまっていたフォコを、ランニャがひょいと助けてくれた。
     グリーンプールの時と同様、この時もフォコは、ネール母娘の腕力の強さと体格の良さに、目を白黒させていた。
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    NoTitle 

    職人ですから、力も相当あります。
    ちなみにランニャの身長は170cm以上。
    フォコより高いです。

    NoTitle 

    パワータイプのランニャたんv-91v-283
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