「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・玉銀記 4
フォコの話、140話目。
変わり果てた、第二の故郷。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フォコとケネスの、「差」。
それを端的に示すものは南海東地域の玄関口、シャルク島ですぐに見つけることができた。
「……」
シャルク島は南海地域の、人の住む島の中で最も東に位置している。そのため、南海と他地域との交易地となっているのだが――。
「……どこを見ても」
「ええ」
「スパス産業、レヴィア王立、そしてエンターゲート製造に、ゴールドマン商会。……知らない奴が見れば、それぞれ別のところだと思うんだろうけど、な」
街中に並ぶ店舗の半分以上が、ケネスの息がかかったところばかりである。そして特に目立ったのが、レヴィア王国国営の商店、商会だった。
「5年前まで、あの国ってどこにも見向きされへんくらい、めちゃめちゃ嫌われとったはずなんですけどね。こんなに出店しとるとは思ってませんでした」
「5年だろ? それだけあれば変わるさ」
店の一つに立ち寄り、棚に並ぶ商品を手に取る。
「刻印が違うだけで、エンターゲートが造ってるな、この曲刀」
「そんなに、特徴あります? 僕には……、よく分からへんのですが」
「ああ。あたしだって、もう職人になって6年だもん。
まあ、造ってるって言っても、現地生産だろうな。エンターゲートからは、製造方法と設備だけもらってるんだ、多分」
「恐らくその通りだろう。目が肥えたな、ランニャ」
「えへへ」
「ウチが採っている生産方式とは大分違うな。
ウチは自分のところで集中的に作って、それを卸して捌く方式だ。これなら技術の流出が防げるし、製造のコストも少なくて済む、……が、遠くに運ぼうとすればするほど、輸送コストがかさむし、遠隔地でのニーズに答えにくい。
エンターゲートのやり方なら輸送コストはずっと安く抑えられるし、当地での需要にも簡単に答えられる。……なるほど、業績を伸ばせるわけだ。
伊達に全世界へ展開してるわけじゃないな、エンターゲートも」
ルピアは感心した顔で、店の中を覗いていた。
と――。
「……ん?」
フォコは店の向かい側に、掲示板があるのに気付く。そして、その中に目立つ赤文字で、こう書かれている広告が目に付いた。
「指名手配! 情報求む!
以下の人物は南海、取り分けレヴィア王国領下において著しく平和を乱す、許すべからざる奸賊である。
見かけた者、拘束した者、殺害しその証拠を提示した者、当局にとって有益な情報を提供した者、その他当局に貢献した者には、その働きに見合った賞金を授与する。
指名手配者 一覧
海賊団『砂狼』頭目 アミル・シルム
その他、海賊団『砂狼』団員
レヴィア王国軍 治安維持部隊」
「なん……やて……」
この広告に、フォコは強いめまいを覚えた。
(アミルさんが、指名手配? しかもまだ、海賊を?
……ああ、そうやろうな。きっとおやっさんがいなくなった後、みんなバラバラになってしもたんや。……ほんで、……きっと、……海賊をやる以外に、どうしようもなくなったんや。
……しかも、や。5年前、こんな風に追い回されるんは、レヴィア側やったはずや。ほんで、……それを追い回してたんは、僕らや。
そら、当然の成り行き言うたら、当然って言えるけども、確かにそうなるやろなとしか思えへんけども、……逆転してしもたんやな。今はもう、レヴィア側が追い回す側に、『砂嵐』は追い回される側に)
「どうした、フォコ君」
フォコの様子に気付いたネール母娘が、声をかける。
「……いえ」
フォコはそう答えたが、ルピアは見抜いたらしい。
「知り合いか?」
「……」
あっさりと見抜かれ、フォコは仕方なく白状した。
「ええ、昔一緒に働いてました。まさか……、こんなことになってるなんて」
「そうか……」
「あれ?」
と、しんみりした雰囲気の中、ランニャが何かを見つけたらしい。
「フォコ君、フォコ君。これ見てみ」
「え?」
「確かさ、ナラン島って言ってたよね、君が居たところ」
「ああ、うん」
「これ……、かな?」
ランニャが指差した広告を見て、フォコはまた、強いめまいを覚えた。
「地上の楽園! 天国を、感じさせます。
鮮やかな青い海。穏やかな高い空。
地元の方は日頃の疲れを癒しに。遠方から来た方は旅の思い出に。
どなた様も、こぞってお越しくださいませ。
スパス産業 ナラン島観光協会」
火紅狐・玉銀記 終
@au_ringさんをフォロー
変わり果てた、第二の故郷。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フォコとケネスの、「差」。
それを端的に示すものは南海東地域の玄関口、シャルク島ですぐに見つけることができた。
「……」
シャルク島は南海地域の、人の住む島の中で最も東に位置している。そのため、南海と他地域との交易地となっているのだが――。
「……どこを見ても」
「ええ」
「スパス産業、レヴィア王立、そしてエンターゲート製造に、ゴールドマン商会。……知らない奴が見れば、それぞれ別のところだと思うんだろうけど、な」
街中に並ぶ店舗の半分以上が、ケネスの息がかかったところばかりである。そして特に目立ったのが、レヴィア王国国営の商店、商会だった。
「5年前まで、あの国ってどこにも見向きされへんくらい、めちゃめちゃ嫌われとったはずなんですけどね。こんなに出店しとるとは思ってませんでした」
「5年だろ? それだけあれば変わるさ」
店の一つに立ち寄り、棚に並ぶ商品を手に取る。
「刻印が違うだけで、エンターゲートが造ってるな、この曲刀」
「そんなに、特徴あります? 僕には……、よく分からへんのですが」
「ああ。あたしだって、もう職人になって6年だもん。
まあ、造ってるって言っても、現地生産だろうな。エンターゲートからは、製造方法と設備だけもらってるんだ、多分」
「恐らくその通りだろう。目が肥えたな、ランニャ」
「えへへ」
「ウチが採っている生産方式とは大分違うな。
ウチは自分のところで集中的に作って、それを卸して捌く方式だ。これなら技術の流出が防げるし、製造のコストも少なくて済む、……が、遠くに運ぼうとすればするほど、輸送コストがかさむし、遠隔地でのニーズに答えにくい。
エンターゲートのやり方なら輸送コストはずっと安く抑えられるし、当地での需要にも簡単に答えられる。……なるほど、業績を伸ばせるわけだ。
伊達に全世界へ展開してるわけじゃないな、エンターゲートも」
ルピアは感心した顔で、店の中を覗いていた。
と――。
「……ん?」
フォコは店の向かい側に、掲示板があるのに気付く。そして、その中に目立つ赤文字で、こう書かれている広告が目に付いた。
「指名手配! 情報求む!
以下の人物は南海、取り分けレヴィア王国領下において著しく平和を乱す、許すべからざる奸賊である。
見かけた者、拘束した者、殺害しその証拠を提示した者、当局にとって有益な情報を提供した者、その他当局に貢献した者には、その働きに見合った賞金を授与する。
指名手配者 一覧
海賊団『砂狼』頭目 アミル・シルム
その他、海賊団『砂狼』団員
レヴィア王国軍 治安維持部隊」
「なん……やて……」
この広告に、フォコは強いめまいを覚えた。
(アミルさんが、指名手配? しかもまだ、海賊を?
……ああ、そうやろうな。きっとおやっさんがいなくなった後、みんなバラバラになってしもたんや。……ほんで、……きっと、……海賊をやる以外に、どうしようもなくなったんや。
……しかも、や。5年前、こんな風に追い回されるんは、レヴィア側やったはずや。ほんで、……それを追い回してたんは、僕らや。
そら、当然の成り行き言うたら、当然って言えるけども、確かにそうなるやろなとしか思えへんけども、……逆転してしもたんやな。今はもう、レヴィア側が追い回す側に、『砂嵐』は追い回される側に)
「どうした、フォコ君」
フォコの様子に気付いたネール母娘が、声をかける。
「……いえ」
フォコはそう答えたが、ルピアは見抜いたらしい。
「知り合いか?」
「……」
あっさりと見抜かれ、フォコは仕方なく白状した。
「ええ、昔一緒に働いてました。まさか……、こんなことになってるなんて」
「そうか……」
「あれ?」
と、しんみりした雰囲気の中、ランニャが何かを見つけたらしい。
「フォコ君、フォコ君。これ見てみ」
「え?」
「確かさ、ナラン島って言ってたよね、君が居たところ」
「ああ、うん」
「これ……、かな?」
ランニャが指差した広告を見て、フォコはまた、強いめまいを覚えた。
「地上の楽園! 天国を、感じさせます。
鮮やかな青い海。穏やかな高い空。
地元の方は日頃の疲れを癒しに。遠方から来た方は旅の思い出に。
どなた様も、こぞってお越しくださいませ。
スパス産業 ナラン島観光協会」
火紅狐・玉銀記 終
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
ただし後述しますが、経営状態とサービスの質は最悪。