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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・砂狼記 1

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    フォコの話、141話目。
    極悪カルテル。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「どうですか?」
    「……小型船と中型の間くらいか。人もそんなに乗ってない。襲うだけ損だな」
    「はあ……」
     南海の洋上。
     黒く塗り潰された船の上で、垢じみたコートに身を包んだ狼獣人が、周辺の船を単眼鏡で観察していた。
    「あっちはどうです?」
    「……あれは、……やめておこう。……子供ばかり乗ってるし」
    「……了解です」
     狼獣人の様子に、彼らの背後にいた手下たちは肩をすくめる。
    「親分……。いい加減、何か襲いましょうよ」
    「このまんまボーっとしてたら、来ますよ、レヴィアの奴らが」
    「アレなんかどースか」
     手下の一人が指差した船に、狼獣人は単眼鏡を向けた。
    「……ああ、いいかもな」
    「じゃあ、あれで」
     狼獣人は、甲板に集まっていた手下たちに命令する。
    「あの赤い船を襲うぞ!
     分かってるな!? 刃向ってくる奴以外、誰も傷つけるな! 奪うのは金だけだ! 奪うだけ奪ったら、とっとと撤収! 分かったか、お前らッ!」
    「おうッ!」
     手下たちは曲刀をかざし、ときの声を挙げた。



     ナラン島へ向かう船に乗ったフォコたち一行は、船室の中で、パンフレットに目を通していた。
    「ねえ、フォコ君。君の言ってたナラン島って、ホントに、ここなの?」
     ランニャの問いに、フォコは力なくうなずく。
    「うん、多分、そうやと思う、……多分」
    「頼りないなぁ。……分かるけどさ、気持ちは」
     パンフレットには派手な文字や、異様に布地の少ない水着をまとった男女の絵が、所狭しと散りばめられている。
    「それにしても、……なんだかな。このパンフレット作った奴ら、とてもじゃないが、まともな品性がありそうには見えん。
     こいつらの頭の中には、金儲けとエロいことしか無いんじゃないかとまで思ってしまうな」
    「はは……」
     フォコは苦笑しつつ、そのパンフレットを手に取った。
    「……スパス産業、ナラン島観光協会、か。
     恐らくは、アバントがケネスに下った後で、島を買い取ったんやろうな。んで、造船所をたたんで、観光地に作り替えてしもたんやな。
     でも、普通はこんなもん、うまく行くわけないのに」
    「うまく行ってるみたいに見えるけど……? この船も、かなり人が多いし」
     そう返したランニャに、ルピアがため息をつく。
    「お前はつくづく、目の前のことしか見えてないなぁ。
     いいか、平和に見えても今は、レヴィア王国があちこちに侵略している、戦争の真っ最中なんだ。そんな危険地域に遊興目的の観光地なんぞのんきに構えて、需要もへったくれもあるものか。設備投資する時点で、人もモノも集まるわけがない。
     が、現状はこの通りの大賑わいだ。恐らくは、レヴィア王国の支配下にある地域は、スパス産業との結託や密約なんかによって、それなりに治安が行き届いているんだろう」
    「じゃ、レヴィア王国って悪者じゃ無いんじゃない? 平和にしてるって言うなら……」
     そうつぶやいたランニャに、フォコはがっくりとした声で答える。
    「今現在、襲う必要も謂れもないところを襲っとる奴が、ええ奴なわけないやんか……。
     戦争しとるとこはものっすごい危険な所なんは言うまでもないし、支配下に置いたところも、政治・軍事と経済とを全部、ケネス系列が握りしめとるんやで。
     忘れてへんやろ、シャルク島の店の並び方。大通りとかの、人の集まりやすい場所は全部、あいつの息がかかっとる店やった。ちゅうことは、あいつに従わへんと、ええところに出店でけへんし、つまりは順調、順当な商売なんかでけへんってことや」
    「あー……、そっか」
     フォコの解説に、ルピアも付け加える。
    「そして多分、息のかかってる店は全部、何らかの形でエンターゲートやその腹心へと、金を納めているんだろうな。
     それが奴らの手口であり、従った人間たちの末路なんだ――従わなければ暴力と圧力とで責め立て、従えば延々と金とモノを巻き上げていく。
     フォコ君、君やランドたちが北方で行動を起こしていなければきっと、北方もいずれはこうなっていただろう。レヴィア王国軍がノルド王国軍、南海の人間が北方の人間、と言う構図で、な」
     それを聞いて、フォコの脳裏に北方の将軍たちの顔が浮かぶ。
    「……想像したら、薄ら寒い話ですね」
    「ああ。君たちはよくやったよ、本当に」
     ルピアがフォコをねぎらった、その時だった。
     がくん、と船が揺れた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    まさか、のタイミングですね。

    NoTitle 

    まさかのご対面v-232
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