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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・砂狼記 4

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    フォコの話、144話目。
    不自然な懇願。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     フォコの声に、船長は顔を挙げた。
    「……! ほ、……ホコウ!?」
    「……やっぱりでしたか」
     船長の正体は、かつてフォコがジョーヌ海運特別造船所で働いていた時の同僚、アミルだった。
    「海賊続けてるって聞きましたが、……本当だったんですね」
    「ああ。……いや、俺のことよりも。
     ホコウ、お前、生きてたのか……!」
    「ええ。……話せば、長くなりますけど」
    「……じゃあ、詳しくは聞けないな。
     俺たちは失敗した。早いとこ、この船、この海域から離れなきゃいけない」
    「あ……」
     いつの間にか、ルピアが叩きのめした海賊たちが、ヨロヨロとした足取りで、自分たちの船に乗り込もうとしていた。
    「……ホコウ。……覚えてるか?」
     と、アミルが声をかけてくる。
    「何でしょ……?」
    「俺とマナの、初めての子」
    「ええ、ムニラちゃんですよね」
    「明後日、誕生日なんだ」
    「え? ……ああ、そう、でしたね」
    「お祝い、してあげたかったんだ。……だから、金がほしかった。……悪いな。
     ……俺たちの負けだ。金は返す。だからこのまま、逃がしてくれ」
     アミルの懇願に、ルピアはコクリとうなずいた。
    「ああ、いいぞ。とっとと帰れ」
    「……恩に着る」
     アミルは手下たちと同じように、ヨタヨタとした足取りで、自分の船に戻って行った。



     海賊たちを退けたフォコたちは、他の船客たちから感謝を受けた。
    「ありがとうございます!」
    「おかげで助かりました!」
     ルピアとランニャがその厚意に辟易する一方で、フォコは一人、テーブルにぽつんと掛けていた。
    「あの、あちらの方は一体……?」
    「ああ、さっきの海賊の中に、数年前に知り合った奴がいたそうだ。ちょっと見ない間に、あんなになってしまうなんて、……と嘆いてる」
    「そうでしたか……。いや、確かに近年、貧富の差は激しくなる一方ですからな。
     特にレヴィア王国軍に敗北した国の人たちは、散々な目に遭っているとか……」
    「どこでも禍福は隣り合わせだ、と言うことだろうな」
     ルピアが他の客たちと話している一方で、フォコは頬杖を突いて黙り込んでいる。それを見かねたらしく、ランニャが声をかけてきた。
    「ねー、フォコくん」
    「ん?」
    「そんなに落ち込んじゃダメだよ。そりゃ、ショックかも知れないけどさ」
    「落ち込む? ……ああ、いや、そう言うわけちゃうんよ」
    「え?」
     きょとんとするランニャに、フォコは自分の考えを述べた。
    「あの時、ランニャちゃんもアミルさんの話、聞いとったやんな?」
    「うん。子供さんに、お祝いしてあげたかったって」
    「それなんやけどな、……誕生日、春頃やったはずなんやけどなー、思て。もうちょっと後やったはずなんやけど……」
    「フォコくんの勘違いじゃないのか? いくらなんでも、親御さんが間違うわけ……」
     フォコは頬杖を突きながら、もう一方の手でピンと人差し指を立てる。
    「それやねん。間違うはずのないものを、わざと間違えた。ちゅうことは、そこに何かある、ちゅうことやないかなって」
    「日付を間違うはずがないのに、間違えた……? 日付が、何か大事なこと、なのかな?」
    「そうやろな、多分。……で、何で明後日って言うたか。ムニラちゃんの誕生日のお祝い、って方便使ったんは、何でか。
     ……あ」
     フォコの頭に、かつて自分とティナが、アミル夫妻にプレゼントを贈った時の記憶がよみがえった。
    「……あーあー、そう言うことか」
    「何が?」
    「つまり、明後日自分らに、昔僕がやったように、ムニラちゃんへの誕生日プレゼントを贈ってくれ、ちゅうことか」
    「無理じゃない、そんなの。だってそもそも、相手がどこにいるかも……、あ」
    「そう言うことやろな」

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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    詳しくは次話。

    この時は5位だったんですねぇ。

    NoTitle 

    どういうことだv-394
    おめ5位!!!1
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