「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・砂狼記 7
フォコの話、147話目。
堕落の原因。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
散々へこまされた張本人を前にし、アミルは恐縮している。
一方で、マナもよほどアミルから恐ろしげな話を聞かされたのだろう。ルピアにおずおずと、茶を差し出した。
「お茶です。あの、お口に合わないかも知れなませんけど」
「ありがとう」
「えーと、何から話せばいいでしょうか」
「聞かれても困る」
「そう、だな」
と、奥の部屋からひょい、と狼耳が覗く。
「あ、ムニラ」
「どうしたの?」
やって来たのは、アミルに毛並みの良く似た、赤毛の女の子だった。
「んーん、なんでも。……わぁ」
ムニラはとてて……、とルピアに近寄り、キラキラした目で彼女の尻尾を見る。
「きれい」
「ウチの家系は『玉銀狼(プラチナテイル)』って呼ばれてるからな。その名の通り、プラチナみたいにほんのり青白みを帯びて光る銀色の尻尾は、私たちの自慢なんだ。
ムニラちゃんと言ったか、君の尻尾もルビーのようで素敵だよ」
「ありがとー」
にっこりと笑うムニラに、ルピアは彼女の頭をくしゃくしゃと撫でながら、優しく微笑んだ。
「可愛い子じゃないか」
「……ありがとう」
ここでようやく、アミルはほっとした顔になった。
ルピアの膝の上にムニラが抱えられたまま、アミルの話が始まった。
「どこまで話したっけ……。そうだ、俺たちが海賊になった、ってところまでか。
堕ちるところまで堕ちて、って言い方が、これだけ似合う状況もない。だけど、それ以外に生きていられる道はなかった。
そりゃ、一時はレヴィア軍に反発しようと、『砂嵐』らしく戦おうともしたんだ。だけどあいつら、とんでもなく強くなっちまったんだ。俺たちの攻撃が全く届かないところから、バンバンわけの分からん攻撃してくるし」
「全く届かないところから……、魔術ですか?」
「いや、それならそれで、まだ対応策はある。俺たちの中にも、初歩の初歩くらいの魔術を使える奴はいるから。
だが、奴らの攻撃はそうじゃないんだ。魔術すら届かない距離から、攻撃してこれる」
その話に、ルピアは神妙な顔になった。
「うん……? その話、どこかで聞いたな」
「え?」
「そうだ……、エンターゲート製造が中央政府軍に、密かに卸してると言われてる兵器の売り文句だ。『何物も寄せ付けず、何物も敵わず、何物も残さず。究極の兵器とは、まさしくこれだ』みたいなことを言ってたっけ。
レヴィア王国がエンターゲートとつながってるって言うなら、恐らくそれは、エンターゲートが卸した兵器だろうな」
「一体、それは……?」
アミルが興味津々に尋ねてきたが、ルピアは肩をすくめる。
「残念ながら、話の肝については部外秘でな。詳しいことは、私にも分からん」
「そうか……。
まあ、ともかく。まともに戦おうとしても、手も足も出ない。現状じゃ、姿を見かけたら全速力で逃げるしか手がない。
そんなだから、レヴィアを相手にすることなんか到底出来やしないし、かと言って海で悪いことをしてる奴を叩いても、俺たち同様のド貧乏人。
自然と俺たちは、堅気に手を出すようになっちまったってわけさ」
そう話を締めたアミルに、フォコは苛立ちを覚えた。
「……」
むすっとした顔で黙るフォコに気付いたアミルが、何の気なしに声をかける。
「ん? どうした、ホコウ……?」
「……アミルさん。あなたたちは、間違ってる」
「ああ、知ってるよ。でも……」「でも、やないですよ」
フォコはアミルに、真剣な目を向ける。
「どうしてやめへんのです、悪いことしとるって自覚しとって、その上、死に体の稼業やって分かっとるんやったら!
そんなん、どんどん先細りしてって、ジリ貧になってって当然やないですか! なーんも生み出さへん仕事なんやから! 奪うばっかり、食べるばっかり、潰すばっかり!
何が『堅気に手を出すようになっちまった』ですか! レヴィア軍が悪い、世間が悪い、そんなんベラベラ並べたかて、結局は自分たちのせいやないですか! 自分たちがなんもせーへんから、堕ちていったんや! 全部、当たり前の話でしょう!?」
「……それ以上言うな。いくら俺たちでも怒るぜ」
アミルの顔に険が浮かぶが、フォコは口を閉じない。
「怒るんやったらいくらでも怒ったらええですわ。でもそれで、何か得るもんなんかありますか? せいぜい僕を殴って、鬱屈した気分が10分の1、100分の1くらいスッとするだけでしょう?
それがアミルさんの5年ですわ――正攻法を諦めて、回り道に回り道重ねて、鬱憤溜めるだけの5年間や! 何にも築いてへん!」
「てめえ……ッ!」
アミルはフォコにつかみかかり、拳を振り上げる。だが、しばらく硬直したまま、やがて拳を下ろした。
「……畜生、その通りだよ……ッ!」
アミルは悔しそうに、地面を殴りつけた。
「そうだよ、俺たちは作っても築いてもいない、何にもだ! 今ここで立ち止まったら、一発で全員飢え死にしちまうような、1ガニーの貯蓄もできない生活だよ!
でも、……じゃあ、どうしたらいいってんだよ!? 今さらまともな職にも就けないし、レヴィアの奴らを相手にもできない! もう俺たちには、これ以外何もできねーんだよ……ッ!」
「……」
涙をボタボタと流すアミルを見て、フォコは立ち上がった。
「じゃあ、アミルさん」
「……なんだよ」
「僕に付いてきませんか?」
「……ああ?」
アミルはその言葉が何を意味するのか分からず、ぼんやりと顔を挙げた。
火紅狐・砂狼記 終
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7.
散々へこまされた張本人を前にし、アミルは恐縮している。
一方で、マナもよほどアミルから恐ろしげな話を聞かされたのだろう。ルピアにおずおずと、茶を差し出した。
「お茶です。あの、お口に合わないかも知れなませんけど」
「ありがとう」
「えーと、何から話せばいいでしょうか」
「聞かれても困る」
「そう、だな」
と、奥の部屋からひょい、と狼耳が覗く。
「あ、ムニラ」
「どうしたの?」
やって来たのは、アミルに毛並みの良く似た、赤毛の女の子だった。
「んーん、なんでも。……わぁ」
ムニラはとてて……、とルピアに近寄り、キラキラした目で彼女の尻尾を見る。
「きれい」
「ウチの家系は『玉銀狼(プラチナテイル)』って呼ばれてるからな。その名の通り、プラチナみたいにほんのり青白みを帯びて光る銀色の尻尾は、私たちの自慢なんだ。
ムニラちゃんと言ったか、君の尻尾もルビーのようで素敵だよ」
「ありがとー」
にっこりと笑うムニラに、ルピアは彼女の頭をくしゃくしゃと撫でながら、優しく微笑んだ。
「可愛い子じゃないか」
「……ありがとう」
ここでようやく、アミルはほっとした顔になった。
ルピアの膝の上にムニラが抱えられたまま、アミルの話が始まった。
「どこまで話したっけ……。そうだ、俺たちが海賊になった、ってところまでか。
堕ちるところまで堕ちて、って言い方が、これだけ似合う状況もない。だけど、それ以外に生きていられる道はなかった。
そりゃ、一時はレヴィア軍に反発しようと、『砂嵐』らしく戦おうともしたんだ。だけどあいつら、とんでもなく強くなっちまったんだ。俺たちの攻撃が全く届かないところから、バンバンわけの分からん攻撃してくるし」
「全く届かないところから……、魔術ですか?」
「いや、それならそれで、まだ対応策はある。俺たちの中にも、初歩の初歩くらいの魔術を使える奴はいるから。
だが、奴らの攻撃はそうじゃないんだ。魔術すら届かない距離から、攻撃してこれる」
その話に、ルピアは神妙な顔になった。
「うん……? その話、どこかで聞いたな」
「え?」
「そうだ……、エンターゲート製造が中央政府軍に、密かに卸してると言われてる兵器の売り文句だ。『何物も寄せ付けず、何物も敵わず、何物も残さず。究極の兵器とは、まさしくこれだ』みたいなことを言ってたっけ。
レヴィア王国がエンターゲートとつながってるって言うなら、恐らくそれは、エンターゲートが卸した兵器だろうな」
「一体、それは……?」
アミルが興味津々に尋ねてきたが、ルピアは肩をすくめる。
「残念ながら、話の肝については部外秘でな。詳しいことは、私にも分からん」
「そうか……。
まあ、ともかく。まともに戦おうとしても、手も足も出ない。現状じゃ、姿を見かけたら全速力で逃げるしか手がない。
そんなだから、レヴィアを相手にすることなんか到底出来やしないし、かと言って海で悪いことをしてる奴を叩いても、俺たち同様のド貧乏人。
自然と俺たちは、堅気に手を出すようになっちまったってわけさ」
そう話を締めたアミルに、フォコは苛立ちを覚えた。
「……」
むすっとした顔で黙るフォコに気付いたアミルが、何の気なしに声をかける。
「ん? どうした、ホコウ……?」
「……アミルさん。あなたたちは、間違ってる」
「ああ、知ってるよ。でも……」「でも、やないですよ」
フォコはアミルに、真剣な目を向ける。
「どうしてやめへんのです、悪いことしとるって自覚しとって、その上、死に体の稼業やって分かっとるんやったら!
そんなん、どんどん先細りしてって、ジリ貧になってって当然やないですか! なーんも生み出さへん仕事なんやから! 奪うばっかり、食べるばっかり、潰すばっかり!
何が『堅気に手を出すようになっちまった』ですか! レヴィア軍が悪い、世間が悪い、そんなんベラベラ並べたかて、結局は自分たちのせいやないですか! 自分たちがなんもせーへんから、堕ちていったんや! 全部、当たり前の話でしょう!?」
「……それ以上言うな。いくら俺たちでも怒るぜ」
アミルの顔に険が浮かぶが、フォコは口を閉じない。
「怒るんやったらいくらでも怒ったらええですわ。でもそれで、何か得るもんなんかありますか? せいぜい僕を殴って、鬱屈した気分が10分の1、100分の1くらいスッとするだけでしょう?
それがアミルさんの5年ですわ――正攻法を諦めて、回り道に回り道重ねて、鬱憤溜めるだけの5年間や! 何にも築いてへん!」
「てめえ……ッ!」
アミルはフォコにつかみかかり、拳を振り上げる。だが、しばらく硬直したまま、やがて拳を下ろした。
「……畜生、その通りだよ……ッ!」
アミルは悔しそうに、地面を殴りつけた。
「そうだよ、俺たちは作っても築いてもいない、何にもだ! 今ここで立ち止まったら、一発で全員飢え死にしちまうような、1ガニーの貯蓄もできない生活だよ!
でも、……じゃあ、どうしたらいいってんだよ!? 今さらまともな職にも就けないし、レヴィアの奴らを相手にもできない! もう俺たちには、これ以外何もできねーんだよ……ッ!」
「……」
涙をボタボタと流すアミルを見て、フォコは立ち上がった。
「じゃあ、アミルさん」
「……なんだよ」
「僕に付いてきませんか?」
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